第62話 どっちが強い?
ゲンガーに制裁を加え、ひと段落ついた三人は喫茶・鳥の巣へ向かうことにしたー
「行くぞ………甲賀」
「何時でもどうぞ、返り討ちにしますから」
ポケモン広場の中央で、何故かお互い向かい合って甲賀は剣を構え、海斗は拳を構えている。
「二人ともがんばれー!」
近くにいるティーエは止めることをせず、余計に煽っている。どうしてこうなったのか、話は少し前に遡る。
〜喫茶・鳥の巣〜
久し振りに店内に入ると、そこには前に見た時と変わらない古風な雰囲気が漂っていた。
「ようこそいらっしゃいませ」
その声と共に、ポッポが出迎えた。それは、過去に出迎えた時と同じポッポだった。それに気付いたのか、ポッポも一層笑みを深める。
「またのご来店、誠にありがとうございます」
ポッポの言葉に笑って返すと、ボックス席に移動した。
「ここに来るのも久しぶりだな。もう何ヶ月も来てない様に感じる」
少し落ち着かない様子で店内をキョロキョロする海斗。ここに来れたことがそんなに嬉しいのだろうか。
「………おや?ティーエさん、なんかメニュー増えてません?紅茶なんてありましたっけ」
ひと回り程大きくなったメニューを片手に、甲賀が疑問符を上げている。
「ホントだ、増えてる。オレンティー、アップルジュース、ハーブティー………色々あるなぁ。………緑茶!?」
甲賀と共にメニューを見て、一番下の欄に『緑茶』という字を見つけ驚く。
「頼む物は決まったか?呼ぶぞ」
海斗に聞かれ、甲賀は「緑茶」と即答し、ティーエは慌てた様子で「お、オレンティー!」と言った。
海斗がテーブルにある呼び鈴を押すと、すぐにポッポがやって来た。
「ご注文は?」
「緑茶とオレンティーと、俺は紅茶でいいか。一つずつ頼む」
「分かりました。しばらくお待ちください」
心地よい低音の声と優雅なお辞儀を魅せると、すぐに何処かに行ってしまった。人がいなくなり、静かになる。
「しかし甲賀らしいな。ティーエが偶然見つけたやつだったのにしっかり聞いていたとはな」
「僕の淹れる物より美味しいのかと思いましてね。単純に緑茶が好きってのもありますが」
心なしか甲賀の顔がとても幸せそうに見える。そんな感じで久し振りの雑談を楽しんだ。途中から飲み物も運ばれてきて、そのことについても話が弾んだ。この時まではとても有意義な時間だったと思う。ただ、この話が上がる前までは。
「そういえばふと思ったんだけどさ」
少し話から離れたティーエが、思い出したように言った。
「カイトとコウガはどっちが強いの?」
「ハッハッハ、そんなの決まってるだろ」
「今更ですね。決まってるじゃないですか」
「「そりゃ「俺だ」「僕ですよ」
見事にかぶった。二人とも笑顔のまま向き合い、口論を始める。
「おいおい、俺はリーダーだぞ。俺の方が強いに決まってんじゃん」
「リーダーなんて関係無いですよ。実力があるのは僕ですからね」
「何言ってんだよ。俺のほうが強いに決まってるね」
「いいや、僕の方が強いですね」
口論はどんどんエスカレートして行き、互いの顔から笑みが消える。
「だからぁ、俺のほうが強いって言ってるだろ?」
「変なこと言わないでくださいよ。僕の方が強いです」
言い方は強くないが、近くにいるティーエにかなりプレッシャーが掛かっていた。
「(なんで私こんな話持ち出しちゃったかな!?何気なく口にしただけだったのに……!)」
後悔してももう遅い。強烈な睨み合いが続いた後、とうとう海斗が言い出した。
「あーもー、埒が開かねえ!口で言っても分からねえなら勝負しようじゃねえか」
海斗は突然決闘を申し出し、甲賀はそれを受けた。
「いいでしょう!強いのは僕だということを教えてあげます!」
「だったら外に出な。ここでやると店が壊れちまう」
何気に周りに気を使う海斗。そして二人は広場の真ん中で戦うことになったのだ。
ここで冒頭に戻る。
お互いがお互いを鋭く睨みつけながら出方を伺う。二人とも相手の戦い方は知ってる。今までずっと協力して戦ってきたのだから。故にすぐにぶつかるわけには行かず、膠着状態が続いているのだった。
「来ないならば先に手を打たせていただきます!ハァッ………!」
体を側面へと動かし、大きく剣を肩まで引き込んだ。海斗も腰を深く落とし、構えた。
「青龍水撃砲!!」
一瞬のうちに大量の水が剣を包み、塊となって撃ち出される。
「そんなものかよ!ボルトキック!」
サマーソルトの体制で甲賀の撃ち出した技を空中に蹴り上げ、着地と同時に甲賀に向かって駆け出した。
「十二月が一つ、水無月!」
水色の斬撃が走る海斗に向かい、飛ぶ。幾つも飛んでくる斬撃をギリギリで避け続け、甲賀との距離を一気に詰めた。
「もらった!スタルクショック!」
海斗の指と指の間に圧縮された超強力な電撃が迸る。海斗はそれを甲賀の剣に押し付けた。
「うぐっ………!」
一瞬のうちに剣からその身体へと電気が通り、身体中に痛みが走る。
甲賀はすぐに海斗を振り払い、少しでも早く痛みから逃れた。振り払われた直後、海斗は瞬時にステップし離れ、剣が届かない所まで退いた。
「くっ………まだまだ!」
今度は甲賀が海斗に向かい走った。海斗に向かって何度も剣を振るが、最小限の動きでかわし続ける海斗。しかし、途中で海斗の脇腹に鋭い痛みが走る。そのせいで少し動きが鈍り、頬と腕を切られてしまった。次々に襲い来る斬撃の嵐を鈍る体で避け続け、袈裟斬りに振り下ろされた剣の刀身を蹴り弾くと同時に距離をとった。そして、痛みの元である所を見る。そこには水で出来た小さな十字形の何かが刺さっていた。
「チッ、いってえなあ。なんだこれ」
他愛もないようにそれを抜き取り、まじまじと見つめる。
「それは十字手裏剣です。先程水で作らせていただきました」
海斗は「ふーん…」と気の無い返事を返し、おもむろに手に取った手裏剣を甲賀に投げた。それは確かに甲賀に当たったが、その時にはすでに元の水に戻り、パシャッ、と水が掛かる音が聞こえただけだった。
「やれやれ、自分だけが使える飛び道具か。厄介なもんだな」
頭を抱えて首を振る海斗。しかし、その動作には何処か余裕があるように見えた。
「ま、お互い様か。さて、本気で行くぜ!雷装、拳!」
海斗の両手に電撃が纏われる。
「ではこちらも。十二月が一つ、長月!」
甲賀の持つ剣から水が溢れ、刀身を覆い尽くしリーチを伸ばした。海斗はそれを見届けると、すぐさま甲賀に殴りかかった。甲賀も同じく、海斗に斬りかかった。広場の中心でかなり高レベルな打ち合いが始まった。
横薙ぎの剣を左手で受け止め、右手で思い切り振り抜く。寸前で避けられ、空いた脇腹に甲賀の膝蹴りが迫る。海斗はそれに瞬時に対応し、伸ばしきった右腕を無理矢理折り曲げ、肘打ちと膝蹴りを打ち合わせる。衝撃のあまり離してしまった剣が自由になり、今度は真上から振り下ろされる。自由になった左手で刀身を殴ることで逸らし、ギリギリで避ける。しかし、海斗の身体が大きくよろけた。避けたところに甲賀の蹴りが入ったのだ。よろけることで生じた大きな隙を逃す術は無く、さらに追撃を仕掛ける。だが、海斗がそれを許すはずもない。距離を詰めてきたところで同じく蹴りが炸裂する。お互い一歩離れた位置で睨み合い、再度ぶつかり合う。自然と集まってきたギャラリーも、口に出す言葉が無い。
お互いダメージはあまり無く、呼吸も平常時とさほど変わらない。しかし、一合、また一合と打ち合う度に、体力は確実に削れて行った。
「十万ボルト!!」
突如として海斗が十万ボルトを撃った。甲賀の剣が水で包まれているので、通電させて攻撃しようと思ったからだ。だが、結果は想像とは大きく違うものだった。十万ボルトは確かに剣に当たったのに、甲賀にダメージが伝わることは無かった。
「残念ですね。僕の剣を包んでいるこの水は言わば純水。完全に不純物を取り除いた水は電気を通さないのです」
「チッ、それなりの対策はしてるってわけか………!」
苛立ちを隠さずに言う海斗。表情は言葉と違って笑っているが。
その後も激しい打ち合いが続いた。振り下ろし、突き出し、避け、退がる。また近付き、薙ぎ、逸らし、蹴り上げ、防ぐ。ギャラリーも増えているのか、さっきより歓声が大きい。期待に満ちた声や、一撃を惜しむ声も聞こえる。
お互い既にかなり体力を消耗している。顔からは表情が消え、荒い息が続く。最後の一撃に賭けようと、双方力を溜めた。
海斗の身体は電気で黄色く光り、強力な高電圧で放電現象が起きている。
甲賀は剣を真っ直ぐに構え、心を清い水のように澄ませた。
両者、同時に踏み込んだ。
「ライトニングドミネーション!!!」
「蒼龍通牙剣!!!」
電気を纏い一閃の光と共に拳を突き出した海斗。
発生した大量の水が龍を象って甲賀と共に海斗に向かった。
ちょうど広場の中心でぶつかり、激しく火花を散らした。数秒鍔迫り合いが続き、最後は強烈な衝撃波となってお互いの技が爆発四散した。
長く続いた戦闘は終わりを告げ、あたりが静寂に包まれる。勝敗は、誰の目に分かるほど明らかだった。
「相打ち………?」
広場の中心から少し離れた位置に地面にめり込むように倒れた海斗と甲賀。気を失ってるわけではないが、動く気配が無い。
「あー…やべ。もう体動かねえわ………」
「奇遇ですね…僕もですよ」
二人のこの言葉で、改めて決着がついた。
最後の一撃からの両者行動不能。よって、この勝負___
引き分けとなった。