第59話 片をつけようか
ロンの個人的興味で叩きつけられた挑戦状。海斗はしぶしぶそれを受けるがー
救助隊基地の前でお互い向かい合っているのはバシャーモのロンとピカチュウの海斗だ。ロンはまさにやる気満々といった様子で、戦いの幕が上がるのを心待ちにしている。一方海斗は気怠そうに立ち、戦いたくないと言う雰囲気が滲み出ている。
「さて、手合わせ願おうか!」
ロンが不敵な笑みを浮かべ、両の拳を打ち合わせた。海斗は大きなため息を吐くと、しっかりと戦闘準備をした。
一触即発の空気。自然と空気は張り詰め、緊張感が漂う。互いの心音まで聞こえそうなほど静まり返ったこの場所で、先に沈黙を破ったのはロンの方だった。
「ハアァ!炎のパンチ!」
地を蹴って一気に加速し、素早く海斗との距離を詰めた。途中で技を発動し、炎を纏った剛拳が海斗を襲う。
「雷装、拳!ボルトパンチ!」
全身武装が可能な"雷装"を拳だけに発動させ、"かみなりパンチ"より数段威力の高い独自技"ボルトパンチ"を放つ。拳と拳がぶつかり合い、盛大に火花を散らした。
「まだまだ!ブレイズキック!」
足に火炎を纏い、足払いをするように払った。身長差を考えればこうしなければ当たらないのだが。
横から迫り来る灼熱の蹴りに、海斗は一瞬焦りを見せたが、後ろに宙返りすることでそれを回避した。宙返りすることで再び距離を取ると、場が静寂に包まれる。今度は海斗が先に仕掛けた。
「雷装、脚!電光石火!」
"雷装"で一時的に脚力を上げ、最初のロンと同じように地を蹴り、ロンよりも早く懐に潜り込んだ。
「飛翔蹴り!」
不意を突かれて無防備な顎に"飛翔蹴り"、言わば電気を纏ったムーンサルトキックを喰らわせる。
「がっ……!!」
強烈な衝撃と顎に当たった一撃で一瞬意識が吹き飛びかけるも、なんとか持ち直し反撃する。
「くっ……オーバーヒート!」
強力な火炎を周囲に放つ代わりに、特攻がかなり下がる技を、オーバーヒート。二発目からは大きく威力が下がるため、最初の一発を当てることが何よりも肝心である。至近距離で放たれた以上、海斗に避ける術は無く、直撃してしまう。
「ぐあっ………!」
早めにその場から離脱したが、かなりダメージを負ってしまった。さっきまでとは違い、肩で息をしている。雷装も全て解除されてしまった。
しかし、それは向こうも同じで、顎を蹴られた衝撃で脳が揺れたのか、膝をついている。海斗は息を整え、ロンは揺れが収まったのか、ゆっくりと立ち上がった。そして、激しい攻防戦が始まる。
「十万ボルト!」
「火炎放射!」
牽制のために二人が放った技同士が激しくぶつかり合い、相殺、爆発して黒煙を上げた。少しの間視界が奪われ、お互いがお互いを見失う。ロンは動かず、海斗は"電光石火"で外回りに攻撃を仕掛けた。途中からそれに気付いたロンは、"炎のパンチ"を繰り出して迎え撃つ。そのまま突進などの攻撃を仕掛けてくると考えていたロンの予想に反して、海斗は再度雷装・脚を行った。電光石火の状態で更にスピードを増し、そのままロン目掛けてロケットのように飛び出した。
予想よりワンテンポ遅く、その後の突進がはるかに速かったため、反撃が間に合わないと判断したロンは海斗の拳をガードした。攻撃が弾かれ、体制を崩してしまう海斗。その隙を狙い、両手を組み合わせて海斗の背中に振り下ろした。空中にいる海斗は避けることができない。
「炎の鉄槌!」
「ぐがっ………!!」
受身も取れないまま地に強烈に叩きつけられ、呼吸すらできなくなるほどの衝撃をその身に受ける。
「岩砕脚!!
地面が割れるほど地を踏みつけ、その時の反動で海斗の体が宙に浮く。
「ブレイズキック!!」
動けない海斗に容赦なく追撃する。威力を高めるために回転を加え、炎の回し蹴りを放った。帆のをを纏った灼熱の一撃は海斗に直撃し、近くにあった木までふっ飛ばした。
「ぐはっ………」
力なく木の下に落ちる海斗。その体は倒れたまま動かない。
「………ここまでのようだな。私の勝ちだ、カイトとやら」
勝ち誇った笑みで佇むロン。
「今のが全力か?もしそうなら、こっちも本気で戦わせてもらうぜ!雷装、全!」
遊ぶのをやめ、本気を出した海斗。さっきまでのぐったりとした姿は見る影も無く、今までの全てが無かった事のように傷が消えている。
「フッ………やはりそう簡単には倒れないか」
勝利の笑みを消し、再度構えた。今度は、本気の海斗と戦うために。
「エレキウィップ!」
海斗の右手に、電気が集まる。一見何を行ったか分からないのがこの技の特徴の一つだ。何か技が来ると思って構えたロンは、何もないことに少し戸惑う。
海斗が横薙ぎに一度手を振ると、その形に沿って電気の真空波が生成され、ロン目掛けて飛んで行った。
「むっ!ハァッ!」
ロンは当たる寸前に足を振り上げ、真空波を破壊した。もちろんそれで終わるわけがない。ロンがその一発を砕く頃には、海斗は何十と言う数の真空波を既に打ち出していた。予想外の数に、避けきれず何発か掠るロン。
「後ろがガラ空きだぜっ!十万ボルト・絶!」
エレキウィップに気を取られている間に瞬時に背後に周り、"雷装"状態で威力の上がった"十万ボルト"を放つ。極めて至近距離だったため避けることができず、直撃する。
「ぐあっ………!」
詰まったような叫びを洩らし、ギリギリで踏ん張り、倒れることを阻止する。そしてそのままの状態で後ろに回し蹴りを行う。しかし、そこには誰もいなかった。代わりにもならない、腹部に衝撃と痛みが走る。腹を海斗に殴られたのだ。
「特別製の一発だ、気合いで受け取れ!爆雷拳!」
殴られた場所に球状のエネルギー体が残り、海斗が離れると同時にそれが爆発した。
「ぐああああああああ!!」
爆発と同時にロンの断末魔が響き、この戦いは海斗の勝利で終わった。
*
「いつつ………もう少し優しくしてくれよ」
「帰って来て早々こんな怪我する方が悪い!もっとゆっくりしようって気は無いの?海斗」
「悪かったよ………いててっ!だからもう少し優しくだな〜…」
救助基地でティーエから治療を受ける海斗。確かに、戻って来てすぐにこれでは先が思いやられると思わなくもない。
「………はい、処置終了。もっと自分を大切にしてよね」
包帯を巻き終え、肩を回して具合を確かめる海斗。もうあまり痛くは無い。
「よし、サンキュー。じゃあ俺、ちょっと用あるから」
素っ気なくそう言うと、海斗はすぐに救助基地でから出て、まだ起きないロンの元へ近づく。側頭部を一発蹴り、無理矢理起こした。
「う…ここは………」
「気付いたか。とりあえず場所を変えるぞ。こっちに来な。道のど真ん中で寝てるのは行儀悪いぜ」
まだ少し痛みが残る体で立ち上がり、海斗の後を追う。救助基地の隣に海斗が座ったので、ロンもその隣に座る。
「戦闘前に言ったよな、俺は無実だって」
「ああ、覚えている。すまないな。自分より強い相手を見ると、どうしても戦いたくなってしまうものでな」
「……で、どうだった、俺と戦った感想は」
「………強いな。しかもかなり。最初から本気で来られては太刀打ちどころか何も出来ずに私は倒されるだろうな」
「ははっ、そうかよ。まあ、いいんじゃないか。俺はまだ負けるわけにはいかないからな」
何か面白いことを言った訳でもないのに、お互いに少し笑う。
「…少し気になることを思い出したんだが、聞いてもいいか?多分、お前たちに関係があると思う」
急にロンが思い出したように言った。
「なんだ?勿体振らず言ってくれよ。気になるな」
その話にすかさず食い付く海斗。
「ああ。実はな、お前たちがまだ追われている時の話なんだが…なんでも、大怪我をしたアブソルが連れて来られたって話を聞いたんだ」