外話 待っています
彼等の安否を心配し、帰る場所をその場に残し続ける。いつ帰るか分からない彼等を信じ、待ち続けるー
時刻は朝と昼の中間くらい。今日もまた難攻不落の城を攻め落とすために救助隊のポケモン達が集まる。しかし、今日は少し様子がおかしい。
「いつもなら考え無しに突撃してきたは玉砕して来ましたが………今日は様子がおかしいですね」
今度の守備隊はステンとリン。ステンは勇ましく基地の前に立ちはだかっているが、リンは入り口から顔を出して顔を赤くしている。
「お姉様………いい加減出てきてはどうですか?敵が来てしまいますよ」
「だ、だってぇ………知らない人がいっぱいで…」
他のみんなは休憩のために基地の中にいる。自分達がしっかりしないとダメなのに、これでは戦う以前の問題だった。
「ハァー…まあ、想定内です。ではわたくしは敵どもを蹴散らして来ます。お姉様には基地の守備をお願いしたいのですが………いいですか?」
「わ、分かったよ。…はうう、緊張するなぁ…」
しぶしぶ、といった様子で基地からオドオドしながらリンが出てきた。向こうも話し合いが終わったようで、厳しい表情で睨み付けてくる。
「(敵の数は………あら、予想より少ないですわね。お姉様方ったら……一体どれだけ暴れたのかしら)」
最初に集まった数よりはだいぶ減ってはいるが、全体の能力としてはむしろ上がっている。連絡を受けた高レベルの救助隊が集まって来ているのだ。
「まあいいです。攻めるよりは守る方が得意だし、襲って来るまで様子を見ましょう」
悠長に構え、基地の前に鎮座する。
「行くぞ!しろいきり!」
突然の補助技、"しろいきり"。不特定多数のポケモン達が"しろいきり"を発動させ、基地の周りは白煙に包まれる。見通しが一気に悪くなり、何処に誰か居るのか分からなくなった。
「なっ……!?くっ、小賢しいですわ!お姉様!お願いですわ、グラスミキサーを使ってください!」
視界は隠せても"しろいきり"は声までは隠せない。何処かからか、リンの「わ、分かったよ!」と言う声が聞こえてくる。同時に、視界がハッキリとクリアになる。
そこには、"ソーラービーム"、"破壊光線"、"ゴッドバード"などの破壊力の高い技を準備しているところが見えた。
「あ、危ない所ですわ……!仕方ない、フォトンアイシクル!」
ステンが特殊能力を発動させると、目に見えるほどの小さな氷の粒が辺りに輪を書いて漂い始めた。その様子は見ていてとても美しい。もちろん、双方そんなことを考えている暇はない。
「今だ!撃てっ!」
「間に合えっ!
氷結大盾・四重!」
強力な技が撃ち放たれ、一斉にステンを狙った。時をほぼ同じくして、ステンの力、"フォトンアイシクル"の能力で巨大な氷の盾が四枚生成される。
「(即席で四枚しか作れなかったけど、耐えられるか……!?)」
技の集合体が一枚目の氷の大盾に直撃。瞬時に砕け散る。二枚目に到着。少し耐えるが貫かれる。三枚目に命中。流石のステンも額に冷や汗が流れる。三枚目全体にヒビが入り、嫌な音を立てて割れ、氷の欠片が辺りに舞う。最後の砦、四枚目に辿り着く。予想外、彼等は技を発動し続けてる。此方は新たに盾を作るにしてもスペースが足りない。ステンはその場に座して動かない。自分の体を盾にして少しでも基地を守るためだ。
四枚目は衝突には耐えたが、その時にヒビが入る。ヒビからヒビが広がり、盾全体にヒビが入る。砕けるまで、そう時間はかからないだろう。
「ステンちゃんに乱暴しちゃダメぇぇ!!」
盾が砕け、諦めかけたその時、ステンの前にリンが立ちはだかった。リーフィアは種族上防御は高いが特防は高くない。威力が弱まってるとは言え、喰らえば瀕死は免れないはず。
「お姉様っ……!」
全ての技が、リンに直撃した。
強烈な爆風、爆音。嘘みたいに立ち上る煙が弱まった状態でも充分な破壊力があったことを物語っている。
「お姉様…お姉様!お姉様、お姉様ぁっ!」
「えっと……そんな大声で呼ばれても、恥ずかしいんだけど……」
「へっ?…お姉様!?無事だったのですね!?と言うかなんで無傷!?」
恥ずかしそうに赤らめた頬をして微笑むリンがそこに立っていた。
___無傷で。
「簡単だよ。私の力を使って受けた傷を片っ端から回復していったんだ。……心配かけてごめんね。ステンちゃんを守るにはこれしかないと思って」
ステンは忘れていた。リンは自分を捨ててでも誰かを助ける優しさを持っていることを。そしてそれを実現させてしまう力を持つことを。
リンの力、"レジリエンスヒール"。体の機能を活性化させて傷を修復させるフィールドを作り出す。範囲が狭ければ狭いほどヒール能力は増すが、逆に広ければ広いほどヒール能力は落ちる。今回は自分の回復だけに集中させたからあれだけの攻撃を容易に耐えることが出来たのだろう。
「お姉様……助けてくれてありがとうございます。ですが、こんな無茶はしないでください。心配してもしきれませんよ」
「タハハ……ごめんね」
ステンは安心したように、リンは照れくさそうに笑っている。しかし、敵はそう待ってくれない。すでに次を撃つ準備が始まっていた。
「さて、お姉様。おしゃべりはおしまいですわ。さっさと殲滅してしまいましょう」
「う、うん…(恥かしいな…すごい見られてるよ〜…)」
「第二波!撃てぇっ!」
先ほどと同等、或いはそれ以上の破壊力を持った一撃が放たれる。
「わわっ!ソ、ソーラービームッ!」
リンが慌てて"ソーラービーム"で対抗するが、向こうは何倍もの威力を持っている。しかもリンはほとんどチャージしていない。威力も半分以下程度しかない。技と技がぶつかり合い、対抗する暇もなく押し返される。
「お姉様!
氷結鏡・六重!」
空中に作られた氷の鏡から太陽光が反射され、一点にリンに集まる。瞬間、"ソーラービーム"の威力が激増した。直径は大幅に膨れ上がり光線そのものの密度もました。
相手の技を押し返す程に。
「なっ!?くそっ、こっちも出し惜しみするな!全力で行け!」
一瞬だけリンの"ソーラービーム"を押し戻したが、すぐにまたリンが押す形になる。
「あなた達なんかに負けない!私達が勝つ!」
「………チェックメイト、ですわ」
リンの"ソーラービーム"が敵ポケモンの半数以上を一気に焼き払った。さっきみたいな強力な一撃はもう放つことはできないだろう。
「ぐ………まだだ!まだ終わったわけじゃない!」
「
氷結針・八重。もう終わりですわ」
先ほどから指揮を取っていたポケモン、バシャーモが立ち上がる。しかし、その瞬間太い氷の針が空から降り注ぎ、バシャーモの行動を阻んだ。辺りにいるポケモン達も次々に自由を奪われていく。
「言ったはずですわ、チェックメイトと。貴方達に為す術はもう無いですわ。大人しくお帰りになってください」
ギリ、とバシャーモは歯を噛み合わせた。
「何故だ、何故殺さない」
「むやみに命を奪いたくありませんの。我々は殺人鬼と違うのですから」
「………………完敗か。全軍撤退!態勢を立て直すぞ!」
撤退の合図を受けたポケモン達は次々何処かへ退いていった。バシャーモは自分よりも高い氷の針を軽々飛び越え、二人に背を見せた。
「その力、救助隊のために使って欲しかったぞ。…また会おう」
ここまで潔く退いた相手は初めてだった。今まで最後の一人まで戦う玉砕覚悟ばかりだったからだ。
「戦う相手がこういう方だと簡単なんですけどね…。実力の差も分からないまま突っ込んで来る相手の脳内思考が読み取れませんわ」
「ス、ステンちゃん、それはちょっと言い過ぎじゃ………」
「何処が言い過ぎですの?お姉様。敵わないと知っていながら挑むのは愚の骨頂。死ぬまで戦うなんて………馬鹿らしい」
今まで戦ってきた救助隊全てをステンは吐き捨てた。理由は、今まさに言った通りである。
「それはちょっと違うんじゃないかな。もし私達が倒せない相手が出て来たら、ステンちゃん戦う?」
「真っ先に逃げますわ。まあ逃げ道があったらの話ですけど」
「じゃあさ、もし私達が逃げたら、ティーエちゃんが死んじゃうとしたら?」
「それは…」
ステンは黙ってしまった。リンの言いたいことがなんとなく理解できたからだ。
「皮肉な話だよね。私達を倒して情報を得ることが最善の道だって信じてるんだもの。私達が死んじゃってもティーエを守るように、救助隊の人達もそれくらい大切なんだよ。この世界が。彼等だって分かってるよ、きっと。戦っても勝てないって。だけど立ち向かってくる。何度も立ち上がってくる。勝てないと分かっていながら世界を救うために。……なんか、悲しいよね。いや、虚しいって言うべきなのかな。………どうにかしなきゃっ、って分かってるのに、何も出来ないって、辛いよね」
「………そうですわね。出来ないことがあるのはお互い様。彼等は私達より出来ることが少ないだけ。………戻りましょう。少し、嫌なものを思い出してしまいましたわ」
何も出来なかった痛みは自分もよく知っている。だからこそ、今のこの空気に耐えられなかった。
相手が撤退しても、またいつか来るだろう。次の戦闘に備えて、彼等は休息を取ることにした。