第52話 全力の戦い
フリーザーとの戦いが始まった。今のままじゃ海斗達は勝てない。彼等は駆け付けることが出来るのかー
「十万ボルト!」
先手必勝とばかりに高速で技を繰り出す海斗。しかし、それはあっさりと避けられてしまう。
「その程度のこうげき、掠ることも許されんぞ?」
海斗の横顔に汗が流れる。これでも結構本気で撃ったからだ。
「だったら最初からクライマックスで行くぜ!」
海斗は詠唱を行った。緑のマントが光と共に形をかえ、雄々しい翼に変わる。
「ほう、神器使いか。流石にここまで来ただけはあるな」
全く動じず、余裕の表情を見せるフリーザー。
「エース、手伝え!やるぞ!」
「OK!とっとと捻っちまおうぜ!」
背中に翼の生えたピカチュウと、片目が赤く、耳がゼブラと言うコンビ。なんとも異色である。
「ティーエ、もちろん手を貸してくれるよな?」
「もっちろん!私達、仲間だもんね!」
戦闘への士気を高めると、海斗は早速動き出した。
「エレキヨーヨー!」
海斗の手に楕円状の電気が生成され、バチッと音を立てる。海斗が手を離すと、球体は糸を引きながら落ち、途中で止まった。よく見ると、回転しているように思える。
「へえ、なんかいいな。それ」
エースが面白そうに海斗を見るが、気にしない。
「行くぞフリーザー!」
海斗は走り出した。助走を付け、空に飛び立つ。
海斗は先ほどの楕円状の球体を投げた。球体はフリーザー目掛けて飛んで行き、すんでの所で躱された。しかし、投げられた球体がおかしな動きを見せる。ある一定の距離まで進むと、球体は海斗の手の中に戻って来たのだ。
「よし、まだまだぁ!」
海斗は帰って来る球体を連続して投げる。海斗はヨーヨーと言うものを電気で再現し、武器として使っているのだ。
「喰らえ、エレキボム!」
海斗の投げたヨーヨーの糸が途中で切れ、フリーザーの目の前で爆発した。黒煙が、フリーザーの視界を奪う。
「目くらましか?くだらん小細工だな。ハァッ!」
フリーザーが羽根を大きく動かすと、風圧で黒煙が消し飛ぶ。そこで、フリーザーは信じられないものを見た。
「エース、お前本当にこんなことして大丈夫なのか?」
「俺の体は結構丈夫なんだよ。なぁに、心配すんな。必ず撃ち落としてやる」
フリーザーが見たものとは、先ほどのヨーヨーの電気糸でぐるぐる巻きにされたエースだった。
「本当かよ………まあいい。行くぞ」
「おう!」
海斗は、ルアンや歌韻を投げ飛ばした持ち前の腕力で、エースをフリーザーに向けて思いっきりぶん投げた。その後、すぐに自分も再度飛び立つ。
「ボルテッカー!今だ、やれ!」
「せーのっ!おらっ!」
エースの掛け声で、エースに巻かれた紐が引っ張られる。ボルテッカーを発動させたエースに回転が加えられた。
「トルネードボルテッカァァーーー!!!」
「ぐはあぁぁぁぁぁあああ!!!!!!」
信じられないほどの強烈な一撃。フリーザーは力無く落ちていく。ぶつかった衝撃で跳ね返ったエースを空中キャッチし、地に降り立つ。フリーザーが落ちた所は、雪煙が俟っている。
「っつ〜、やっぱ反動デカいなぁ〜」
疲れたように首を振り、コキコキと音を響かせる。
「やはりかなりできるようだな。しかし、この位ではやられはしないぞ?」
声が聞こえた瞬間、切れかけていた緊張の糸が一気に張り詰めた。雪煙の中に見覚えのあるシルエット。フリーザーはまだ倒れていなかった。
「今の喰らって倒れねえとか、どんだけだよ」
不敵な笑みを見せつつも、流石に冷や汗の流れるエース。
「一筋縄ではいかないってことだな。油断するな。こいつ、今まで戦った中ではおそらく、最強だ」
もとより油断なんて微塵もしていない海斗。それでも再度気を引き締め直した。
「チャージ!」
海斗の体内で大量の電気を発電し、許容量以上の電気が蓄電される。これは身体能力と技の威力が上がるが、体にも相当な負担を掛ける。使った後は発電機関を休ませなくてはいけないし、長時間使えば疲労動けなくなるだろう。メリットも大きければ、デメリットも大きい。正に、諸刃の剣なのだ。
「雷装…全!!!!」
瞬間、海斗から途轍もない衝撃波が放たれた。見た目こそ変わらないが、向かう気迫と圧力は凄まじいものがある。
「(身体の調子から考えて五分が限界か。それ以上はきっと、動けなくなるだろうな)」
手を握ったり開いたりして、自分の調子を確かめる海斗。
「行くぞフリーザー!十万ボルト・絶!」
海斗の体から最初に放ったものとは比べものにならないほどの一撃がフリーザーに向かって飛んで行く!
「なにっ!?ぐおああっ!」
速度も威力も段違いのそれに、流石のフリーザーも息を切らす。
「ッッ!こうそくいどう!」
これにより、フリーザーの動きは今までより速くなる。しかし、それでも海斗の動きを追うことは難しい。
「小賢しい!かぜおこし!」
フリーザーが羽根を羽ばたかせると、強烈な暴風が起きた!
「うおおっ!?」
猛烈な風に飛ばされ、体制を崩す海斗。何かに衝突すること無く着地する海斗。
「こなゆき!」
フリーザーが大きく翼を広げると、天候が急に変わり、刺すほどに冷たい雪が降り始めた。
「きゃあ!冷たい!」
ティーエが真っ先に飛び上がり、逃げようとあたふたするが、空から降っているので何処にも逃げられない。
「くっ…エレキテール!」
鋼の如く硬質化した尻尾に電気を流し、フリーザーに叩きつける。しかし、フリーザーとて負けてはいない。
「はがねのつばさ!」
同じように自らの翼を鋼に変え、エレキテールを弾く。その後、何合かに渡る打ち合いが続いた。先に均衡を破ったのは海斗の方である。
「ティーエ!やれ!」
「うんっ!ヴォルケイノ!」
シャドーボールの要領で口元に炎の球体を作り出し、フリーザーに撃ち放つ。フリーザーに直撃すると同時に、それは燃え上がり、炎の柱の中にフリーザーを閉じ込めた。
「があああああああっ!かぁっ!かぜおこし!」
不意を突いた一撃も、簡単に払われてしまった。しかし、フリーザーも相当なダメージを受けたようで、さっきまでとは違い息切れを起こして居る。
「ハァッ…ハァッ…今のは少し危なかったぞ………」
荒い息を吐きながら海斗を睨み付ける。最も海斗はそんなことを気にして居る場合ではなかった。
「(使用から約二分半…身体が痛んで来たな)」
そう、チャージと雷装・全の反動が襲って来ているのだ。海斗が動けなくなるまで、半分の時間を切った。
「フリーザー!まだまだこれからだ!」
わざと強がり、自分が危険な状態で有ることを悟らせない。撃破まで、ラストスパートだ。
「十万ボルト・絶!」
再度強力な電撃を撃つ。しかし、フリーザーに避けられてしまった。
「雷装・撃!」
あの時使った、巨大な爪。それを両手に装備し、フリーザーに襲い掛かる。
「遅いな。それでは当たらんぞ?」
当たればおそらくフリーザーですら一撃だろう。しかし、大振りな攻撃はさっきから空を切るだけだ。
「そこだ!つばさでうつ!」
手を振り終えた後の隙を狙い、フリーザーは翼で海斗を殴った。
「がっ!っ、オラァァァァァ!」
「なにっ!?ぐおっ!」
殴られた反動で吹き飛びかけた体を無理矢理にでも持ち直し、フリーザーに一発を叩き込んだ。お互い、一歩吹き飛ぶ。
「ぐっ………はぁっ、はぁっ…」
海斗の息がさっきより荒い。チャージと雷装で体に負荷を掛けた上、巨大な爪まで振り回しているのだ。予定より遥かに早く海斗に限界が近づいていた。
「エース!俺に向かって、フレイビートを撃て!」
海斗が出したとんでもない指示。一瞬戸惑ったが、エースはすぐに技を発動した。
「フレイビート!!!!」
巨大な豪火球がエースから作り出される。
「行くぜ!どうするか分かんねえけど、しっかり受け止めろよぉ!」
「ちょ、ちょっと、カイトォォォォォ!?」
ティーエが叫んだ時にはもう遅かった。"フレイビート"はすでに海斗に向けて撃たれた後だった。
「ぐあああああああああっ!アアアアアアア!」
なんと、驚くべきことに海斗は"フレイビート"を受け止めた。そして、"フレイビート"を思いっきり握り潰した。
するとすぐにフリーザーに向かって飛び掛かった。
「トドメだフリーザー!エレキビートインフェルノォォォォォ!!!!」
海斗は自ら技を受け、"フレイビート"を纏った爪でフリーザーを貫いたのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
断末魔にも等しいフリーザーの叫び声。技の全てが解除され、翼も元のマントに戻った海斗は、その場に倒れ込んだ。
「ここ…まで…か。くそっ、もう動けねえ………」
本当に全てを出し切った海斗は、自ら動くことは出来ない。そんな海斗に駆け寄る者が一人。
「大丈夫!?カイト!」
海斗の隣に座り、海斗の体を起こす。
「フリーザーはどうなった…倒したのか…?」
疲れきった表情でティーエに問う。元はフリーザーが居た所を確認するティーエ。海斗の一撃で舞い上がった黒煙は晴れかけつつあった。ティーエが目を凝らすと、そこには絶望が見えた。
「ハー…ハー…まだまだ、私は倒れていないぞ!」
フリーザーは立っていた。身体中傷付き、苦悶の表情を浮かべながらフリーザーはそこにいた。
「まだ立てるのかよ…すまん、俺はもう動けねえ。後は頼んだぜ…」
息も切れ切れにすまなさそうに笑った。そんな海斗をティーエは戦場から離れた場所に寝かせた。
「任せて、私達が必ずフリーザーを倒すから!」
フリーザーを睨み付け、敵意を剥き出しにする。
「おい、あいつ、大丈夫なのか?」
「あいつじゃなくてカイト。多分大丈夫、だと思う。カイトはものすごくタフだから」
名前呼びしないエースを訂正し、大丈夫だと言うことを伝える。
「行くよ、エース。あなたと一緒に戦うのは初めてだね」
「そうだな。ティーエ、お前は俺について来れるのか?へへっ」
「あなたは一人で充分かもしれないけど、私は一人じゃまともに戦えない。ついて来れるかは分からないけど、全力を尽くすよ」
「そりゃ楽しみだ。無理そうなら置いてくぜ!」
「分かった!行こう!」
エースとティーエは走り出した。フリーザーと決着をつけるために。
*
彼等はずっと走っていた。まだ見えない戦場からは、地響きや爆音などが聞こえてくる。激しい戦闘は今だに続いているようだ。
「間に合え…!」
苦しそうに願うソルド。今の彼に出来ることは全く無い。唯一出来ることは、戦闘中の彼等の元に一秒でも早く駆け付けることだ。
「もうすぐだ。急ごう!」
樹氷の道の先に見える僅かな光。勢いよく通り抜けると、開けた場所に出た。瞬間、酷い光景が彼等の目に入って来た。
「しまっ………!」
聞こえたのは、エースの絶句する声。見えたのは、空を舞うティーエの姿。
「ティーエさん!?」
空を舞うティーエを抱きかかえ、着地する甲賀。ティーエのその体は、とてもボロボロだった。最後の一瞬、この瞬間まで戦い続けていたことが分かる。
「くっ…遅かったか」
悔しそうに歯軋りをするソルド。
「来るのが遅えよ。お前ら、海斗の知り合いだよな」
同じようにボロボロのピカチュウが彼等に向かって話しかける。
「貴方は、誰ですか」
「ひょんなことからそこの海斗に助けられてな。借りを返そうとついて来たのはいいけど、予想外の相手と戦って今に至るって所か。俺はエース・シャウト。エースって呼んでくれ」
軽い現状説明と自己紹介をすると、エースはその場に倒れてしまった。
「もしお前らが海斗の仲間なら、バトンタッチだ。少し休ませてもらうぜ…」
すぐに立ち上がり、木陰に移動した。辺りを見渡すと、離れた所に海斗が寝かされていた。甲賀はティーエを海斗の隣に寝かせた。そして、フリーザーに剣を向ける。
「フリーザー。何があったか知りませんが、僕の大切な人達を傷付けたのはあなたですね」
決して大きな声ではないが、甲賀のこの声は良く通った。見据えるのは目の前の巨鳥。目に宿る感情はただ一つのみ。
それは、憤怒。
「僕はあなたを許しません。海斗さん達が戦って倒せなかったあなたを、今度は僕が倒します!」
甲賀の一言に全員がつづく。
「海斗さんには命を救ってもらいました。協力しない意味はどこにも無い!」
「ええ、お世話になっている身です。微力ながら、手伝わせてもらいますよ」
「海斗さんは優しい人ですよ。まあ、ちょっと厳しい人ですけど………」
「これは僕にも責任があるからね。是が非でも協力させてもらうよ」
荒い息を整え、フリーザーは威厳を持って言った。
「いいだろう、全員纏めてかかって来い。相手してやろう!」
フリーザーが大きく翼を広げると、甲賀は真っ先に切りかかった。
第二ラウンド、開始の合図だ。