第51話 挑戦、フリーザー
ソルドが言った黒い翼の生えたピカチュウ。甲賀が最初に思い浮かべた人物は、海斗だったー
〜樹氷の森 奥地〜
「くそっ、こいつら………!十万ボルト!」
海斗の得意技、"十万ボルト"が飛び出す。メタングに向かって撃った筈のそれは、大きく進路を変え、サイホーンに直撃した。
サイホーンの特性は"ひらいしん"。何度撃っても完全に無効化されてしまう。電気技を無効化したことをいいことにそのまま突っ込んで来るサイホーン。
「いわくだき!………くぅ〜、やっぱり痛い………」
格闘タイプの技、"いわくだき"でサイホーンを退けるティーエ。しかし、ティーエの戦闘スタイルは基本後衛での援護がメインだ。前衛は慣れておらず、攻撃する度に何かしらのダメージを負っていた。弱点特攻とブースターの高い種族値のおかげで一撃で倒せていたが、それでも数が多過ぎる。
「アイアンテール!オラッ!」
鋼鉄の如き硬化した尻尾をメタングの頭(胴体?)に叩きつけた。かなり勢いを付けて叩きつけたため、メタングは気絶した。だけど、このままじゃジリ貧でしかない。ジリジリと部屋の隅に追いやられ、ついには壁に背を付けた。
「こんな所で足止めされてる場合じゃねえのによ………くそっ!」
「オラァ!こんなザコに手こずっているなよ!」
突如背後から聞こえた自身に満ち溢れた声。海斗やティーエはおろか、敵ポケモンですら辺りを見渡している。
「フレイビート!!!!」
技名らしきものが叫ばれた後、目の前で何かが起きた。それは言葉にするのに、とても苦労する物だった。炎であることは間違い無いが、その炎が何が起きたか分からない。爆発、炎上、火球、彼等の記憶のどれにも当てはまらなかった。
しかし、敵は確実に殲滅された。それは、文字通り、瞬殺。
雪を蒸発させ、土まで焼いた焼け野原に、一人立つ者がいた。
「やっぱりついて来て良かったぜ。楽しそうなことになってんじゃねえか」
片目が赤く、耳がゼブラ模様の、あの時のピカチュウが居た。
「お前………ついて来るなって言っただろ」
驚愕の表情からすぐに威圧的に変わる。海斗に睨まれても、このピカチュウは平喘として居る。
「だから、楽しそうだからって言ったろ?」
海斗はため息をついた。ここまで話の通じないやつは初めてだからだ。
「お前がどこに行こうが俺には関係ない。ただ、俺達には絶対について来るな。………それと、助かった。礼を言う」
軽く頭を下げると、「行くぞ」と、明後日の方向を見てティーエと共に歩き出した。しかし、そんな事お構いなしの如くついて来ようとする。
「………ついて来るな。お前が関わることじゃない」
「お前、お前って、俺にはエースってちゃんとした名前があんだよ」
自己紹介をするとともに論点をずらそうとするエース。
そんなエースに、痺れを切らした海斗が詰め寄る。
「…最後の忠告だ。ついて来るな。分かったら今すぐ来た道を戻れ。救助隊の奴らが居る筈だ」
瞬間、エースは笑って言った。
「………嫌だと言ったら?」
海斗は舌打ちをして、ため息をついた。そしてエースから離れて、戦闘態勢をとる。
「悪いがこれ以上誰かを巻き込む気は無い。本当に最後の忠告だ。ついて来るな」
「嫌だって言ってんだろ。こんな楽しそうなこと見逃せるかよ」
何を見逃すと言うのか。流石に海斗も呆れて、戦闘態勢を解いた。
「………好きにしろ」
海斗も諦めたのか、背を向けて先に進む。エースはニヤニヤ笑ってるだけだ。
「ちょ、ちょっと!いいの!?どこの誰かも分からないんだよ!?」
「あいつの強さはさっき見た。この先役に立つだろ。後はこれ以上誰も俺達に関わらないことを願おう」
いろいろと諦めた表情をした海斗を見ると、同情を禁じえない。ティーエももう何も言わなかった。
「俺はエース・シャウト。これからよろしくな」
「………小鳥遊、海斗だ」
「ティーエ・クリスタ。まあ、よろしく」
ニシシッ、と無邪気に笑うと、エースはそのままついて来た。
その後、彼等は奥地を進んだが、エースの一撃で恐怖したのか、それとも全滅したのか、襲って来るものは居なかった。
*
〜樹氷の森 最奥部〜
歩いていると、急に開けた所に出た。
「なんか、開けた所に出たな。………少し嫌な予感がする。早めに抜けよう」
何かの気配を感じたのか、ここをすぐに通り抜けようとする海斗。ここは通過地点に過ぎない。否が応でも通らなければならない。しかし、こういう予感は得てして当たってしまうものである。
「……………立ち去れ………」
どこからともなく聞こえて来る声。嫌な予感しかしない。
「チッ…やっぱりかよ。何と無く予感してたんだが、当たるとはな」
忌々しげに空を睨む海斗。ティーエもエースも辺りを見渡して居る。
するととつぜん空が割れ、そこから一匹の巨鳥が現れた。そしてゆっくりと彼等の前に降り立つ。
「我が名はフリーザー。すぐにここから立ち去れ」
口調こそ穏やかなとのだが、放つ威圧は明らかに敵に向けるものだ。
今までの二匹より話が分かると思ったのか、海斗は対話を試みた。
「俺は小鳥遊海斗!特別な事情を抱えていて、この先の氷雪の霊峰にいるキュウコンに用がある。貴方には話が通じると思って真実を話した」
特別な事情、と敢えて伏せたのは、エースがいるからだ。
「どうか、通してくれないか」
「…そうか。………フム、まあいいだろう。通してやらんこともない」
フリーザーは少し考えるそぶりを見せると、快く頷いてくれた。
「ほ、本当か!?」
しかし、ここでフリーザーが大きく目を見開いた。
「だが、条件がある。この先の奴らはここよりも強い。この先に行きたいなら我と戦って倒してみろ!」
フリーザーの一喝は海斗の淡い期待を打ち砕いた。
「結局戦うのかよ……。しょうがない、話が通じただけマシだ。やるぞ、ティーエ」
「う、うん」
「早速楽しくなって来やがったな」
話が通じる分、急に襲って来ることはない。充分に心構えは出来た。
「準備はいいか?行くぞ!」
フリーザーの攻撃で戦いの幕が上がった。
*
「………!!この気配は…マズい、急ぐよ!」
ソルドが何かを感じ取ると、急に走り出した。
「(もしかしたらあの二人がフリーザーと戦い始めたのかもしれない!もしそうだったら、彼等の命が危ない!)」
ソルドはエースが加入したことは知らない。本当ならフリーザーと戦う前にここに居る彼等を合流させるつもりだった。ソルドは知っていた。彼等じゃフリーザーに敵わないことを。