外話 悲しき運命
彼等が炎の山を越えた頃、ティーエの家族はー
〜レオパルド基地周辺〜
周囲は既に暗く、月が太陽よりも目立つ時間。救助隊の攻撃は、今だに続いていた。
「全く、しつこい奴らね。そんなじゃ女にモテないわよ?」
敵の攻撃を只管避け続けながら"サイコキネシス"や"サイコショック"で反撃するのは、クリスタ家次女、ジストだ。
「喋っていると舌を噛むぞ。黙って迎え撃て」
その様子を冷たく指摘するのはクリスタ家三男、クラブだ。今はこの二人でこの場所を守っているようだ。
「どうでもいいけど、こいつら骨が無いわねー。打たれ弱いし攻撃もしょぼい。私達もナメられたものね」
「仕方ないだろう。相手からすればこっちはただのポケモンだ。大方、すぐに倒せると思って、それなりの相手しか来てないんだろう」
のんきにこんな会話をする二人だが、実際は全くもってそんなことは無い。彼等に攻撃を仕掛ける救助隊のポケモン達は、どれもこれもシルバー、或いはシルバーと同等の力を持った十分に強いブロンズなど、決して弱くない相手なのだ。中にはゴールドと比べても遜色ない程の力を持った者も居るくらいだ。
それなのに、彼等から見れば『それなり』でしかないらしい。しかも、基地は以前として『無傷』。救助隊の方には基地を狙って攻撃してくる者も居るのだが、その攻撃はどれも途中で潰されるか、攻撃する前に倒されると言う始末だった。
「しかし、ティーエは大丈夫だろうか。変な物を食べてお腹を壊してたりしなければいいのだが………」
雑談以外の何物でもない話題を投げながら、空中に居るヨルノズクを"シャドーボール"で撃墜するクラブ。
「そこは大丈夫じゃないかしら?ティーエだけじゃなくて、彼等もいるから」
ヒョイヒョイと軽い身のこなしで攻撃を避けるジスト。もちろん、基地に当たりそうな攻撃の相殺は忘れない。彼女に至っては相殺どころか"サイコキネシス"で進路を変え、他のポケモンに当てたりしているが。
「にしても、数が多いわ。仕方ない、ちょっと本気出そうかしら」
ジストがゆっくり目を閉じ、再度開いた。すると、その瞳は白一色になっていた。
「ん〜、よく見えるわ。貴方達の未来が」
不敵な笑みに少し怯んだが、何もしてこないと分かると、救助隊のポケモン達は再度攻撃を開始した。
しかし、ジストはまた笑うと、ほんの一歩横に移動した。無数の攻撃が飛んでくる中、ジストはそこから動こうとしない。
「残念。全て分かるの。今の私ならね」
様々な攻撃がジストの周りに着弾し、一発もジストに当たらなかった。
「やっぱり便利ね。少し憎らしいけど、使わない手は無いわ」
ジストの特殊能力。フォーチュンレイド。他人の思考波を読み取り、次に何をするか見抜く力だ。この力は技そのものにも有効であり、使った場合は軌道を見切ることが出来るようになる。ジストの特性である'"シンクロ"と組み合わせれば、相手と全く同じように動くことが可能になる。が、実際殆ど意味がないそうだ。
「くそっ、なんで当たらないんだ!」
救助隊の中の一匹が叫ぶ。直後、激しい音がしてそのポケモンは森の彼方まで吹っ飛んで行った。
「肩慣らしにもならないわ。もっと強い奴は居ないのかしら」
退屈そうにあくびをすると、サイコショックでまた吹き飛ばすのであった。
「ふむ。なら、俺も少しは本気を出すか」
クラブがドン、と地面を叩くと、謎の黒い塊が地面から盛り上がった。
「シャドウログ。貴様らの攻撃は、一切俺に当たらないと思え………」
明らかに挑発した態度で言い放つクラブ。一部の者が怒りを露わにしてクラブ目掛けて突っ込んだ。数々の攻撃が放たれ、遠距離の技を持たない者は直接クラブを殴りに行った。
しかし、彼らが殴りかかった瞬間、クラブがストン、と闇の中に落ちた。彼等は体勢を崩し、その場に重なって倒れた。
「どうした………俺はここに居るぞ」
クラブは元居たその場所よりずっと遠くに居た。
すぐに体勢を立て直し、わけが分からない、と言った様子で悔しそうにクラブを睨む。すぐにまた襲い掛かって来ない所を見ると、少しは頭が落ち着いたか。
クラブの特殊能力をシャドウログ。本来なら影の中に隠れるだけの力だが、それをクラブが戦闘用に改良したのがこのシャドウログである。影に隠れる力を残したまま、影をワープホールにすることも可能にした。しかも、自分しか入れなかった影の中に、ワープホールの能力を応用して影の中に閉じ込めることも出来る。
クラブは今それを行ったのである。
「貴様らのその心意気は認めてやる。死にたい奴から前に出ろ」
再度挑発するが、さっきと比べてのりは悪い。それもそうだろう。分からない能力の中に飛び込むのは自殺行為だ。
「………………?来ないのか?ならこっちから行くぞ」
クラブは再び影の中に潜ると、"アイアンテール"を発動させた状態で救助隊のポケモン達の頭上に現れた。硬い鉄の尻尾を頭に振り落とされ、一体が気絶した。
「夜はまだ長い。しばらく俺の遊び相手になってくれるよな?」
不敵な笑みを浮かべるクラブは、とても楽しそうだった。