外話 家族の力
救助隊レオパルドが群青の洞窟を越えた頃、基地の方では彼等が出発した後の次の日から激闘が続いていたー
ここはポケモン広場から少し離れた、救助隊レオパルドの基地。沢山の救助隊のポケモンが群がり、基地を攻め落とさんと攻撃を続けていた。一方基地を守るポケモンはたった二匹。しかし、彼等は予想外の抵抗を続け、基地に傷一つ付けず防衛を続けているのであった。
「ルー!そっち行ったぞ!」
「分かってるわ!ハイドロポンプ!!」
ルーの放った"ハイドロポンプ"は迫り来る"エアスラッシュ"を撃ち落とし、そのまま飛んでいるピジョットを叩き落とした。
「流石だな!"スパーク"!」
ロイもまた、近付いて来るヘラクロスを"スパーク"でぶっ飛ばした。彼等を見送ったあの日から丸一日、この基地を他の救助隊が襲った。目的は救助隊レオパルドの行き先。その手掛かりを探すため、或いは聞き出すためにここを襲撃していると、家族間で話が付いた。
「殺すな!絶対に生け捕りにしろ!」
救助隊の方からそんな声まで聞こえてくる。
「全く、私達を珍しい生物とでも考えているのかしら。失礼しちゃうわね」
怪訝な顔を見せながら、不機嫌に呟くルー。ただ、ロイは全く別の意味でとして捉えたようで
「面白え………捕まえられるもんなら捕まえてみろ!」
と、黄色く発光する程身体中に電気を纏って、敵救助隊の間を潜り抜けた。するとロイが通った後には気絶したポケモン達の道が敷かれて行ったのだ。
「けっ、弱えーんだよ。出直して来い!」
屈強な救助隊のポケモンを一度に、しかも大量に倒してしまうほどの力。これには流石の彼等も恐怖した。しかし、恐怖する者もいれば、立ち向かう者だっている。
「へぇ〜、お前、なかなか強いじゃん」
群がるポケモンを掻き分けて、一匹のポケモン、ゴローニャが前に出て来た。
「オレ様と戦えよ。楽しませてくれよ?ハッハッ」
ロイは電気タイプ、ゴローニャは地面、岩タイプで、相性的にはとても不利だ。しかし、そんなことで怯むロイではない。
「やっと少しは骨のある奴が来たみたいだな。ちょうど雑魚ばっかで退屈してた所だ。いいぜ、やってやる」
お互いが戦闘態勢を整え、数秒後に激しくぶつかる。次に先手を打ったのはロイだった。影分身を発動させ、四方八方から攻めることで錯乱させる作戦らしい。
「甘いねえ。じしん!」
ゴローニャが足を踏み鳴らすと突如大地が揺れ始めた。ただでさえ威力の高い"じしん"は電気タイプの苦手とする地面タイプの技で、一撃喰らってしまえば致命傷になりかねない強力な技だ。
ゴローニャを取り囲んだ分身は見る見るうちに消えて行き、とうとう最後の分身までもが消え、誰も居なくなった。
「ああ?どこ行ったあいつ」
そう、そこにいたロイは全て消えてしまったのだ。ゴローニャもこれには焦りを隠せず、辺りを見渡す。ロイが地上に居るなら"じしん"が命中しているはずだが、地上に居たロイは残らず消えた。なら本体は何処へ行ったのか。
「バーカ!下ばっか見てねぇでたまには上を見てみろよ!ノロマな亀さんよぉ!」
声につられ、自分の真上を見上げると空高く飛び上がったロイが見えた。青い空を背に、不敵な笑みを浮かべている。
「喰らえ!豪雷撃刃!」
落ちるロイの体は一瞬のうちに電気に包まれ、一本の鋭い槍となってゴローニャに向かった。僅かばかり見える目の輪郭が、逆に物々しい。
何も言わず、抵抗もせずにその場に立ち尽くすゴローニャ。やがて落雷よりも強力な一撃が彼の体を貫いた。ロイはゴローニャにぶつかると同時に体を反転させ、頭を踏み台に綺麗なバック宙を見せてくれたが、ゴローニャは電気が消えると時を同じくして、後ろに転がった。今の彼に、四肢に力を入れる術は無い。
「こんな程度で俺を捕まえようなんて、甘ちゃんにも程が過ぎるぜ。本気で捕まえる気なら、せいぜいこいつを千体連れてくることだな」
誰も聞いていない中、カッコ良くセリフを言い切ると、また戦いの渦中へと身を投じたロイだった。
*
ロイの所にゴローニャが現れた頃、ルーと戦わんとする相手がじわじわとルーに近づいていた。
「はぁ〜、嫌になっちゃうなー。戦うくらいならお喋りしてた方が絶対楽しいのに………」
ブツブツと呟きつつ華麗に攻撃を躱し続けるルー。救助隊のポケモンたちがどんな攻撃をしても右に左にヒラリと避けられてしまう。
すると、今までのものとは明らかに違う強力な技が迫る。
「きゃあっ!?危ないなぁ、当たる所だったじゃん」
空中での奇襲だったため、少しバランスを崩しながら着地する。技が飛んで来た方向を見ると、そこにはトロピウスが居た。
「今の攻撃を避けるか。その身のこなし、賞賛に値しますねえ」
妙に気取った話し方をするやつだ、とルーは思った。
「今のは貴方の仕業ね。レディーに攻撃するなんて、失礼極まりないんじゃないの?」
高飛車な物言いで挑発的に出る。もちろん向こうも簡単には乗らない。
「ええ、ですが貴方方が邪魔するからいけないんてすよ」
「邪魔?」
ルーはふと、疑問に思った。
「ええ、あんな犯罪者を守ろうとするからいけないのです」
ルーはすぐにピンと来た。こいつが言う犯罪者は、海斗であることを。
「あんなやつ、とっとと居なくなればいいんですよ。存在しているだけで世界に影響があるなら早く死ねばいい。それが今を生きるポケモンにとっていい事なんです。何処から来たかも分からないあんな人間、しかも過去に起こした罪の所為で何故我々が巻き込まれなければいけないんでしょうかねえ。私はもしそんなことで死んでしまったら恨んでも恨みきれませんよ。あんなクズのために___
「黙れよ」
トロピウスの背筋に途轍もない悪寒が走った。先程とは別人と見間違える程の雰囲気を纏って、ルーがそこに座っている。いつも笑顔のルーだが、今は笑顔は無い。
「何も知らない奴が、カイトを語らないでちょうだい」
ルーはゆっくりと立ち上がり、一歩ずつトロピウスに向かって歩き出した。
「カイトだって、来たくてこの世界に来たわけじゃ無いの。全く違うこの世界で、どれだけ自分が通用するか。それすらも分からない。彼にとって言い知れない恐怖を、きっと彼は感じてた」
ルーだって海斗のことは全くと言っていい程分からない。だけど、知らない所に来た時の恐怖は、自分だって知っているつもりだ。
「自分が一体何者かも測れずに居るのに、いきなりこんな騒ぎに巻き込まれて、いきなり犯罪者に仕立て上げられて、いきなり信じてたものに裏切られて。彼はどれだけ傷付いたでしょうね」
ゆっくり、ゆっくりとトロピウスに近付き、とうとう目と鼻の先程にまで近付いた。
「ティーエちゃんだって、彼とほとんど同じ思いをした。だからきっとティーエちゃんはカイトについて行った。その二人の思いを踏み躙らせはしない」
瞬間、ルーの口に大量のエネルギーが集まる。
「いやっ、ちょっ、まっ………」
「待たない!創空水竜!」
ルーの口から放たれた大量の水は、自ら竜の形を成してトロピウスを声も無く押し流した。
トロピウスが遠くに消えるのを確認すると、ルーは明後日の方向を見た。
「真実と現実は常に残酷。彼は真実と向き合っていけるのかしらね…」
「姉さん、交代だよ。ティーエ達が帰って来るまで、これは続くと思う。だから、今は休んで」
基地の中からレイトが出て来た。それと時を同じくして、ルーは基地の中に戻る。
「ロイ兄!まだいける!?」
戦いの渦中で大暴れするロイに、レイトは問いかける。
「おう!余裕だぜ!」
「なら良かった。さぁ、掛かっておいで!今度は僕が相手だ!」
レイトが一喝すると、敵救助隊の攻撃はさらに激しくなっていく。次から次へと来る攻撃を避けつつ、跳ね返しては誰かにぶつける。
「これくらいなら楽勝だね。僕らは負けるわけにはいかない。絶対に」
レイトは新たに決意を胸に刻むと、敵の集団に向けて"火炎放射"を放った。