第45話 炎の怪鳥と別世界の旅人
正体の分からないポケモンに遭遇し、それを追手と認識して更に逃走を続ける彼等。しかし、そのポケモンに敵意は無くー
「くあっ、はぁっ、はぁっ、どれだけ走った………?」
ただでさえ熱いのに、走ったことで余計に熱が増す。肩で息をしながら、海斗は走るのを止めた。
「分からないですけど、これで距離はとれたでしょう。もう一踏ん張りですね。頑張りましょう」
同じ距離を同じスピードで同じだけ走っておきながら彼等と違って、甲賀の息はほとんど切れていない。ほとんど、と言うのも、さっきまで無かった汗が額に浮かんでいるからだ。
「まさかもう追い付かれるとは思わなかったな。早く逃げないと、やべぇよな」
息も整えぬまま歩き出した海斗。それにつられて、息を切らしていたティーエとカエンもまた、歩き出す。甲賀は変わらず警戒を解かず、最後について来た。一番前に海斗、次にティーエ、カエン、最後に甲賀と言う順番で歩いている。これならどんな方向から襲われてもある程度反撃出来るからだ。それで倒せる相手ならいいが、不可能ならすぐに戦闘に移らなければならない。だから前衛を務められる二人が最初と最後なのだ。
会話も無く、ただ歩くこと数分。彼等は異常に気付く。
「敵と会わないな………消耗しなくていいけど」
「いいえ、あまり良く無いですね」
気が抜けた様子で後頭部に手を組む海斗。しかし、そんな海斗を甲賀は諌めた。
「敵と遭遇しないのは大きく分けて二つあります。まず、ここの敵とレベルの差があり過ぎること。自分の何倍も強い相手に突っ込むほどの自殺行為は無いですからね。もう一つは、何かが起きようとしていること。例えば、ここは炎の山ですから噴火とか………」
甲賀がそこまで言った時、サーっと海斗から血の気が引く音が聞こえると錯覚する程の速さで青くなった。
「やばいじゃん、俺ら死んじゃうじゃん」
顔は引き攣り、口角は不気味にビクついてる。そんな中でも甲賀は冷静だった。
「いえ、噴火は殆ど無いでしょう。火山の活動が活発ではありませんし、マグマの動きも悪いように見えます」
マグマは熱ければ熱い程流れが速くなる。冷えれば固まるのだから、熱ければより溶けて液体に近付くのは当然だろう。
そのマグマの動きが悪いと言うことは目立った火山活動は無いと考えていいだろう。
海斗はそっと、胸を撫で下ろした。
「じゃあなんなんだろうな。全くわかんねえぞ」
甲賀は考えるそぶりを見せると、カエンに顔を向けた。
「カエンくん、また君の力を貸してほしいんですけど、いいですか?」
話を聞いていただけのカエンは急に話を振られて少し体をビクつかせたが、すぐにいいですよ、と応えた。
「先程の神器を発動させて、辺りに敵が居るかどうかを確かめてほしいんです」
カエンは少し戸惑いを見せたが、すぐにさっきの呪文を唱え、詠唱を行った。再度片目に光が集まり、輝く。
「これは………なんなんですよ。このポケモン達は」
全く分からない、と言った表情で首を傾げるカエン。
「どうした?何が見えたんだよ」
「なんとなくですが私達の所に敵が現れない理由が少し分かった気がするのですよ」
妙に思わせ振りに話すカエンの話を聞いてみると、なんでもさっきの追手と思われるポケモン達が数匹の敵ポケモンに追われているらしい。
「そうか。なら、俺達はサッサと行こうぜ。大方向こうに引き寄せられているんだろ。このチャンスを逃す手立ては無い」
海斗は進むために辺りを見渡した。しかし、カエンの様子が少しおかしい。顔から血の気が引き、サッと青くなる。
「………大変ですよ、彼等、追われたままこっちに来てるのですよ!!」
突然のカエンの叫びに海斗は思わず振り向いた。そしてカエンの言ったことが事実なら本当に大変なことになる。
「なんだって!?くそっ、どうせ相手は追手なんだ!俺達はサッサと逃げるぞ!」
海斗が少し緩んだカバンを背負い直し、前を向くと同時に、反対側から悪夢がやって来た。
「うわあああああああああああ!!!」
「あはは、どうしましょう………」
「誰か助けてーーー!!!」
部屋の中になだれ込んで来た我を失った敵ポケモンとそれに追われていた海斗にとっての敵ポケモン。一同が一つの部屋に集まった。
「カイト!戦うよ!助けを求めているんだから、見捨てるわけにはいかないでしょ!」
ティーエが真っ先に戦闘態勢をとり、シャドーボールを撃ち出す。
「でもよ…あーもう!おい、名前分かんねえからお前ら!どっかに隠れてろ!全く、めんどくせえことしやがって!」
仕方ないと言ったように海斗も戦闘態勢をとる。続いて甲賀も剣を抜き、カエンも蔓のムチを脇から出現させていつでも戦えるなら準備をする。相手はオニドリル二体と、ウインディが三体だ。
「へ?あ、ありがとうございます!じゃ、じゃあ失礼します!」
助けたポケモン、イーブイが言ってる間にも海斗はオニドリルの攻撃を避け、同じように攻撃して来たウインディを躱し、反撃の"雷キック"で蹴り飛ばした。宙に浮いたウインディは大きく飛ばされながらも空中で姿勢を直し、綺麗に着地した。
「サッサと隠れてくれ!俺が本気を出せない!」
海斗はそれだけ言い切るとそのイーブイの近くから離れ、守りから攻めに転じた。ウインディに格闘を仕掛け、その隙を突いて襲って来るオニドリルをいなしつつ反撃をする。
「雷アッパー!まだまだ、アイアンテール!」
海斗は一瞬の隙をつき、ウインディを殴りあげ、空に浮いたウインディをアイアンテールで追撃し、低空を飛ぶオニドリルにぶつけた。痛々しい悲鳴を上げ、ウインディとオニドリルは地面に叩きつけられた。
「よし、まだまだこれからだ!」
海斗の言葉通り、決して少なくはないダメージを受けた彼等ではあったが、決定打にはならなかったようだ。ゆっくりと立ち上がり、また海斗に敵意を向ける。
「す、すごい………!あんな強そうな相手に互角以上に戦ってる…!」
イーブイの目には、驚愕と尊敬の念が宿っていた。
*
「ティーエさん、今っ!水の波動!」
「うん!シャドーボール!」
ウインディの"かみつく"を避けつつ、少々危ないものは剣で弾きながらティーエに合図を出し、自身は後ろに飛び去る。その時に追撃するのも忘れない。
二つの技の直撃を受け、流石に立っては居られないようだ。ウインディはドサリと横向きに倒れる。
「カイトは二対一で頑張ってるんだ。早く倒して、カイトを助けよう!」
ティーエは"電光石火"を行い、高速でもう一体のウインディの懐へと飛び込んだ。体の大きさが、ここでは優位に働いた。
「アイアンテール!」
懐に飛び込んだあとは、強烈な一撃を叩き込むだけだ。場所が場所だけに、オニドリルも手を出せない。
しかし、目論見は大きく外れることになる。"アイアンテール"を顎に当てようと振り上げたが、すんでの所でウインディに避けられてしまった。しかも"ひのこ"の反撃を受けてしまう。
「あちちっ!ああ、惜しかったなぁ………」
"ひのこが当たった所を気にしながらももう一度相手を睨み付ける。
「早くに決着を付けますか。えっと、そこのピカチュウさん、カエンくんの近くに居て下さいね」
追われていたピカチュウをカエンに任せると、甲賀は剣を振り回し始めた。それは無造作な中にも規則性が有り、妙に惹きつけられるものだった。
「剣技、十二月が一つ。霜月!」
甲賀の持つ剣が淡い光に包まれた。このままではまずいと直感的に感じ取ったのか、ウインディは先駆けて甲賀に"ひのこ"を放つ。
「残念ですが、少し遅かったですね」
甲賀はウインディが放った"ひのこ"を切り裂いた。するとどうだろう、切られた"ひのこ"が甲賀の剣に集まって火を纏い始めたのだ。
「剣技、霜月は斬った技を吸い込み、その技のタイプを写し取る剣技です。必ず斬らなくてはいけないのと、自分の技は斬れない、斬ったとしても効果は無いんですがね」
唖然とする彼等を後目に、甲賀は炎の剣でウインディに斬りかかる。一瞬だけ反応が遅れ、ウインディの頬を掠めた。
「まだまだ!属性解放!火ノ海!」
甲賀が大きく横薙ぎに振ると、剣が纏った炎が剥がれ、押し寄せる炎の波となってウインディを飲み込んだ。火が消える頃にはウインディは黒コゲになっていて、泣きながら何処かへと逃げて行ってしまった。
「良かった、あのウインディの特性はもらい火ではなかったようですね」
少し安心した表情で甲賀は呟いた。
もらい火、とは。自身に受けた炎タイプの技を取り込み、自分の炎タイプの技の威力を強める特性だ。もしウインディの特性がもらい火だったのなら、火ノ海は殆ど意味を成していなかった。残るはオニドリルのみ。
「剣技、十二月が一つ。神無月!」
甲賀はその場で幾度も突きを繰り返し、大量の衝撃波をオニドリルへと飛ばした。回避したところをティーエのシャドーボールでスナイプする作戦だが、オニドリルは驚きの行動に出た。翼を最小限にまで畳み、神無月の刺突の嵐に突っ込んで来たのだ。流石に甲賀もこれには驚いたが、すぐにどれかに当たって撃ち落とされると思った。しかし、これも予想を大きく外すことになる。オニドリルは最小限の翼で最小限の軌道修正を何度も行い、甲賀に向かって"ドリルくちばし"で突撃して来た。
「そんなっ、うわっ!?」
”ドリルくちばし”が当たる寸前で咄嗟に後ろに飛んで避けた。オニドリルが突っ込んで来た場所は土煙が立ち込めている。しかし、土煙を幾ら見つめても、一向にオニドリルは出てこない。警戒してるのかと思い、甲賀が剣の風圧で土煙を払うと、そこには、なんとも間の抜けた光景が広がっていた。
オニドリルが地面に突き刺さった自分のくちばしを抜こうとしていたのだ。
あまりの唐突な光景にティーエ達は目を丸くし、唖然として立ち尽くした。真剣勝負の中、こんなアホな展開になるとは誰も予想して居なかったからだ。
「…アホですね」
「…アホだね」
唐突過ぎることに本当にこれしか言えなかった二人は、流石に放置は可哀想なので、引っこ抜いてやった。するとオニドリルは一度だけ特有の甲高い声で鳴くと、そのまま何処かに行ってしまった。
「………一体なんだったんでしょうか」
「………分からないね」
その時の二人の表情は、世界でも一二を争う微妙な表情だったそうな。
*
彼等が最初のウインディを倒す頃、海斗は全くダメージの無い状態でウインディとオニドリルを相手に戦っていた。
「新技の実験にはいい機会だ。存分に味わえ!」
口角を上げ、白い歯を見せると握り合わせた両手からはパキポキと音が響いた。そして、海斗は新技の為の姿勢になる。低く腰を落として、左腕は力無くダランと垂らし、右腕は逆に力強く持ち上げた。
「チャージ…!」
海斗が一言、ただそれだけを呟くと、一瞬のうちに高密度の電気エネルギーが海斗の持ち上げた右手に集まる。
「(これ以上は無理か。俺の体が壊れちまう)」
フルパワーでコレを使ったら自分までどうなってしまうか分からない。それどころかフルパワーまで溜めることも危ういのだ。
「お前らを倒すにはこれで充分だ。喰らえ!雷装・撃!!」
持ち上げた右手を大きく振りかぶると、強力な雷で出来た巨大な爪が現れた。大きさは、優に海斗の十何倍もある。
「オラァァァア!!!!」
勢い良く振り下ろした海斗の手に追従して、巨大な爪は振り下ろされた。
ウインディもオニドリルも巻き込み、一度に地に叩きつける一撃。爪が消える頃には、ウインディもオニドリルもすっかり目を回していた。
「ぐ………っててて、反動が強過ぎるなこれは。そうそう容易に連発出来ないか」
怪我は無いが全身にさっきの技を使った反動なのか、強い痛みと猛烈な疲労が海斗を襲った。
「ははっ、さっき休んだの殆ど意味無くなったかも。いてて…」
痛みを抑えながら立ち上がり、ティーエ達の方を見た。ウインディが一匹倒れてるだけだが、他のポケモンの姿は見えなかった。どうやら撃退に成功したらしい。(実際は一匹逃げたのだが。この場合二人が逃がしたと言ってもいいだろう)
そして、背後に居る筈のイーブイの安否を確認するため、振り返る。しかし、そこにイーブイは居なかった。焦って辺りを見渡すと、それなりに大きな岩の裏から、茶色い耳と尻尾が可愛らしく見えていた。安心したように苦笑いをすると、その岩に向かった。
「おい、もう大丈夫だ。出て来てもいいぞ」
岩からはみ出ている部分が一瞬震えると、岩の裏からさっきのイーブイが出て来た。
「あ、あの助かりました。ありがとうございます…」
初めてハッキリと全体像を見た海斗は少し驚いた。通常のイーブイの目は黒く、尻尾だって一本だ。ティーエを見ればわかる。そのイーブイは首に灰と白のスカーフが巻かれており、同じように首から不思議な形をした笛らしき物が下がっていた。しかし、それは物であり、海斗が驚いたものではない。海斗が驚いたのはその姿の異常さだ。
瞳の色は黒では無く、青。所謂瑠璃色と言うものだろう。そして、尻尾の数はなんと六本。通常のイーブイとは、掛け離れた姿をしていたのだ。
「あ、ああ。怪我とか無いか?」
「はい、大丈夫です」
ぎこちない感じになってしまったが、あまりそのとこには触れずに話す。もしかしたら、気にしているかもしれないから。
「どうしました?僕の顔に何か付いていますか?」
どうやらボーッとしていたらしく、イーブイは不思議そうに顔を覗き込んできた。
「あ、いや。なんでもない。とりあえずこっちだ」
海斗が指を差す方は、他のメンバーが居る所だ。
*
ダンジョンの中でのんきに話し合うほど、彼等に余裕は無い。しかし、袖擦り合うも多少の縁と言うことで階段近くまで移動し、丁度色々と情報を交換し終わった後だ。
「自己紹介が遅れました。僕はルアン・シリウス・エクセリクシーって言います」
「どうも、弦宮歌韻と言います。よろしくお願いします」
「ルアンと、カインだな。カイン、これであってるか?」
海斗は救助隊の道具である鉄のトゲを使って地面に「歌韻」と書いた。それを見て、歌韻は頷く。
「しっかし、今じゃなけりゃ、歓迎してやってもいいんだがなぁ…」
海斗はポイと鉄のトゲを放り投げると、片手で頭を抱え、はぁ、とため息をついた。
「え?一体どうしたんですか?」
「ああ、それはね、__
「やめろ。他人に話すことじゃない」
海斗はすぐにティーエの口を塞いだ。自分が現在追われる身である限り、関わった者達全てが危うくなる可能性がある。現に、自分と苦楽を共にして来た仲間の一人が、今じゃ生死不明になっている。これ以上の犠牲者は、なんとしても防ぎたかった。
しかし、ここでルアンに異変が起こる。
「うっ………あ」
ルアンが急に頭を抑えた。集まって話していたので、全員がルアンの異変に気付く。
「おい、大丈夫か?」
海斗が近寄ると、ルアンの頭の中に声が響く。
「(俺は、本当にあっているんだろうか。俺について来たばっかりに、エレナはどうなったか分かんねえし、ティーエや甲賀にも辛い思いをさせてる。俺は一体、どうすりゃいいんだ………)」
落ち込んだ声と共に、海斗の思いが伝わって来る。ルアンはこれ以上聞きたく無いとばかりに海斗を突き離した。海斗の声の他に、何かドロドロした物に触れた気がしたからだ。
「いてっ、どうしたって言うんだ。突然………」
海斗から距離を取っても、今だに海斗の思いが伝わり続けて来る。
「(俺は生きてて良いのか?………分からない。人殺しってのは悪だ。誰がなんと言おうとそれはダメなこと。でも、今は世界が正常じゃない。人殺しはどんなことがあってもしてはならないことだ。だけど、世界が認めれば人殺しは悪から正になるのか?そんなことは絶対に無い。でも、それを言う奴が居なかったら?それが間違ってると言う奴が居なかったら?それは曲がった、歪んだ正になる。例え間違っていても、正しいことになってしまう。だけど、それでも俺は死にたくない。だから逃げる。それが結果として追われている。死にたくないからって、殺されたくないからって、逃げたらダメなのか?自分の命が惜しいって思うのは、エゴなのか?何があっていて、何が間違ってる?どれが正しい?何処が間違ってる?最善はどこだ。最悪はどこだ。どっちに行けばいい?何をすればいい?どうすれば誰も不幸にならなくて済む?分からない。分からない。分からねえよ………………
ダレカ、タスケテクレ)」
最後の一言をルアンが聞いた瞬間、異常な寒気がルアンに走った。すぐに分かった。それが世界を破壊しまうほどの強く圧縮された負の感情だと言うことを。
「だ、大丈夫です、少し目眩がしただけで…」
気味の悪い汗を額に滲ませながらルアンは笑顔を見せる。精一杯の作り笑顔だ。
「そうか、きっと走り過ぎで疲れたんだろ。ほら、乗れよ」
海斗はルアンに背を見せてしゃがむ。
「あ、ありがとうございます」
少し遠慮した風にそわそわと落ち着き無く乗る。すると、急な浮遊感が漂い、すぐに落ち着いた。
「よし、行くぞ。疲れたらすぐに言えよ。ここから先も厳しくなるからな」
海斗の言ったことにレオパルドの面々は頷いた。
〜炎の山 山頂〜
階段を上ると、やたらと平たい所に出た。グツグツと赤い溶岩が煮えたぎり、様々な所から白い煙が噴き出している。
「やっと頂上ってことか。後は降りるだけだ。もう一踏ん張りするぞ」
海斗が隊長らしく呼び掛けた。返事こそ無いものの、目に宿る意思は油断の無いものになっている。
その時、何処からとも無く海斗目掛けて炎の塊が飛んできた!
「海斗さん!」
甲賀が飛び出し、炎の塊を真っ二つにして海斗とルアンを守った。
「すまん、甲賀。助かった」
「ええ、別に構いませんよ。それより早くここを抜けましょう。一つだけだから良かったものの、複数くると厄介です」
「そうだな。みんな、少し急ぐぞ」
海斗が言うと、全員の歩くスピードが上がる。すると突然地面が揺れ出し、溶岩が大きく噴き上がった。甲賀は噴火かと考えたが、答えは全く別のものだった。
溶岩が突然盛り上がり、答えは姿を見せた。
「ギャアアアァァァァァ!!!!!!」
いつか聞いたような甲高い叫び声が聞こえ、海斗達にとって最悪の記憶を思い出させた。
「まさか………」
あれはらいめいのやまでの出来事。伝説の三鳥の一匹、サンダーと戦った時の記憶が鮮明に浮かんで居た。盛り上がった溶岩が弾け、中からソレが姿を現す。ソレは海斗達の前へと舞い降りた。
「私はファイヤー!!炎の化身!!貴様らが来た時から炎の山が怒っている!山を荒らす者よ!覚悟!!」
ファイヤーは問答無用で襲って来た!少し開いた鋭いくちばしの中に轟々と渦巻く炎が見える。
「全員、避けろ!アレを喰らったら一溜まりもないぞ!」
海斗の言葉で、固まっていた全員が散る。瞬間、ファイヤーの口から炎が吐き出された。
「火炎放射!!」
荒れ狂う炎の塊は彼等が居たところを瞬時に粉砕した。本当に一発当たれば体が砕けてしまうのでは無いかと、思わずに居られない攻撃だった。
「くそっ!!こんなところで足止めしてる場合じゃねえってのに!」
海斗が悔しそうに表情を歪ませ、ファイヤーをギロリと睨み付ける。(技では無い)
「余所見してる暇なんでありません!来ますよ!」
甲賀の言葉で緊張感がさっきより一気に高まる。甲賀は剣を振り具合を確かめた。ティーエは低姿勢でファイヤーを睨み、牙と敵意を剥き出しにする。海斗は手の平と握り拳を合わせ、乾いた音を響かせた。そして、全員が本気でかかる。
「高く/飛く/空を目指し/早く/速く/雲間を駆ける/我が手に力を/我が背に翼を/時代に埋もれた古代の遺産/封じられたその力を/暗き闇から解き放て!!発動ッ、古代神器が一つ、自由の翼!!」
「遥か遠く/宇宙の果てまで/光の彼方/銀河の端しまで/広がる/希望の光/絶望の闇/表裏一体/黒と白/そのどれにも属さぬ物/数ある無数の星々/内の一つが舞い降りた/破壊の化身と共に/創造の神なり/道を開けよ者共/これより/星の王が通る!目覚めろ!審判の星!」
「青は豪雨/赤は猛火/黄は雷電/紫は閃光/黒は混沌/緑は樹木/氷は吹雪/白は勇気/八つの大地の理と/八つの空の始まりよ/今こそ一つの力となりて/契約の名の下に集まれ!発動!元素流域!」
ティーエの腕輪は形を変え、甲賀の剣もその身を変化させた。海斗のマントは白く雄々しい翼となった。変化した際の衝撃で体が浮き、空中に停滞する。
彼等の行動に唖然としたが、すぐに目の前の敵に集中した。ルアンと歌韻も戦闘態勢をとる。
「ほう、面白い。神器使いか」
ファイヤーは感心したように笑った。そして真剣な表情に戻る。
「だが、山を荒らす者には容赦せん!覚悟!」
レオパルドとファイヤーの戦いの火蓋が、切って落とされた。