第41話 疑心暗鬼
闇は広がる。知らない間に。
黒く染まる。分からないうちに。
何も信じられなくなった者の末路とはー
「……………何処だ、ここ」
海斗は気付いたら真っ暗で何も見えない場所に居た。どれだけ目を凝らして見ても、海斗の黒い瞳には何も映らない。誰も居なければ、音も無い。極黒に包まれた漆黒の世界。
「誰か、居ないのか?」
不安になりながらも、一歩、また一歩と前に足を進める海斗。その時、ふと手に何かが当たった。柔らかくて、ふわふわとした毛の感触。何かと思って見てみると、ティーエの尻尾がそこにあった。
「ティーエ、居たのか。ここは一体何処……だ………」
振り返ったティーエの瞳には光は無く、まるであの時見た夢の如く機会的な表情がその顔に映し出されていた。
「ティー…エ…?」
現実離れした雰囲気に押され、後退りをすると、背中にも何かが当たった。狼狽した表情のまま素早く振り返ると、全く同じ目と表情をした甲賀が居た。右手に光るのは、白銀の剣。
「おい…待て。待ってくれ……」
何を待つのか。二人は何もせずにただこちらを見据えてるだけだ。
「やめてくれ……そんな目で、見るな………!」
酷い焦燥感が襲い、逃げようと誰も居ない筈の方向に向く。しかし、逃げられない。
「エレナまで………」
目を背ければ、それだけ知り合いが光の無い目で現れる。そして、一人。また一人と増えて行く。海斗を責める様に突き刺さる視線を注ぐ。海斗を突き放す様に軽蔑の視線を送る。時が経てば経つほど、刺さる視線は増えて行く。その全てが知り合いの物だ。
「やめ…てくれ…。俺を、俺をそんな目で見ないでくれ………やめてくれ………やめてくれ………!!」
軽蔑。罪悪感。自らが犯した罪。自己嫌悪。嫌悪。嫌悪。嫌悪。
「……………シネバイイノニ」
負の感情に押し流された海斗は、言ってはならない言葉を吐いた。
瞬間、ガラスが割れる様な音が響き、闇が消え去り、知り合いも皆消えた。自分以外の何ものも無い、真っ白になった自分の世界で海斗はただ一人、白を見上げ涙を流した。
「………オレガ、シネバ、セカイハ………」
海斗の頬には涙が伝い、やがて一筋の線となった。自らが犯したかも知れない罪を悔い、可能性に歪められた真実は容赦なく海斗を責め立てる。
光を失った瞳で仰ぐ世界は、どこまでも白かった。
*
「……………………………………」
気分が悪いまま目が覚めた。どうやら寝過ごしたらしく、周りはすでに起きている者ばかりだった。さっきまで見ていた筈の夢は、今はもう記憶に薄い。思い出そうとしても、頭が痛くなって思い出せない。
「あ、カイトくん。起きたんだね。酷くうなされてたけど、大丈夫?」
夢での出来事は現実にも影響を与えていたらしい。レイトの言いぐさとしては、寝ている俺を見ていたのだろう。と言うかうなされてるのが分かってるなら起こしてくれよと思わないこともない。
「…大丈夫です。ちょっと変な夢を見たらしくて」
あははは、と他愛の無い笑みを見せると、ふと何かを思い出した様な表情を見せた。
「そういえば広場の方が騒がしかったよ。そこに転がってるティーエと一緒に行って見たらどうかな」
レイトが指を差す方には、ベットから思いっきりはみ出してるティーエが見えた。はみ出してると言うより、寝相か誰かに飛ばされたかは分からないが、壁に激突している形で寝ている。風邪ひくなよ。
「おい、ティーエ。起きろ。お前せめてベットで寝ろよ」
寝起きでぽわぽわしているティーエの額にチョップを入れて目を覚まさせると、二人で広場に歩いて行った。
〜ポケモン広場〜
「ほら、しっかり歩け。いつまでもフラフラしてるな」
眠気で覚束ない足取りのまま広場に来た二人。確かに中心が騒がしい。
「カクレオン商店にもおばちゃんの倉庫にも誰も居ないな………そんなに人が集まっているのか?」
中央こそ騒がしいままだが他の場所は全くポケモンが居らず、酷く閑散としていた。
「一体なんの騒ぎだ?」
「だからさぁ、オレはとんでもないことを知っちゃったのさ!ケケッ!」
「……………ッ!!??」
海斗が見たものは、人集りの中心で以下にも自慢げに話すゲンガーの姿だった。
「なんでアイツが…!?」
「どうしたのカイト〜………なっ!?」
衝撃の物を見たティーエはやっと目が覚めたらしい。いつもは優しいティーエでも、ゲンガーには敵意を剥き出しに嫌な目をしている。
「あんなヤツの顔なんて見たく無いよ!カイト、違う所行こう?」
「まて、少し気になることがある。バレない様に聞いていよう」
「えー…。うう〜、分かったよう…」
その時、群衆の中から興味深い言葉が聞こえて来た。
「まさかキュウコン伝説が本当だったなんて…」「ビックリだよ。噂だと思っていたからさぁ…」「シッ、真ん中のヤツ、何か重要な物を知ってるって言ってるぞ」
群衆はまたゲンガーの言葉に耳を傾ける。
「とんでもないことってのはだな、オレ、気まぐれでせいれいのおかって所に行ったんだけどよ、あるポケモンがそこに居たネイティオに相談事をしていたのさ!ケケッ!」
群衆はさらにゲンガーの話に釘付けになる。
「そのあるポケモンは姿形こそポケモンそのものだけどよ、なんとそいつは元人間なのさ!しかもネイティオがその人間に言ってたんだ。そいつがポケモン化したのと、世界のバランスが大きく関係しているって!」
ゲンガーの話は、キュウコン伝説の筋書き通りだ。感心する所はイマイチ無いが、状況が違えば反応も違う。ゲンガーの話の先を今か今かと待ちわびる群衆。
「それだけじゃ無いぜ!最近災害が良く起こっているだろう?それも世界のバランスが崩れたために起きてることなんだ。早く世界のバランスを元に戻さないと、世界は大変なことになっちまうんだってよ!ケケッ!」
世界がどんなことになるんだろうか。衝撃の事実に一同騒然とする。
「あ、アイツ!わざと騒ぎを大きくしてるな……!!」
怒りで表情が歪むティーエ。海斗も普通ならここで怒ってゲンガーに飛び掛かってもおかしくはない筈だが、海斗の様子が少しおかしい。表情は暗く、黒い瞳は、光を反射すること無く漆黒の闇に染まった。
ここで、群衆の中からどうすればいいんだと言う問いかけにゲンガーは非常にいやらしく答えた。
「まあまあ、諸君。慌てなくても方法はあるさ。その人間がポケモンになった所為で世界のバランスが崩れているなら、そのポケモンを倒せばいいだけだろう?なんせ、そいつが居る所為でバランスが崩れて居るんだからな。これで元通りに戻るってことだろう?」
た、確かに!群衆の中から一つ参道の声が上がった。周りもそれに合わせてそうだそうだと言い始める。ゲンガーはトドメでも刺すかの様に言い放った。
「しかもそいつは伝説によるとサーナイトの親身な訴えも聞かずに逃げ出したやろうだぜ?ああ、ヒドい。ヒドいよなぁ。そんなやつ、倒されても一切の文句は言えない筈だよなぁ!!
___なぁ、タカナシカイトさんよお」
群衆は一斉に海斗が居る方を見た。ティーエは狼狽えたが、海斗は変わらず暗い表情のままだ。
次々に浴びせられる真実を求める声とそれに伴った怒声の様な声。
「ま、待ってよみんな!これには訳があって__
お前には聞いてない!
ティーエの必死の弁明もたった一言で一蹴される。ここにティーエの家族が一人でも居なくて良かった。もし、誰か一人でも居たなら広場の全員が血祭りに上げられていた所だろう。
「どうなんだよ!答えてくれ!」
「…………………………………」
返す言葉も無く、ひたすらに自責の念が海斗の中に積もって行く。
その頃、海斗の心を見ていたシェンクは海斗の心がじわじわと黒に覆われて行く様を嫌と言うほど見せ付けられていた。
「これは………!主!危険だ!これ以上此方に来てはいかん!」
神器のシェンクが叫んだ。しかし、その声は海斗に届くことは無かった。
「返す言葉も無いらしいな。そう言うことだ諸君。コイツを倒して、平和になろうぜ!ケケッ!」
広場の全員がジリジリと寄ってくる。優しかったガルーラのおばちゃんが。商店のカクレオン兄弟が。喫茶鳥の巣のマスターマメパトが。敵意と殺意を交えながら一歩、また一歩と近付いて来る。最初に襲って来たのは、ハスブレロだった。
「カイト、すまん!」
急速に繰り出された「ひっかく」は正確に海斗を捉えた。筈だった。寸前でティーエが海斗を引っ張り、当たるのを避けたのだ。
「うわわっ!?大変なことになっちゃった!カイト、逃げよう!!」
海斗に反応は無い。それどころか、その場にうずくまり、何かを延々と呟き続けている。
「オレガ俺がおれがおレがオれガ俺ガオレがおれガおレがオレがおレガオれがオレガ俺がおれがおレがオれガ俺ガオレがおれガおレがオレがおレガオれが__________」
積もり続けた自責の念はいよいよ限界となって海斗を乗っ取った。
「ウわアあアああアアあアああ!」
瞬間、詠唱もしていないのに海斗のマントが翼に変わった!しかも、いつか見た白く雄々しい翼では無く、全てを吸い込んでしまう様な漆黒で染められた禍々しい暗黒の翼だった。
「かっ、カイト!?」
海斗は悲しげな表情のまま翼を羽ばたかせ、空の彼方へと消えた。その様子を見ていた彼らは身動き一つ出来ずに、固まっていた。
「カイトぉ………」
ティーエはただ一人、海斗の心配をしていた。
*
その後、唖然としたままの彼等を放って基地へ戻り、その場に居た全員に正確に事を伝えた。一番に反応したのはやはり甲賀だった。
「それは非常に危険な状態です!!早く海斗さんの意識を戻さないと、大変なことになってしまいます!」
焦りながらも動きは正確無比な甲賀。バレたことを予想して作っていた荷物の最終確認を行っている。
「大変なことって、なに!?カイトはどうなっちゃうの!!」
ティーエだって、黙って指を咥えて見ているだけじゃ嫌だ。とでも言わんばかりに声を張り上げた。
「契約者の感情が高まり過ぎると、契約中の神器が暴走を起こしてしまうんです。早めに暴走を止めないと、海斗さんの命に関わります」
「嘘っ……!カイトォ!」
いきなり基地の出口へと走り出すティーエ。寸前で甲賀が止めた。
「待ってください!海斗さんが何処に居るか分かってるんですか?もし知らないのであれば、今は無闇に外に出るのは危険です」
「じゃあ…!じゃあ、カイトが危険なのを見捨てろって事!?そんなの嫌!!絶対に嫌よ!探せば絶対に何処かに居る筈なんだから!!」
聞く耳持たずのティーエは引き止めた甲賀の手を振り払うと、外に飛び出して行った。
*
ああ、俺はなにをやってるんだ?あの時甲賀が否定してくれたのに。それなのにまだ自分を責め続けて。俺の神器だっておかしくなっちまった。白かったあの翼は真っ黒に染まって、元のマントに戻すことも出来ない。俺、こんな所で道草くってたらダメな筈なのに。自分が全ての元凶だと言うことをティーエ達に伝えなくちゃいけないのに。
嗚呼。なにも出来ない自分を許してくれ。死ぬ覚悟さえ無い俺を許してくれ。最初から決まっていたのかもしれない。俺が犯した罪の所為で。それでも俺はなにも出来ない。先に進むことも後に戻ることも出来ずに、空を仰ぐだけだ。俺は、俺は………
「なんて無力なんだ………」
海斗の呟きに答える様に黒い翼が音を立てて動いた。ここはティーエと一緒に来た、夜には沢山の星が見られる幻想的な場所。今はまだ昼だから星は一切見えない。しかし、その代わりか、いつもより青い空が広がっている場所でもあった。その場に座り込んだまま空を見上げる海斗。頬には涙が途切れること無く流れ続けていた。
その時、背後に何者かの気配を感じた。普通なら振り返って誰かを見る所だが、海斗の体は動かなかった。半開きの口と光を失った虚ろな目は焦点を合わせること無く空を見上げていた。
「カイト……………」
背後の影は、ティーエだった。
*
「はっ、はっ、はっ、………はぁっ!」
ティーエは必死になって走っていた。もしかしたらと言う場所は幾つもあった。しかし、今は最後の場所に向かう途中である。今まで見て来た場所には、海斗は居なかったからだ。
「カイトォ…カイトォ…!」
ティーエにはカイトの気持ちが痛いほど良く分かっていた。ずっと仲が良かった者に避けられる感覚。疎外感。そんな自分を嫌って生まれる自己嫌悪。いや、もしかしたらカイトはそれ以上の思いを抱えているかもしれない。私がカイトに会った所で、出来る事は高が知れている。それでも何かをしない訳にはいかなかった。走り続けて目的の場所についた。直ぐに視界に入ったのは漆黒の翼と黄色い背中。間違い無い。カイトだ。
「カイト……………」
反応は無い。虚ろな目は変わらず、なにを見ているかは分からない。そんな海斗の隣にティーエは並んで座った。
「あのね、カイト。私ね、最初にカイト会った時、すごい変なポケモンだと思ったんだよ。自分のこと元人間だって言ってたよね。覚えてる?」
海斗の隣で笑ったりしながら海斗が来てからを話すティーエ。
「カイトのおかげで、私は笑顔になれたんだよ?だから、カイトも笑顔で居て欲しいんだ。だから、だから。戻って来てよぉ……カイト………」
笑顔は消え、悲しげに。嗚咽が漏れて、涙を流す。私が伝えられる精一杯は伝わっただろうか。
「ティーエ……………」
虚ろな状態から海斗が言葉を発した。ティーエの顔が笑顔に変わる。
「俺は…怖いんだよ…俺の所為で関係の無いこの世界が壊れてしまうのが。人間の俺がしたことで、ポケモンの世界が壊れるのが。みんな、俺の所為なんだ。俺が間違っているから………」
虚ろな目と黒い翼は変わらないまま自分のことを語り続ける。自分の思いを。誰にも言わなかった、言えなかった思いを今ティーエに話している。
「ハハッ、幻滅しただろ。俺はこんな奴なんだ。自分のパートナーさえ見捨てる様な、臆病者のクソ野郎なんだよ………」
全てを諦めた様な表情で乾いた笑みを浮かべる海斗。ティーエにはその気持ちが痛い程にわかった。
信じていた物が消えて、徐々に絶望が広がっていく最悪な感じ。少しづつ、だけど確実に何かが変わっていく。今は自分では無く、海斗がその状態に陥っている。
「カイト……………」
ティーエはゆっくりと海斗の背後に回って___
その背中を抱き締めた。
「私、カイトの気持ち痛いほど分かるよ。嫌になって行くのも分かる。私だってそんな時が有ったから。でも、後ろばっかり見てたらダメ。周りで助けてくれる人が見えなくなるから」
気付けばティーエも泣いていた。収まっていた涙が自然と頬を伝った。でも、今はそれでもいいと思った。
「私がそうなった時、お姉ちゃんやお兄ちゃんが助けてくれた。教えてくれた。私は一人じゃないって。カイトだって同じ。一人じゃない。だってそうでしょ?周りをもう一度見てみてよ」
ティーエは海斗の背中からもう一度隣に移り、手を握った。
「私が居る。甲賀も居る。エレナも居る。私の家族だって、カイトを信じている。カイトを信じている人はたくさん居る。だから、諦めないで。自分を捨てないで。私が約束する。カイトはそんな酷いことをする人じゃないって。私は、カイトを信じてる」
返事は無い。動きも反応も無い。ティーエは海斗が心の闇に完全に囚われてしまったんじゃないかと思ったが、ある変化が海斗に起きていた。漆黒の翼の先が少しつづ白く変わって行く。その時、海斗が立ち上がり、ティーエを真っ直ぐに見つめた。
「………ごめんな、俺、どうかしていたみたいだ。そうだよな、俺にはみんなが居る。何やってんだろうな。一人で抱え込むなって、ティーエに言ったくせに自分は一人で抱え込んでさ。今回はティーエに助けられたよ。本当に、ありがとうな」
海斗の瞳には光が戻り、しっかりとティーエを見据えた。黒かった翼は、元の色に戻っていた。
「戻ろう。甲賀も心配してるし、そろそろここから出て行かなくちゃいけないから」
「分かってる。急ぐぞ。しっかり捕まってろよ」
話を終えると、海斗はいきなりティーエを抱えた。言うなれば、所謂
『お姫様抱っこ』
と言うやつだ。瞬間沸騰。ティーエの顔は一気に真っ赤になった。しかし、本気を出した海斗に赤面する余裕など無いのだが。瞬間的に飛び上がり、基地に向けてとんでもないスピードで移動し始めたのだ。言葉通り、直ぐに基地に戻って来たが、ティーエはもうフラフラになっていた。
*
「あれ持った、これ持った、………良し、準備万端です。何時でも出れますよ」
甲賀が最後の荷物確認をした所で、それぞれが割り当てられたカバンを持った。
「それじゃあ行くか。みんな、俺が居なくなった後の守り頼みますよ」
「じゃあね、絶対帰ってくるから、心配しないでね」
「少しの間ですが、お世話になりました。朗報を待っててください」
「私との接点は少なかったと思うけど、みんなのことは覚えてるわ。お互い健闘を祈りましょう」
家族との別れを惜しんでいると広場の方から見覚えのある三人組が歩いて来た。
「FLB……………!」
海斗が口に出すと同時に、その場に居た全員が戦闘態勢を取る。しかし、FLBの様子が少しおかしかった。
「待て、今の我々に敵意は無い。伝えたいことがあって来た」
右手を前に出し、制止を願う。ゆっくりと戦闘態勢を解くと、FLBリーダー、フーディンのノームが話し始めた。
「広場の皆の意見を纏めて、結論が出た。カイト、お前の討伐が決定した」
その一言で、彼等は再度戦闘態勢を取った。目の前でお前を倒すと言ってるのと同義語だ。油断してはやられる。
「………だが、我々はここでお前達に手出しはしない」
「!?」
意味がわからないと言った様子で、動揺が広がる。
「一日だけ猶予を与える。その間に、行ける所まで逃げろ」
冷や汗をかいた海斗はその真意が見えなかった。
「一体どう言う風の吹き回しだ?お前を倒すって言ったのに、逃げろ?矛盾してる」
「我々とて、お前を倒したい訳では無い。本当なら逃走に手を貸してやりたい所だ。私だってお前を信じたいんだ。しかし、私達も救助隊の端くれ。お前が世界を崩壊させる原因なら、迷わず手を下さねばならない。今は穏やかに会話をしているが、明日からは………」
ノームが一度そこで言葉を切ると、強烈なオーラがノームから噴き出した。
「本気で行くぞ。死にたく無いなら、逃げ延びてみろ」
最後にそれだけ告げると、FLBの面々は広場の方に歩いて行った。
「明日から本気か。こりゃ早めに逃げないとな」
後頭部を掻きながら、苦笑いを浮かべる海斗。その表情は心なしか、楽しそうだった。
「みんな、行こう。氷雪の霊峰に居るはずのキュウコンに真実を聞きに行くんだ。……それと、みんなに言いたいことがあるんだ」
清々しい笑顔で海斗はある言葉を言った。それは、海斗が心から言いたかった一言であり、迷惑を掛けた謝罪の言葉でもあった。何も返された言葉は無かったが、その場に居た者は皆同じ表情をしていた。___透き通るような、笑顔。
そして、彼等は出発した。今後の彼等の運命を決める旅に。目的地は遠く、道なりも険しい物になるだろう。しかし、それでも諦めることは無い。そう、絶対に___
*
彼等の背中が見えなくなった頃、ティーエの家族は家に戻って行った。
「きっと帰ってくるよね。みんな揃ってさ」
曇った笑顔でレイトが言った。言葉を返したのは、ルーだった。
「大丈夫よ。彼等ならきっとうまくやって来る。カイトが無実の証拠を見つけて帰って来るわよ」
その言葉で、レイトは安心した。そうだ、信じて見送ったのに、その後も信じてやれなくてどうするんだ。その時、なぜか海斗が言ったあの言葉が浮かんだ。
青い空によく合う、海斗が言いたいことを全部に纏めて言った一言。それは___
「___ありがとう」