第30話 答え
海斗は元人間だと見抜かれ、なんと甲賀がポケモンではないという疑惑が浮かび上がった。いったいどうなるー
「ちょっ、と待ってくれ。甲賀がポケモンじゃない?」
海斗が動揺を隠そうともせず聞く。目はほぼ点になっている。
甲賀も最初は戸惑い、黙り込んでしまったが。何かを決意した表情になり、言った。
「はい、確かに僕はポケモンではないです」
その言葉は、ノームによって浮かんだ疑問を裏付けする答えだった。
海斗も、ティーエも、エレナも一様に目を丸くして、甲賀を凝視した。いまから甲賀が、何を言っても一言一句逃さない程に。
「僕は元人間、そして、ある使命を持って今、ここに立っています」
それは驚くべき事実だった。海斗は元人間で記憶が無い。対して甲賀は記憶が存在し、何かしらの目的があるらしい。使命とは、そういう事なのだろう。
「では教えてくれぬか。いったい何故人間からポケモンになった理由と、使命とは何なのかを」
「……………とにかく、ここを出ましょう。頂上でも安心は出来ませんから」
甲賀の指摘を受け、一向は山を降りることにした。
〜ペリッパー連絡場前〜
沈みかけた太陽が水平線から光を投げかける。時刻は大体夕方ぐらいだろう。その場にいた者達はノームと海斗の質問が甲賀にぶつけられると思っていた。
ノームは確かに何かを聞こうとしていたが、海斗は呆れたような表情を見せると、「疲れた〜、とっとと休むか」と言って、救助隊基地(皆さんお忘れかと思うが実際はティーエの家)に向かって歩き始めたのだ。
「え!?ちょっと、海斗ぉ!?」
どんどんペリッパー連絡場から離れていくをティーエは止めようとしたが、それでも海斗は離れていく。
「海斗!海斗ってば!」
「あんだよ、疲れてるんだ。肩も痛ぇしよ」
「甲賀に何も聞かなくていいの?」
今のティーエにとってはそれは尤もな意見であった。だが海斗も引かない。
「よーく考えてみろ?今まで話さなかったか、話せなかったはわからないけどよ、言いたくなかったことには変わりないんじゃないのか?」
それも尤もな意見だ。話が聞こえる位置にいる甲賀は、見抜かれたから話す、だけであって、自主的に話す気などさらさら無かったのである。
「第一、元人間だって言っても今はポケモンだろ?じゃ、それでいいじゃん。人間の姿のままここにいたら俺だって話は聞くよ?でもよ、ポケモンで、周りに溶け込めて……るかどうかはわかんねえけど、うまくやって行けてるじゃん。何の問題がある?」
どうやら海斗はとことんまで話を聞く気は無く、いっそさっさと帰りたいぐらいなのだろう。
「で、でも……」
どもるティーエを無視して、海斗は甲賀を呼ぶ。
「甲賀!とっとと帰るぞ!あ〜、疲れた……」
甲賀を呼び、聞こえないくらい小さくなった疲労を訴える声。ティーエもエレナも、流石に甲賀も連れて行かれては不完全燃焼で終わってしまう。納得出来ずに腹を立てると、甲賀は海斗の後をついて行った。
「すいません、隊長命令なので、失礼します」
甲賀は、わざとうやうやしく謝罪すると逃げるように海斗の後を追いかけた。
「もう!信じらんない!」
ティーエが悔しくて地団太を踏むと、「我々も失礼しよう」と、声が聞こえた。
「あの者達は聞く気も、話す気も無いようだ。多分だが、聞いても無駄だろう」
それにはティーエもエレナも頭を下げるしかなかった。
〜救助隊基地内〜
「ちょっと、海斗!どーゆー事!?」
痛みに耐えながらベットの上で包帯を変えている海斗を問いただした。
「人の過去に興味は無い。あいつだって、話したくなさげにしてたろーが。助け舟を出して何が悪い」
強く、圧力的にティーエを睨んだ。目の奥にある光は、有無を言わせない気迫が潜んでいる。
「う………でも!」
「でも、なんだ?」
「っ………もういい!」
ティーエは怒って、渋々自分のベットにダイブした。枯れ草が押されて、独特な音と共に空気が抜け出る。
「もう!海斗のばかっ!」
聞こえないくらい小さく海斗を罵った。しかし、すぐに甲賀のことが気になって、直接甲賀に聞く。
「ねえ、こう__」
「みんなに言わなきゃいけねぇことがある」
ただ、海斗の声に遮られ、甲賀に聞こえることはなかった。
普通なら、ティーエが怒って「私が先!」と言って、海斗を押しのけるのだが、言葉にただならぬ雰囲気が籠もっており、ティーエも口を噤んだ。
「一人だけなら黙っててもいいが、二人いれば流石に黙っていてもいいことはない。信じらんないだろうが、俺は、いや、俺も元人間だ」
甲賀もエレナも、これには驚いたが、甲賀はすぐに冷静さを取り戻した。
「海斗さんが、元人間……?」
「ああ」
「今まで隠していたのね?」
「言う必要が無いと思っていたからな」
少しずつぶつけられる質問にぶっきらぼうに答えていく海斗。その表情は感情が薄れ、どことなく機械のようだ。
「………………………」
「………………………」
海斗の告白で基地内が一様に重い空気に包まれる。なぜ元人間が二人もいるのか。この問いに答えられる者は誰一人として、いなかった。