第29話 決着、サンダー
なんとティーエも契約者になってしまった。エレナと力を合わせ、サンダーに立ち向かうー
「放電!」
「エアロウォール!」
「シャドーボール!」
サンダーが放った放電はティーエのシャドーボールで勢いが弱まり、エレナのエアロウォールで完全に防ぎきった。
「かまいたち!」
今度はエレナがかまいたちで先制した。ティーエもそれに続く。
「電光石火!」
飛んでいくかまいたちの中に紛れ込み、サンダーからは見えない位置についた。しかし、サンダーも馬鹿ではない。ティーエが見えなくなったのに気がつき、飛んでくるかまいたちに10万ボルトを撃つ。ティーエもまたそれに気付き、お互いの技がぶつかる寸前、素早く抜け出しサンダーの背後を取った。
「(これは……なに?何かが…流れ込んで来る…!)」
サンダーに攻撃を仕掛けようとした時、自分の頭に様々な記憶らしきものが流れ込んできた。その記憶はすべて、ポケモンの技に関する物ばかりであった。記憶の一つが大きく輝いたかと思うと、とある技の名前が浮かんできた。
「アイアンテール!!」
硬質化した尻尾は、見事サンダーを捉え、後頭部に強烈な一撃を叩き込んだ。
「うおおおおおおおおっ!!??」
その一撃でサンダーはふらふらと地に落ちた。
「そんな……嘘でしょ?」
ティーエは自分がアイアンテールを使えたことが未だに信じられなかった。なぜなら、技マシンを使っていないのにアイアンテールを発動出来たからだ。
「ハァ……ハァ……」
「やったわね!ティーエちゃん!でもアイアンテールって使ってたっけ?」
「本当は使えない筈なんだけど、出来そうな気がしたからやってみたんだ。そしたら出来た。今はそれさえわかればいいと思う。」
「そう?ふーん……」
普段のティーエを見ている者からすれば、想像出来ない程冷静な意見を述べていた。確かに今となってはティーエも契約者の一人。何をやっても不思議ではないのだ。エレナは考えるのをやめた。
「面白い……ならばこれはどうだ!かみなり!」
サンダーが叫ぶと同時に黒雲が大きく動き、青白い雷鳴が見えた。
「まずい……!防ぎきれない!」
エレナは、想像以上の破壊力を秘めたサンダーのかみなりにうろたえ、逃げもせず空を見つめるだけだった。ティーエも、同じく空を見つめた。ただエレナとは表情が違う。エレナは恐怖に縛られたネズミのように、追い詰められた顔をしているが、ティーエは何かを狙う
勝負師のようだ。そして、それが確信の笑みになると同時にティーエがまた何か唱えた。
「虹の王は命ずる。黄の雷電、我が身に宿れ!」
すると、サンダーのかみなりよりも早くに、一本の稲妻がティーエに落ちた。突然の出来事にエレナは驚きのあまり何も言えなくなってしまった。しかし、次に見たものはエレナを更に混乱させることとなった。
「
身体変化!」
稲妻の柱が弾け、やがて消えた。ティーエが居た場所には、謎のサンダースが立っていた。
「…………………………」
絶句。この二文字は今の二人を表すには十分過ぎる言葉だった。
「……あれ、私、サンダースになってる」
ティーエ自身が呟いたその一言は、本人を大きく取り乱す結果となった。
「え…え?私、サンダース?でも、何もしてないっ…!?もしかして、さっきの!?」
ティーエが慌てながら、やっと自分に起きたことを理解し始めた時、地響きのような大きな音が聞こえた。サンダーが繰り出したかみなりは黒雲の中に留まり、少しずつだが、確実に威力を上げていたのだ。
「しまった…!エレナ!」
「ティーエちゃん!」
「もう遅い!落ちろ!かみなり!」
研ぎ澄まされた雷は、轟音と共に落ちた。雷が落ちる寸前で、ティーエはエレナを突き飛ばした。
「痛っ、ティーエちゃん!?」
「きゃあああああああああ!!」
恐ろしく太い雷がティーエに直撃し、悲鳴が響いた。この様子では、ティーエは跡形も無く消し飛んでいるだろう。
「クハハハハハハハハハハ!!燃え尽きろ!消し炭になれ!」
サンダーはティーエを倒し、勝ち誇って高笑いをした。ティーエがやられたことに対する怒りで、エレナは歯軋りをしていた。
「あ、あれ?全然痛くないよ?」
この状況に全くそぐわない間の抜けた声が、焼け焦げて黒くなった地面の影から聞こえてきた。エレナが驚いてその場所を見ると、傷一つない姿でティーエが立っていた。
「なんだと!?何故だ!?何故我の雷をくらって平気なんだ!?」
サンダーはこの一撃で確実にティーエを倒したと思っていたのだろう。明らかな動揺の色が見て取れる。ティーエの姿は、まだサンダースのままだ。エレナは、それを見てすぐに理解した。
「そっか、蓄電…!」
そう、サンダースの特性は蓄電。受けた電気技のすべてを取り込み、自分の電気として使うことが出来る。そして電気を変換する時、自分の体力を回復することが出来るのだ。
「くっ…なら__」
「やらせるかよ!」
いきなりサンダーの背中に強烈な衝撃が加えられた。あまりに強い衝撃だった為、せっかく飛び上がったのにまた地に落ちることとなった。
殴りながらサンダーを飛び越え、ティーエとエレナに背を見せた。そして背中越しに二人に言った。その背中はティーエが最も待ちわびていたものだった。
「カイト!」
「よく持ちこたえてくれた!反撃するぞ!」
リーダーである海斗が二人に激励し、二人もそれに応えた。肩には包帯が巻かれ、あの痛々しい傷は隠れている。左腕は全くと言っていいほど動かないようだ。
「僕もいますよ」
ティーエの隣から誰かの声が聞こえ、振り向くとそこに甲賀がいた。
「体が動かなかったんじゃないの?」
「ふっかつのタネを使いました。用心しておいて良かったと思ってますよ」
最後に顔を見合わせ頷くと、また前を向いた。
「ふん、友情ごっこか………これで終わらせてやる!」
サンダーが体に電気を溜め始めた。どうやら今までより協力な一撃を放つつもりらしい。
「みんな!今の…うち……に…」
一斉攻撃をしよう、と言いたかったらしいが途中から海斗は何も言えなくなってしまった。海斗の目はティーエを捉えたままピクリとも動かなくなった。
「え、ちょっ、どちら様?」
「酷っ!?私だよ!ティーエだよ!」
「その声はティーエ!?どうしてそうなった!?」
「二人共馬鹿やってないで集中してください!」
「わかった!」「何が何だか…!」
甲賀の声に二人はサンダーを倒す方法を考えることにした。
「シャドーボール!」
「10万ボルト!」
二人が放った技は真っ直ぐにサンダーに飛んで行ったが、全てぶつかる寸前に消し飛んだ。
「なっ!?」
「無駄だ!今の我には何者にも攻撃出来ん!」
「だったら!」
海斗はサンダーに向かって飛んだ。
「雷パンチ!」
「助太刀するわ!ストーンエッジ!」
しかし、海斗の攻撃は途中で勢いが消え、最後には思いっきり吹き飛ばされた。エレナの技もサンダーに近づいただけで尖った岩が消し炭になってしまった。
「そんな……!」
「いててて……くそっ、だめか」
「いったいどうすれば……!」
海斗の突撃もかなわず、ティーエはどうしていいかわからないままオロオロするだけだった。
「(あんまり使いたくないんだよなぁ。あんまり知られたくないし)」
甲賀そんなのんきな事を考えていた。その時、サンダーの方から一際大きくはじける音が聞こえてきた。
「(そうも言ってられない、か)」
甲賀は剣を構え、[解放の唄]を唱え始めた。
「遥か遠く/宇宙の果てまで/光の彼方/銀河の端しまで/広がる/希望の光/絶望の闇/表裏一体/黒と白/そのどれにも属さぬ物/数ある無数の星々/内の一つが舞い降りた/破壊の化身と共に/創造の神なり/道を開けよ者共/これより/星の王が通る!目覚めろ! 審判の星!」
甲賀が持っている剣の形が変わり、また一度振り、具合を確かめた。やはり、良く馴染む。
他のメンバーが唖然とする中、甲賀はサンダーに剣を向けた。
「サンダーさん」
剣を顔の横まで近づけ、腰を落とし、構える。
「すいませんが__」
そこで甲賀の姿は消え、次の瞬間にはサンダーの直ぐ近くまで移動していた。これにはサンダーも驚き、一歩身を引く。
「斬らせて頂きます!」
甲賀は一度剣を振り、他の者が甲賀の姿を捉えた時にはサンダーの後ろへと移動していた。サンダーは自分がビビったことと、こんな小さな奴に一歩引いてしまった自分に腹を立て、後ろにいた甲賀に襲いかかった。
「剣技、十二月が一つ」
その時、サンダーは全身が引きつるような感覚に襲われた。ただし、怒りが大きく上回り、構わず甲賀を狙う。
「__葉月」
甲賀が剣を振り、血を飛ばすような動きを見せた途端、
「ぐおおおおおおおおおおお!!!!」
サンダーが叫び声を上げ、地に落ちた。体には無数の切り傷が刻まれ、これがサンダーが倒れた原因だと知るには深く考えなくてもわかる。
「甲賀、お前……!」
「サンダーの撃破に成功しました。ミッションコンプリートです」
甲賀はサンダーを完全に動けなくしたようだ。隣のサンダーを見れば、全くと言っていいほど動かない。
「そうか、そうか………」
海斗の体を支えていた緊張の糸が切れ、その場に座り込んだ。立っているのは甲賀だけで、ティーエとエレナはお互い支え合うようにずり落ちた。二人とも背中合わせで座っている。
「なんと……これは……」
声が聞こえ、全員が臨戦態勢を瞬時に構築し次の戦闘に備えたが、声の主の顔を見ると直ぐに臨戦態勢を解き、再度座り込んだ。
「おせーよ、俺達だけでやっちまったじゃねーか」
声の主はフーディンことノーム。付き添いの二人は勿論、リザードンのビギンとバンギラスのルチルだ。
その時だった。
サンダーの体から電気が放出され、サンダーが気絶状態から復活したのだ!
すかさずその場に居た全員が戦闘態勢をとり、ビギンが一歩前に出て「今度は俺が相手だ!」と高らかに宣言した。
しかし、サンダーの目は元の色に戻り、さっきまでの棘々しい雰囲気は既に消えていた。それに一番に気づいたのはノームで、全員に待機の号令をかけた。
「すまない、少しどうかしていたようだ。大分、頭が冷えてきた。ダーテングは返してやる」
どこまでも上から目線で海斗は少し気に入らなかったが、ダーテングが戻ってくるのは朗報だ。
「小僧達、なかなかやるな。……次は負けんぞ」
言うが早いかサンダーは黒雲の中に飛んでいった。海斗が、頭の中で思ったことはただ一つ。
「(ぜってぇ嫌だよ!毎度毎度肩に穴開けられてたまるか!)」
サンダーの言葉には他のレオパルドのメンバーも苦笑いするしかなかった。
そうこうしている内にどこからともなくダーテングが現れた。突然過ぎて少々驚いたが、すぐに安否を確認した。
「大丈夫か?」
体を揺らしても反応は無かったが、目立った外傷は無く、呼吸も正常だったので目が覚めるまで置いておくことにした。
「しかし、驚いたぞ。まさかサンダーを倒してしまうとは」
ルチルが言った。
「そうだな。お前ら、進化前にしちゃあ随分強いよな」
ビギンもそうだと言いたげに頷く。
「なんだよ、いきなり。褒めてもなんも出ねーぞ」
照れ隠しに悪態を付いたのは海斗だけでティーエは表情が崩れた状態で頭を掻き、甲賀は当然とでも言いたげな表情をしている。
「やはり、な」
ノームは一人で何かに気づいたようだ。
「前に会った時から思っていたが、ピカチュウ。もしかしたらポケモンではないな?」
「なっ……」
その場に居た者(ノームと海斗を除いて)が全員が驚いた。海斗は見抜かれたことによる動揺を隠すので精一杯だった。ただノームの指摘はまだ続いた。
「それと、ワニノコ。お主もそうだろう」
これには本当にその場にいた全員が驚いた。