第27話 対決、サンダー
ライメイのやまの中腹で体を休めた4人はまた歩き出した。その先の怪物、サンダーを目指してー
〜ライメイのやま 山頂〜
「くおぉ〜〜〜〜、鬱陶しい!」
「仕方ないよ。こればっかりは我慢してよ」
「わかってる!わかった上で言ってるんだ!」
海斗はイライラしていた。ひたすらイライラしていた。同じ階に居るだけで様々電気技を無効化するライボルトにイライラしていた。
「はぁ〜、だるっ。攻撃の意味が無くなるとかへこむなー」
後頭部で手を組み、愚痴をこぼしながら歩く。
「まー、いっか。電気技しか使えないわけじゃないし」
すぐに気持ちを切り替え、また普通に歩き出した。
「カイトって本当に切り替え早いよねー。なんで?」
「なんでって、言われてもなぁ。ん〜、多分意味が無いからだと思う」
「意味が無い?」
ここでティーエは頭の上に疑問符を浮かべた。
「過ぎた事とか、終わっちまった事ばっかり言っててもしゃーねーだろ。終わってんなら、それでよし。今起きてる事なら、解決策を探しに翻弄するだけだ」
いかにも、それが当たり前で、当然の事のように言う海斗をティーエは凄いと思った。
「そうだね。昔の事を引きずってたって、意味ないもんね」
「お、おう…?」
ティーエの言葉に変な違和感を感じた海斗は黙ってしまった。ティーエも何かを考えているようで、俯き加減になりながら何も言わなくなった。
ただ、ティーエは別のことを考えていたのだが。
〜ライメイの山 頂上〜
険しい山道を登り、群がる敵を蹴散らし、たどり着いたのは山の頂上。「絶対に勝つ」そんな表情をした、4人の命知らずの勇者達がいた。ただ彼らは死にに来たのではない。ここに連れ去られたある者を助ける為に来たのだ。
「出て来いっ、サンダー!とっととダーテングを返しやがれ!」
雷鳴轟き、黒雲渦巻く空に叫ぶと、あの時と同じ、まさに怪物というのが正しい程強烈な鳴き声が聞こえてきた。
それと同時に雲の一部が割れ、サンダーが姿を現した。恐怖心に負けてしまったのか、ティーエは海斗の背中に隠れてしまったが。
「やはり来たか!言ったはずだ!ジャマをするヤツなら容赦はしないと!」
「うるせぇ!とっととエドゥを返せ!」
「ふんっ、ならば問おう!なぜあの者のためにそこまでする?」
その言葉に、待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべ、答えた。
「受けた依頼は絶対に成功させる!それが救助隊レオパルドだ!」
少し時間を開けて、サンダーが笑い始めた。
「フハ、フハハハハハハハハハハハ!面白い!ならば向けてやろう…」
瞬間、雷鳴が轟き、地に雷が落ちた。
「この怒り、貴様等にな!」
サンダーが大きく叫ぶと周りに何度も雷が落ちた。
「来るぞ!気を抜くなよ!」
「うん!」「はい!」「ええ!」
三人の声は重なり、怪物とのバトルが始まった。
*
「先手必勝!雷パンチ!」
「当たるかっ!」
大きくふりかぶって突き出したパンチはいとも簡単に避けられる。それどころかがら空きの背中を蹴り飛ばされた。
「ぐおっ!」
「ふんっ、その程度か?」
「忘れないでくださいね!水鉄砲!」
「効かんっ!」
飛んできた水の塊を翼で弾き、そのまま甲賀を払うつもりだった。
「む?」
しかし、水鉄砲の初弾発射地点には、既に甲賀はいなかった。
「残像って知ってますか?」
サンダーが足元を見ると、光る剣を持った甲賀と、同じく拳がバチバチと音を立てている海斗が居た。
「雷アッパァァァアア!」
「剣技、十二月が一つ!水無月!」
「甘い!」
確実に当たると思われた一撃は、サンダーは吹き飛ばしを行うことで全て相殺した。
「うわぁっ!…くっ!」
「うおおおっ!いでっ!」
突風で飛ばされた二人は、甲賀は耐えることが出来たが、海斗は踏ん張りが効かず、岩に頭を強く打ってしまった。
「カイトっ!」
ティーエがぶっ飛んだ海斗に気を取られ、サンダーから目を離した。
「心配すんな!前を見ろ!」
「っ!……うん!」
甲賀はサンダーの攻撃を後ろに居る二人に当たらぬよう必死に攻撃をはじいている。
「シャドーボール!」
「かまいたち!」
甲賀と入れ替わりに二人の攻撃がサンダーを狙う。
「くっ!」
爆発音が響き、見事サンダーに命中し、体制が崩れた。
「今っ!」
甲賀は一瞬の隙を逃さず、追撃を開始した。
「剣技、十二月が一つ……」
高く振り上げた剣が白い光を放ち始めた。甲賀以外にはわからない、謎のエネルギーが剣を包み、強力な一撃を放つための何かが集まる。それは、甲賀の体から発生しているように思えた。
「睦月!!」
勢いよく振り下ろした剣は、見事サンダーを捉えた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
振り下ろした衝撃で砂埃が舞い上がり、サンダーが居た場所を4人は固唾をのんで見つめた。
瞬間、砂埃の一部に穴が空き、甲賀を襲った!
「うわぁぁぁぁぁ!!」
「甲賀ーーッ!」
時すでに遅し。強力な雷は甲賀を一発で戦闘不能にまで引きずり込んだ。伝説の三鳥の名は伊達じゃなく、甲賀の強力な一撃を食らっても、傷一つない。慰めにもならない程度にしか汚れていなかった。
「てんめぇぇぇぇぇ!!」
海斗は怒り、余裕の表情を浮かべるサンダーに殴りかかった。海斗の拳がサンダーに当たる寸前、サンダーは頭を下げ、それを避けた。隙だらけの海斗を、サンダーが逃す訳がなかった。
「ふっ!ドリルくちばし!」
高く飛び上がった海斗は空中では身動きが取れず、ドリルくちばしの餌食となった。
「がっ……」
海斗は左肩を貫かれた。
肩の後ろまでくちばしが突き出し、そのくちばしが海斗の鮮血で染められていく。どろりとした、赤に。
サンダーは頭を一振りすると、海斗は無造作に叩きつけられた。意識を失っているのか、ピクリとも動かない。
「かっ………」
あまりの光景に、ティーエは叫んでしまった。
「カイトォォーーーーーッ!」
「許さない…!」
ティーエは海斗の下へ走った。エレナは怒りを露わにしたが、すぐに冷静になるよう自分に言い聞かせた。
「音は孤独/唄は一人/誰に聞かれる事も無く/生み出されては/消えていく/音は無限/時に音は吹き荒れ/幾千の命を無に返す/時に音は導き/幾万の実りを約束する/その暴威なる力よ/その暖かき力よ/我に宿りて/万物を守る砦となれ!」
エレナの胸が光り、いつもは毛に埋まって見えなくなっている音符型の石が、突然表に浮かび上がり、空色の光を放ち始めた。
「ティーエちゃんはカイトとコウガを避難させて!」
「……わかった!」
わかったと言ったけど心の中じゃ、海斗をこんな目に合わせたサンダーを倒したい気持ちでいっぱいだった。改めて無力な自分を恨んだ。
「う………」
「カイトッ!?」
海斗の唸り声が聞こえた。
「…おう、ティーエか。サンダーは、どうした…?」
苦痛で顔が歪み、向けようとした笑みはすぐに消えてしまった。それでも立ち上がり、サンダーを睨む。
「駄目だよ!今動いたら、カイトは……」
その先は言わせなかった。ティーエの口を塞ぎ、無邪気に笑う。
「どこの世界に仲間を一人で戦わせて、尻尾巻いて逃げる隊長がいるんだよ」
ティーエの頭を右手で優しく叩いた。母親が赤子の背中を叩くくらいの優しさで。それが済んだら、険しい顔をして、サンダーに向かって走る。途中、[解放の唄]も唱えた。
「高く/ 飛く/ 空を目指し/ 早く/ 速く/ 雲間を駆ける/ 我が手に力を/ 我が背に翼を/ 時代に埋もれた古代の遺産/ 封じられたその力を/ 暗き闇から解き放て!」
マントが白く雄々しい翼に変わり、真っ直ぐにサンダーに向かって突撃する。もうさっきと同じミスはしない。
左肩は焼いた鉄を押し付けられている用に熱く、腕は力が入らず、握り拳すら作れない。どちらも、かなりの痛みを共にしている。
「雷キック!」
海斗の攻撃と同時にエレナもかまいたちを発動した。しかし、どの攻撃も軽々と避けられてしまう。
「海斗さん!?大丈夫なんですか?」
それは至極当然のことだ。肩に穴が空いているのに、まだ戦う気が萎えていない。大抵の者はこれだけ傷付けば戦う意志を無くし、或いは逃げ出してしまうだろう。それでも、海斗は退かなかった。
「ちょっと動きにくいが大丈夫だ!それより前の敵を見ろ!」
そう、言われてエレナは気づいた。甲賀を一発で倒し、海斗に重い一撃を食らわせた張本人が目の前にいて、自分はそれと戦っているのだ。敵の強さと恐ろしさを思い出し、集中することにした。
「♪〜〜♪♪♪〜〜〜♪♪〜〜〜〜♪〜♪」
突然、エレナが歌い始めた。唐突のことで海斗の動きが一瞬止まったが、それはサンダーも同じだった。
サンダーに睨まれても、エレナは歌うことを止めない。
「ちっ、煩い!」
しびれを切らしたサンダーが、とうとうエレナに電撃を放った。複雑な起動を描きながら真っ直ぐに向かっていく。
「逃げろ、エレナ!」
しかし、エレナは従わなかった。代わりにもならない、歌を止めた。と、同時にエレナが不思議なことを言った。
「
空気の壁!」
電撃がエレナに直撃する寸前、固い物同士がぶつかったような鈍い音が聞こえ、電撃が方向を変え、地に落ちた。
「なんだと!?」
直前まで歌っていた為、サンダーは歌に己の攻撃が弾かれたと思い動揺した。実際には、エレナが作り出した空気の壁に弾かれたのだが、そんなことは知る由もなかった。すぐに正気に戻り、海斗の方を向いたが、目の前にまで迫っていたのは黄色く光る海斗の拳だった。
「おぉぉらぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
顔面に雷パンチを叩き込まれたサンダーは、声もなく吹っ飛び、地に落ちた。