第26話 ライメイのやま
決意を新たにするティーエだが、それは過去に絶望した者だけがとれる選択肢であった。その事実に周りは愚か、自らも気づいていなかったー
〜ライメイのやま 1F〜
「ティーエ遅いぞ。敵でも出たか?」
「あ、いや。なんでもないよ」
「ふーん、そうは思えないんだけどな……」
「なんでもないったら。さ、行こ?」
ティーエは先に行ってしまった。
「うーん………」
追い掛けることもなく、海斗は考えていた。
「どうしたんですか?」
不思議に思った甲賀は聞いてみた。
「ああ、いや。あいつ何かさ、雰囲気変わった気がしてよ」
遠くで手を振りながらティーエが呼んでいる。
「そうですか?いつもと変わらない気がしますよ。ほら」
甲賀がティーエの居る所を指すと、ティーエがこっちに走ってきていた。
瞬間、ティーエを見た全員が固まった。
なぜ固まった?信じられない物を見たから。
信じられない物とは?ティーエがこっちに走ってきていたから。
「きゃああああああああああああああ!!!!」
サボネアやらラクライやらニドラン♂やらビードルやら余計な物を引き連れて。
「ちょっとまてこっち来るなぁぁぁああーーーーーーー!!」
「む、むむ、む、虫いやぁぁぁーーーーーー!!」
「ここは逃げましょう」
ティーエと共に方向転換し、逃げるを選択した四人であった。
「ティーエ!お前今度は何をしたぁ!」
「何にもしてないよぉ!」
「じゃ、なーんで追っかけて来るんだぁぁぁぁぁ!」
「知らないよーーーーーーー!」
「ティーエさんが知らないうちになわばりに入ってしまったからじゃないですか?」
「あ、成る程。って、ティィィエェェェ!!」
「ごめんなさーーーーーーーい!」
「くっそーーー!電気ショーーック!」
海斗は軍団に攻撃したが、あいにく中にラクライがいた。特性は避雷針。なので__
「効かねぇぇぇぇぇ!!」
「ラクライがいるんです。聞かないのは当たり前ですよ」
「先に言えぇぇぇぇぇ!!エレナ!なんとか出来ないか!?」
「むっ、ムリ!私、虫、虫だけは嫌なの!とっ、特に……」
エレナの視線が軍団の中にいるビードルに移る。
「ああいう芋虫系のが特に嫌ぁぁぁーーーーー!!」
「あーーもぉぉぉおお!!どうすんだコレェェェェェェェェェ!!!!」
ティーエの為にチームが災難に見まわれる羽目になりました☆
「いや、ナレーションうぜぇぇぇぇぇえええ!!!!」
〜ライメイのやま 5F〜
「…………………………………」
「…………………………………」
「…………………………………」
「…………………………………」
階を移動してもしつっっこく追ってきた軍団のせいで、5Fには4つの屍が転がる事となった。
「………疲れ過ぎて………何も言えねぇ………」
疲れ過ぎて何も言えねぇ。と、言っている時点で、何かを言っているのだが突っ込む者は誰もいなかった。
とりあえず体力の回復にしばらく時間を必要とした四人であった。
*
「よし、行くか」
体を休め、しっかりと体力を回復させた四人はまた歩き出した。何回か戦闘もあったものの、それほど苦戦するような敵はいなかった。それでも倒しにくい奴は少なからずいた。
「甲賀!変われ!」
「はい!」
かけ声と共に甲賀は宙返りをし、エレブーの雷パンチを避ける。入れ替わりで海斗が強烈な蹴りを顔に叩き込んだ。
「シャァァァァアアアアア!!」
顔を蹴られたことで怒ったのか、両手に雷パンチを発動させ、めちゃくちゃに振り回し始めた。ギリギリで回避し続けるが、拳ではなく雷の部分が掠る為、自分の毛が焼ける嫌な臭いがした。
「ティーエ!今だ!」
「わかった!」
海斗の背後からティーエが飛び出し、
「シャドーボール!」
エレブーにシャドーボールを放った。
「グガァァァアアア!」
断末魔が響き、勝敗がついたことがわかった。さっきからこの調子で、強くない敵と出会ってはそれを撃破していた。これくらいならそうそうやられることはないだろう。
「よし、倒した。進もうぜ」
「カイト。ちょっといいかな?」
「ん、ああ。どうした?」
ティーエからの質問は結構珍しいので多少なりとも、嬉しくあった。
「カイトってさ、どんな技が使えるの?」
「技?技か……」
ティーエに教えてもらったときから何気なく使ってきたけど、どんなのが使えるかなんて気にしたことなかったことに気づいた。
「あーっと、なぁ……電気ショック、その変則型、掌雷、雷パンチ、電磁波……あと使ったことないけど影分身もいけるんじゃないか?」
「うん、わかった」
「でもよ、そんなこと聞いてどうすんだ?」
「前にカイトが言ってたじゃん。「周りを良く見ろ」って。見るだけじゃわからないこともあるから聞いてみたの」
「なんだ。結構すんなり受け入れてんじゃん」
「そ、そうかな?」
そう言って照れくさそうに頬を赤らめた。
「じゃあ私2人にも聞いてみるよ」
ティーエは少し離れていた2人の方に行ってしまい、ちょっとしたひとりぼっちみたいになった。
「(あいつ、なんか張り切ってんなぁ……)」
楽しそうに2人から話を聞いており、なんとなく寂しい気がした。
「(うっし、俺だって!)」
頭を振って、頬を叩き、気合いを入れた。その時電気袋に触れてしまったのか、右手が痺れてしまったが。
〜ライメイのやま 7F〜
「どうだった?」
「うん、だいぶ聞いてきたよ」
エレナは快く教えてくれたようだが、甲賀はかなり渋っていたそうだ。それなのに聞いてきたということは、ティーエがしつこく聞きまくったことになる。
「(ティーエは敵に回したくないなぁ……)」
「なんか言った?」
「いや?なにか聞こえたのか?」
「あれ?聞こえなかった?じゃ気のせいかな……」
とっさに聞かなかった振りをしなければ、少し危なかった。こいつ、地獄耳か?
「あ、カイトも聞く?みんなのこと」
「ああ、そうしてくれ」
そこで海斗はなんとなく違和感を感じた。いつもと変わらない筈なのに、何かがズレている感覚。どこかでなにかが引っ掛かる。
「ティーエ、お前変わったよな」
「え?」
身に覚えの無いような物の言い方をするが、確かにティーエは、あの時変わった。__自分を隠そうと。
「え?そうかなぁ、………そうかなぁ?」
「なんかよ、積極的にみんなと話そうとしてる気がする」
ティーエは自分の体が震えたように思えた。自然に振る舞おうとして、逆にカイトに感づかれた自分を叱責した。
__なにやってるんだろ、私。もっと、いつも通りに、自然にしなくちゃ。
「あはは、でも背中を押してくれたのはカイトでしょ?違う?」
「いつ押したんだよ」
「教えてあーげない。でも、ありがとう。カイトのおかげだよ」
私は、私がどんな笑顔をしているかわからない。もしかしたら、作り笑顔になっているかもしれない。
「はっは、どういたしまして。さ、進もうぜ」
私に笑顔で返してくれるカイトは気づいていないみたいだった。少しだけほっとした。
なんだか、カイトを騙しているような気分になった。
〜ライメイのやま 10F〜
「はぁっ…はぁっ…」
「ふぅっ…ふぅっ…」
今まで順調に進んできたが、10階に来てから急に敵に出くわすようになり、度重なる連戦で少なくない量のアイテムを使ってしまった。
ただでさえ戦いにくい敵ばかりでるのに、こうも続いては身体的にも精神的にもやられてくる。
海斗と甲賀の表情は、決して軽くない攻撃を食らった為に歪み、ティーエは何も言わずに歩いていた。エレナもマシな方だが、それでも少なからず疲労の色は見える。
今すぐにでも回復したい所だが、残りの数は少ない。正確には持って来た分と拾った物を合わせて十数個あったオレンの実がもう片手で数えられる程少なくなっている。イヤでも節約せざるをえない状況なのだ。
「だいぶ、登ってきたよね」
「ああ…」
疲労の為か、両者共に言葉に色々な物がない。抑揚もないので、聞く方からすれば少々怖い。
早めに次の階に進みたい所だが、一向に階段が見つからないのも、彼らの精神的苦痛になっていた。
そのまま会話もなく歩き続け、小さな小部屋に入った所で海斗に異変が起こった。
「う……お……?」
突然足下がぐらりと歪んだような錯覚に捕らわれ、地に膝をついてしまった。
「大丈夫ですか!?」
甲賀も同じくらいつらい筈なのに、自分だけが倒れかけたことを情けなく感じた。
「あ、ああ。大丈夫だ」
すぐに立ち上がり、大丈夫だ、ということを伝えたかったがめまいを起こし、よろけてしまった。
「頑張りましょう。もう少しです」
ただの気休めにしかならない言葉だったが、その気遣いが少し嬉しかった。
「みんな、少し休もう。幸いこの部屋の入り口は端の方にある。そこさえ見てれば何が来るかわかると思う」
入り口とは反対の方に集まり、身を寄せ合った。
「すみません、海斗さん。前衛ばかりやらせてしまって。僕がもう少し戦えればいいんですが……」
なんだ、そんなことか。と思った。
「いいんだよ、相性が悪くちゃ仕方ねぇ。甲賀なら一発当たっちまえば、ほぼ致命傷だろ。俺は幾らか軽減するからな」
努めて気楽に言ったつもりだったが、それでも疲労の色は隠せない。
「はぁ…疲れた……」
ティーエも腰を下ろし、段差の上に座った。
「……………あれ?」
ティーエが座ったソレは、なんと階段であった。
「海斗、階段見つけたよ!」
先程までの疲れはどこえやら、元気そうな声を上げている。
「そうか…みんな、行くぞ。ティーエのお手柄だ」
4人はの足取りは重かった。
〜ライメイのやま 中腹〜
「ここは……?」
そこは不思議な場所だった。狭い部屋が一つだけで、真ん中に謎のガルーラ像があるだけの部屋だった。それも十分不思議だが、敵の気配が微塵も感じられなかったのだ。
入り口から部屋を見渡していると、エレナが堂々と進み始めた。
「お、おい!」
突然の行動だったのでそれしか言えなかった。しかしエレナは大胆にもくつろぎ始めたのだ。
「ここは中間地点。高い山とかにたまにある謎の場所よ。敵も来ないから安心出来るの。結構当たり前のことよ。知らなかったの?」
何も言うことが出来なかった。
「やはり、そうでしたか。なら、一息つきましょう」
甲賀も手頃な所を見つけ、休憩し始めたので海斗とティーエも存分に体を休めることにした。
それからしばらくたった後、海斗の頭に一筋の考えが浮かんだ。
「(そういや、腹減ったな)」
道具箱を引き寄せ、リンゴでもないかと漁っていた所、何やらいい匂いが漂って来た。ティーエも鼻をひくひくさせている。
匂いの元は何だと思い、道具箱から顔を上げると、甲賀が何かを煮込んでいた。その匂いは鍋の中からしているようだ。
「甲賀、何作ってんだ?」
「ああ、皆さんお疲れでしょうから、スープを作っているんです。いま出来ました」
バーナーの火を止め、道具箱からコップを取り出し(何持って来てんだコイツ)、慣れた手つきでコップにスープを注ぎ込んだ。
「海斗さん、どうぞ」
「お、おう」
渡されたコップからは濛々と湯気が立ち、美味しそうな匂いが鼻をつく。我慢出来ずに一口。
「おお、あったけぇ……」
「ピーピーマックスでモモンの実とチーゴの実とクラボの実を煮込んだんです。クラボの実には旨味も含まれているので、味が深くなるんです。味つけは塩だけなんですよ」
甲賀の道具解説みたいなものが始まったが、ティーエしか聞いていなかった。なんにしろこのスープのおかげで体と腹が満たされたのはありがたかった。