第25話 一人じゃない。でも、独りだ
ダーテングのエドゥを連れ去ったのは、なんと伝説の三鳥サンダーだった。エドゥを助けようとする彼らだが、果たしてー
「えっと……マジで?」
「うん。マジで」
互いに事実の確認を取りつつも内容をしっかりと理解する。エレナの方は至って平然としていたが。
「つまり、あんたも契約者ってこと?」
「そうよ……ってなにその以外そうな顔」
衝撃の告白に頭が混乱しそうな気がしたが、逆にどんどん冷静を取り戻していった。
「でもよ、その神器はどこにあるんだ?」
至極平凡な質問ではあったが、それ故気になった。
「ここよ。ここ」
そう言ってエレナが指したのは、自分の胸であった。よくわからない説明に一同困惑。
「アブソルって毛がモフモフだから埋まるのよね〜。ちょっと待って」
突然自分の胸毛に手を突っ込み、もそもそと動かし始めた。すると直ぐに嬉しそうな顔になり、胸毛から手を出した。
「ほら、これ」
エレナの手には、不思議な形の石が握られていた。形は、棒に丸と旗みたいなペラペラがくっついていた。いわゆる音符の形をしていた。
「これが?」
「ええ、おかげでいろいろ助かってるわ」
それは、誰から見てもちょっと変わった形の石にしか見えなかった。本当に神器と呼べるのかも怪しかった。
「これって本当に神器?」
「そうだって。なかなか疑り深いのね」
「えへへ、そうかな?」
「ホメてないわよ?」
そんな言葉もティーエにとってはどこ吹く風だったが。
本日の合計
コーヒー×2=60P
モーモーミルク×2=50P
ケーキ×3=150P
合計260P 500Pー260P=240P
残り240P
銀行240+260=500P
銀行残高1040P
*
今の状況を一言で表すことが出来る者がいたら俺はそいつを凄いと思うだろう。
そうだ。俺は普通に寝た筈なんだ。一体誰のせいだ?そんなもんは既に決まっている。あいつだ。他の誰でもない。
「………どけろゴラァァァァァァアアア!!!!」
俺は叫ぶと同時に上に乗っかっていた者と物を全部すっ飛ばした。
俺の上には、ティーエと甲賀と甲賀の持つ剣が乗っていたらしい。というかうつ伏せで寝てよかった。藁の隙間から空気が入ってなかったら窒息してたかもしれない。
その間に派手な音を立てながらいろんな物が落ち始めた。
というか今の叫びでどうやらみんな起きたらしい。後ろや隣でごそごそと音がする。
「キャーーーーーーーー!!??」
「うわ、うわわわぁぁぁああ!!??」
このまま落とすのも痛いだろうし、忍びないのでとりあえず受け止めてやろうと、予測落下地点まで足を運ぶ。
その時だった。
唄とも呟きとも取れる声が聞こえてきたのは。
「音は孤独/唄は一人/誰に聞かれる事も無く/生み出されては/消えていく/音は無限/時に音は吹き荒れ/幾千の命を無に返す/時に音は導き/幾万の実りを約束する/その暴威なる力よ/その暖かき力よ/我に宿りて/万物を守る砦となれ!覚醒!
空の音色!」
エレナの胸が光り出し、同時に凄まじい突風が吹いた。
「うおおっ!?」
しかしすぐに突風は収まり、そよ風程度の強さになった。風が消えるころには、二人と剣は優しく床に着地していた。
「一体なにが起こったの?」
「何故か中を浮いていたくらいしか記憶にないですね……」
二人は何もわかっておらず、キョトンとしている。
「すげー、それって本当に神器だったのか……」
「そうだって言ってたじゃない。それとカイト君、寝ている間に上に乗っかられて重いからって、仲間投げたらだめだと思うよ?」
「わーかってるよ。朝からコレでムカついただけだ」
「ならいいけど」
エレナはそれだけ言うとベットに戻って横になった。
「ティーエはもうどうでもいいけど、せめて甲賀は乗るな。さすがに重い」
イライラを言葉にし、呆けた顔をする二人に言うだけ言ってさっさと二度寝することにした。
「俺は寝る。なんかあったら起こしてくれ」
藁を拾い集め、薄くなった自分のベットを補強する。
あらかた補強が終わったのでどれだけ耐えられるかと思い、踏んづけてみる。
丁度良い跳ね返りを感じたので寝転び、またうとうとしながら眠りに落ちる瞬間を楽しむことにした。
「ってカイト!寝てる場合じゃないよ!」
寸前でティーエに止められ苛立ちながら「何だ」と返す。
「救助だよ!エドゥを助けに行かなきゃ!」
「あ」
すっかり忘れていたことは言うまでもない。
*
「はい、とゆーわけでやって来ましたライメイのやまへ」
レオパルドの面々はライメイのやまの麓まで来ていた。酷く殺風景な場所で岩と枯れ木しかないと言っても過言ではないと思う。
「ここが、かぁ。大きいなあ〜」
「まぁ、大分登ることになるでしょうね」
二人とも山の巨大さに少しばかり圧倒されているようだ。
「さて、行こうか。フーディン達に先を越されるのも癪だしな」
海斗の一言でライメイの山へと歩を進め始めた。最後までティーエは残っていたが。
「サンダーかぁ、やっぱり強いんだろうなぁ……」
誰もいなくなった山の麓にティーエの独り言が続く。
「って怖がってちゃ駄目だよね。エドゥを助けてあげなきゃ」
自分に言い聞かせるように呟いたがそれでも震えは止まらない。実はここに来てからずっと足が震えて、歩きにくかったのだ。
「(私みたいのでも、怖いって思えるんだ)」
そう思った瞬間私の良くも悪いクセが出た。時々、いろいろな事を考えては無駄に時間を過ごしてしまう。私の心の中に閉じ込めた不安は、あそこに住んでいた時から少しずつ大きくなっていった。その思いはカイトが来てから更に大きくなった。伝えたい。吐き出したい。でも、それは叶わない。言ったら絶対いなくなってしまうから。私から離れてしまうから。独りは嫌だ。でも、あの時は自ら一人になった。自分に耐えられなくて、家族に耐えられなくなって。そしてあの、今の家に逃げた。そこからは一人だった。お店のカクレオンの二人も、ガルーラおばちゃんも、私のことは聞かなかった。私も言う勇気は無かったけど、彼らにも聞く勇気は無かったんだと思う。一人はやがて独りになって、私から私を奪っていった。起きて何か食べて、することもなくて、1日が終わる。そんな日々を淡々と過ごした中、あるイレギュラーに出会った。そう、海斗だ。
「(出会いはホンット、ダメな感じだったなぁ)」
道のド真ん中に横になっていて、元人間だとか、記憶喪失だとか、突拍子もないことばかり言ってたっけ。
「(思えば会ってから1ヶ月経ってないなぁ)」
ずっと夢に見ていた救助隊を海斗が来たその日に初めて、それからいろんなことした。本当にいろいろあって、今までの日々を思い出せないくらい海斗に会ってから輝いていた。
「(でも、きっと……)」
秘密はやっぱり話せない。話したら輝いていたそれが、消えてしまうから。それなら、自分に嘘をついたまま過ごそう。過去は、過去はもう、いらない。
「遅いぞティーエ!置いてくぞーーー!」
姿の見えない距離から聞こえてきた声は、私を現実に引き戻した。目に入った映像は、茶色い土と自分の足。知らないうちに俯いてらしい。
そして、自分の足にとある物があった。
ティーエが手にしていたのは、ダグトリオがお礼だと言って置いて行った、幅の広いリングだ。
「さぁ、腕につけて見れば?」
海斗がそう言うと、ティーエはおもむろに自分の右足にそのリングを着けた。
「あの時の……」
自分の右足には、虹色に光る丸い石が埋め込まれた、あの腕輪があった。それを見て、より一層仲間と別れたくなくなった。
「(私は、私だ。話したくないなら話さなくていいじゃないか)」
勝手に理由を付けて勝手に納得する。それでいいじゃないか。
「うん、今行くーーー!」
孤独とは一人ではない。過去があれば、一人は一人で居続ける。一人が独りになるのは、過去を捨てた時だ。
この者もまた、一人が嫌いで、独りへと走り出した。