第24話 契約者と神器
沈黙の谷の突破に成功し、なんとかワタッコを救助したレオパルド。だけど肝心のダーテングはどこかに連れ去られてー
〜救助隊基地前〜
時刻は昼下がり。傾いている太陽は惜しげもなく光を放っている。風は殆ど吹いておらず、過ごすにはとても心地よい状況だった。そんな時間帯から似合わない雰囲気を放出しているのは基地の前にいる六人だった。
「教えてくれ。あそこで何が起こった?」
「………はい」
ワタッコはその重い口を開き、話し始めた。
「エドゥさんは団扇で風を起こし岩場にいたワタシを助けたんです。しかし、その風が雷雲を真っ二つに切り裂き、その時、あの怪物が姿を現したんです」
「アイツ……確か、サンダーって言ってたよな」
海斗が言ったこの言葉に、そこに居る一同が頷いた。
「サンダーだと!?」
いきなり聞こえた驚愕の声に驚かされながらも声が聞こえた方を見ると、なんとFBLの三人がいた。ゆっくりとこっちに歩いてくる。
「あんたら、FBL、だよな?」
先頭にいるフーディンが如何にも、とでも言うかのごとく頷いた。
「サンダー、伝説の鳥ポケモンの一匹だ。ずっと眠っていたと聞いていたが……」
フーディンは首を傾げたまま何かを考えているようだ。
「眠ってたって……エドゥの風でたたき起こされたんじゃないか?」
いまいちそれ以外思いつかない。眠りを妨げた、って言うならやっぱり、寝ている所を無理やり起こされたんだろう。
「いや、推測だが、それもキッカケに過ぎないだろう。第一、あの場所で風が吹かないこと自体が可笑しかったのだ。これも推測だが、全ては自然災害のせいだろう。眠りを妨げられ、サンダーは怒っている。エドゥを助けなければ」
フーディンはライメイのやまに行くことを決めたようだ。
「奴の電撃は強力だ。どうする?」
そこでバンギラスが進言した。
「わかってる。慎重に行かねば」
勝手に話を進めるFLBに痺れを切らし、海斗は突っかかった。
「待てよ。俺達ほっといて決めんなよ」
少々怒りを露わにし、FLBにくってかかる。
「エドゥの依頼は、ワタッコ達から俺達が受けたんだ。俺達がやる」
フーディンは驚き、目を見開いた。
「なんと!それは危険だ!サンダーは強いぞ。お前たちにはムリだ」
「やってもねぇのに決め付けるな。ムリかどうかは、俺がやって俺が決める」
いつもは少しだるそうにしてる海斗だが、今回は身に纏うオーラがどこか違った。
「サンダーを恐れるくらいなら、エドゥを助けられなかったことを悔やみたいね」
海斗の怒りの理由はここにあった。依頼を受け、救助に向かった。確かにワタッコの救助には成功して、今ここにいるが、エドゥを助けられなかった自分に、不甲斐なさを感じていたのだった。
海斗は後ろを振り返り、自分のやりたいことを伝えた。
「俺はエドゥを助けに行くつもりだ。みんなはどうする?」
三人は示し合わせたように頷いた。
「勿論、助けに行くよ!サンダーとは戦いたくないけど、受けた依頼は、最後までやらなきゃ!」
「僕も意見は同じです。オトモしますよ、海斗さん」
「なんかよくわかんないけど、私も行こうかな。面白そうだしね」
海斗はFBLに向き直り、言った。
「満場一致だ。俺達、救助隊レオパルドの大仕事だ。毒を食らわば皿まで。一度でも受けた依頼を途中て投げるなんて俺には出来ないね」
それでもフーディンはなかなか首を縦に振らなかった。やはり決めかねているのろう。
フーディン以外の皆が固唾を飲んで見守る中、とうとう首を縦に振った。
「……わかった。お前たちの勇気、認めてやろう」
「やったぁ!」
海斗は当然だ、とでも言いたげに頷き、ティーエは喜んで飛び跳ねている。甲賀と「歌姫」は決意を新たにした表情だ。
「ライメイのやまには2チーム別行動で行こう。ワシらは戦いの準備を整えてから行くことにする。……相手の強さを考えると慎重にならざるをえないのだ。お前たちも準備が整い次第、ライメイのやまに向かうといいだろう」
フーディンの目がいっそう鋭くなる。
「目指すはエドゥの救助!共に、頑張ろう」
「おっし!燃えてきた!」
海斗は体の前で腕をクロスさせ、腰の横に振り下ろし気合いを入れた。
「うむ。幸運を祈る。では、頑張れよ」
そう言うとフーディン達は背を向け、立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってくれ、聞きたいことがあるんだ」
フーディンは立ち止まり、「何だ?」と言った。
「あんた達の名前を聞かせてほしい」
小さく笑った後、快く教えてくれた。
「ワシは、フィランザ・ノームという」
「俺はビギン・バッカーズだ」
「オレはルチル・サランダラってんだ」
名前を言うと、そのまま立ち去っていった。
「海斗さん、ちょっといいですか?」
甲賀がそう言うので、また三人の所へ集まった。
「とりあえず歌姫さんのことを知ろうと思いますがいいですか?」
歌姫はそれに対し笑顔で答えた。
「いいよ。そのかわり、みんなのことも教えてくれないかな?」
「お二方、別に構いませんね?」
「ああ、別にいいが」
「いつでもいいよー!」
その後しばらくの間、質問と返答でかなりの時間を使ったことに彼らは気づかなかった。
*
時刻は夜。ティーエの家、もといレオパルド救助隊基地は真っ暗闇に包まれていた。確かに辺りは暗いがまだ寝るには早過ぎる時間だ。おまけに電気がついていないどころか、中には人っ子一人いなかった。しかし、それは当たり前だった。
「ふーん、なるほどね」
彼らは喫茶・鳥の巣にいたのだから。
「でもよ、それって本当……なんだろうなー。それならかなりどころか、めちゃくちゃ厄介じゃんか」
「でも、たとえ向こうが神器を持っていても使えないんでしょ?」
「ええそうよ。契約者にならない限りはね」
などと、非常に意味不明な会話をしているが、今の彼らにとってそれだけでも十分通用した。
「なぁ、エレナ。もう一回説明してくれ。話の中で聞きたいこともあるし」
「いいよ。じゃあ、良く聞いていてね?」
歌姫こと、エレナ・サブナックは話し始めた。
「この世界には古代のポケモン達が残した、神器っていう特殊な装飾品みたいなのが、それこそ沢山あるの。カイトのマントとか、コウガの剣もその一つだと思う」
身振り手振りを交えながらエレナは説明を続ける。
「確か、神器を使うにはその神器と契約しなくちゃいけないんだろ?」
エレナはカイトを指差した。
「そうなの。でも契約の条件はとても不確かで、手にした瞬間契約する人もいれば、何年もの間持っててもできないこともあるらしいの」
エレナは一息つき、コーヒーを飲んだ。そしてまた話し出す。
「神器には特殊な力があるってことは言ったよね?」
「はい、普通は呪文を詠唱して、神器の力を引き出す。あってますか?」
大きく頷き、バトンタッチする。
「それと、神器の契約者は種類問わず、驚異的な再生能力が手に入るの。驚異的と言っても、他の人より傷の治りが早いくらい何だけどね」
「質問いいかな?」
ティーエが子供っぽく手を上げた。
「ええ、どうぞ」
「神器ってどんな物があるの?」
「うーん…一概にこんな感じとは言えないのよね」
「どうして?」
「だってマントみたいなのもあれば、まんま剣の形してる物もあるんだもの。きっと他にもいっぱいあると思うわ」
「そんじゃ、最後にひとーつ」
海斗がダルそうに手を上げた。
「あんたも神器持ってんの?」
「ええ、持ってるわ」
「ふーん……え?」
その場にいる全員の目が点になった。