第22話 ちんもくのたに
イジワルズの戦闘から数日が経った。今日も依頼が舞い込んで来るがー
時刻は深夜。場合によっては起きているポケモン達もいるかもしれないが、レオパルドの面々はぐっすりと眠っていた。
__只一人を除いては。
〜救助隊基地外〜
「はぁ…はぁ…」
基地の直ぐ横で息を切らしているのは一匹のポケモンだ。その体に蓄積された疲労は昼の物と合わせて、少々無視出来ない物となっている。彼は何かを達成した後のようで、バタンとぶっ倒れた。
「やっぱ電気ってすげぇな。ほとんど何でもアリだ。こりゃ、思いついた者勝ちだな」
小さく呟いた後、含み笑いが聞こえてきた。
〜救助隊基地内〜
日は既に上っており、多くのポケモン達がこの時間帯に目覚めるだろう。ただ、とある建物の中は、朝から修羅場と言っても過言ではない程の空気が漂っていた。
「…………………………………」
「…………………………………」
「(居心地悪いな………)」
「ふぁ〜〜あ、ふぅ…」
「………………………」
なぜこんなことになったかと言うとロイとレイトの二人がティーエの朝メシをどっちが作るかでモメてる間にティーエがリンゴとかを食って済ましてしまったのだ。そして二人共不機嫌全開で居るのでこっちが落ち着かない。
「(なんでこういう日に限って依頼が無いんだ!ちくしょー、さっさとどっか行きてぇ…!)」
自分の動揺を知られないように届いたばかりのポケモンニュースを食い入るように睨み続ける海斗。もちろん、内容なんかこれっぽっちも頭に入ってこない。
その時、ニュースの中に少し気になる記事が貼ってあった。
「(怪盗、歌姫出没。狙いはダイヤの指輪か__)」
怪盗歌姫というのは聞いたことがなかったが、隣にある写真が少し気になった。写真にはアブソルが映っていて、記者が現れた瞬間を丁度写真に収めることに成功したらしい。
「(似てるな。あの時のアブソルに)」
顔は仮面に隠れてて全くわからなかったが、喫茶店でぶつかったアブソルに似てる気がする。気がするだけで気にしないが。
「あのー、誰かいませんか?」
外から聞こえてきた声はどこかで聞いたような気がしたが、救助依頼だと思い、直ぐに応対する。
「いったい誰だ?」
外に出ると困った顔をした一匹のワタッコがいた。
「あの…レオパルドって救助隊はここですか?」
「そうだけど……ん?あんたどっかで……」
海斗の頭の中にあの映像が浮かぶ。
「仲間を助けてください!お願いします!」
ひたすらに頭を下げているのは、青い丸に綿毛が三つ付いてるポケモン、ワタッコだ。
「ダメだ!そんなんで引き受けられるか!」
ワタッコの願いを頑なに受けようとしないのは、長い鼻と葉団扇が特長のポケモン、ダーテングだ。
「でも、どうしても風が必要なんです!お願いします!」
「あの時のワタッコか。いったいどうした?」
海斗の前に居たのはダーテングに依頼を断られていたワタッコだった。
「あの時、とは?」
「あんたがダーテングに依頼を頼んでいる所を見てたんだよ」
ワタッコは少し安心したような表情を見せると、直ぐに話し始めた。
「それなら話が早いです。実はダーテングさんが救助に行ったきり戻ってこないのです…」
「へぇー……え?」
救助隊同士、少々呆れた。と言う感じに、海斗はしょうがなさそうな表情をした。
「仲間が岩場に挟まって動けなくなってしまったのです。私達ワタッコは、風さえあれば色んな場所に行けるのですが、空は雷雲でいっぱいなのに、なぜか風が吹かないんです」
「風が吹かない?確かにへんだな……」
「ダーテングさんの葉団扇は、強風を起こせます。それで仲間を助けてもらおうと思ったんですが……」
「ダーテングが帰って来ない、と……」
「どうしたの?カイト。誰が来てるの?」
基地からひょっこりと顔を出したのはティーエだ。
「ティーエか。実は、かくかくしかじか……というわけさ」
「へぇ〜、そうだったんだ」
先程の会話の内容を簡単に説明した。
「なる程、確かにそんな難しそうな依頼じゃないね。どうしたんだろう……」
少し考えた後、ティーエが俺の顔を見てきた。
「あ、言わずもがな、って顔だね」
「は?」
「うん、わかった。私達が探しに行くよ!」
「ホ、ホントですか!ありがとうございます!」
どうやら、悩んでる間に話はまとまったらしい。最後には首を縦に振るつもりだったが、なんか、勝手にまとめんな、って気がする。
「いいよね?カイト」
「…………………………………」
ティーエの言葉に直ぐには返さず、少し考えるふりをした。そのまま答えずに基地に戻り、自分のマントに手を掛けた。甲賀も何かを悟ったようで、読んでいたポケモンニュースを置き、剣を手に取った。
「よし、行くか。とっととダーテング助けるぞ」
ティーエの顔が探し求めていた何かを見つけたように輝いた。
「うん、行こう!」
〜ちんもくのたに 入り口〜
「うはぁ〜、凄い崖だなぁ」
ダンジョンの両脇には底が見えない程の深い谷が存在していた。ティーエはその崖を覗き込んで、まのぬけた声を上げている。今回のメンバーは俺、ティーエ、甲賀のいつもの組み合わせで行うことにした。ちなみに、あの二人には声を掛けなかった。というか掛けられなかったと言っておこう。
「この谷の奥に、あんたの仲間がいるんだな?」
「はい。すみませんが、よろしくお願いします……」
「任せとけって。二人共、行くぞ」
「わかりました」
「うん、行こう」
俺達三人は、ダンジョンに一歩足を__
「……あの!!」
__踏み出せなかった。
「今度はなんだ?」
少し呆れた表情でワタッコを見る。
「実は、言い忘れたことがあって……」
「あぁ、それで?」
「ここはちんもくのたにという場所なんですが、物凄い怪物がいるという噂があるんです」
「か…怪物ぅ!?」
唯一反応したのはティーエだけだった。後の二人はふーんとでも言いたげな顔をしてる。
「いえ、あくまでもうわさなんですけど、ダーテングさんも戻ってこないし、その、一応伝えておいた方がいいのかな、と思いまして……」
すると突然、ティーエがうずくまり、こんなことを言い始めた。
「アイタタタ…急にお腹が…」
もちろん、引っかからない。直ぐに近寄って行って、頭にげんこつをした。
「痛ぁ!ちょっ、何するの!?」
「頭の痛みで腹の痛みを忘れただろ」
「そんなわけないじゃん!」
「つーか、そんな元気なら腹痛でも来い」
「うーーーー!!」
何かを言いたかったようだが、これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、声にならない不満が口から洩れるだけに終わった。
「じゃあ、行きますかぁ。怪物とやらがいる、ちんもくのたにへ」
三人はダンジョンに入っていった。