PART / X
痺れ。張り裂けそうな緊張。傍から見ても険悪感丸出しの2人組、観客が固唾を飲む。はっきり言って『エアリード』という姓は珍しい。それが2人揃っての登場に加え、視線が火花を散らしていた。
2人の関係性は何なのか。気になる観客を余所にラプチャーは持っていたボールを緩やかな流れで放り込み、同時にイドニアも持っていたモンスターボールをフィルドの中へ投げる。
出てきたのは巨体に角を併せ持つドリルポケモン、ドサイドン。イドニアが投げたボールから出てきたのは鋭い爪を持つかぎづめポケモン、マニューラ。限界まで引っ張ったゴムが切れたかのように、満ちていた圧縮率が爆発。
司会の鳴らしたゴングが鳴り響いたか否かの刹那からマニューラは疾ける。前転側転を繰り返すアクロバティックな動きでドサイドンの正面に迫り、それを迎え撃つように巨体が拳を振り上げた。
「一瞬で終わらせるぞ。ドサイドン、『アームハンマー』だ」
「当たるかデクが。マニューラ、切り返すぞ。『けたぐり』」
振り上げられた腕はうねりを上げてマニューラに向かい、しかし技のモーションが大きい。しゃがみ込んだマニューラはさらに加速してドサイドンの足元に滑り込み、重心が乗っかった足を回転蹴りで弾く。
バランスを崩したドサイドンは低い声と共に背中から地面に崩れ、いち早く下敷きになる状態から脱出したマニューラはドサイドンの腹の上に移動。凍った右手で放つ『れいとうパンチ』がドサイドンを捉え、さらに立て続けに攻撃が連打した。
もう決着か――誰もがそう思った中でラプチャーだけが溜息をつき、指を鳴らすとドサイドンの体が起き上がる。無傷とは言わないまでも、観客が思っていたよりもダメージがない。
危険を感じ取ったマニューラが慌てて飛び退くと、巨木のような足が先ほどまでマニューラの居た場所を踏みつける。コンクリートの地面を何センチも凹ませ、フィールド全体が大きな振動に包まれた。
強烈な形跡が生々しい。もしもマニューラが今の攻撃を回避していなければ、直撃しなくても相応の衝撃を受けていたことは明白だ。強烈なパワーと俊敏な速度、対なる要素が拮抗している。
「『けたぐり』、『れいとうパンチ』……両方ともドサイドンには効果抜群の技だ。その巨体から防御力が高いのは分かるが、なぜそこまで」
「教えてやる必要はないだろう。さて、今度はこっちが攻めようか。ドサイドン、『ストーンエッジ』でじわじわと削ぎ落とせ!」
緩慢な動きで、ドサイドンが地面に手を伸ばす。接着した地面をまるで食パンを毟るように軽々と削り取り、両手一杯にコンクリート片が握り込まれた。
刹那、イドニアとマニューラが感じたのは悪寒。温かいはずのこのステージで、極寒の地にでもいるような寒気。トレーナーの指示があるよりも早く、自律的にマニューラはその場所から避難する。
その瞬間に何かが弾けた。先ほどまでマニューラがいた場所にコンクリート片が深々と刺さっており、さらにそれが何カ所にも。
鋭い一撃の嵐。仮にマニューラがその場を動かなければ、もしくはイドニアの指示を待っていたなら、戦闘不能なのは明白の攻撃。マニューラの耐久性からしても、耐えられるとは思えない。
「うまく避けるな。だがまだ終わらないぞ。ドサイドン、接近する隙を与えるなよ。『ストーンエッジ』」
連続で放たれる攻撃を前にマニューラは身を素早く翻ることで回避するが、僅かに攻撃が体を掠める。皮膚が削れ、痛みが走った。だが徐々にその動きは洗礼されていき、いつしか動作は逃走から演舞のような回避へ昇華。
慣れて来たと言うのが正しい。ドサイドンの放つ大砲のような攻撃を避けつつマニューラはドサイドンへと接近し、ついにその距離はマニューラの間合いに入った。
「でかいだけの能無しが。マニューラ、『れいとうパンチ』!」
「馬鹿が、掛ったな」
「何だと」
懐に潜り込んだマニューラはアッパー気味に突き上げ、その動きを予想していたかのようにドサイドンの体が横に翻る。頭のドリルが回転し、顎を捉え損ねたマニューラの体を真横に捉えた。
「終わらせろ、『メガホーン』!」
「避けることは想定内。マニューラ、まともに受けるな。そのまま『れいとうパンチ』だ」
回転するドリルと空中で身を翻したマニューラの拳が空中で激突し、当然のことながら小型のマニューラは荒々しく吹き飛ばされる。地面に打ち付けられながらも柔軟な身のこなしで受け身を取り、球のように回転しながら衝撃を和らげる。
敵とは言え見事と感じずにはいられない。ラプチャーが風を読むとすれば、イドニアには先が読めているのだろうか。故に『先見』、それがイドニアを示す言葉。
長期戦はドサイドンとしては望むところだが、マニューラには不利だ。ドサイドンの動きは決して速くはない。俊敏ではあるものの、それほど繊細さを必要とせず動ける。それに対してマニューラは常に精神を集中させて繊細な動きをしなければならない。
精神の疲労――そこから生じるストレスは普段人間が意識するよりも遥かに甚大な影響をもたらす。それはポケモンとて例外ではない。このまま長期戦になれば、マニューラが自滅するのは必至。
故に攻めて来る。待ちに徹するドサイドンの方が有利に感じるが、タイプ相性的に見ればそうとも言えない。さらにイドニアはそれを見越した上で何かを案を持っている。待つだけなのは論外だ。
ラプチャーとしてはそこを突破する必要がある。観客のまるでドサイドンがヒールになったかのようなマニューラコールが少々鬱陶しいと感じながら、しかし、だからこそ思いついた。簡単だった。黙らせれば良い。
「俺の思考レベルをどれぐらいに読んでいるかだな。いや、思考だけじゃないな、善悪性もだ。よし、『じしん』!」
「やはりそう来たな。マニューラ、上空から攻めるぞ」
ドサイドンが地面を踏むとフィールド全体が大きく上下し、バランスを崩した観客たちが慌ててしゃがむ。だがマニューラは既に空中に回避しており、隙が生じたドサイドンへ急接近。
ここが分かれ目。マニューラに視線が向いているイドニアの表情を確認し、含み笑いを浮かべた。
イドニアには確実に次の案がある。それを見越した上で、彼が決定的なミスをしたことを笑わずにいられない。全ての状況から判断したに違いないが、どこかで間違えた。恐らくは、ラプチャーを仲間の為に動く善人だと考えたこと。
確かに仲間のために彼は盗賊をしていることに間違いはない。だが、それが決して善人になると言う条件にはならないはずだ。同じ盗賊でありながらの答えだったのかもしれないが、明らかなミス。
「ドサイドン、もう一度『じしん』だ」
「マニューっお!?」
ポケモンを無視したトレーナー狙いの攻撃。普通のトレーナーなら、少なくともスポーツマンシップに則っていれば絶対にしない。
尻餅をつくイドニアの心配をしたマニューラは一瞬とは言え隙が生じた。その隙を見逃すほど、ラプチャーは優しくない。既に先を読んでいたのか、ドサイドンの手にはコンクリート片が握り込まれている。
「くそっ! マニューラ、『こおりのつぶ――」
「『ストーンエッジ』!」
一足先に攻撃の準備を終えていたドサイドンの方が早い。握り込まれた拳が振り抜かれ、中途半端に攻撃の姿勢に入っていたマニューラをコンクリート片が直撃。当然、体を逸らす余裕もない。
まともに受けたマニューラは空中を飛び、そのまま地面へ落下。戦闘不能でなければまだ交代と言う選択肢があったが、どうやら終わりらしい。マニューラに動きはなく、イドニアも持っていたモンスターボールを力なく下ろす。
明らかなトレーナー狙いの攻撃、二度目の『じしん』に観客たちからブーイングが湧くが別にラプチャーは気にならない。負けたら意味がないのだ。
しかしこのまま終わったのでは余りに印象が悪い。一度目の『じしん』の影響を受けていて、二度目の『じしん』があったことや何故ブーイングが起きているのか理解していないものも多数いる。
倒れているマニューラを戻したイドニアに近づき、爽快な笑みを浮かべながら左手を差し出す。怒りに歯を食いしばるイドニアだが、ここで目立ったり通報沙汰を起こすのは得策ではない。
「左手とは、舐めた真似してくれるじゃねーか」
「悪いな、俺は左利きだ」
舌打ちをしたイドニアはラプチャーの左手を掴むと力一杯に握り締め、同時にラプチャーも歯を食いしばり力を込める。傍から見れば勝利後に健闘を称える2人だが、その実はただの喧嘩だ。
やがて一ヶ所から拍手が起きるとそれが全体へと伝播していき、少数派になった罵声が消えていく。この状況で少数派を貫いて、激しい罵倒を続けようと言うものはそうそういない。
『なぜ『じしん』を2発放ったのか疑問が持たれますが、ラゼッタ選手の勝利です! ラゼッタ選手には賞品の大き目の『はっきんだま』が授与されます!』
伝説に伝わる本物か、それともただの宝石か。司会者から『はっきんだま』を受け取ったラプチャーは軽く一礼だけするとその場を離れ、入口付近で待ち構えていたイドニアと視線が交わる。
「なんだ、ここで俺から奪って見せるか?」
「本物だろうが偽物だろうが、もはや興味はないな。偽物なら換金でもしてしまえ。本物ならば……預けておこう。全てが集まるその時までな」
「俺がお前に『しらたま』を預けてることを忘れるなよ、いずれ奪う。それよりも、全てが集まるとはどういう意味だ」
「さぁな、そっちで適当に考えておけ。だがそうだな、ヒントぐらいやろう。『祭壇』はお前が考えているような代物ではない。まあ、精々考えろよ」
「お前、何を知っている!」
「考えろと言っただろう。余り大声を出さない方が良いんじゃないのか、目立つぞ。じゃあな」
メインストリートの人込みに消えていったイドニアを追いかけようとしたラプチャーだが、余りの人の多さに諦める。追跡できないこともないが、相手もプロだ。そうそう簡単に追跡を許すはずもない。
持っていた『はっきんだま』をウェストポーチにしまい、スマートフォンを取り出してエレネスの番号にかける。休日の日中は寝てることが多い彼女だが、3コールしない間に相手が出た。
『はーい、こちらエレネス鑑定事務所』
「珍しく起きてたな」
『ちょっと調べ事をしてたからね、ひょっとしたらラプチャーの力を借りることになるかもしれないから、覚えておいてほしいかな。協力的に』
「盗み関係か。別に良いけど、鑑定士が盗賊に依頼するってのもどうかと思うが。その物は何だ」
『羽。伝説級の『にじいろのはね』と『ぎんいろのはね』よ。会うためには必要なの。個人的に』
ジョウト地方にまつわる伝説のポケモン、ホウオウとルギア。それぞれの体毛である羽、それが『にじいろのはね』と『ぎんいろのはね』。ラプチャーもその存在は聞いたことがあるものの、現物を見たことはない。もとより、大した興味もなかった。
『にじいろのはね』はホウオウの元へ持ち主を導き、『ぎんいろのはね』はルギアの元へ持ち主を導くと言われている。しかしそれ以外にも、2つの羽を合わせることで出来る特殊なボールが存在すると言われているが、詳細は不明。伝説どころか、幻の一品。
一説にはときわたりポケモン、セレビィに会うために必要と言われている。何故彼女がそんなものを欲するのか、詮索しない方が良いとは分かっていても、ラプチャー的には興味を抱かずいはいられない。
『とまあ世間話はこれぐらいにして、何の用? まさか私の声が聞きたくなっただけってことはないでしょ』
「案外そうかもしれないぞ」
『またまたー、私はまだ14歳なんだから恋愛するには早いよ。ラプチャーだってロリコン認定は嫌でしょうに。あ、でも13歳以上なら正常らしいよ。なんだ、問題ないね。法律的には知らないけど』
「……用件だけどな、鑑定してほしいものがある。『はっきんだま』だ、偽物の確率が高いけどな。いつなら空いてる」
『ラプチャーのためなら他の予定をすっ飛ばしてでも鑑定してあげるよ。そうだね、明日の午後でどう? この前と同じアジトにいてくれると嬉しいな。感情的に』
電話先で「えへへ」っと何やら機嫌が良さそうな笑い声を残しながら、エレネスは電話を切った。何故上機嫌なのかはラプチャーには分からない。先ほどの話題にもあった羽が関係しているのだろうか。
忘れないようにスマートフォンの予定表にエレネスとの約束の場所とおおよその日時を打ち込み、決定ボタンを押す。可能性は薄いと分かっているものの、気持ちが急いて仕方ない。
だからだろうか、正面から迫っていた人影に気付かず、正面から歩いて来た女性と右肩同士がぶつかった。相手の女性が小さな悲鳴と共に後ろに倒れ、ラプチャーは手を差し出すがその動きが唐突に止まる。
打った箇所を擦りながらも女性は目の前に出された手に気付き、お礼を言いながら立ち上がる。が、ラプチャーの顔を見た瞬間にその表情が固まった。
「あ、あああ! 貴方、なんでこんなところに! 風読み『ラぐももも!?」
「騒ぐなくそったれ。なんでお前だってこんなところに。とにかく騒ぐな、逃げるために暴れてやっても良いんだぞ。一般人が大量に怪我する。それに俺は今、現行犯じゃないぜ。ナナミ」
口を押さえられたナナミは数回頷くとラプチャーの手を払い除け、激しく咳き込みながら涙目でラプチャーを睨み上げる。どうやら急に口を封じたせいで気管の動きが変になったようだ。
周りで何やら視線を感じたためラプチャーはナナミの右手を握ると早足で道の横のカフェに入り、適当に席を見つけると彼女をそこに座らせる。どうやら気管の方は落ち着いたようだが、ラプチャーがこの場にことに対して驚きが隠し切れていない。
ちなみに先ほど一般人を盾に取るような脅しをしたが、ラプチャーとしてはそんな逃げ方をするつもりは毛頭ない。如何に周りの一般人に迷惑を掛けずに逃げ切るか――それもまた、彼の美学の1つ。
「お客様、ご注文はいかがなさいますか」
「気が利く店だな、どっかのカフェとは大違いだ。俺はブラックコーヒー、お前はどうする。奢るぜ」
「えっ? あ、えっとホワイト・モカ。砂糖とシロップは少なめ、ホイップは多めでお願いします。あと苺ロールケーキ」
「お前意外と注文五月蠅いな」
「奢りだから」
堂々と言い放つナナミに対してラプチャーは若干表情を引きつらせ、店員が離れて言ったのを確認してから再び彼女に向き直る。
「で、お前はなんでこんなところいるわけ。いや、別にいても可笑しくはないんだけどさ」
「貴方こそ、なんでこんなところにいるのかしら。何か盗んできたわけ」
「盗んじゃいねーよ。ちょいと欲しいものがあってな、定例トーナメントに挑戦して正々堂々勝ち取ってきた」
腰のウェストポーチを軽く叩きながら少し嬉しそうに話すラプチャーに対し、ナナミの表情は素っ気ない。いや、興味がないと言う方が正しいだろう。
簡単に作れるブラックコーヒーが先に運ばれてくるが、ラプチャーは手をつけない。ナナミが注文したものを待っているのか、それとも先ほどの質問の答えを彼女が言うのを待っているのか。
「あっそう。まあ、証拠もないのに逮捕は無理ね。今日のところは見逃して上げるわ。私はそうね、探しものっと言えば良いかしら」
「なるほど。だがこれだけ大きなマーケットから探しものってのは、正直骨が折れる通り越して砕けそうだろ。女性には優しくするのが俺の流儀だ、探すの手伝うぜ」
「結構よ。盗賊の手を借りるほど、私は落ちてないわ。第一、国際警察に協力しようなんて貴方も物好きね。敵同士でしょ」
「敵も味方もないだろ。俺は女性全般に優しくするようにしてるの、例外はあるけどな。それにお前、私服じゃん。警察官として動いてるわけじゃないだろう。他の警官も全然見ないし、それらしい気配の奴もいない。私事なんじゃないのか、それなら立場は関係ない」
「本当に物好きね。でも、そうね。貴方が大量殺戮とかに興味がないのは分かってるつもりよ。せっかくだから、協力してもらおうかしら。ただし条件があるわ」
頼む側だと言うのに条件を突き付ける辺り、礼儀知らずなんか図太いのか。とは言えどちらかと言うとラプチャーから手伝いたいと言ったのだ、それぐらいあって当たり前だと彼自身も感じている。
「まず私が探す物について余計な詮索はしないこと。そして、なんで探しているかも聞かないこと。あと当然だけど、見つけても持ち逃げしないこと」
「その3つか。なんだ、当たり前すぎることだな。知り過ぎるってのはこの業界じゃ死期を早めるからな、目的のものの名前だけ教えてくれ」
「……カセット」
俯きながら視線を若干逸らしつつ、ナナミは答える。何とも有り触れた一般的な名称のため何の事を言っているのかラプチャーには分からなかったが、それを遮るように店員が彼女の注文した飲み物とケーキを持ってきた。
受け取った飲み物を一口含み、懐から取り出されたのは一枚の写真。写っていたのは先ほどの彼女の言葉通り、カセットっとしか形容しようがない形の何か。全部で4つ。それぞれ赤色、黄色、青色、白色。
余計な詮索はしない約束ではあるが、これだけでは余りにも漠然とし過ぎている。何かのゲームなのか、もしくは特殊な機械にセットする道具なのか。比較対象がないため、これらの全体的な大きさが分からないのも情報欠落で辛い。
ただ4色あると言うことは、何かしら意味のあるはず。そしてそれに近いものを、彼は知っていた。幻のポケモン、アルセウス。プレートと呼ばれるポケモンタイプの性質を秘めた道具を持つ。
もしもこのカセットがそれに類似する何かなら、赤色はほのおタイプ、黄色はでんきタイプ、青色はみずたいぷ、白色はノーマルタイプかこおりタイプと言ったところか。
「余計なこと考えないでって言ったわよね」
「そう言われてもこれだけじゃ自分で考えないと始まらないだろ。せめてさ、大きさがどれくらいかだけは教えてくれ。それと、この写真は持って行きたいんだが」
「大きさはそうね、最新のタブレットぐらいかしら。厚みは結構あるけどね。あと持ち出しは厳禁」
「その筋に詳しい情報屋を知ってるんだが」
「駄目なものは駄目。これは私個人が先輩のお手伝いをしてるだけなんだから、変な判断は出来ないのよ」
どうやら私事ではあるが完全に自分だけの用事ではないらしい。休日に私服を着てまで先輩の仕事を手伝う辺り、些か献身的過ぎる気がしないでもない。
何が彼女をそこまで動かすのかラプチャーには分からないが、分かる必要もないし知ったところでどうしようもないから無関心を決め込む。
「それに私が勝手にやってることなのよ。この写真だって、本当は署外持ち出し禁止なんだから」
「お前、何気に凄いことしてんじゃねーの。署外持ち出し厳禁ってことはさ、セキュリティレベルの高い情報だろ。大丈夫かよ」
「バレなきゃいいのよ。それにこれコピーだし、念のため明日になったら消える細工しておいたから。エスパータイプの力を利用したインクでね、極秘書類とかには重宝するのよ」
「そのエスパータイプで探した方が早いんじゃないのか」
写真を放り返しながらラプチャーがそういうも、ナナミは溜息を付きながら首を横に振る。若干馬鹿にされた気がしたが、その程度では怒らない。女性に対してはある程度寛大なのだ。
「ポケモンはコピーなんて出来ないでしょ。署が所有するエスパータイプを持ち出す場合、貸出記録とか色々残っちゃうじゃない。さあ、話は終わりよ。2時間後にまたここで会いましょう」
「なんだよ、別々に探すのか。デートになるかと思って期待してたのによ」
「そ、そんなの期待しないでよ! あ、奢りはありがとう。ごちそうさまでした。それじゃあ、探しに行くわよ!」