元凶
PART / W
 獰猛さが一段と増したリザードンは対峙しているにも関わらずゲノセクトに背を向け、ナナミへ向かって巨体を唸らせながら歩み寄る。
 リザードンは新人トレーナー向けとされるポケモンの中でも進化後の扱いが非常に難しいポケモンであり、元来持つ凶暴性や自尊心を覚醒させてトレーナーの言うことを聞かないことも多い。
 それだけでも厄介なのに、このリザードンはそれに輪をかけて人を嫌っていると来た。状況が状況とはいえ、やはりこれは2人にとっても危うい賭け。

「リザードン、貴方が人を嫌っているのは知っている。だけどお願い、今は私に力を貸して」
「統計的には人に捨てられたポケモンが人間に恨みを持つ確率は約62%ほどであり、そこから人間との信頼関係を再び構築するにはトレーナーの人間性にもよるが早くて数時間、遅ければ3年以上掛かると言う研究結果があるね」
「あそこでうんちく語ってる科学者はこれから多くの人とポケモンを不幸にする。貴方が旅してきた世界、記憶の中の景色、思い出の場所……それらが破壊される」
「私はどちらかと言うと環境保全推進派なんだがね。まあ尤も、実験に必要なら山や平野の1つや2つは更地にしても全然構わないけど」
「長年共に旅をしてきたトレーナーに捨てられたその恨みは、言い換えれば人間への深い信頼を持っていた証拠。人間のことをどうでも良いと思っていたなら、そんなに恨みを抱くことなんてない」

 威嚇なのか口から炎を僅かに漏らすリザードンはついにナナミの目の前まで来ると彼女の瞳を正面から覗き込み、対するナナミも目を逸らすことなく正面から見つめ返す。
 心拍、発汗、呼吸音、ラプチャーはリザードンから感じ取れる音の情報を全て拾っていた。そして導き出した答えは極めてグレー。混乱、困惑、そして信頼した結果また裏切られることへの恐怖。

「ふん、メガ進化したところでデクの坊が相手じゃ大した実験にはならない。ゲノセクト、あの無駄にでかいトカゲを始末し――」

 キョウカがリモコンを掲げた瞬間に動物的感で危険を察知したのか、振り向いたリザードンは巨大な尻尾でナナミを吹き飛ばしながら反転し、怒号と共に強烈な炎を一直線にゲノセクトへ向けて放つ。
 舌打ちしながらリモコンを操作したキョウカは慌ててその場を離れ、ブースターが起動するとゲノセクトも巨大な炎を難なく回避。炎はそのまま研究所の壁を貫通し、さらに何重もの壁を円形に溶かしながらその姿を消した。
 吹き飛ばされたナナミを満身創痍ながら何とか受け止めたラプチャー、吹き飛ばされた痛みに耐えるナナミ、難なく避けることはできたキョウカ。全員が一様に息を呑む。
 先刻にマタドガスが放った『かえんほうしゃ』の比ではない。攻撃を終えたリザードンは激しく息をし、今の凄まじい威力の攻撃がリザードン自体にも激しい負荷が掛かっていたことを物語る。

「なるほど、今のは最強の炎技と言われる『ブラストバーン』か。メガ進化したリザードンのあんなものを食らえば、ゲノセクトと言えども流石に危ない。だが如何せん攻撃は直線的。避ける分には何の問題もないね。おやどうした、既にお疲れかなリザードン君」
「お願いリザードン、私と一緒に戦って。確かに貴方の攻撃は強いけど、闇雲に戦っただけじゃ絶対に勝てない。皆で力を合わせなければ、あいつは倒せないの!」
「放っておいても良いが、鬱陶しいからさっさとご退場願おう。ゲノセクト、あいつを消せ」

 ブースターを起動したゲノセクトは一直線に背中を向けているリザードンに迫り、鋭く光る腕の爪を立てて容赦なく切り掛かる。
 しかし横から飛び出してきたモンスターボールが開くと同時に巨大な岩石が出現し、正面から振り抜かれたゲノセクトの攻撃を受け止めた。その正体は岩石ではない。ラプチャーの手持ちのドサイドン。
 驚異的な物理防御力に加え弱点タイプの攻撃を受けた際にダメージを減少させる特性『ハードロック』、それによりゲノセクトの『メタルクロー』を辛くも受け止めることに成功した。

「やらせるかよ、リザードンはなんとしても守り抜く」
「全く無駄な努力をするのが好きな連中だ。ゲノセクト、直線攻撃ではなく回り込んで攻めるぞ」
「無駄だ、反撃できないまでも防御は出来るぜ。左だドサイドン!」

 天井へ飛んだゲノセクトがブースターによる超加速で攪乱してリザードンを狙うが、ラプチャーの指示した方向に動くドサイドンの重厚な皮膚に攻撃が阻まれる。
 ただしドサイドンも決して無事なわけではない。決して威力が高い技ではない『メタルクロー』を2発受けただけで、既にその体は満身創痍。あと数発も食らえば確実に戦闘不能だ。
 ゲノセクトの攻撃とドサイドンが受け止めたと同時にラプチャーはさらにモンスターボールを空中に投げると、不気味な模様と羽を持つとりもどきポケモンのシンボラーが現れる。
 もはや卑怯だのなんだのと言っている場合ではない。例え数体のポケモンで1匹のポケモンを攻撃しても袋叩きにしても、この場を乗り切ることが最優先。
 ラプチャーの指示のもとドサイドンは手の発射口から岩石の塊を超高速で飛ばす『がんせきほう』を、空を飛ぶシンボラーは羽を強烈に羽ばたかせることで生み出される鋭い風による『エアスラッシュ』を繰り出す。
 正面と上からの挟撃。しかしキョウカが不敵に微笑みリモコンを操るとゲノセクトは重心を低くし、飛んで来た『がんせきほう』を腕を振り抜き明後日の方向へと吹き飛ばした。
 さらに上から降り注ぐ『エアスラッシュ』はもはや避けることすらせず、その深紅に染まる鋼鉄の体を襲うがまるで効果がない。やはりラプチャーのポケモンの技では力不足。

「くっそ、『がんせきほう』すら弾かれるようじゃ俺のポケモンだともう打つ手がない。時間稼ぎにも限度があんぞオイ!」
「私が信用できない? 頼るに値しない? 私は誓うわ、絶対に貴方を裏切らないと。いや違う。私も貴方を裏切らない! 貴方はとても辛い思いをしたのは知ってる。けど、信じて欲しい! 辛い思いをしたのは貴方だけじゃなかったことを!」
「ナナミ、お前焦ってるのか知らないがなんか言ってること変じゃね。いや、もしかして……あーもう今はどうでも良い! おいコラそこのデカトカゲ! テメーの都合なんざ知るかさっさと手を貸しやがれ! くそったれが、ラプラスお前も頼む」

 怒鳴るラプチャーはさらにモンスターボールを投げるとゲノセクトの真上に青色の巨体、ラプラスが姿を現す。空中から落下するラプラスの『のしかかり』をゲノセクトは素早い動きで回避し、反撃しようとするが左方から高速で接近する何かを察知する。
 急降下したシンボラーは強烈な摩擦で炎を纏いゲノセクトへと迫るが、渾身の『ゴッドバード』をゲノセクトは背中のブースターで受け止めるとその軌道を無理やりずらして受け流した。ブースターもゲノセクトの一部なのか、僅かに入った亀裂は瞬く間に内側から現れる金属によって埋められ、数秒後にはもはや傷痕すらない。
 先ほどの『がんせきほう』の負荷がようやく抜けてきたドサイドンはゲノセクトへ向かって走り出し、そちらにゲノセクトの注意が向いた隙にラプラスは大きく息を吸い込み、さらにシンボラーも『ゴッドバード』を維持したまま旋回する。
 3方向からの攻撃。ゲノセクトはブースターを加速させるとまずは正面から迫るドサイドンに向かって急発進し、ドサイドンの巨腕から放たれる『アームハンマー』を驚異的な動体視力で回避。同時にブースターの出力を切ると砲台から『テクノバスター』による強烈な水圧を放ちドサイドンの巨体を遥か遠方の壁まで吹き飛ばした。
 ブースターを切ったがために『テクノバスター』の水圧で急激に真後ろへの推進力を得たゲノセクトは後方へと飛び、相対するシンボラーの『ゴッドバード』を両手による『シザークロス』で迎え撃つ。

「リザードン、彼らは貴方を信じているから戦っている。一方的かもしれないけど、私も貴方を信じている。もう一度、トレーナーと一緒に戦いましょう。口ならいくらでも言えるって思うかもしれないけど、さっきも言った通り、絶対に私は貴方を裏切らない!」
「安心しろよヒステリック小心トカゲ。そいつは馬鹿みたいにお人好しで言ったことは例え上司に滅茶苦茶怒られようが、減給されようが迷わず実行する頭でっかちだ」

 正面衝突したシンボラーとゲノセクトは互いの技が相手に決まり同時に吹き飛ばされるが、難なく着地したゲノセクトとは対照的にシンボラーは地面に落ちると何とか羽を動かそうとするも、もはや飛ぶことは出来ない。

「それでもお前がまだ人間を信じられないって言うなら、俺もそれなりの覚悟をみせるぜ。ただし、俺の覚悟にお前が応えられればだけどな。リザードン、そいつがお前を裏切るようなら、俺を殺して良いぞ。切り裂いても良い。焼いても良い。噛み千切っても良い。さあ、どうするリザードン!」
「ラプチャー……ふふ、貴方にだけ覚悟を語らせるわけにはいかないわね。リザードン、その時は私のことも好きにしなさい。だけど大丈夫、怖がらないで。私は貴方にそんなことは絶対にさせない。させない自信がある!」

 怒りの視線を向けながらも右足が一歩後ろに下がるリザードンは明らかに困惑しており、ナナミが一歩前に出るとさらに左足も引き摺るようにして下がる。
 後方ではラプラスの放った激流の『ハイドロカノン』を『テクノバスター』でゲノセクトが相殺し、大きく跳躍したゲノセクトはキョウカの真上へと来ると、背中のカセットを外して彼女が投げた黄色いカセットを装填。
 そのまま空中で砲口をラプラスに向けると、先ほどまで水流が放たれていたキャノンから強烈な稲妻が迸り、ラプラスを直撃すると一撃にして戦闘不能へ。まるで雨天時の『かみなり』のような威力だ。

「カセットを取り換えることで今のように全く別の技を出す、それが『テクノバスター』。どうするラゼッタ、手持ちはもう全滅かな」
「マジで化物だな。だが、俺達に出来ることはまだある。リザードン、俺に合わせろよ」
「全くアンタは無茶言い過ぎ。でも大丈夫よ、リザードン。私と貴方が力を合わせれば、きっと上手くいく。大切なのはイメージよ。私を信じる貴方を、貴方がイメージするの」
「ふん、そんな図体がでかいだけの小心者のリザードンをよくもまあ守ろうとす……おい、それは何の真似だラゼッタ」
「敵に教えるわけねーだろ、バーカ」

 リザードンの前へと出たラプチャーはモンスターボールを右手の掌に載せ、人差し指を開閉スイッチに掛ける。

「なるほど、そういうことか。貴様自身がゲノセクトの攻めて来る方向が分かっていても、ポケモンへ指示を出していたのではワンテンポ遅れが生じる。ゲノセクトが向かってくる方向に貴様がボールを向けてからポケモンを出せば、方向を指示する時間を省略できると言うわけか。だが、そう上手く行くかな」
「上手くいくさ。こいつは俺の中でも最高のポケモン、最高の技を出せるポケモンだ。こいつの攻撃なら、ゲノセクトであっても無事じゃ済まないぜ。そこへリザードンの攻撃を叩き込む! 逃げるなよ、サイキルト。もしも俺を避けて通れば、お前は一生逃げた自分を意識することになるぜ」
「挑発のつもりか。安心しろ、逃げなくとも貴様もろとも出てきたポケモンと同時に葬り去ってやろう。ゲノセクト、ラプチャーの胴体を真っ二つに切り裂く準備をしておけよ」
「彼は貴方を信じている。私も貴方を信じている。私の方はもうイメージが出来たわ、きっと貴方は私と一緒に戦ってくれる。そして勝つイメージが。リザードン……貴方はどうかしら」

 微笑みながら逸らすことなく向けられるナナミの視線を受けたリザードンは小さく唸った直後、瞑った瞳を開くと精悍な表情を取り戻し、体を反転させるとギラギラと闘志が溢れる目でゲノセクトを睨みつける。
 心拍や息遣い、先ほどまで弱々しかったリザードンの全てが変わった。厳しいことに変わりはない。だが、現状で勝つために最善の状態は整った。

「何をしようと同じこと。例えリザードンがやる気を取り戻したところで、貴様らを取り巻く状況は大して変化はない。当てられぬ攻撃、そしてただ一方的に食らう。それだけだ。ラプチャーの持つボールの中とて、そこのリザードンよりは遥かに劣るものだろう。脅威ではない」
「そういう割には随分と警戒している上にお喋りじゃねーか。こんな満身創痍の俺を前に、もしかしたら……って思ってるんだろ。どれだけ表情で冷静装おうが分かるんだぜ、お前は今確実に僅かな不安を抱いている」
「私が不安? はは、馬鹿を言うな。いや、ひょっとしたらそうなのだとしても問題ない。出されたポケモンを屠り、ラゼッタを殺し、リザードンを倒した後に小娘をあの世に送ってあげよう。そしてゲノセクトの更なる実験を広大な戦場で行うのさ。誰にも私の実験の邪魔はさせない。私へ刃向う奴は全て科学の犠牲となってもらおう。行け、ゲノセクト!」
「ラプチャー、貴方は悪党だけど信頼してはいるわ。こっちは任せなさい。私とリザードンなら、乗り越えられる。ヘマしないでね」
「おいおい、誰に向かって言ってやがる。こんなところでヘマするぐらいなら、とっくにお前に捕まってるさ。俺は『かぜよみ』、ラゼッタ・エアリードだ」

 今までで最高スピードのブースターによる加速をつけたゲノセクトはキョウカがリモコンを押すと姿が5つに分裂し、本体と『かげぶんしん』がそれぞれ四方八方に散開する。
 ただでさえ目で追うことが出来ない速度の物体が激しく左右に移動するが、ナナミとリザードンはその姿を目で追うことはしない。左肩の激痛に耐えながらラプチャーは両目を瞑り、ただただ部屋の中の音と空気の流れを読み取ることに集中した。
 痛みを忘れるぐらい精神は深い意識の底に沈み、研ぎ澄まされた感覚がゲノセクトの鼓動を捉える。今までは聞こえなかったその鼓動、かつてのハンターとしてのプライドを踏み躙られたことによる屈辱、良いように扱われることへの口惜しさ。
 何より無意味に生命を傷つけることへの罪悪感。もはや元の形をほとんど残していないゲノセクトだが、その心は今もかつての誇りを失ってはいない。
 倒れているラプラス、シンボラー、ドサイドン。ボールの中で傷ついているマタドガス、ポリゴンZ、ナナミのウォーグルにコジョンド。全てがこの戦いで負傷したポケモンだが、誰よりも深い傷を負っていたのは他でもないゲノセクト。

「安心しろよ、ゲノセクト。お前は確かに化物みたいに強いが、コンピュータや単細胞生物なんかとは違う。助けてやる、お前もな」
「激痛でとうとう妄言か。精々地獄で今までの罪を償って来い!」
「残念だが、地獄へ行くための支度も何もしてないんだよ俺は。何故なら俺はお前に勝つからだ!」

 全てのゲノセクトがラプチャーに襲い掛かり、右からゲノセクトの心音を感じ取ったラプチャーは体を右へと向ける。
 どんなポケモンを出すのか――キョウカとナナミが視線を向けるなか、振り抜かれたゲノセクトの腕はラプチャーの右肩を深々と切り裂くが、切り口が鋭すぎるためにまだ痛みが来ない。
 痛みがないと言う幸い。すれ違い様にラプチャーはモンスターボールをゲノセクトの腹部へと叩き込むと、その体が赤い光に包まれてモンスターボールへと吸い込まれた。

「なっ!? 貴様、そのモンスターボールは空っぽだったのか!」
「はは、悪党の言うことを信じるなんてな。大悪党様の割に随分とまあ素直なこって、サイキルトさんよ」
「だがそんな脆弱なボールでゲノセクトを捕まることなんて到底無理だ。例えマスターボールを使ったとしても、今のゲノセクトならば破壊することだって不可能ではない!」
「焦ってるなサイキルト。そうだろうな、お前の負けは決定した。俺の目的は捕まえる事なんかじゃない。お前だって分かるだろ。積んでるんだよ、もう」
「な、なんのことだ。たった2人に私の最高傑作が破られるはずが……」
「ボールから抜け出る一瞬は、どんなポケモンだろうが動きは止まっている。これは強さがどうとかいう問題じゃないぜ。俺の役目はここまで、後は頼んだ……ナナミ」

 切り裂かれた右肩が激しい痛みと共に出血し、モンスターボールを壊したゲノセクトが赤い光に包まれ姿を現す。

「えぇ、貴方ならきっと道を切り開くと信じていた。見えた道の向こうへ、私達が進む。リザードン、『ブラストバーン』!」
「嘘だ。ありえん。私の研究が……こんな子ども騙し的なことで……敗北は許さんぞゲノセクト。こうなれば時間は掛かるが仕方がない、『だいばくはつ』で全てを消し飛ばしてやる」

 リモコンの右上についている赤い『!』の刻まれたスイッチをキョウカが躊躇いもなく押す……が、ゲノセクトには何の変化も見られない。
 キョウカがリモコンを見ると自分の手の裏側に何か黄色い物体がしがみついていることに気が付き、左手で掴み取る。焦っていた為か気付けなかったが、バチュルがいつの間にか手についていた。

「この下等生物が。くそっ、だが予備のリモコンは用意済みだ」
「遅い! お前の負けよ、キョウカ・サイキルト!」

 完全に姿を現したゲノセクトを放たれた『ブラストバーン』が容赦なく包み込み、圧倒的なエネルギーによる熱量にキョウカは思わず持っていたリモコンとバチュルをを手放す。
 再び研究所に巨大な穴が幾重にも連なって生み出され、機材をいくつか破壊したのか奥の方から連鎖的に爆発音が響いた。
 炎が消えると深紅の体がかなり黒ずんだゲノセクトが残されており、全力を出した攻撃をした為かリザードンの方もその場に膝をつき、どちらもこれ以上はバトルを続けられそうにない。
 だが完全に沈黙したと思われたゲノセクトの手先が壊れた機械のようにガクガクと動き出し、さらに足も金属がボロボロと剥がれながら動き出す。

「嘘でしょ、リザードンの全力なのに!?」
「貴様ら如きに私の研究は阻止させん。見たところ貴様らにもうポケモンはいまい、あと一撃でも食らえばまずかったがその心配もない。確実にここで葬ってやる」
「確かに俺のモンスターボールにはもう何も入ってねーな。入ってないけど、何か忘れてないか」

 くすくすと笑うラプチャーに怪訝な表情を浮かべるキョウカの横から飛び出した黄色いネットがゲノセクトに覆い被さり、倒れ込むゲノセクトは体を流れる電気エネルギーに今度こそ沈黙する。
 キョウカが横を見ると、そこにいたのは先ほど『ブラストバーン』の余波を受けたために手放してしまったバチュル。バチュルの放った『エレキネット』がゲノセクトを倒した。

「お前が言う下等生物がお前の野望を打ち砕いた。どうだよ、テメーの全てが破壊された気分は」
「……ふん、所詮はそいつも失敗作だったと言うだけに過ぎん。古代のハンターも、夢の金属も、マルチチェンジの技も、所詮はどれもこれもこの程度だったと言うことだ」
「貴方って、正真正銘のクズね。それでもゲノセクトのトレーナーなの」
「私は科学者だ、別にポケモンに愛着があってトレーナーをやっているわけではない。とはいえ、私の研究が高々どこの馬の骨とも言えぬ有象無象の2人に破られたのは事実。貴様は国際警察だったな。自首しよう」
「余罪はかなりあるけど、とりあえずは公務執行妨害で捕まえるわ。一生牢獄にいることも覚悟することね」
「私を一生牢獄に捉えておくつもりなら、1ヶ月毎に場所を変えねば脱獄するぞ。そのつもりでいることだ」

 差し出されたキョウカの両手に手錠をかけ、腰のボールを奪うと倒れて動けないゲノセクトをボールへと戻す。このポケモンも、どうするか考えねばならない。

「ありがとうリザードン。貴方のおかげよ、貴方が私達を信じてくれたから私達はここに立っている」
「最初から素直に……言うこと……きい……」
「ラプチャー? ちょ、ちょっとラプチャー! しっかりしてよ、ちょっと!?」


月光 ( 2014/06/25(水) 21:50 )