チャンピオンズリーグ
第二話
 灼熱と表現できるほどの熱気に包まれる中、アスカとアダムはゆっくりと互いのトレーナースペースに足を踏み入れた。
 その瞬間、会場の大型ディスプレイに『フィールド』と言う文字が表示され、フィールドの名前が刻まれたプレートが画面内で高速回転する。

『さて、御来場の方の為にバトルの説明をしましょう。バトルは三対三のシングルバトル。道具、ポケモンへの持ち物は禁止されています』

 通常のバトルスタジアム通りここでもフィールドは変化するが、ベースとなるフィールドは固定される仕様だ。

『また三匹のうち一匹が戦闘不能になった時点で、そのトレーナーの負けになります。選手は適時、ポケモンを迅速に入れ替える必要があるでしょう』

 アスカとアダムがルーレットの結果を見守る中、徐々にプレートの回転速度が落ちて行き、一つのフィールド名がディスプレイに浮かび上がった。
 『草原』――可も無く不可も無いフィールドだが、ありきたりな場所だけにトレーナーのスペックが試される。

『なおフィールド内は移動自由、制限はありません。思う存分戦って下さい』

 フィールドが決定すると同時に天上や床一面が淡い光を放ち、アスカ達が立つフィールドに初々しい草木が一斉に咲き乱れる。
 さらに空調が作動することで疑似的に草原の風を創り出し、確かに本当にその場にいる様な臨場感。
 吹き抜けて行く風に靡くポニーテールを抑えながら、疑似的に再現された現実の草原を前に、アスカの心が弾む。

「うわー綺麗な草原ねー。天上まで空を再現するなんて、本当に素て……何してるの?」

 とてもグラフィックとは思えない優美な景色に心を打たれるアスカとは別に、アダムは何故か地面に伏せている。
 草の様子を観察しているようにも見えるが、どちらかと言うとハンティングをするライオンのような感じだ。
 アスカに言われてようやく自分が伏せていることに気づいたらしく、服についた埃を叩き落としながら悠然と立ち上がる。

「――フン、すまん。あまりに偽物臭い草原に気味が悪くなってな。敵が襲ってくるんじゃないかと思って伏せてしまった」
「そう言えば貴方ってジャングルに住んでそうな成りしてるわよね……ハッ!? やっぱり貴方ラン――」
「くどい。少し気味が悪いが……まぁいいだろう、勝負とは無関係だ。掛かって来いアスカ、お前の実力を試してやる」
「完全に上から目線ね。いいわ、なら早速――」
「先手は俺が取るがな」
「へっ?」

 ボールを掴んだアスカよりも早くアダムはボールをその手に掴み、筋肉質な肉体を駆使して豪快に投入。
 あんな勢いで投げて中のポケモンは大丈夫なのだろうか――会場の観客、そしてアスカがそう思う中、ボールから放たれた褐色の光は草原に降り注ぐ。
 現れて行く鋼鉄の分厚い四肢、地面を砕くかのような足踏みと共に現れたのは、鋼鉄の体とスパコンに匹敵する頭脳を持つポケモン、メタグロス。
 相手が悪いと一瞬にして判断したアスカだが時既に遅く、振り抜かれたボールから姿を現すのは、巨大な翼に鋭い爪を備えたもうきんポケモンのムクホーク。
 二匹のポケモンが現れたと同時にディスプレイに互いのライフとステータスが表示され、同時に会場が一気に白熱する。
 だがその歓声もボールから現れたばかりのムクホークの放つ空気を震わす強烈な叫びに一瞬かき消され、同時に地面を砕き、その粉をメタグロス目掛けて投げつけた。
 『すなかけ』――先手を取ったアスカは一気に攻撃の指示を出し、羽ばたいたムクホークがメタグロスに襲い掛かる。

「フルック! そのまま畳み込んで、相手に攻撃の隙を与えちゃ駄目よ!」
「『いかく』に続いて『すなかけ』か、悪くは無い……だが」

 草を靡かせ迫るムクホークを前に、メタグロスの右腕が微細な光に包まれた。
 それと同時にその手の近くの草が白く凍りついて行き、相手の所作に気付いたアスカが慌てて指示を出す。

「待ってフルック、一回戻って――」
「『れいとうパンチ』」

 アスカの咄嗟に指示ですぐに翼を羽ばたき反転を始めるムクホークに、しかしメタグロスの拳が襲い掛かる。
 素早さなら圧倒的にムクホークが勝る。だが行動の所作の始まり、俊敏性に関しては、それはもはやトレーナーとポケモンが判断して動くレベル。
 冷気を帯びたメタグロスの拳がムクホークの翼を掠り、しかしそれだけの攻撃でムクホークの飛行姿勢が崩された。
 追撃に振り下ろされる『れいとうパンチ』をムクホークは身を捩じらせ強引に回避して地面を蹴り、空高く飛び上がり距離を取る。



 フィールドの端、報道関係者と選手関係者が入ることを許されたスペースで、一人の女性がビデオを回しながら戦いに目を奪われる。
 会場全体を震わすような『いかく』や『すなかけ』をしたにも拘らず、メタグロスは全く動じているように見えない。
 相性的には飛行、格闘タイプのムクホークは鋼、エスパーのメタグロスにはそもそも全てにおいて圧倒的な不利なのだ。
 おまけにメタグロスの攻撃力と防御力は全ポケモンの中でもピカイチ、物理に関してはかなり厳しいがムクホークはそもそも物理攻撃に頼るポケモン。
 真っ向勝負は厳しい。適度なところでポケモンを変え、相手のメタグロスを引っ込めさせるのが得策だろう。

「でもなんでメタグロスは攻撃力が下がらない上、『すなかけ』で命中率も下がらないのかしら」
「メタグロスの特性だ。『クリアボディ』、あいつはいかなるステータスの減少変化を受け付けない」
「シリュウさん!? な、なぜここに? あ、申し遅れました。私はTVタマムシのスミレです」
「ここは選手用の控室でもあるからな、別に居てもおかしくない。しかしアスカめ、相手の特性を考慮せず普段通りの戦術に出るとは、まだまだ甘いな」
「ちなみにもしシリュウさんなら、あの状態でどうしましたか?」
「まずは『かげぶんしん』をして回避を上げる。奴は攻撃力が高いが愚鈍だ。素早さや攻撃力を上げられる前に敵の動きを制限する」

 シリュウが対策を言ったまさにその瞬間にメタグロスの動きが一気に加速し、空から様子を窺うムクホークを牽制する。

「ッチ、隙を与えるからこうなる。今のメタグロスの素早さはムクホークとほぼ互角かそれ以上だろう」
「先ほどからムクホークが何度かヒットアンドアウェイを繰り返していますが、ムクホークの体力が削られているようにしか見えませんね」
「素早さが互角以上になった今、有利なのは圧倒的にメタグロスだ。落ち着けアスカ、まずはポケモンを変えろ」



 決定打が与えられないままヒットアンドアウェイを繰り返す現状に、自身も移動しながら敵の隙を作るアスカの息が若干上がって来た。
 モーションが大きい『コメットパンチ』や『しねんのずつき』と言った大技を使わず、あえて冷凍パンチだけで対応して来るアダムの戦術も、アスカの精神を徐々に抉る。
 まるでメタグロスとアダムを中心に、自分たちが一方的に円を描きながら移動させられているようにしか感じられない。

「どうしたアスカ、その程度で俺を倒せると思っているのか?」
「言われなくてもそのうち突破して見せるわよ」
「そのうちってのはいつだ? チャンスを自分から掴めない奴に、勝機など永遠に訪れない」
「チャンスを……」

――あれ、その言葉……確か師匠が……

 脳裏に浮かぶ過去の景色、今と全く同じような状況を、確かにかつて経験している。
 あのときはどうした、どうやって対処した? そう、確か褒められた。嬉しかったから、覚えているはずだ。

「――フン、俺の眼鏡も曇ったか……もういい、お前はその程度だった。メタグロス、コメットパンチ」
「フルック! 恐れないで、メタグロスに突っ込んで! チャンスは、私たちの手で作る!」

 強烈な光を右手に宿したメタグロスは磁力を使って宙に浮かび、同時にムクホークもメタグロス目掛けて突進する。

「やけくそか? いや、仮にもここに居るのだからその程度のトレーナーではないだろう。何を企む」
「貴方が早くなるならこっちも早くなればいい。フルック、『こうそくいどう』! 同時に『かげぶんしん』もおまけしてやんなさい!」

 飛行していたムクホークから急激に力が抜け、次に羽ばたいた瞬間、先ほどより遥かにその動きが鋭利になる。
 さらに本体のムクホークを基点に姿がブレ、メタグロスに襲い掛かる姿は一気に一匹から五匹へ。
 恐らくは大技による攻撃……だが先にエネルギーを溜めていた分、メタグロスの方が攻撃に転じる速度は速い。
 普通のトレーナーならばこれで良いだろう。だがここに集うのは各地方で行われた予選を突破した猛者、それだけでは通用しないのは明らか。
 さらに一手打たなければいけない。それが出来ないようでは、永遠にトレーナーとしての成長は来ない。

「成るほど、チャンスを自分から作り出したか。だが……」

 あと数秒で攻撃が届く……そんなときに、アダムが見たのはムクホークではない。
 その真下、靡く草に映し出される一つの影、それこそが本物のムクホークの居場所を赤裸々に綴っている。
 並みのトレーナーなら、恐らく簡単に惑わされるだろう。

「――フン、右から二番目。恐らく敵も大技、メタグロス! コメットパ――」
「とんぼがえり!」
「むっ、俺が見切るのを読んだ!?」

 迫り来るムクホークに向かって輝きを放つ右腕を振り抜くメタグロスより早く、ムクホークの鉤爪がメタグロスの顔面を切り裂く。
 大したダメージではない――強制的に振り抜いたメタグロスの拳がムクホークに直撃するより若干早く、ムクホークの体が光に包まれた。
 アスカの左手に構えたモンスターボールに吸い込まれ、同時に体を回転させ、右手に持っていたモンスターボールをフィールドへ。
 褐色の光と共に現れたバクフーンは既に背中に大量の炎を宿しており、空振りで隙が生じているメタグロス目掛けて激しく体をぶつける。
 炎タイプの攻撃に一瞬苦痛の表情を浮かべたメタグロスだが、すぐにバクフーンを振り払い距離を取った。

「貴方は強い。だからこそ見切ると信じていた。さて、これで私にも有利が来た。行ける限り突っ走りますよ!」
「――フン、やってくれる」


月光 ( 2011/08/28(日) 20:38 )