チャンピオンズリーグ
第十一話
 『にほんばれ』の効果によって『あられ』を打ち消し炎タイプと草タイプの技が特に恩恵を受け易く、本来タイプ的に不利であるバクフーンがフローゼルとほぼ対等の立場になった。
 状況的に不利に追い込まれたとは言え依然としてタタは余裕の表情を崩さず、冷静に現在の状況を分析し、次なる一手を導き出す。
 彼女は造園師をしているので自然と草タイプや虫タイプのポケモンの技や特徴から天気による影響までをかなりの領域で把握し、技のカテゴリーに至ってはそのタイプには収まらない。
 通常『にほんばれ』を行われた場合に一番警戒すべきなのは草タイプの多技『ソーラービーム』、普段は巨大な太陽エネルギーの為時間がかかる技だが、強烈な太陽光の下ではその条件は外されるのだ。
 つまりフローゼルすら一撃で屠り去られても可笑しくはないのだが、彼女は知っている。
 バクフーンは『ソーラービーム』をどうやっても習得できない、故に現在の状況下で『ソーラービーム』による一撃必殺は存在しえない。

「この状況ではまだ五分五分と言ったところかしら、互いに交換も天候操作をする暇も与えてもらえなさそうね。このまま行くしかないか」
「状況が一気に悪くなったってのに、少しは慌てたりしてくれないのかしら」
「バクフーンがフローゼルの弱点タイプの攻撃を持っていないのは、草タイプのの技を知っている私なら分かる。フローゼル、『アクアジェット』!」
「甘い! バクフーン!」

 体に水を纏うフローゼルは再び超加速すると、背中の歩のを激しく燃やすバクフーン目掛けて突撃して行く。
 圧倒的な素早さを前にバクフーンはその攻撃を避けることなく正面から直撃し、苦痛の表情を浮かべるがフローゼルの体が逃げないように両手でロック。
 そのまま真上へ放り投げると同時に再び激しい咆哮を打ち鳴らし、バクフーンの右腕が激しい電流を帯びると、落ちて来たフローゼルの側面へ強烈に叩きつけた。
 想定外の攻撃に大きなダメージを受けたフローゼルは明らかに苦しみの表情を浮かべ、タタの表情の端にも僅かだが焦りの色が帯びている。
 いきなりの『かみなりパンチ』、日差しは先ほど強くなったばかりなのでまだしばらくの間は弱くならないと考えると、この状況はタタにとって些か不利か。
 天候を変えようにもバクフーンもアスカもそんな隙を与えてくれるとは考えにくく、ポケモンを取り変えようにもアリアドスでは絶対的に不利。

「長考ってのは感心しないわね。ルーシー、一気に決めちゃえ!」
「避けなさい!」

 炎を体に纏い強烈なエネルギーを込めて迫り来るバクフーンを前に、フローゼルは苦しみに濁った息を吐くと同時に体中の力を抜く。
 捉えた!――アスカがそう思った瞬間、バクフーンの目の前にいたフローゼルは一気に力を解放し、先ほどよりもさらに速い動きでバクフーンの『かえんぐるま』を避けた。
 素早さを上昇させる技『こうそくいどう』、相手のバックを取ったフローゼルは再び『アクアジェット』で襲い掛かるが、さすがに読みやすい攻撃なだけに今度はバクフーンも横に符轍鮒してこれを回避。
 突っ込んで来たフローゼルが真横に来た瞬間に再び右に突進し、敵の脇腹に強烈な一撃――のように見えたが、フローゼルの姿がバクフーンの視界から消えた。
 進路を一気に真下に変えたフローゼルは体を回転させながら地面を掘り進み、穴の中から削岩機のような激しい音がアスカ達の耳を刺激する。

「袋のねずみって事のことね、ルーシー! 『かえんほうしゃ』!」

 意気揚々に指示を飛ばすアスカに対しタタはただ黙って目の前の様子を見守っており、バクフーンが口に溜め込んだ圧倒的火力を穴の中に注ぎ込む。
 それと同時にバクフーンの真下の地面が盛り上がり、土を砕いて現れたフローゼルの鋭い打撃が敵の腹部を捉え、強烈に後ろへ吹っ飛ばした。
 炎タイプの弱点の一つ地面タイプの攻撃『あなをほる』の直撃、空中で半回転したバクフーンは何とか着地するが、その際に僅かだが体勢が崩れる。
 まだまだ日照りの時間は有効、今まさに訪れた小さなチャンスを見逃すわけにはいかない。
 相手の一瞬の隙を見抜いたタタはアスカが指示を出すより早くフローゼルにボールを向け戻そうとするが、バクフーンの『かえんほうしゃ』をフローゼルが避けて阻止された。
 攻撃を避けると同時に尻尾を大回転させ加速をつけながらバクフーンに突っ込み、それを迎え撃つようにバクフーンも相手に向かって突進。
 フィールドの中央で再び二匹のポケモンが激突し重々しい旋律を奏で、一進一退の攻防線に観客の声援もヒートアップを抑えられない。

『まさに攻めて攻めての激しいバトル! 誰がこれほどアクティブになると予想できたか!? タタ選手の方が長く使っている分、フローゼルに疲れが見えます!』

 司会者が言うほどフローゼルに疲れが見えているわけではないが、フローゼルの方は一度ムクホークと『でんこうせっか』同士で激突している。
 だがそれを抜きにしても若干フローゼルの方が劣勢、初激で不意を突かれた『かみなりパンチ』のダメージがやはり大きな原因となっているのは間違いない。
 両者ともに激突した際の反動を利用して相手から距離を取り、バクフーンはアスカの前に、フローゼルはタタの前へと戻って来た。

――今が『にほんばれ』だからって『あられ』にしようとすれば攻撃されるか、すぐ『にほんばれ』で元に戻される。今の状況から言って私が先を取らないといけない……ちょっと危険だけどやるしかない

「フローゼル、状況を戻すわよ。『あられ』!」

 大きく息を吸い込んだフローゼルが細かい水を泡のように出すと同時に尻尾を大回転させ、冷たい冷気が辺り一面を徐々に多い出す。

「ならこっちが戻せば良いだけ、焦っちゃダメ。ルーシー、元に戻して!」
「あらあら、攻めておけばよかったのに」

 雄叫びと同時に背中の炎をバクフーンが燃やした瞬間、タタはフローゼルを素早くボールに戻すと同時に、新たなボールを構える。
 もしこの場で天候が変化するデメリットを無視してでもバクフーンがフローゼルに攻撃を強行し、結果的に倒せていれば状況はかなり変わっていたはずだ。
 だが倒せなかった場合は天候が『あられ』になってしまい、途端に状況が逆転してしまう。
 頼りの綱である『にほんばれ』の影響によって弱くなる水タイプの技だって威力を取り戻し、アスカの価値は厳しくなっていた。
 倒せるか倒せないか……その二つを天秤にかけたアスカが相手の強さを鑑みて状況の再生を試みた結果、タタの方が一歩先に躍り出たのだ。
 状況が再び晴天になると同時にタタは一回戦でも使用したブーバーンを繰り出し、噴き出された炎をバクフーンは横に飛んで素早く避ける。

――失敗した、これじゃあプラスに変えても逆効果だなぁ。ルーシーで行くしかない、負けられないんだから!

 繰り出す炎攻撃を尽く回避するバクフーンに業を煮やしたブーバーンは思い切り右足を持ち上げると、それを強烈に地面目掛けて叩きつける。
 同時にフィールド全体が激しく振動している間にブーバーンはフィールドの地面に両手を差し込み、動きを止められているバクフーン目掛けて投げつけた。
 さらに立て続けに抉り取った地面を連続してバクフーンに投げつけ、激しい粉塵に視界が封じられたアスカは、指示を出せるが前が見えない。
 繰り出される『がんせきふうじ』がようやく止むと同時に大量の粉塵が徐々に晴れて行き、アスカが目を開けると目の前には巨大な岩盤の山。
 息が上がっているブーバーンの目の前の地面は深く深くえぐり取られており、その深さと範囲が如何に大量の岩盤を投げ飛ばしたのか、出来上がった山と共に物語る。

「ルーシー!」
「あらら、ちょっとやり過ぎちゃったかしら。ブーバーンももう少し手加減してあげれば、必要以上に痛めつけずに済んだのに」
「……なーんちゃって、これでさっきのお返しは完了ね」
「えっ?」

 俯いていたアスカが不敵に微笑んだ瞬間、ブーバーンの足元が僅かに盛り上がると、地面を貫きバクフーンが急襲。
 完全に勝利を信じていたタタは変化を見落とし、地面から出て来たバクフーンは勢いをそのままにブーバーンの急所目掛け強烈な突進を繰り出し、その巨体が豪快へ宙に浮かぶ。
 一気に勝負を決めんとばかりにバクフーンは遠方に着地したブーバーン目掛け突っ込み、ブーバーンもふらつきながらではあるが、腕を構え相手に標準をロックオン。

「このまま負けるわけにはいかない、全国の造園師の夢は私に掛かっているんだから。ぶっ飛ばしなさいブーバーン!」
「ここが大きな壁よバクフーン、強大な攻撃に対しての心構え――分かってるわね!」

 さらに速度を上げたバクフーンは加速を続けると同時にその姿が左右に分身し、その全てが凄まじい速度でブーバーンへと突進する。
 放たれた白い一筋の光、『はかいこうせん』は衝撃波で地面を抉りながら中央のバクフーンを貫通し、さらに後方で徐々に地面に近づき接触すると、激しい爆発と共に地面を豪快に抉り取った。
 先ほどの戦いでマリンのカメックスが見せた必殺技に優るとも劣らない威力、後方からの激しい風に揺らるスカートを抑えながら顔を引きつらせ、苦笑する。
 再び迫り来るバクフーンに狙いを定めるブーバーンは横目でタタを見て指示を仰ぎ、それよりも早くタタもバクフーンの動きを観察し、諦めない。
 一回戦であるアダムとの戦いは観戦していたとき、彼は何かを目印にして影分身を見切っていたのをタタはしっかり見ていた。
 聴力で補うなんて化け物染みたことは不可能、ならば彼女にできるのは……相手の、バクフーンの影。

「今は日差しも強く影もしっかりしている! 影のあるバクフーンを……え?」

 迫り来るバクフーン、だがその全てには既に影が無く、四体のバクフーンはブーバーンを煙のように貫通すると、その姿を消す。
 慌ててタタが上を見ても左右を見てもやはりバクフーンの姿は無い、先ほどの戦いのようにアスカがジャケットを放ったということも無い。

「そう来ると思ったわ、残念だけど本物は……」

 アスカの力強い言葉と同時にブーバーンの後方の地面が盛り上がり、慟哭を上げながら現れたバクフーンが炎を巻き上げながら現れる。

「あんたの後ろよ! 決めろ!」
「なっ、同じような……」

 後方から強烈に突っ込んだバクフーンは再びブーバーンの急所を強烈に取られ、相手の巨体が吹き飛ばされると同時に力無く地面を転がって行く。

「同じような攻撃に、やられるなんて!」

 吹き飛ばされたブーバーンは完全に戦闘不能の状態になり、バクフーンも激しくよろめくが何とか踏ん張り、しっかりとその場に立つ。
 会場からは大きな歓声が湧き上がり、タタが急いでブーバーンの元へと駆け寄り、アスカもバクフーンの元へと駆け寄った。
 戦闘不能にはなっているもののブーバーンに大事は見られず、とりあえず一安心したタタはボールへ戻すと、立ちあがってアスカに手を差し伸べる。
 アスカはバクフーンをボールに戻す前に右手を差し出しタタの手を握るが、彼女の手には一切の容赦が無い。

「まさか、貴方みたいな若い子に負けちゃうとはね……残念だわ」
「いたた痛い痛い」
「ごめんね、造園師やってるとどうしても握力強くなっちゃって、こうして握手するとちょっと痛いみたいなの」
「それでマリンも痛がってたのね、納得だわ」

 腫れものでも出来たのではと思うほどに熱い右手に息を吹きかけるアスカを見て、タタはクスクス笑って踵を返す。

「頑張ってね、貴方は沢山のトレーナーの気持ちを背負った。優勝しないと、皆に怒られちゃうわよ」
「私は絶対優勝する。師匠にもそう誓ったし、皆のためにも負けない」
「……その気持ちが、折れないことを祈ってる。巨大な木はね、一見頑丈そうに見えて、実は案外簡単に折れちゃったりするの。貴方は若いわ、この先からは草原に生える草のようなしなやかさを求めるのもいいかもね」
「つまり……どう言うこと?」
「ふふ、この先頑張りなさいってことよ。辛いことを乗り越えたとき、人は自然と強くなる。不動の草木の様にね」

 言っている意味がよく分からないのかアスカは少し頭を傾げるが、タタは彼女にこれ以上は何も言わず、出入り口からフィールドを出て行く。

『さぁ何ともダイナミックなバトルでした。次の戦いはヨウタ選手対エリサ選手、共にまだ一度もバトルはしていないため、この二人が戸の様なポケモンを使うのか期待が高まるところです! 開始は、十分後!』


月光 ( 2011/09/09(金) 22:03 )