壊れた記憶と架空の狭間で
一瞬、シャワーズちゃんは固まった。
明らかに固まった。目の動きも呼吸も筋肉の微動らしきものも本人の時間すらも。
しかし、本人は気がつかないのか、何事もなく話し始めた。
「どこからって、言ってもみんなバラバラだし・・・」
明らかにまずい。耐えきれず、行動に移していた。
「言いたくないことだったら無理して言っちゃダメ」
それは本能だった。意識しているともしていないとも取れる感覚で、シャワーズをかばうように抱き寄せた。
「えっ?でも、まだ何も・・・」
「今ちょっとだけでも嫌な感じしたよね。だったら言わない」
また言おうとすると、がっちりと組み込む頑丈な両腕を更にきつくする。その当たり方は、幼稚園の先生に似ていた。フミちゃんは、凄く重い何かを感じとっていたのは分かる。でも、何に気付いてこうしたのか分からない。口調も切羽詰まるものがあった。
それでも言わなくちゃ。何故かこの時だけそう、強く思った。そしてその理由はすぐに分かった。
「私は・・・、私の場合は・・・」
あれ?
気味が悪かった。言葉と記憶が噛み合わない。ちゃんと覚えているのに、そこで浮かび上がる文字列は訳の分からない暗号のようなものだった。確かに名前とかは合っているはず。こう呼んでいたのに、なのに、
「お願い、止め・・・」
「・・・」
言いたいことが全てグチャグチャになっていた。言語にすらならなかった。今言ったのは本当のことか、怪しかった。
なんで?なんでなんでナンデ?前の私のアダ名も、前の主人の名前も、私の・・・も、その他の仲間のアダ名も、ここに来る前の他の記憶も全部、文字がズタズタにになっていた。記憶を掘り起こしていけばいくほどますます激しくなる胸の高鳴り、まるで今誰かに荒らされているかのように躍動感をもって汚れていく過去の情報。こんなこと初めてで、自分そのものが壊れてしまうのではないか、もしくは空虚になってしまいそうな、格が違う恐怖だった。
あれ?私って、誰?ついに、自分自身にまで侵食が始まった。
もうやだよ。早く、早く・・・、私は、私は・・・、
「だから言うなって言ったでしょ!」
今まで聞いた中で一番大きいフミちゃんの怒鳴り声が頭をつんざき、奥深い穴ぐらから凄まじい勢いで引っ張り出されるように、意識を戻された。
混乱しきっていたシャワーズの顔は至近距離で見ても可愛い、とかの前に怯えきっていた。その証拠に体が大きく震えている。このまま行けばお漏らしするんじゃないかと思っていた。
「なんか挙動がおかしいと思ったらやっぱり・・・、怖かったのはシャワーズちゃんだけじゃないんだから」
いきなりアニメらしい鳴き声になったことはともかく、言いたいことを正しく言えなくなるほど、重いことを抱えているのかと悲しみ、つい涙を流してしまった。
やっぱり正だろうが負だろうが感情的になると強く当たってしまう。それに涙は目の汗だと言わんばかりに態度でごまかしていて、ダメだな、とつくづく思い知らされてしまう、カフミであった。
そして案の定、お漏らしが始まっていたことに少し遅れて気付いた。ありゃま、と言葉を吐き、流そうとシャワーのノズルに手を伸ばそうとした時、震えるシャワーズがほんの少しだけ手で引っ張ってきた感じがして、放っておけなくなってしまった。
どうしよう。しどろもどろしていると、足音が聞こえて、次に、
「おい!こんなでかい声出してどうしたんだ?」
異変を聞き取った恵が、扉をぶっ飛ばすように開けて飛んで入ってきた。さっきいた庭とそれほど離れていないのに、やけに息が上がっている。少しながら、他のブイズの子達の声も聞こえた。
そしてほぼ呼ばれたような立場の恵も、また不機嫌な顔で睨まれている。こいつら相手ではもういつものこと、なのだが、
「小便漏らしているってのは分かっけど・・・」
「つーかこの子怯えてんのにそんな堂々と入って来て、なんとも思わんの?」
「いや何があったか分かんないからここに来たんだから・・・」
「御託を並べてないでとっとと水流してくんない?ウチはシャワーズちゃんから今離れられないから」
「・・・ああ分かった分かった、とっとと洗い流せばいいんだろ」
カフミのペースにはまるで勝てない。(あの連中も含めて)こいつには妙に愛想良く振舞っているのに、自分に対しては平常を装うようにこんな扱いだ。カフミ本人は本来こういうふうにへつらえたり使い分けるのを嫌がっていたはず。こんなコロッと変わるもんなのか?さっぱり理解出来なかった。
そして、水のほうきで一通り排水口に追いやって、カフミの汗っかきな形容を見て一言。
「カフミ」
「何の用?」
「そんな暑かったら換気ぐらいしろよ。高温多湿、高気密の環境の熱中症は洒落にならないんだから」
だったら換気する方法ぐらい教えろよ、と返って来た。換気扇のことは手短に教えて、シャワーを元の場所に戻した。
「とりあえず、そいつは自分が一旦預かる。外は寒いし、カフミはそんな格好でいても風邪引くだけだから、ちゃんと着替えて。着替えはここにあるってことは持って来たんだろうし、風呂場はこいつらの体洗いをまた始めるまで貸すから」
いや、よく見れば汗っかきなのは顔だけで、残りは水を被ったものだろう。証拠に背中には水気が無い。ここに来てカフミまで看病するハメになるのはもう懲り懲りだ。黄色い奴の脚のケガの治療はまだ中途半端だわ、なんか黒いのが襲ってくるわ、今も庭にいる連中がやかましいわ、しかもあいつらは寝起きだから尚更だわ、って。いい加減休ませろ、と叫びたいのが本音だった。
「でもシャワーズちゃんは今も何かに怯えてんのに預かるってそう簡単に言う?」
そしてカフミは頑固にこいつをかばう。多分、こうなったらそう簡単に引かないだろう。カフミ自身も、こう来たらもう一徹してしまおうという意志の下に、引く気はなかった。
そしてしばらく言い合って、平行線が続いた。ありがちな光景でも、見かねたシャワーズが少し呟いた時、やっと折れてくれた。あの様子だったらすっかり体が冷えてしまうまでディベートは続いただろう。
この時で、今すぐ寝れる自信があった。
あのカフミが、そこから先の一切の問答をしなかったのが幸いだろうか。
これからも、出来るだけ最低限の会話で済ませる方針を取ろう、と恵はシャワーズに抱き付かれたまま、廊下を歩き回っていた。
思い出した時の突然の言語障害らしきもの、恐怖と震え、この二つだけでは判断がつきにくい。
ただ引っかかるのは、独りにしないでと言っているようにくっ付いてくることで、力もかなり強い。実際こう抱えていなくてもいいぐらい。それに、ほとんど錯乱している様子は見受けられない。落ち着いていて、意識もはっきりしている。震えも大方治った。
これだけのことを言って、あいつらが真面目に教えてくれるのか相当怪しいが、だからと言って他の方法は思いつかないし、問題を放置するのも後のツケを払うのは心頭もない。今は騒音に目を瞑ることにした。
もっとも、このまま自分がシャワーズを預かった理由はまだある。
名前付け。もうそろそろしておかないとどうせわめき散らすので、手っ取り早くしようと思い立った矢先がこれだった。先送りになったことに喜ぶべきだったが、わざわざ作った気勢を折られたのと、起きた問題の重度もあってそうはいかなかった。
一応、案はある。どうせエビとかがああだこうだ言って受け入れてはくれないが、カフミになんとかしてもらえればなんとかなるだろう。他力本願?今は仕方が無い。
『で、いつまでそこをうろついているのかしら?』
噂をすれば、当の本人が頭の中に直接聞いて来た。確かに黙れとは言った。でも、こういうところで無駄に騒ぐのは良いのか?どっちみちうるさいことに変わりはないし、言葉の理屈上ではそこが抜け道みたくなっているからといって、追ってくるのはしつこい以外の何物でもない。
ため息をつき、声にならない応答を返した。
『何がうるさいわよ。あんただってどさくさに紛れてシャワーズに突拍子もない名前でも付けようとしているくせに』
『これはな、仕方ないことだって聞かなかったか?こいつからも直々に。それにさっきの黒い奴のことはどうするんだ?』
『あのブラッキーは勝手に行動したまでで、見せしめみたいに吊し上げられていても別にいい、放置する。私達もシャワーズに名前を付けられるのは了承済みよ』
『だったらいいじゃないか』
『良くない!とにかくね、あんたが名付け親になるのは絶対阻止しなくちゃいけないのよ!そんなひん曲がった名前が自分の物になってみなさい。どんだけ悲しむか、どんだけ失望するか、シャワーズにそんな感情になってもらいたくないの、あんただってそう望んでいるから・・・』
面倒くせえ。早めに畳み掛けるとしよう。
『じゃあお前らさ、自分の名前に対してなんて言った?』
『それは・・・、グレイシアが言ったことであって・・・』
『お?濡れ衣を着せるのか?別の奴に責任転嫁する気か?』
『ち、違うわよ!ってかまず名前付けのことを引き合いに出したのは誰よ』
『なるほど、無実のことをかばうのか。へー』
『へーってどういうことよ!そんな感情で私の心を揺さぶるなんて最低ね!この偏屈!無関心!あとなんか!こんな人間について行くなんて一生の屈辱よ!』
『勝手に棚の上に上げているが、こいつの名前の話にしたのはお前だぞ?』
『くっ・・・』
何発狂してんだこいつ?今の意味ではなんとか黙らせた。
やっぱりいじりまくっている内は面白いが、物理的に反撃されるのは面倒だ。ちょっとやりすぎたか?とエビの断末魔を聞き思っていたが、どうせこいつがいるし、致命的な事態にはならないであろうと、
『とりあえず、本題っぽいシャワーズの案件はそっち行って直接聞くからな』
ちゃんと聞き取っているかは知らん。下がり気味になったシャワーズを持ち直し、恵はベランダに向かった。
また一段とわめき声が大きくなった気がした。
またとんでもないことが始まった?
ブラッキーが起きたら恵に飛び掛かり、そして宙吊りにされて、ややあってフミちゃんの大声があって何事かと思ったら、今度はエーフィが何故か地団駄を踏み出すって、家の下でもひっきりなしに事件が起こるのだろうか。相変わらず忙しくなったんだ、と遠目にみてポケモン達は思っていた。
そんな最中、シャワーズを連れた恵が奥から出て来た。見ると全員とっ捕まえろと誰かに指示されたように、こぞって声を一斉に浴びせた。
「それで、この騒ぎは一体何?」
「フミちゃんに何があったの?」
「シャワーズは無事なんだろうな?」
「エーフィには何をした?」
ほぼ怒鳴り声のような大量の質問を同時に投げかけられても、聞き分けられる訳がない。恵は相も変わらず不機嫌そうな顔をしてその場に座った。
「ちょっとは静かにしないのか?こいつのことも少し考えたらどう・・・」
「あんた!シャワーズに何を吹き込んだのよ!」
やる気なく言っている途中で、意気消沈したはずの一匹が復活して大声でわめきながら前に出て来た。
えっ?っとなって辺りは静まり返る。
「は?なんだよいきな・・・」
「じゃあその密着度は何よ!まずシャワーズが自分から抱きついていくなんてありえないわ!」
叱るような声に聞いた全員が恵の方に注目する。確かに言った通りではあっても、正直そこまで怒るものなのかと、むしろ微笑ましい光景じゃないの?と思うものだった。人間に対する嫌悪感は置いといて。
そんな違和感を覚える目線をよそに、恵との口ゲンカはそのまま続いた。
「いや待てこれは本当にこいつから抱きついただけで・・・」
「嘘おっしゃい!どうせあんたがそうするように仕向けたんでしょ!」
「あのさ・・・」
「問答無用!あんたが心を読まれないような特殊な能力を使っても無駄よ!訳わからん口説き?惚れ薬?マインドコントロール?あんたがやりそうな事なんて読まなくても見え見えなのよ!」
「今度は被害妄想かよ面倒くせ」
「とっとと白状しなさい!面倒なんて聞き飽きたわ」
「聞き飽きたんなら聞かなけりゃ・・・」
「じゃあ恵君も静かにしないの?」
また始まった、意味のない言い争いは聞き飽きた、そろそろ傍観者はあくびや私語が出てくる頃、シャワーズは割って入った。
「別に、言いたいこと言わせてガス抜きさせているだけでいいんじゃん」
「まあ・・・、そうだな」
今更ながら、言われた通り顔が近い。しかも、シャワーズ自身が楽にできそうな、背は肩に寄りかかって曲げたふくらはぎの平らなところに胴体を置く位置取りをしているので、今度は別のところが重さに痛み出していた。
そして、またあいつが叫び出す。
「何よその態度!あっそ、結局シャワーズだけひいきにしていることに変わりはないのね。やっぱり何か・・・」
「エーフィも一緒。そこまでムキになっても意味ないよ」
あそこまで何の淀みも無く言い返せるんだ、そんな声もところどころ漏れていた。
「そんな奴と一緒にしないでくれる?」
「はいもう聞こえなーい聞こえなーい・・・、ほら、恵君も」
「いや、いいよそんなこと」
一体どこまで茶化せば気がすむんだろうか。エーフィもいつの間にかふてくされて丸くなっている。
「こんな感じに、恵君も面倒だったらすればいいのに」
そうシャワーズが言うと、恵はなんだか辛い思いがこもったため息を吐いて、
「あのさ、一言言っていいか?」
少し、イラついた口調でこう告げた。
「お前はいつからそんな元気になってんだ?そこまで神経すり減らしていた割にはヘラヘラとしてさ、わざわざ自分から真剣にならないといけなさそうな重っ苦しい話題を口に出そうとしている横で、面倒だったらいい?ふざけんじゃねえよ。面倒だったらとっくに他のこと始めているだろ」
顔の表情はほとんど変わらない。口調もそのまま。でも、本当に叱られているのを分からせるような雰囲気で、シャワーズに余裕は全く無く、もはや負の領域まで心の針が振り切れていた。
今まで何回か不満を言うことはあったが、これは違う。完全に怒っている。しかも自分に対して。怒られることに慣れていない他のポケモン達も離れながらにして怯えたり、シャワーズを心配したり、神経を尖らせていた。
膠着し、それっきり沈黙が続いた。
恵、シャワーズ共に何一つ表情を変えない。その無音の中で痺れを切らしたのも同じタイミングだった。
「あーあ・・・」
「ご、ごめんなさい・・・」
「ん?他に何か言わないのか?」
「あっ・・・、私にどうか・・・」
「違う。そういう意味じゃない」
「え?」
「別に反論ぐらい幾つかあるだろ。どうせ言い返してくると思ったんだが」
不思議だ。すでに怒っているとか恨んでいるとかの空気はなかった。怒っているのは嘘?
「怒っていないの?」
「ああ?こんなことでいちいち怒ってたらエネルギーが無くなるだろ。第一、お前らなんて年がら年中暴れそうだし、もっと厄介な揉め事なんて沢山ありそうだし、その度にキレてたら疲れるし面倒、無理」
「え?じゃあさっきのは・・・」
「こんなこと言われたらお前らだって黙っちゃいられないだろうな、って全部言って二秒ぐらい後で思ったんだが、違うのか。まともに名前を呼ばない奴が何言ってんのー、とか自分のことだけほざくチンケに言われたくねえよ、とか恨んでいるんだろ?って」
どうしてもその二秒ぐらい後で思った言い訳が、シャワーズの心の気づかいを、どうでもいいところに向けていたようにしか思えなかった。
恵の予想も確かだが、こんな変化球を投げられると妙に安心する気持ちが湧き上がってくる。サンダースがイラついてヤジを言いかけていたのを慌てて止めてつつ、残りのみんなはなんとも言えない顔を合わせていた。
怒っていたというのはさっきの被害妄想だったのか。それとも、今までの会話のどこかで無意識のうちに刷り込まれていたのだろうか。依然としてこのひねくれっぷりには到底理解出来ない。
そして、あのエーフィの不機嫌の度合いである。さっきの不安感に比べたらそれほどのものじゃない。でも、その漂う殺気は違う意味で嫌な予感がする。背中からそんなオーラが発散されていた。しかし、意外にイーブイは横になったまま特に変わった様子を見せてない。
そう心をなで下ろそうとエーフィをまた見た時、しかめっ面とグレイシアは偶然目が合った。巻き添えになりたくないと、気まずい思いで顔をそらしてやり過ごそうとしたが、
『ねえ、聞いてくれる?』
どうやら避けられない運命になってしまった。頭の中で鳴り響く声は続く。
『ああ見えて私達に何の気づかいもなのよ!あんな行動に騙されちゃダメ!』
安心しちゃいけない、とのこと。今のみんなが安堵しているのを見抜いて言葉にしたのだろう。この恵にはそんな意識は全く無く、無駄に操られるな、とかも伝えてきた。
トバッチリがくると予想したら、愚痴っぽい促しだった。全員に伝えたらしく、驚いたり驚かなかったりして反応していた。そしてあのシャワーズも、こっちの様子を横目に頷いたように見えた。
あたふたする外の様子が視界の隅にあったのを確認して、
「ありがとう・・・」
シャワーズ自身も何故言ったのかよく分からなかった。でも、この温もりに押されたのが最もな理由だろう。
「ん?なんで礼を言った?」
「何でもないよ。じゃあ、本題に入ろうよ」
やっぱり、こういう感じが安心する。
無論、恵自身は長丁場が終わって清々した、ぐらいしか考えてなかった。
そして、ここに飛んで火に入る夏の虫のごとく、一人の大柄なやまお・・・、いや、女性が走って突っ込んで来た。
「遅れた?」
「全然、丁度本題に入るところだったよ」
太い足で体のスピードを落とす仕草をして、じゃあ今まで何してたんだよ、といきなりの文句は心に収めて恵の姿を見た。そんな意識はもちろん汲み取ってくれる気配も無く、
「じゃあ、カフミがいの一番に言いたいって件があるから、聞いてくれ」
後に全部放り投げて任せるように、軽く話した。
めぐの言った雰囲気とは正反対に、言うのには抵抗がある。恋の告白とかのシーンによくある、大事なことだからこそ、緊張するあの現象。
一度、言葉を噛み直して、自分が出来る限りの丁寧さで話し始めた。
「みんな、心して聞いて」
服装が変わっているのが気になるが、その真剣な眼差しで前に向かっているのが、あのポップな挙動をしていたのと同じ人物とは思えない。
それゆえにより洗練された意識が芽生えてしまう。皆が息を飲む中、フミちゃんは本題に入った。
「みんなは、本当はここに居ちゃいけないはずなの」
頭の片隅で予想した、フミちゃんが重大な事実を告げる為でも、恵に対しての伝えなくてはならないことでもなかった。
ただ、伝えられた内容も、薄々勘づいていたことだった。恵みたいな人間がいた時点で、ここにいることへの違和感はある。
それからも、フミちゃんの口から語りが続いた。
「何言ってんの?って思うかもしれないけど、みんなは・・・、ゲームのキャラクターとして出てくるはずの、架空の世界にいた存在で・・・」
架空の存在?
いきなりの、とんでもない角度から言われたことに、誰もが驚きを隠しきれなかった。