ひねくれものとおかしな生きもの - 第四章〜色々凄い廃人さん
こう見えても女性です
えっ、めぐ?

その化け物が、恵の名前を言ったとように思った。一秒後、耳が破裂するんじゃないかと思うぐらいの絶叫。そして、こちらと視線が合うとまた違った感じの絶叫。襲ってくると思ったが、辺りで何かを探す素振りをしてからいきなり逃げ出した。体の大きさの割には、かなりすばしっこい。

展開の速さにナニナニ?としか思えなかったが、逃げる背中を見てリーフィアが、

「待てオラア!」

すぐそこにあった草の蔓を持て出して、逃げる足に向けて投げつけた。

絡まり、足の動きを止めると、そこから上のバランスを崩してその巨体は倒れ込んだ。しかし、同時に持っていたリーフィアは凄まじい力で引っ張られて、吹っ飛ばされたように空を舞っていた。

飛んだリーフィアは化け物の体の上に顔から着地。うぐっ、と筋肉質の地面が鳴った。いやまだだ、と体を起こし、手首にある葉っぱを変形させ、首筋のすぐ横に突き立てた。

「そこまで!」

上下する背中は、ほのかに汗ばんでいる。その緑の刃を見つめる視線は、その“リーフブレード”の鋭さにも負けず劣らずのものだった。しかし、何も出来ないと悟ったのか、一度目を閉じて、開いた目には闘争の火は消えていて、

「降参・・・っす」

化け物は、確かにそうつぶやいた。両手を挙げて、もう何もしないといった感じだった。

「縛るなりしばくなんなりご勝手にどうぞ」

それはなんともさっきの威勢とは掛け離れた、ふてくされと声だった。















一体何やってんだろ、ウチ。

このままめぐが起きてくれなかったらどうしよう。手首はがっちりと固いアスパラっぽい植物の縄で固定されている。意外とほどけそうだけど・・・、ガチモンのポケモン相手に人間一匹が何が出来る?止めておこう。

もうこれ絶対怪しく見られている。正座で向かっているカフミは、リーフィアの厳しい視線を受けて、慌てて面を下げた。

リーフィアがいるポケモン陣営も、どの質問から手を付けようかと足踏みしている状態だ。そんな中でも、とりあえず名前だけは聞いておこうと、エーフィが前に出た。

「あんたはなんて言うの?」

やっぱりきっついお仕置きでも食らうんだろうな、とカフミは渋々顔を向けた。

っとかって思っている場合じゃなくて、

「うわっ、あのエーフィが喋った!?」

マジ?言葉話せんの?突然のサプライズに気分が上がるも、

「いきなりうるさいわね!って今更?」

自分の立ち位置的に怒らせてしまった。調子に乗ってすいませんでした。

「今更ですすいませんでした・・・」

謝ることには素直なようだ。えっ?でも、今までとは明らかに違うことを言った、とエーフィは思い、もう一度聞く。

「あれ?今、何て言った?」

「えっ・・・、今更です・・・」

「その前よ」

「あっ、あのエーフィが喋った、って・・・」

「それよ。私達の名前、分かるのかしら?」

「えっ、はい・・・」

な、何が目的なの?カフミは動揺しながらも、エーフィを含めたポケモンの集団の動きを恐る恐る見守った。

「じゃあまずこの子は?」

へえ、ポケモン同士でも、子、とか言うんだ。

とか感心している場合じゃなくて、茶色の一番小ちゃい、普通のイーブイのこと?カフミは震えながら言った。

「い、イーブイ」

えっ?なんか変なこと言った私?一斉に驚いて、なんか話ししているけど、何?

一瞬凄〜いって可愛い声が聞こえたから変じゃないと思うけど、って何また興奮しているんだよ、私!しっかりしろ!

「そんじゃ私の名前」

中性的な棒読みの声だった。今度は、茶色の瞳とくるんとした頭の葉っぱみたいなアホ毛みたいなのがこれまた可愛いリーフィア、じゃなくて普通にリーフィアな。口に出すまでに変な妨害が入った。

「リーフィア」

「えっ・・・、うん、そう」

え?何?今の間?やっぱり私変なこと言った?カフミに悪寒が走る。縛り付けられた手の平が汗まみれになって、軽く地面に垂れている。

「じゃ、じゃあ、私から順に・・・」

「俺と・・・」

「やっぱり三匹で十分じゃないの?」

「いや良いんだよそこは・・・」

「このニンフィアの名前が分かったら・・・」

あ、言っちゃった。ドジっ子なんですね。それにグダグダと、色々目の保養に・・・、

「お、おい!」

「何で名前言っちゃったの!」

ちょっとサンダースとグレイシアちゃん!ちょっと声大きいんじゃないの?気が付くと、カフミは体が勝手に動いていた。

「何ニンフィアちゃんを責めてんだよ一対複数はセコいだろ!いい加減に・・・」

これって・・・。

目を覚ましても時既に遅く、睨まれの的となっていた。

ヤバい!殺される!

そして咄嗟に思い付いた行動、それは、死んだ振り、だった。

突然静かになった。

・・・何?心の声は、皆同じだった。

「えっ・・・、あの・・・」

グレイシアが言おうとした端っこが出た。あの下りから突然倒れた寝たのは、どう考えても考えようがない。一応、エーフィによると本人は身の危険を感じて、死んだ振り、をしているつもりのようだ。

何をすればいい?怖がっているのなら、一応、とシャワーズが、

「あの・・・、怒ってはいませんよ、さっきのこと・・・」

怖がらせないように、優しく声を掛けると、相手の丸っこい体が起き上がり、

「本当?」

内緒話をするような返事を返って、何となく、

「大丈夫です・・・」

同じぐらいの小声になった。

「本当の本当?」

今度は頷いて返した。その直後、息すらも止めていたのか、激しい呼吸音がした。

「もう本当にごめんなさい・・・」

凄い恥ずかしくて消えたくなった。半分泣き顔になっていた自覚もある。

何か慌てんぼうさんなんだか分からないけど、恵を襲った理由がなんとなく分かるような気がすると、これを見てシャワーズは勘付いていた。

「やっぱり私らのことって良く知っているの?」

恵と違い、名前が分かっていると言うのは、今日出会ってきた人間のせいか、また違って見える。

「そうだけど・・・、なんかよろしゅうないでしょうか?」

「まずいとかそうじゃないけど、まあ、さっきのところに戻ろっか」

結局濁したけど、まあいっか。話したくなさそうだし。でもこのシャワーズ、どうして泥だらけなんだろう。

そしてそのシャワーズがサンダースに、あらゆるものを悩殺するような水色のつぶらな瞳で何かを送り・・・、

「ああ、うん。じゃ、俺は?」

ああマジうるせえ!雑念が多過ぎる。何でいちいち気合い入れなくちゃいけねえんだよ。

「サンダース?」

「ま、まあ・・・」

「正解だよ。じゃあ、最後の私は?」

まあこれは立派なお下げを持ったグレイシアちゃん。ちょこっと汚れちゃっているけど、ほんのり灰色がかった氷の色の体に、トレードマークの深い藍色の菱形の模様、すらっとした体つきは老若男女問わず色んなものを魅了してきた。キリッとした目は透き通り、王冠のような頭は格好良くも可愛らしくも映り、目を極上の楽しみへと誘う・・・。

「もしかして分からない・・・?」

間が長かった。でも、何か異常にぼけた感じの、幸せそうな顔をしていたので、声を掛けるには抵抗が感じられた。

「えっ、いやあ、グレイシアですよね?」

何だよこのオッサンみたいな妄想は。失せろ。

「うん・・・、まあね」

今の答え方、絶対どうやって反応したらいいのか迷ったのちの答え方だよね。やっぱり困らせちゃったのかな・・・。

「まあ、大体分かったわ。リーフィア、そのツルを解いてあげて」

えっ?もういいの?本当は万々歳だけど、エーフィちゃんが見切りを付けた理由、何だろう。喜ぶことも怖がることもどっち付かずの気持ちのまま、カフミは解放された。

なんとなく、体育座りに落ち着いた。自由になっても、目に見えない不安が、カフミを拘束していた。

「じゃあ最後に聞くけど、こいつのこと」

「めぐね。間違えたっていうより早まってブン殴ったんです」

またため息をついた。捕えた辺りから数十秒置きにその音が聞こえる。よほど罪悪感に囚われているのだろう。

無闇に戦いに挑んでくるような危険な素性じゃないことは、結構自虐的な思考をしていて、心の中が異様なぐらいの忙しさを持っていたらまずない上に、別にその場から自分で動こうとする意思も感じられなかった。怪しいんだかも分からないほど混乱しっぱなしでいるのが、恵との違いだろう。

リーフィアも警戒を解いたところで、しばらく聞きそびれていたことを口から出した。

「そういえば、まだ名前を聞こうとして聞いていなかったわね。なんて言うのかしら?」

ありゃ、エスパーでも忘れるんだ。まあウチが色々問題起こしていたからだけど。

しっかし随分と艶やかな声をこの体から出せるなんて、やっぱりポケモンって違うんか。このエーフィっていわゆるお姉さんキャラなのかな。だとしたら、ちょっとだけでも・・・、

ゲフンゲフン、また卑しい感情が湧きやがったぞこの野郎。まあ、自己紹介ってことね。

「名前は、門倉 富美子。十七歳の高校二年生っす。どう?」

「まさか、今のが全部名前って訳じゃないわよね」

な、何のボケ?エスパーは頭脳派のガチガチな感じとか思ったけど、案外違うんだ。ってまた失礼なことを・・・、ああまじウゼエ。

「いやいやいや、名前は、門倉 富美子で、あとは職、みたいなやつ?」

ああ、なるほどね、とこれでやっと満足。結構丁寧じゃないといけないんだね。

その時、リーフィアが飽きたのか、畑行ってくると、話すことが無くなったポケモンの集団から離脱。ニンフィアちゃんなども別の会話に花を咲かせている。シャワーズちゃんとエーフィ姉・・・、ではなくエーフィちゃんはめぐをじっと観察。あれ?盗み食いにめぐはすんげえうるさかったような・・・、誤魔化せばいっか。

そんな時、ふとめぐが本気を出していた昨日のことを思い出した。

「でも、無事だったんだね」

「えっ?知っているの?」

親切に耳を傾けてくれたのはめぐの側にいるシャワーズちゃん。そんな飛び退くような反応をするって、びっくりさせてゴメン。

「驚かしちゃった?」

「私らにツキノワグマが襲ってきたことを見ていたの?」

「それは違うし知らないけど、酷く衰弱していたってめぐ聞いたし」

ツキノワグマ?知らん。

「そ、そう。あ、そうだ」

どうやら何か思い出したみたい。

「えーと、何て呼べばいいのかな」

「何とでも?」

「恵君とはどんな関係なのかなあって」

ちょっ、何言い出したのいきなり。

「いっ、恋人とかそういうんじゃないよ!」

「そうじゃなくて・・・」

はい、私の身勝手な解釈でした。

「まあ、ただの幼馴染みみたいな感じかな」

「じゃあ、恵君を支えてくれたのは、富美子君なんだ。あと普通の喋り方でもいいよ」

ん?女子っぽい名前でも君付け?そういうキャラなのかな。まあめぐもあれで男の名前なんだから別にいっか。

「支えたとはちょっと違うんだよね・・・、なんと言うか・・・」

「言いたくなかったら無理しなくても良いよ」

なんだか声は真顔だったような・・・。ここは、相手のご厚意に甘えておいとこ。

「あっ」

何?とシャワーズの目の先を見ると、めぐの指先が少しだけ動いた。

気絶させるだけだからって手加減はしたけど、やっぱり怖かったかな。

まじで置いてってごめん、めぐ。
















だから焦り過ぎなんだよ。

首に手を当てながら体を起こすと、またシャワーズが心配そうにのぞき込んでいた。

「大丈夫?」

脳みそまでやりやがった。言葉が思うようにでない。

「・・・全然大丈夫じゃない。普通なら軽く記憶ぶっ飛んでいるからな」

手加減したって聞いたのに。シャワーズは一瞬だけ不満そうにカフミの方に目を向けた。

「えっ、じゃあ私の名前忘れちゃった?」

「ああ」

「嘘・・・。じゃあ、恵君と一緒にいるってことは?」

「それはまだ覚えている」

良かった、とシャワーズは胸を撫で下ろす。もっとも、恵に名前を覚えてくれる気が無いので、なんともないのだが。

で、肝心のカフミは、相当落ち込んでいるようだ。負の気みたいなものが周りに漂っている。

これは声を掛けないと駄目なやつだ。恵は厄介に思いながらも、うなだれている髪の毛に言葉を放った。

「カフミ、何があった?」

「・・・、直球かよ。こうオブラートに包んで言うとかないの?どうせ面倒とか言うだろうけど」

まあな、とテンプレみたいな答えが戻ってきた。恵もそれしか言わない。

「見ての通り、悔い改め中」

「なんだそれ?」

反省しているってことじゃないの?とシャワーズが恵に付け加える。ああ、とさっきのことを思い出した。

「で、めぐはどうよ、この子達とは上手くいっているの?」

「全く、ない。精々まともなのがこの青い奴ぐらいか?」

せめてでもシャワーズって呼べよ、とカフミは足の組み方をあぐらに変えた。多分、気分が持ち直したのだろう。

んじゃ、と本来のことでも始めるかと、恵は立ち上がると、

「めぐ、無理してんじゃねえだろうな?」

「なんだよいきなり」

「いつもぐらいの調子だったら、めぐはあんな攻撃余裕で避けられるはずなのに、さっきはまともに食らったんだろ?何かしらで疲れているのに下手に体動かすなら、ちょっとは他人に手伝ってもらうとかねえの?立っているものは親でも使えってぐらいに」

馴れ馴れしい声は苛立って、言葉はいつものように汚くていても、カフミは恵の体のことを心配して言ったのだ。例え赤の他人であろうと、相手は自身の不毛な生き方から目を覚ましてくれた恩人。まだ借りを返しきれていないのに、何かあって死に別れでもしたら悔やんでも悔やみきれない。ましてやこのブイズも残されて押し付けられても、恵のように養いきれる自信がない。だったら今自分に出来ることは全部背負おう。口調と裏腹に、心は真剣そのものだった。

「じゃあ出来るのか?こいつらの体洗いとか」

えっ?やるのそれ?言葉に詰まった。

「どうせ無駄に騒ぐだろうし、来ても逆に邪魔になる」

うん。そだね。カフミは熱くなってきたものが一瞬で冷める感覚がした。

「いやちょっとそれ酷くない?言ったことは否定出来ないけど・・・」

シャワーズが助け船を出そうとしても、やっぱり反論出来ない。でも、とエーフィはなんとか続ける。人間でも、さすがにこれはかわいそうだ。

「だったらさっき以外の役割を担わせるとか無いの?例えば、料理とか」

「カフミの感覚で作ったら多分お前らの味覚じゃあ食えない。なんとか食べても塩分糖分脂質その他諸々の異常な過剰摂取で、一回で十年ぐらい寿命縮む」

グサリ、と生々しい心の音が富美子さんの方から聞こえた。まだ大丈夫。

「じゃあえーと、さっきの助手とかどう?洗うとか」

「無難だけど」

「うんうん」

「どうせお前らに盛り上がっていて却って進み悪くなる」

今度は心で大事な辺りにヒビが入ったような音がした。いやでも、まだ修復に間に合うと信じて、シャワーズがもう一度恵に聞く。

「だったらさ、私らの可愛がる相手、これならどう?」

「握り潰されたいのか?力加減間違えて首絞めそうで・・・」

完膚無きまでに砕け散った音が、エーフィの頭を貫いた。

「富美子!あんた大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。私の体力は既にゼロだから」

古い布切れのようなしょぼくれた声と、作って笑った顔に感情はなく、見るのも少しためらうぐらい怖ろしく見えた。カラスという動物が心で喚き、どうせ私は、という言葉が富美子の中で悶々と回って、再起不能になっていた。

しかし、恵は目もくれず、既に立ち上がっていた。

「まずお前からにするか?」

「あのね、男同士なんだからってそんな無遠慮は無いんじゃないの?」

幼馴染みだから知っているとはいえ、さすがにちょっとは、という思いが強く出た。

でも、恵の顔の様子がおかしい。いつもと変わって富美子さんを敬遠するような眼差しを向けている。

そんな珍しい恵が一言。

「お前ら、門倉富美子って、女だぞ」

「ふぇっ?」

声が出たら、恵以外の全員の動きが止まった。会話も止んだ。ふと声が出たシャワーズは、ぎこちなく、ゆっくりと首を右に動かす。

燃え尽きた。そう言っている気がした。

色彩が無くなった門倉富美子が、そこにいた。

その後涙目になりながら何回頭を下げたのか、シャワーズ本人も数えきれなかったとか。

■筆者メッセージ
もう桜が散ったのかよ・・・、時間の速さに呆れる、からげんきです。
新しい章となりましたが、どうだったですか?
これからも、よろしくです。
からげんき ( 2015/04/15(水) 21:31 )