置き土産に遅い飯と、もうすぐで終わる一日
「起きて。恵君」
「・・・あ?飯か?」
その声に対して、恵は嫌そうにまぶたを開けた。
すると、目と鼻の先にシャワーズの顔立ちが、180度回った形で現した。よく見ると、その額にはかすったあとが追加されていた。多分、喧嘩とかの時に出来たものだろう。
まずは起き上がらないとどうしようもないので、体を起こすことにした。
それにしても、体じゅうが縄を打たれたように痛い。筋肉痛か?と思ったが、横に寝返った時のごつごつとした感覚と、河原の石ころばっかりの風景を見て、これのせいだ、と確信した。
起き上がると、すぐに肩や首を回したり、足を伸ばしたりとしていた。どうやら、ありとあらゆる関節を痛めているようで、その行動は数分にも及んだ。
身を案じたシャワーズは、一通りの体操を終えた恵に声を掛けた。
「随分と無理していたんだね。そんなんだったら寝なければいいのに」
「まあな。でも、お互い様だろ」
分かっていないようだ。え?と疑問符を浮かべて自覚をしていないシャワーズに、エーフィの方を見ながら、
「そこのエビを連れ戻すより、そいつの意志を優先させればなんにも起きずに済んだはずだろ?まあ、どうせ、そんな単純なことじゃないぐらい分からないでもないけどな」
そう言うと、あぐらをかいて右手を砂利の上に押し付けて、もう一度唸ってから立ち上がった。
辺りを眺めると、すぐ近くにグレイシアが。そこから少し離れた場所には、ニ、から始まる名前が言いにくい奴、それとそのそばの大きな岩の上で寝ているのがイーブイとリーフィア、残りはエビの所に集まっていた。目の前全てに目を通すと、両手の手の平を天に向け、その指同士を組んで背伸びをした。
気がつくと、すっかり日は傾いていた。滝の様子も雄大な勢いから変わって、金色に輝くきらびやかな水のカーテンに様変わり。上に視点を変えれば、まばらだった緑、黄、赤の紅葉の模様も皆同じく赤く照らされて統一感を醸し出し、来た時とはまた違った神秘的な光景が輝く。投げ掛ける陰も、その位置からより大きく移動した跡のように長くなっていた。こんなに長かった一日も終わりが見えくると、少しだけ虚しいような、あの秋の心持ちが蘇った。
あと、テポドンは・・・
いないようだった。目印のテントと釣竿の台がなかったので、もう釣りも引き上げて帰って行ったようだ。
そういえば、エビの奴がサンダースと赤い色の奴におとがめを受けているようで、さっきシャワーズも殴って威張り散らしてやかましくしていた威厳はとっくに無く、すっかりおとなしくしていた。
更に顔を注意深く見ると、濡れている、ということは、水をどうかとか言っていたシャワーズとやり合ったのだろう。いや、ただ川に突っ込んだとしてもある。でも、胴体に濡れたような跡がなかったのが少し不可解だったが、どうせ変てこな力でそうなったんだろうと、適当に疑問を晴らした。
あのさ、といつか足元にいたグレイシアが聞いてきた。
「何だ?」
「さっきから足元にあるんだけど、それ何?あからさまにそこら辺の小石とは違うから聞いたんだけど」
そう、グレイシアが目線を投げ掛けている足元を見ると、麻雀の『
白牌』が、自分のかかとのそばに転がっていた。
「なんかのかけらかな?恵君には分かる?」
シャワーズ達にとっては初めて見る物体のようだった。聞かれた恵は拾うといじくり回しながら、説明出来るような言葉を考えた。
「これか?えーと、マージャンっていう遊びの・・・、何だっけ?名前は忘れたけど牌ってやつ」
「ハイ?」
二匹は口をそろえて恵が言った単語を復唱したが、少し言い方が違っていた。
「返事のあれ?」
グレイシアのは確かにそうだけど、そんなこと言ったら肺も胚も灰もみんな同じことになってしまう。日本語は本当にこういう時にわずらわしくなる。もう一度、こいつらの頭でも分かるような言い回しを考えた。
「んな訳無いだろ。まあ・・・トランプのカードって言えば分かるだろ?とにかくそんな感じのやつだ」
そうなんだ、と頷いてはいるが、多分頭では分かっていないだろう。シャワーズの方も恵の予想通り、いまいちはっきりとしていなかった。
その時にふと見た、色が付いている裏の面の端っこには、
『気に入ったぞ、恵』
とだけ、黒い字で書かれていた。二回ほど、自分の目を疑った。
それを見た恵は、
「勘弁してくれよ・・・」
久々に嘆いた。こんな置き土産本当に要らん。ため息すら出ない、面倒臭さの極みであった。
テポドンが面白くないと思ったことには極端に気にしないが、目星を付けたものには嫌と言うほど執着するのがほとんどで、何かこいつらに告げ口をして余計にややこしくされると面倒(シャワーズの件でも既に懲り懲り)になり、だからと言ってそうしないように気を付けるのもまた面倒と大変なので、心の底から気に入らないよう願っていた。
つまり、あのテポドンが興味を持ったということは、こいつらの常識も論理も物理法則もぶち抜いたおかしさに比べたら大したことではないが、それでも厄介な羽目にはなったのだ。一番恐れている、周りの人間に言いふらすことは多分ないが、それでもテポドン自身がどこでも考え方を変える可能性もあると、今まで付き合って来た経験から言える部分もあるので、決して危なっかしい方向に走って行かない保証はないのだ。ただ、根本に何を考えているのかを聞きそびれたのが、今の一番の重荷になっている所なのだろう。
「・・・一体、何してくれたんだ。さすがに参るわ」
案ずる要素がまた増えて、もう一度弱音を吐いた。
「で、何か問題でも?」
恵の困り果てた様子が気になったグレイシアは首を突っ込んだ。ずっと突っ立っているのも疲れると、その声にはっとして、しゃがみ込んでから答えた。
「ああ、お前らが興味深い、そうだ。気に入ったってしっかり書いてある」
前からなのか今からなのか区別が出来ないが、足に溜まった疲れが出て来ているようだ。折り曲げた関節から悲鳴が上がった。
「え?まさか・・・」
裁判で証拠品を提示するような雰囲気で、書かれた文字を青い目に映すと、
「そのまさかだ」
と、恵はだめ押しの一声を掛けた。
「冗談じゃない!頭おかしいんじゃないの?」
聞いたグレイシアは、恵と似た反応を示した。やはり、テポドンは、恵が来る前にちょっかいでも出したのだろうか。文句タラタラのうるさい事からとても不満のようだ。そこに、
「え?何が冗談じゃないの?」
と事情を知らないシャワーズが素直に話に乗ってきて、グレイシアもそのやかましさを保ったまま話に力を入れるので、恵の耳にはたまったものではない。更に、グレイシアが説明している最中に、
「ねえ、何話してるの?」
目を覚ましたリーフィアは無言で、イーブイが後から付いて来る形で、少し離れていた所にいた連中が恵の周りに集まってきた。サンダースもその出来事に気が付いていたが、エーフィの方が大事なので、取り合うことはしなかった。そして、ブースターは普通に気が付かなかったのが幸いだろう。
一気に三匹も集まって恵は少し説明するのに嫌気がしたが、グレイシアのお陰でその場は“ある意味”混乱しないで済んだ。ただ、
「そんな・・・あんなのに・・・」
その話を聞いたニンフィアは、さっきの面白そうな期待から一気に落とされてしょんぼりとしていた。エーフィが離れる危機が去って、仲直りもしてやっと気を休めると思った所に、新たな問題が突き付けられた衝撃は大きいものであった。
一度起こした燃焼現象は触れるもの焼くこと出来るもの全てを自らと同じように熱狂へと引き込まさせるように、今の場は来たら来たですぐテポドンがどうだの話題で沸騰していた。
もう変わらないってのに本当に懲りない奴らだ。何がどうなってそんなにテポドン一人で騒ぎの花が咲く?よほど嫌なことをされたのは分かるが、そこまで言いふらさないと収まりがつかないほどって、どんだけのことをしたんだ?テポドンは。
何々?と、この騒ぎの物音を聞きつけたブースターもついに混じって、そこにイーブイが余計にかき立てて、言葉通り訳が分からなくなった。未だ懲りずにわめき散らすこいつらに向かって、うんざりした恵は、
「そんなことでいちいちいちいちうるせえな。お前らは別にいいだろ」
とつくづく変わっているな、と高見の見物をしてから、その騒いでいる場に言葉を掛けた。白熱している最中に異物を投げ込むようなことなので、当然のようだが騒音という反応として反撃される。それに何匹もいて、単語が聞き取ることは到底出来ないから、わずらわしく、かえって逆効果だ。もちろん、恵はこの現象をただ見たい訳ではなく、きちんと進めたいことがあるから、この嵐の中に入ったのだ。
「自分もそう、そうわめきたいのは分かる。でもな・・・」
さっきの一言が会話になってないかもしれないが、恵には知ったことではない。とりあえず大きい声でもう一度。しかし、
「お前らもうそろそろ腹減る頃じゃないのか?」
「ってことは・・・、ごはんだ!」
その呼び掛けに正しい反応を返すことが出来たのはブースターただ一匹だった。それ以外の四匹は、
「・・・」
「えっ・・・」
「そっち?」
「へ?」
「はいはいまたそういうのですか」
思い思いの反応を見せて、同時にため息をついた。その場で妙に目立つ羽目になったブースターも、え?みたいな反応をしてから、周りのみんなの様子を見てからやっとこの意味が分かって、
「なんかごめん、悪気はなかったんだ」
と、慌てて謝った。自分の気分に合ってたら素直に気にならない。そういう意味なら気楽でいいな、とみんなはブースターに対して少し羨ましく思っていた。その視線が、余計にブースターを追い込んでしまうことは、本人にしか分かることはなかった。それで、その落ち込みが自分自身を責めているように、ニンフィアやグレイシアなどの目に映って、
「ブースターが悪いってことじゃないから、心配しないでいいの」
「ね、だから落ち込まないで」
かばうつもりで励ました。
確かに空腹になる頃合いではあるが、話の転換の仕方があまりにも急すぎる上に、前の話題との関連もさっぱり無い。どんなに対応を柔軟にしても、恵の会話の仕方にはたとえ変身しようが着いて行けない。漫画の一場面のようにずっこけてしまう。お陰でさっきの騒ぎはニンフィアの一言っきりで、消し飛んだように静かになった。その静けさの中から、またシャワーズが前に出た。
「あのね・・・」
出そうとした言葉を少しためらいがちになったが、恵の為にも今回は厳しくしようとぶつける意気込みで言った。
「真面目に会話する気あるの?」
しかし、恵には今ひとつといったぐらいで、不思議とひいきしないで突き離すようなシャワーズの態度は、みんなの方がむしろ反響が大きかったようだった。
でも、恵にとっては会話の言葉がとても引っかかりがあった。
「ある。あるけどな・・・、気に食わないな」
まず何で会話をするんだよ。それが言いたかったが、こいつらからまともに答えが出ることに希望を持てないと判断した恵はそれだけに出す言葉をしぼった。
今の人間からすれば、四足歩行の動物と言葉を交わすこと自体、普通ならありえない。ましてやその動物も、得体のしれない未確認生物と同意義みたいな存在なのだ。やっぱりおかしい。さっきまでは気にしないの一点張りでやり過ごしてきたのだが、人間の性か、聞きたいことは頭から物理的にも吹き出すほどある。今、抑えていたそれが脳の内部を優位に占めているので、
「全く、人間以外の動物と話すのは違和感ばっかりだ」
それが鼻につく感じになっていた。色々思案するのは面倒だから、その位置付けて
蓋をしてしまおうという、自身の本音が出たのだろう。でも、その違和感をただの理屈ではなく、感情から説明しろと言われても、もやもやしていて上手いように言葉にすることは、とても難しい。
「・・・とりあえず、飯食わないとこれから体がもたないぞ」
久しぶりにその場を誤魔化した。
その後すぐにサンダースとエーフィが来ると、
「じゃあ、そうしよっか」
さっきとは違う健気な声でシャワーズが提案に乗った。
その声の調子は作っているようにみんなも聴こえた。
それもそのはず、シャワーズ自身もほんのちょっとだけ、あの恵にぎこちなさが表れたように見えたのであったからだ。
そのおかしい所は、鮭の切り身の素焼きを食べる時にも表れていた。
そもそも、こいつらの食事風景をまともに見るのは初めてなので、どんなのかを見れると少しじっくりと見てみたいところもいくらかはあった。だが、ここまで考えさせられるほど不可解なものがあるせいで、いつかはその様子をがっつくように観察していた。
人間がしているのなら、問題にならない、と言うか、そうしないとマナーが成ってないと怒られる。
「なんか付いているんだったらはっきり言って。口ばかり見ていて、何かある?」
だが、この四足歩行の動物の場合に至ってはどうなのか。リーフィアの質問も聞かないまま恵は考えにふけっていた。
「聞いているの?リーフィアが聞いているよ」
すぐ隣り合わせのシャワーズが恵の耳元にわざわざ近づき、鼓膜が閉ざされているのなら、それを通り越して頭の奥深くまで響き渡るようにして、大きめの声で伝えた。
それで恵はようやく気付いたようで、至近距離の大声に動じず、いつもと変わらない無感情な口調で答えた。
「あ、ああ。何で口をわざわざ閉じて食うのかってな。それに、時々口を開けっ放しにしたり、違う奴がいて気になって考えてただけだ」
口を開けっ放ししていると言うのは、ブースターとニンフィアの姉妹だろうか。今度は口の動きのことのようだった。そんなつまんない間違い探しをする暇があったら少しでも名前を覚えればいいのに、という思いは胸にしまっておき、
「そんなことでさっきからじっと、当たり前のことじゃない」
リーフィアは淡々と答えると、そういうことなのならと、続いてグレイシアが聞いた。
「え?口を閉じない方が普通なの?人間もそうなの?」
その時は、随分と遠くの異文化の地にやって来たのだなと、恵の返答を聞くその時まではその気になっていた。さっきのテポドンと言い、この恵と言い、出会う人間は二人とも変な雰囲気なのは、少し違う世界に生きるからだと、ポケモン達みんなが自然と思えていた。
「いやいや、さすがに人間はそうだけどな。でもさ、動物は開けようが閉めようが特別なことは変わらないだろうし、閉めていながらもの噛んでいると、違和感とかあるだろうし、それだから勝手に開けるようになるんだが・・・、違うのか?」
その理由の量と長さから、本当に思っているのだろう。みんなが返答に詰まっている中、ニンフィアが丁寧目に答えた。
「確かにね、開けた方が食べやすいのは何となく分かるよ。でも?そこはマナーとかじゃないのかな?」
マナーだと?目の前のヒモの言い訳には耐え難いおふざけな感じにさえ聞こえた。どう目線を変えても中に人間が入っているとしか考えざるを得ない。人間が嫌いだったのは建前か?それは違うと分かっても、そう疑うことを避けるのは、恵には難しかった。
その驚きを、恵は食事に夢中であったはずのブースターをも注目を引き付ける声の大きさで表した。
「は?お前らってそんなのがあるか?」
じゃあ今までそんな礼儀も知らなそうな、ならず者のように見ていたの?ニンフィアは呆れて何も言えなくなった。シャワーズがバトンタッチのような感じで恵との会話を引き継ぎ、反抗する意図は無いが、強く異論を唱える。
「それは失礼だよ。じゃあずっと私らがそんな風に・・・こんにゃ感じで食べていると思っていたの?・・・こっちの方が変じゃないと思わないの?」
シャワーズはわざとらしくだらしない食べ方を見せると、恵はそうだな、と言った。
「むしろそっちの方が普通だと思うぞ」
恵は本当に感じたことを言った。しかし、シャワーズの口からはため息が出てきた。
どうしてこういうどうでもいい所には敏感になるのに、それ以外はだいたい鈍感で空気も読まない、そして本当の本当に大事な時にしか良い所を見せないのか。みんなと再会してからずっと頭の中を何往復も恵に対する評価とか魅力が変わり過ぎて、おせっかいだったのかもあるが、シャワーズは息が切れたとか、体じゅうが言うことを効きにくくなっているのとは違う精神面の疲れが、今まで出さなかったため息がこの場で初めて出たように今更本性を現して、溜まっていた。
気にしないでいいと言われても、過酷な過去が気になってしまい、自分なりの気の置けない接し方になれない。それどころか、そのぶっきらぼうさが何か重みになっていて、更には、グレイシアの脚を診ようとした時の異常のことも、何ともなく思えばいいのに、心の深い部分に根付く負担のような、恐ろしい光景として目の奥に焼き付いていた。
ここで、ある疑問が頭をよぎった。
そもそも、何で恵とか言う人間と気の置けない仲になろとしているのか。恵に付いて行きたいと思っているのか。
独りぼっちでいられることが嫌だから?恵の心の強さと飾り気がない無垢な所に惹かれたから?恵の自分たちと似たような傷付いた過去を癒してあげたくて、そばにいたいから?その理由もなんとなく、自分の価値観の押し付けみたいで、少し違和感もあった。
ただ、恵を失いたくない。失うことに怯えている。ただ、それだけの為に、体質が特化している気は自分でもなんとなく分かってはいた。
エーフィ以外のみんな全員でも見付けられないような、危機を察知するのとは違う、心配に思うこととして、恵の一つ一つの僅かな違いに簡単に気付いてしまうような、そんな不思議な能力が知らず知らずのうちに身に付けていた。そして、そのエーフィですらも、さっきのぎこちなさを見過ごしたのに、この自分だけが分かるのは、もう超能力以上の境地なのかもしれない。
だとしても、シャワーズは人間相手に面倒を見るように振る舞うことが嫌いなはずなのだ。人間には色々いて、自分だけが当りが悪かったと言い切ってはいたが、正直なことを言わされるのなら、偏見とかの意味で少しは良いようには思っていない、というより普通に悪く見ていたのだ。なのに、意識しても無意識の内でも恵を心配してのは何故か。人間を心配するのは何故か?
やっぱり、恵は人間なんかじゃない。人間の身体を持った、全く別の生き物ではないかと。
とんでもない答えがシャワーズの頭の中でも産まれた。イーブイが最初に出した答えと一致してしまった。
エーフィがさっきから言っている人間らしくないとは、これに由来しているのだろう。それに、身内を殺された過去を背負って、人間としての自身を保っていられるのだろうか。たとえ鋼のような精神をもってでも。
しかも、それがぴったりと当てはまる綺麗さが鮮やか過ぎて、逆に気持ち悪くなって冷や汗が出てきた。
「おーい、大丈夫?さっきからずっと暗い顔しているけど」
食事をいち早く終えたブースターが声を聞くまで、その時間を忘れていた。
「顔色が悪いけどなんかあった?」
「具合が悪かったら無理しないで!」
次から次へとシャワーズを心配する言葉が飛び交った。その中で、
「食欲が湧かないんだったら自分が食べてあげよっか?」
「お前は飯食いたいだけだろ」
恵がブースターに珍しく明確な突っ込みを入れる一コマがあったが、隣のニンフィアとシャワーズ以外に気付かれることはなかった。
「みんな、大丈夫だから・・・、ね」
シャワーズからは詳しく分からなかったが、飛び交う言葉の中に、元から青い色の顔でも、それ以上に青ざめているとの声も上がった。疲れている分も含めて、今聞いている言葉はその通りだ、と呼べるものばかりだった。ただ、そうシャワーズ自身が明言したにもかかわらず、わめきの雨は鳴り止まないので、
「大丈夫だからって言ってるんだからいい加減静かにしろ。そのやかましさが余計に体調を悪くしたらどうすんだ?」
恵が軽い脅しを使って無理矢理感大有りながらも、イーブイは元の場所に戻り、みんなは口を閉じて、静けさを取り戻した。
「ごめんね、ちょっと考えていただけだから平気だよ」
その割には、とサンダースが言いかけた辺りで、グレイシアとリーフィア二匹係りで止めた。本当に、その割にはたじたじな様子の、シャワーズであった。
再び静かな時間を取り戻した後、まだ一言も口を出していないエーフィだけが、何かするであろうシャワーズに目を光らせていた。
食事が収まって、みんなはおのおの会話して、恵は残骸のラップだのを片付けている時、シャワーズは声を掛けた。
「ねえ、恵君」
「何だ?」
もう、この疑問をただの疑問で抑えることが出来なかった。怒らせたり、さっきのように気分を悪い方向にしてしまう怖さがあったが、自分の知りたい思いには勝てなかった。自由にしても構わないと言われたことも、最後の一押しをしてくれたのか、ためらいの気持ちはほぼなかった。
「人間って嫌い?自分も含めて何だけどね。それとも・・・」
「人間として生きるのが嫌だって言うんだろ?」
かなり唐突な質問だったが、もうそろそろ気付かれたか、という感じで、こいつが言いたいこと、聞きたいことは言わずとも分かってしまった。口に出そうとしていた言葉を先に言われて、シャワーズは驚いた。
「お前が思っていること全部そうだ。ってか何で分かった?」
何でと聞いてみたものの、返ってくる言葉は大体抽象的なものだろうと思っていた。
「なんとなく、ってしか言えないかな?」
やっぱりかよ。
恵は髪の毛をせわしなく掻いた。シャワーズも苦笑いでしか返す手立てがなかった。