凍えた記憶と決壊するもの
サンダースの言葉は、一瞬だけ信じられなかった。
始めは意外だと思った感じの表情を見せたが、何かがおかしいのか、恵は急に笑ってみせた。
「な、何だよ。笑ってないで、ちゃんと言ってくれ」
「どうせクレームか何かだろうな、って思っていたらまさかのお礼が返って来たから予想外だった。意外とお前は素直なんだなって。意表を突かれて面白かった。どうせこのまま恩を仇で返すと思っていたのに。まあ、良く出来たな」
そう言うと、もう一度サンダースの頭をわしわしとなでた。普通なら嬉しく感じるのに、恵がすると何か、嫌味にしか感じられなかった。とりあえず、照れくさく反応して返すことにした。
「そうやられると、何か恥ずかしいから止めてくれ。俺は他から褒めらるのには慣れてないんだ」
「なんだ、ただの恥ずかしがり屋か。どうりで曲がっているな、と思った訳だ」
やっぱ面倒な奴だな、と最後に愚痴った。恵はどう言う反応でも面倒がると、サンダースは認識した。痺れて言うことを聞かなくなった足に苦しめられながらも、しばらく座っていた腰をあげて、
「じゃあ、サンダースが落ち着いたから聞くけど、残りの奴らに怪我している奴はお前以外にもいるのか?」
と、まだ怪我をしているのがいないのか、全体に問いかけた。
そういえば、あんなに高い所から落ちているはずなのに、軽い切り傷だけで済んだのか、例え崖の壁に茂っている木々がクッションの役割を果たしたとしても、少し不可解に思った。それに、そこまで深刻な怪我を負っているポケモンが少ない、それどころか、サンダース以外に目で分かる傷を負っているのはいなかった。奇跡的に無傷で済んだと、この状態を説明されても信じられる人間の方が少ないだろう。
これもポケモンの何かの身体能力なのか、そう考えたら、シャワーズが言っていたあの馬鹿げた自慢も本当の事だというのか。ますますぶっ飛び身体能力が増えるばかりだ。
その不安を頭の隅に置きながらも、全体に問いかけたが、返事をしてくれたのはサンダースただ一匹だった。依然として反応は冷ややかな感じのようだった。
「俺以外で?あと、怪我しているのは、グレイシアが足が痛いとか言っていたな・・・ってグレイシア?」
そういえば、どこに行っているのか。イーブイとリーフィアに近寄ってから見ていないのを、今になって思い出した。探す為に辺りを見回そうとすると、
「何?呼んだ?」
急に声がして、更に唐突に現れたグレイシアにびっくりして、少し飛び上がってしまった。続いて、
「ねっ、恵君は“善い人”ってこと、分かってくれたかな?」
恵に集中していて、みんな周りを良く見ていなかっただけなのだが、突然、集団に入ってきたと思われてしまう形で、シャワーズはグレイシアと一緒に入ってきた。
自分達のやり取りを高見の見物していたことが快く思わないエーフィは、すぐに何をしていたのかを聞いてきた。
「グレイシア、私達と恵を放置していてシャワーズと何をしていたのかしら?」
「話してた。気になったことがあっただけ」
「ふっ、そう、ならいいわ」
味気ない返答に対しても、つまんなそうな感じで言葉で返したが、鼻を鳴らすところから満足していないようだ。シャワーズのことをどこまで根に持つんだろうと、エーフィの素振りを見てリーフィア達は思った。
グレイシアとのいさかいは起きなかったが、シャワーズがまた何か起こしそうで、無意識な内に少し恐怖感を覚えていた。その様子がイーブイに筒抜けだったのか、
「ねえ、お姉ちゃん達、何かあったの?やっぱりあの人間が怖いの?」
その時、どちらの方をさしているのか分からなかったが、その不機嫌そうな顔を不思議そうに見ていた。一番近くにいたブースターが何かをためらいがちになりながらも答えた。
「ま、まあね。少し変わっているからね。困っている感じかな?」
一応、どちらの人間にも当てはまることを言ってその場をしのいだ。さすがに仲間割れみたいなことがあったなんて伝えたら、イーブイにとっては重く受け止められてしまうこともあり得る。そうされたくないので、ニンフィアもそうそう、と加勢して相づちを打った。
それを皮切りに、今まで接するのも控えてきた恵に対してもブースターが声を掛けた。
「いきなり恵に変わるけど、サンダースに襲われてた時、怖くないの?危ないの承知でなら逃げるとかしないの?まさか、そこまで鈍くないってことはないよな?」
これから先、しばらくは無視され続けると思い込んでいたので、恵は驚き少し返答が遅れてしまった。
「お、おう。本当にいきなりだな。鈍いってことじゃないけど、ただ慣れたな。なんつうか、もうお前らのせいで何が起きても驚く気が起きなくなったな」
慣れって言っても、生命の危機を感じ取る機能が麻痺していたら、そのうち特攻とかして、自分の身を案じず突っ込まれてきそうな予感がしてたまらなかった。別に人間自体の力で殴り合いになっても危険は全くないが、逆に自分達が迷惑するので、
「な、慣れたら怖くなくなる?それって不味いんじゃないの?」
軽く注意を促して自覚してもらうことにした。が、
「そうだな。そいつにすら心配されてんだから色々狂い始めているのは自分でも承知だ。だからといって治すのも今更だけどな」
どうやら手遅れだ、そうだった。シャワーズを見て言ったので、やっぱりそうなんだと少しうなずいた。恵との関係を予想より深くなっているようだった。
「それと、だ。何か色々一気に来たけど、こいつだっけ?グルジアだか」
「グレイシア。いい加減覚えて」
なぜここまで物覚えが悪いのか、そうならもう自分自身の名前すら覚えてないのでは?と思ったが、いちいち口出しするのも切りがないので、それ以上は話さなかった。
「グレイシア、な。で、足首がどうだってのは、どんな感じだ?」
「痛みは引いているけど、サンダースみたいになんかあったらって思って、念のため」
本当に、違う意味合いでの、“念のため”に恵に近づく為にグレイシアは診断を受けてみた。
「そうか。じゃあ痛みってどんな感じか?」
「崖から落ちたのとは無関係で、歩いている時にくじいて痛くなったんだけど、触ってみないと分からないんじゃない?まあ、今は痛みが引いているし、それほど痛みは酷くなかった。だいたいの場所はここなんだけど」
そうグレイシアが後ろ足を恵に向けて、その場所に近い関節を軽く曲げる要領で指し示すと、
「見た目はやっぱりなんともないんだけど、中の損傷までは毛が邪魔して分からないな。ちょっと触るけどいいか?」
「うん、別にいいけど?」
正直、恵はグレイシアの態度に違和感を覚えていた。シャワーズの差し金かどうかは知らないが、妙にこいつら特有の目の敵にする、避けようとするような様子がなかった。スムーズに問診が進むのでいいのだが、今までの慣れのせいで今のグレイシアの方が異常に見えた。
グレイシアの方も変な所で気を使う恵が不自然に見えた。体のことにはしっかりと目を配るくせに、心境とか空気を読む力が欠けているのはどうしてなのか。その変な精神さえどうにかすれば、それなりに良い感じなのに。とてももったいないと思った。
それでも、恵は無言で触診に取り掛かった。
その足は水に濡れて熱を奪われたせいで、とても冷たかった。触った所ではねんざの特徴的な腫れや、何かで切った跡は無かった。多分、慣れない足場立て続けに踏みしめたことの疲労による筋肉痛の痛みだろうと、恵は判断した。既に痛みが無くなっていることにも合点が行く。
しかし、その温度の低さはどう考えても(例え水分が温度を奪っていったとしても)異常なぐらいの冷たさだった。ちゃんと血が通っているのか心配になるような、まるで生きているのか疑うぐらいの、氷のうを触っているような低体温だった。死人の腕と間違えても仕方がない生気の無さ・・・。
死人の腕?
絶対に触れてはいけない、いや、触れようとすることもまずいものにかすったような気がした。
やめろ、やめろ、とその時の現実を受け入れることが出来ず、何度も叫びまくったあの時、その時の空気の冷たさ、全てと言ってもいいほどの負の感情が混ざりに混ざったものが呼び覚まされて、なんでもない普通な心が揺らぎ始めた。その頃の唯一の心の支えを失った衝撃は、何にも例え難いものだった。見つけた時の夕暮れの薄気味悪い闇の奥の光景、底冷えしている空気が布地が掛かっていない所から忍び込んでくるあの寒気、そして、生命活動を失って固くなって冷たくなった中指の感触。思い出したくないからこそ、抽象的な表現だったが、それぞれが恵の脳裏で躍動感を持ってほとばしっていく。凍結させておいたはずの世界が顔をのぞかせ、あらゆる感覚器官が冷たく、凍えた反応を示していった。
次の瞬間、恵の動きが完全に止まった。体の動作はもちろん、心の動きも、更には呼吸することさえ忘れていたのだ。グレイシアはまるでそこだけ時が止まったような、何かに気がついたような恵の様子を見て、
「何かあったの?」
そう声を掛けた。その反応は、素早い動きで自分の足を握っていた手を引っ込めただけだった。
でも、明らかに様子がおかしい。手が微かに震えている。恵は何かを確かるようにその右手を左手で握った。が、震えが伝播して握り拳全体が振動していた。それに伴い、やっと呼吸が再開したが、しばらくの間息を止めていて空気不足だったのか、肩が上下するほどのとても荒い息だった。顔は伏せいているが、目もまぶたがなくなるぐらいの開き方で、今にも目玉が地面にしまいそうで怖かった。覗き込む勇気はない。だが、何かに異常に恐怖していることには分かった。
グレイシアは恵がとんでもないことに気がついて、気持ちが整理しきれずに混乱しているのではないかと思うと、自分の足はとんでもないぐらいの異常をきたしているのではないかと、怖くなった。その事実が怖くて知りたくないのに自然と好奇心が湧き、怯える感情に勝って、
「本当にどうしたの?」
と、つい聞いてしまった。しばらくの間、荒い呼吸をしていて声を出さなかったが、
「・・・いや、平気だ、なんでもない。筋肉疲労の痛みだけで、骨が折れているとか、切り傷とかは見られなかった」
この震えた早口言葉、絶対なんでもなくない。相当焦っている証拠だった。グレイシアの容体が大丈夫だと分かっても、また別の疑問が出来て、心配の程度が変わったとしても、気になる気持ちに変わりはなく、
「そうじゃなくて、恵の方の具合がなんか悪そうだけど、いきなりどうした?」
余計なお世話だったと後で思っても、この恐怖交りの知的探求心に制御を掛けるものはなく、何の抵抗もなく切り込んだ。過呼吸になって喉が渇いていたのだろう。恵は咳をしてから短く答えた。
「・・・まあな、昔のことを思い出してな」
「そのことを話してくれないかしら?」
この異変を見逃すまいと、今まで黙って様子を見てきたエーフィが割り込むように恵に話し掛けてきた。
エーフィから見て、恵は足の冷たさに触れた瞬間、はっきりとは見えなかったが、何かを思い出し、それに怯えているような感覚がしていた。多分、冷気と関係があるフラッシュバックを起こしたのだろう。いささかな心の動きはいくつか見られたが、ここまで大きな揺らぎを感じたのは初めてだった。
もし、この部分が恵の弱点なら、知っていれば後でもしもの時があっても、利用出来る可能性がある。それに過去の経験はどうあれ鮮烈であるほど、今いる恵の人格形成に重要な影響を及ぼす。もちろん深層心理の不明な所も分かる気がするので、とても知りたくて仕方がなかった。更に言えば、このようなチャンスをずっとうかがっていたので、エーフィが絶好の機会を見過ごすはずもない。
それに、イーブイの事もある。イーブイが持つ特性『きけんよち』は、相手がこちら側に対して不利なタイプの技を持っていた場合、とてつもない恐怖感に襲われて、自然と身震いを起こして他の仲間に伝える機能である。更に、自分達に対して良くない行動にも敏感で、僅かな不審な行動をも感知して、身の安全に対してはとても役立つのだ。しかし、安心であるとか、相手は優しくて安全だとかに、この能力が反応したなんて、聞いたことがない。その事に関しても、注意深く検討するにも、この異変の詳細を知りたい面でも、どうしても重要な記憶の奥底を聞きたかった。
「その過去の記憶を詳しく説明してくれない?」
エーフィは事情聴取のように、真剣な眼差しで改めて言った。
しかし、引っ込んでいたのにいきなり出てきたことに対して不満に思った、のではなく、恵をかばう為にシャワーズが更に割り込んだ。
「他の嫌な過去をむやみにほじくりかえすのは良くないって。止めようよ」
もちろんシャワーズがまた人間側に付くことをエーフィは良く思っていない。すかさず注意の声を掛ける。
「また私にたてつくつもり?今度は容赦しないと、警告したわよね」
そう、確かに目の前で人間側に移ったら、本気で手を出すと言われている。だが、それでも引き下がらない理由があった。
「でも、エーフィだって嫌な記憶を聞かれたら嫌じゃん。何かの為って言ってもそこは少し違うんじゃないの?」
「人間になんて慈悲はないわ。シャワーズもそんなぬるま湯に浸ってないで、いい加減目を覚ましたらどうなの?」
「そっちこそいつまでも冷たくしていたら、せっかく親しくしようとしていた人間もどんどん離れちゃうよ」
「そんな人間なんて所詮、騙す為に近づくだけじゃない。今までの経験はどうしたの?いい加減にして」
「だって今までとは違うじゃない!いい加減にするのはどっち?」
口論が激しくなってきた頃、付け入るタイミングを見計らってそこに、まあまあまあ、と声を掛けてグレイシアが入ってきた。
「シャワーズもそうだけど、エーフィだっていつまでも意地はってたら切りがないっしょ。てかまず争っている場合じゃないし」
「うん、まあね・・・、ちょっと熱が入り過ぎたかも」
横槍が入ってその時になって初めて自覚したのか、シャワーズは冷水を浴びたような反応をしてから、うつむきざまに反省するように言った。
「そうね。でも、シャワーズをいつまでも人間に張り付いていることも治したいのよ。私だって言い合いたくて、言い合っているんじゃないの。守りたい思いの上なんだから悪気はないのよ」
「エーフィ、それは束縛っていうんじゃないの?仲間を守ることと、仲間をがんじがらめにするのとはき違えているんじゃないの?」
グレイシアの仲裁も虚しく、シャワーズの否定した言葉から再び両極同士の、付け入る暇すら与えないほど激しい合戦が始まった。
「守ること自体だって制約がいくつかあるのよ。逆になんの縛りもなかったらばらばらになって、余計に危なくなるのよ」
「そうだけど、考えを持つことを禁止するのは絶対行き過ぎているって。何か思うぐらいいいじゃない。そんなことをしたら、みんなと楽しく生活することすら出来ないよ」
「もういいわ。そのうちその身を自分から滅ぼす羽目になるけどいいのかしら?」
「そうかもしれないよ。でも、せっかく貰った自由の身を無駄にしたくない。怖いこと、傷付くことがあるかもしれない。けど、何一つ進まないのは最も愚かな証なんじゃないの?」
「もう本当に物覚えが悪いわね。何度も言ってあげているのに、無視しているような態度を取るならなら、今からその傷付くことを始めてもいいの?こういうのは体に刻みこまないと分からないものなのかしら?・・・最後の警告よ」
「だったらやって見ればいいじゃない。みんなからもどう思われるのか、一番分かるのにそういうことをするの?」
本当に危険な空気になって、サンダースが無理矢理にでも止めにかかる。
「シャワーズ、ちょっとけんか腰になっていねえか?」
残りの四匹も後に続き、
「エーフィもサンダースの言う通り。冷静になって」
「お互いとも気持ちを落ち着かせて。見ているこっちがヒヤヒヤして怖いんだから、イーブイ君とか特に真に受けちゃうんだから、本当に止めて」
「熱くなっても別にいいし、何とも思わない。だけど、いちいち殴り合いになりそうなことを匂わせることを口にするのは、せめてふざけ合いだけにしてな。炎タイプでも肝が冷えるのは変わらないよ」
「・・・うん、そうだよ」
リーフィア、ニンフィア、ブースター、イーブイの順で、言葉を掛けた。ここは多勢に無勢、エーフィもここでいつものように折れると言う先入観から、そう思っていた。しかし、今回は切り返しが違った。
「じゃああんた達、シャワーズの味方をする、つまり人間側に身を任せるって訳?」
いきなり当たられる対象が自分達になって動揺したが、めげずにサンダース、その行動に引き続きリーフィアが言葉を返す。
「何でそういう考え方になるんだよ。別に人間を支持しているからってシャワーズの身を案じているんじゃねえんだ」
「私達は戦いにならないように間に入っているだけ。それは違う」
「でも、シャワーズは人間に付いて離れられなさそうなのよ。だからもう今後一切シャワーズと関わらない、いや、接することもしない方がいいわ。シャワーズみたいに前が見えなくなるわよ」
みんなはギョッとした。エーフィはシャワーズを改心させることには諦めて、方針を変えて自分達から外していく風にしたのだ。シャワーズの人間崇拝が自分達を腐食させない為に。でも、いくらなんでも孤立させるのはあからさまに外道。性格や人格が別のものにもなっていなく、ただ人間を信じているのでもなく、人間を信じない方も分かり合おうとする意気込みがあるのに、この待遇は酷すぎる。サンダースはすかさず異を唱える。
「切り捨てるとか安易に考えているなんて、本当にどうかしているぜ。シャワーズはまともで、俺達みたいに人間なんて畜生なんだよって思っていても、無理に押し付けているんじゃねえんだ。ただ人間を否定しないからって仲間外れにするのはおかしいだろ。シャワーズはもうそういう奴なんだから、そこにつべこべ突っ込むのはよせ。そいつの勝手なんだからいいじゃねえか」
しばらく発言を控えていたグレイシアも、前に聞いた話を糧にして、サンダースの後に続く。
「シャワーズから話を聞いた限り、やっぱりみんなとのズレがが積み重なっていさかいが起きるのが怖いって言っていたし、エーフィがそのうちそう仕向けることにも怯えていた。シャワーズだって楽天的に人間の肩代わりしているんじゃなくて、悩むことや迷いがいっぱいあるの。エーフィ、その厳しくし過ぎる態度がそうしているのが分かんないの?」
この熱弁を聞き終えたエーフィは何か落胆したようにため息をついた。そして、思いもよらない事を言い出した。
「だったら、私がいなくなればいいと言いたいのかしら?」
え?本気?と、あるものは自分の耳を疑い、またあるものは余りに自分勝手な提案に反感を買った。そういう心境になっていることを分かっていながらも、エーフィは淀みなく述べる。
「そうでもしないと、危機感を覚えないでしょうに。今はそれだけ大変なことになっているのよ」
「お前な、仲間のシャワーズをなんだと思っているんだ!危険物扱いってか?いなくなるからいいってもんじゃ・・・」
言葉の重要性の焦りが相まって、サンダースはかっとなりそのままエーフィに突っ込もうとして、
「突っかかるのは止めて!」
平和主義のニンフィアに差し止められた。しかし、今度はブースターが、
「相手が体を使ってまで分からせたいって言っているなら、こっちだって一発はぶん殴る権利はあるんだ。ニンフィアとイーブイ、それとリーフィアにはすまないけど、許してくれ」
出来るだけ、気持ちを抑えて優しく言った。身内で喧嘩をして欲しくないのは痛いぐらいに分かる。だから、迷惑を掛けないように今まで沈黙を守っていた。だが、さすがにエーフィの身勝手な発言に限界が来てしまい、申し訳ないようだが、一度はぶっ飛ばさないと気がすまないようだった。渋々頷くニンフィアの顔を見届けると、エーフィに向くと、
「エーフィ、ワガママが過ぎんじゃねえのか?自分からも言わせもらうよ。あんたは使えなくなったら何も思わず切り捨てる人間と殆ど変わんねえってな!」
さっきとは反対にきつくガンガン大声を浴びせる。
「みんなは信用するだの、そういう先入観があるから、人間に良い所だけ持っていかれて騙されて、こういう羽目になるのよ」
「なんだ?俺達なんて見下されて当然みたいなことを言って、それだったらエーフィも一緒だろ!」
サンダースの怒鳴り声を限界が来ているのか、ところどころかすれてしまっている。エーフィはいつまでも古典的な反論を返され続けて嫌気が差してきていた。もう決着を付けてしまいたいと思い、一つ思い切って行動で示すことにした。
「そこまで言うのなら・・・」
そう口に出して、サンダースの割り込みからずっと引っ込んでいたシャワーズに、目を合わせた。そして、
「こうするまでよ!」
右前足を上に伸ばした。
それからどうするか、大体予想がついていた。いつかあった、時が物凄くゆっくりと再生されるような感覚。エーフィの手の平がシャワーズの顔面へと迫っていく。そして、その手の平の衝撃が音となって耳に入っていた。
シャワーズは平手打ちを受けて、顔を伏せている。ただえさえ一触即発の状態であるというのに、こんなに刺激してしまったら、収拾がつかなくなってしまう。
「これで私とみんなとの違いが分かったはず。みんなが愚かだから、こうするしか・・・」
「もう許さねえぞ!エーフィ!」
それからの声の掛け合いは激しすぎて単語を聞き取ることが出来なかった。
三匹、いや、みんなが、私ですら我を忘れている。ブースターもエーフィの暴走を止めることすら記憶の彼方へと消えている。シャワーズもとうとう傷ついてしまった。エーフィなんて、みんなと殆ど敵対している。まるで元々苦楽を共にた仲間であることを忘れたように。
止めてあげたい。でも、自分じゃどうしようも出来ない。仮にけん制の「ハイパーボイス」を放った所で自分の背徳に背いてしまう。何も出来なくてもどかしい。でも、その前に恐怖心が立ちはだかる。もう自分の実力ではこの溝は埋まらない。どうしよう・・・。
もう、尽力する為の支えである優しく見守る心が折れて、何もかも絶望しかけていた。
その時、隣で息をめいいっぱい吸い込む風の音が聞こえたと思うと、
「お前らうるせえなちょっとは黙れ!」
恵の怒鳴り声が飛んできたのだ。