ひねくれものとおかしな生きもの








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第三章〜崖の下のひねくれもの
恵の技とサンダースの意地
恵は、もう自分達と関わることはしないようだった。

小柄な人間はテポドンとか言っていたが、静かな様子から無視しても構わないと思い、イーブイは後から来たサンダースに興味の対象を変えた。

しかし、足がほのかに赤く染まっているのを見て、

「サンダース!その足の怪我、どうしたの?」

今さっきの感動に満ちた気持ちから一気に深い不安感に変わった。表情の変化の仕方を見てサンダースは、

「別にどおってことはねえよ。心配するな」

何でもなさそう口元を緩めて言うと、不安をはぐらかすように前足でイーブイの軽く叩いた。本当なら、その後は足の怪我の事には気にも留め無かっただろう。

しかし、やっと休息をまともに取れたと思えた恵は、面倒になると分かっていても、職業としての血がどうしてもその一言が聞き捨てならないようだった。せっかく落ち着けられた重い腰を嫌々ながらも、速めのスピードで上げた。

いつもようなのんびりとした足取りではなく、切羽詰まった軽い駆け足で恵がこちら側に移動するのを見て、リーフィア達や、そのやや後方にいるエーフィがいつもより鋭い視線を向けた。テポドンも横を通り過ぎて行く際、

「東も最近は苦労しているのだな。何の積もりであの見たことが無い動物を飼っているのか知らないが、まあ、精々仲良くしていくがいい。私はここでしばし傍観するとしよう」

恵とは対照的にいつも通りの口調でテポドンは話し掛けてきた。傍観する、と、言うことは、全くポケモン達への興味は無いということになる。この人間は興味を持ったことに対してかなりの執念を費やすので、恵は面倒が増えなくて良かったと、そのことに関しては胸をなで下ろした。

軽く立ち止まって、お互い様だ、とだけ恵は返した。

しかし、まだ本題が残っている。

「何だよ。いきなりきやがって。何か手出ししたら容赦ねえぞ」

やはりこいつらに威嚇されるのは自分の体質なのか、と全体の様子を見てつくづく思った。その点には深く悩まず黄色い奴、確かサンダースとか言ってた奴に目線を合わせるように恵はしゃがんで話をした。

「その足、大丈夫っぽさが無いな。浮かせているってことは、他のものに触るのが痛くて地面に付けられないからだろ」

また、同じことを聞いてきた。サンダースは恵の心配する感情が込もってない、言葉だけの質問に対してうっとうしく思った。やはり、観察力がとても鋭い、少し特殊な人間。感じだけではなく、ちゃんと理由付けしているので少し返答に困り、

「あ、いや、違う。浮かしているのはその、たまたまで、あれだ。えっと・・・」

思うように口が進まなかった。その、あやふやなサンダースの弁解を恵は遮断した。しかし、その後の言葉が、この場に似合うものだと思えないものだった。

「どっちにしろ痛いんだろ。そんだけの重傷を負っていて去勢張って放っておいたら、細菌が入って最悪足腐ってなくなるぞ。それと、考えを透かせられるんだったらちょっとは前もって忠告はしろよな。エビ」

テポドンのこととは違う意味で、サンダースを含めて、全員は恵の言っている意味が分からなかった。エーフィは自分のまた間違えたことを不服に思って文句を言おうとしたが、ここまでストレートに言うことを予測出来ず、それどころじゃなくなってしまった。

足を失うというのが、サンダースという種族にとってどれだけの死活問題か、自分が一番分かっていた。だからこそ、こんなことなんか、

「はあ?嘘だよな。どうせ意地張って脅してとっとと恵の家に俺らを帰らせたいだけなんだろ。そうだろ。なあ?」

でっち上げに決まっている、いや決まってなくてならない。これぐらいの傷が果たして自分を追い詰めるのか?馬鹿馬鹿しい。そんな冗談は通用しないと、少しすがり付く想いをほのめかしながら、恵に再度聞いた。が、

「そんならそんなで後ろ足に歩行器くっ付けて三本脚で暮らしたいか?別に自分はお前の意見は否定する積もりは無いが」

「ちょっと待ってくれよ・・・マジなのか?」

あまり変わらない、それどころか未来の生活環まで提示されて、ますます雲行きが怪しくなっていた。サンダースは一度自分の怪我をしている右後足を見た。しかし、それでも恵は伝える内容を変えなかった。

「気持ちは分かる。でも、ここで自分が嘘付いていたところで不幸になるのはお前だ。そんなことをするほど自分は卑屈な・・・」

そんなの絶対嫌だ。しつこく言う恵に対して、サンダースは何かが弾けた。

「なあ?おい!嘘だって言ってくれよ!足がなくなる?冗談じゃねえぞ!」

怒り、憎しみ、戸惑い、恐怖、悲しみ、それぞれが混ざった感情に任せて恵の言葉を途中で切り、真っ向からおかしな言葉を言う相手に罵倒した。それは、サンダースの本能に近いものだった。その後、気に入らない恵に体当たりをかまして、倒れ込んだ所に飛び掛かり馬乗りになりながらも、止まらぬ勢いのまま怒鳴り続ける。

「そんなことしたら、死ぬより辛いかも知れないんだぜ!ふざけんじゃねえ!足がなくなったら?そんなの地獄以外の何でもねえんだ!俺の生きる意味がなくなるんだよ!・・・そうだったら、俺が生きる意味ってあと何があるんだよ・・・、仲間を殺しかけた俺に・・・何が残るって言うんだよ・・・。そんなこと言うんだったら教えろよ!なあ!」

言葉や思いを吐けば吐くほど、よく考えれば自分の存在価値なんて、足の速さだけが取り柄だったと思い出した。それがあったところで仲間を助けられる訳でもない。だからと言って、それがなくなったら、頭が回らないただの本当の役立たずになってしまう。それだけは、回避したかった。でも、そうなる現実を目の前にして、初めて自慢の足の速さだけにすがっていた自分が浮き彫りになったことに対してとても悔しかった。自分はそんな小物だと認めたくない。けど、今は認めざるを得ない状況に立っていることは、変えようがない事実であった。

じゃあ、ただえさえ誇れるものが少ない自分が、唯一の救いである足を失ったら?肉体以外、何も残らなくなるのは火を見るよりも明らかだった。そう、自分が生きる意味は無いに等しいものだった。自分の生き様がどうとかあっても、そんな過去なんてあってもなくても変わらない。つまり、つまんなかったのだ。なんて自分は哀れなんだろう。その悲しみから、ついにサンダースは掴み掛かっていた部分を涙で濡らし始めてしまった。
















その頃のグレイシアとシャワーズは話す題材が尽きて、遠くから恵とみんなのやり取りを見ていた。いきなり始まった罵る大声と恵を襲うサンダースを見て、グレイシアが近づこうとして行こうとしたが、

「あれは恵君だけににやらせて。私らに入っても多分、悪化すると思うの。良かったらみんなにも伝えて」

と、恵を気にかける立場であるシャワーズに逆に止められた。いくらなんでもこちらが見ている上では、かなり危険な状況だった。すぐに思った疑問をシャワーズにぶつける。

「じゃあ、恵ってそんな力あるって言うの?恵の心の強さは伊達じゃないって話は聞いているけど、あれは無茶なんじゃない?」

ううん、とグレイシアの意見を否定すると、自分の思いを照らし合せながらシャワーズは話した。

「言葉の力が確かなのはあるけど、それ以外の何かで落ち着かせられると思う」

返答を聞きながらも心の言葉でみんなに伝えていた。幸いにも、まだ心の会話のコネクターが繋がっていて伝えることが出来た。首をふったシャワーズに更に突っ込んだ。

「何か?一応、みんなに、割って間に入らないように、って伝えたけど、どんな感じなの?」

「言いにくいんだけと、なんかね、受け入れてくれる?みたいな感じだった。私が過去を打ち明けたんだけど・・・」

「ねえ!そんなことより、あっちが危ないことになっているけど、それでも平気だと言うの?」

シャワーズの懐かしむ話を途中で止めて、グレイシアが視線を話題の場所に向けると、そこでは、サンダースが恵の首に噛み付こうとしていた。始め、えっ?と驚いたと思ったが、それでもシャワーズに心配そうに見ているどころか、焦りすら感じられなかった。ただ、

「大丈夫」

とつぶやき、こくりと頷いただけだった。

何を思ってそうしたのか、グレイシアにはさっぱり分かる気がしなかった。















逆上して怒ったり、そうしていたら突然泣いたり、何を思っているのか分からないが、恵はコロコロ変わる感情の様子を心配して、

「男っぽいけから言うけど、泣くな、情けないぞ。まあ、きついこと言ったから、無理はないか」

恵は押し倒された体制のまま、震えているサンダースの背中を撫でようとしたが、サンダースの鋭くなった体毛が拒絶するように手首を傷つけて、赤い筋を作っていった。

「気安く触るんじゃねえ!」

もう介入されたくもない、自暴自棄になっていた。考えたくもない、逆にそう思われたくもない。だから、

「そんなに自分が嫌だったら首でも噛み切って存在を消せばいいだろ」

「ああ、そうしてやる!」

殺す。バカで単細胞なサンダースにはお似合いだった。

宣言通りサンダースは犬歯を剥き出しにして、力いっぱい大きく口を開き、まさに噛み付こうとしたその時、恵の喉仏が動いて一言だけ言った。

「まあ、そうやって自分の足を助けられる可能性を潰しちまうんだな」

「・・・は?」

助けられる?希望?反応したくないのに、気になって口の動きが止まった。別の本能なのか、とにかく自分の意思に反して行動を停止させる。

「やっぱり動物なんだな、って思っだけだ。何にも考えない所がそのまんまなんだなって。ほら、その牙で喉笛を貫いちゃえよ」

「今、助けられるって言ったよな?」

恵はこくりと首を少し、地面と距離を開けた。サンダースもなんとなく話したくなって間合いを取った。

「じゃあ、足が腐ってなくなるってのは・・・」

聞いて間もなく、いかにも話しを聞いていないなと思っている顔を見せられて、そうサンダースが気が付く頃に、恵はため息を付いてから、だるそうに口を動かした。

「いいか?誰が今からお前の後ろ足がなくなるって言った。エビの奴か?そんなら言っとけ。本当に、最悪な場合の対処した時の結果だけだって。もし、そこんところを自分が言っていなかったら自分が謝る。足を切断する判断をする時は、本当に命の危険もさらされた最悪な時だけだ。まだ、壊死(えし)とか化膿(かのう)とか、かなりヤバそうなことになってないなら、普通に傷口洗って適当に色々やって置けばなんともない。あと、これからしばらく暴れ回るのもダメだからな」

言葉の端々に怪しい要素があったが、助かる見込みがあることが分かると、本能的な部分が治まると入れ替わりに、精神面の疲れがどっと来て少し足下がふらついた。正直、泣き崩れてもおかしくないと、自分ながらに思っていた。ただの言葉あやで騙されていいて、今のが単なる誤解が招いた結果だと分かっていても、助かったという思いから寝そべっている恵から後光が差しているように見えた。

その外では、サンダースが恵への攻撃を止めるまでの過程を見ていたグレイシアは、サンダースが襲いかかるその時の驚いた、口が開きっぱなしの表情から動かす事を忘れて、口の中が少し乾燥してしまった。シャワーズは少し自慢気に、唖然とした表情を下から覗き込んだ。

「お前さ、そういうのをもっと早く言ってくれよ・・・、でも、良かった」

自分の心境を隠すのがここまで難しいとは、この場になって初めて知った、もう一つのことだった。今度はこちらから反撃しよう、そう心に決めて、

「とりあえず、・・・本当になくなると思っていた半端じゃない取り越し苦労分、返せ!」

「じゃあお構いなく首に・・・」

「そんなに俺がバカだと思ったか?お構いなく小指でいたぶってやるか!」

「まさかって・・・」

首元に襲うフェイントをかけると、恵の左手にの指先に目標を切り替えて、手加減を殆どせずに思うがままに小さな小指に噛み付いた。しかし、恵が鈍感なことをいいことに調子に乗り過ぎて、

「痛えな。って結構血、出てないか?」

恵が言って、あ、と気が付いた時には恵の小指は赤く染まっていた。サンダースも口の臭いの異変に気付くと、慌てて口を開けて距離を置いた。

「やべっ、強過ぎた」

そう言った頃にはもう遅く、恵の小指は血液の色の赤黒い色になっていた。恵はこのことを起点にして、少し調子に乗り過ぎたサンダースにちょうどいいお仕置きをしようと、自分が怪我人であることを利用して、軽い脅しを仕掛けてみた。

「あれれー?この指じゃまともに治療が出来ないかもー。やっぱり足を・・・」

「待ってくれ!今のは俺の意思じゃなくて事故だ!事故」

イタズラっぽく恵は言っているにも関わらず、サンダースはかなりあたふたしていて、その反動でうっかり足を滑らすと、恵の上から転げ落ちたしまった。押さえ付けている物体の体重が腹の上からなくなって、やっと恵は起き上がれると、相変わらずふざけてみた。

「でもお構いなくって言ったんだからそれは違うんじゃねーの?」

「そ、そうだけど、ここまで恵の指がもろかったなんて知らなかったんだよ。お願いだからそれだけは勘弁してくれ」

体を急いで立て直してから、言い訳を紡いだ。本当に必死になっている様子から、もう十分効いたと判断した恵は、もう言えることがないのと、さすがにこれ以上にかわいそうなので、

「じゃあ、言うことは?」

この回答だけを聞いたら終わらせることにした。

「ウグっ・・・。ご、ごめんなさい・・・」

人間相手に言うのは抵抗がある。でも、言わないと治して貰えないのかもしれない。ここは仕方ないと感じながらも、ちゃんと謝ることにした。

謝罪しても、サンダースは柄に合わず縮こまってしまった。引っぱたかれ怒鳴られるより、またネチネチと後まで引きずられるのが怖くて、少し怯えていた。一方、恵はサンダースと対照的に大きく出て、

「良く出来たな。別にそれほど深くは責めやしてないから大丈夫だ。まあ、謝ったらそれでいい」

結局、思ったよりしつこくはなく、血が付かないように小指だけを上げて、サンダースの頭を軽く触った。恵の意外な出方にきょとんとしたサンダースだったが、

「でも、小指を怪我させてのは俺なんだぜ。俺のことに対して何かしら悪く思っているんじゃ・・・」

それでも罪悪感は晴らせなかった。相手の許しが降りても、自分が許せない。だが、恵はその心境を悟ったのか、恵は言葉が詰まった所から話を続けた。

「そんなこと気にしてたら、世話人なんてやってらんないし、そう引っかかれて噛まれての、踏んだり蹴ったりされるのが自分の使命ってもんよ。どうせお前らなんて自分のことをぶっ飛ばす材料としか見ていなさそうだし」

かなり自虐的な言い分だったが、少しだけ重みが外れた気がした。逆に、自分達は元からやんちゃでどうしようもない存在だと認めてしまえば、背負っている荷物が幾分楽になり、去勢を張る必要が少なくなる。正直、そう思われてもいいのかと、まだうしろめたい部分が沢山ある。が、

「それでも、怪我した事実は変わらないんだ。だから、その・・・」

「俺に出来る事は何かないのか、って言いたいんだろ?こんな擦り傷なんぞ、唾吐いてちょっと布切れ巻いていれば平気だ。気にすんな。それより、お前は自分の足の傷の方を心配しろ」

今、自分が心配すべきものを他人から言われて、サンダースは気付かされた。他を思いやるのなら、まず自分のことを心配しろと。そうでないと、心配される方が逆に気休め出来ない。そして、自分はこんなにも無知だったんだと、改めて思い知らされた。

恵はそのまま言った事を実行するように、まず、胸の位置にあるポケットから、巻き取られた小型のガーゼを取り出して、手の平ぐらいの長さまで伸ばた。次に、それを口に近づけて本体に近い方の所を、自身の歯で噛み切ったら、そのまま真ん中辺りを二()めして唾液で濡らした。最後に、歯型が残っている小指の血に染まっているあたりにそれをそっと当ててから器用に包むように巻き付けると、余った両端をきれいな蝶結びで結んだ。

その後、流れるような作業に見とれて固まっているサンダースに向き直ると、

「んじゃ、ついでだからお前もやっとくか?」

サンダースの足と自分の処置を施した小指を見比べて、聞いてみた。が、返ってきた答えは、

「別にいい、治るって言うんならそんぐらいかえって邪魔に・・・」

なぜここまで強がるのか。癖か?ちょっと強引な感じになるが、面倒なので脅すことにした。

「だからな、そんなに遠慮して放って置くとばい菌が入ってだな・・・」

「じゃあ、お願いします」

ウダウダする態度をすぐに変えて、向きを変えて後ろ足を差し出すと、つくづく素直じゃねえな、と愚痴をこぼしていながらも恵は作業に取り掛かった。

その中でサンダースは恵に関してのことで、幾つか気付いた事があった。自分の感覚が鈍くなっているのか分からないが、恵はそれほど痛みを与えずにガーゼを貼っていったのだ。普通なら軽く触れる程度で針を刺したような激痛がするのだが、まるで痛覚神経の場所を知っていて避けているように、力加減を調整していたのだ。もちろん歯を食いしばる覚悟で軽く目をつむったのだが、誰でも耐えられるぐらいの軽いものしか感じられない。安心してまぶたを開けると、サンダースは恵の手の動きを不思議そうに目で追っていた。

更にもう一つは、実際に恵の瞳を見てわかったことなのだが、明らかに様子が違っていて、恐怖さえも感じられた。物事に没頭し、集中力を高めている眼差しはあの府抜けた姿からは想像すら出来なかった。少なくともこのスイッチの切り替え方は、中身だけが他人と入れ替わったのと思っても、仕方ないぐらいなまでの異常なレベルだった。本当に何者なのか、この恵という人間。シャワーズをああした理由もこの中に入るのか、ますます疑問が増えるばかりだった。

そう考えているのはサンダースだけではなく、その気迫に押されていただけで、エーフィ達も恵の心境の変化を観察しながら考えていた。

命の危機を意識出来ているのに、なぜ恐怖心を抱かないのか。少しだけ分かったような気がした。恵は、心の切り替えが並ではなかったのだ。まるで別の人格が表れたように、気分を落ち着かせて相手を包み込む意気込みで、とても温かく穏やかな、まるで母親が子供を介抱する光景を連想するような、そういった少しだけ心配するような、なんでも受け入れる体制を作っていたのだ。あの荒々しい行動をとってたサンダースですらいとおしく見えていて、とにかく相手の不満のガスを抜くことに専念した。その結果、自分を犠牲にする動きを取ったのだ。

あと、他にも新しく気になることが増えた。恵は獣医という、人間以外の動物を扱う医者になることを目指していることも新たに分かったことだった。それだけあって、思考に使う知識も並々ならぬものであった。集中度もかなりのもので、傷口を見ている目力も、見てでも分かりやすいぐらいに強かった。

もし、イーブイが感じ取った何かが恵の深層心理に繋がるものであるなら、根はもっとまともな人間であることになる。しかし、そう決め付けると矛盾する所が出てくる。そうなら、なぜわざわざ『きけんよち』で察知したのか。本来の機能は、自分に不利な相性の技を相手が持っていた場合に、とてつもない恐怖感に包まれて、自然と身震いを起こして自分や周りの仲間に伝える役割である。更に、危なげな気配を感じ取る能力がとても敏感で、わずかな異変や不審な行動でも反応出来るのだ。しかし、相手に温かい感情があることに反応するなんて、見たことも聞いたこともない。少なくとも、恵にはまだ違う部分があると考え直すと、感化さらることなく、エーフィはそのまま観察を続けていくことにした。

こう、あまりない脳味噌でサンダースが考えている間にも、包帯を巻くことは既に終わっていて、

「こんなもんか?」

と、恵に声を掛けられるまで気が付かなかった。それほど、高い技術で刺激を少なくしていたのだ。巻き終わった白い帯を見てみると、骨折したポケモンや人間が巻き付けられるような、よく見るあのぐるぐる巻きの形になっていた。

「あ、終わったんだ。結構短く済むんだな」

「いや、まだ終わってはいない。これは応急処置みたいなやつ、詳しく言うと細菌がこれ以上入らないようにとか、傷口を広げないようにとか、止血するだけのことだから、まあ家で残りの事をちゃっちゃと済ませて、やっと一息つけるんだけどな。しばらくは動きずらいけど、ちょっとは我慢してくれよ」

動きずらいと言われたが、軽く力を入れても、あまりそう感じられなかった。もし、動けるゆとりの分も考えて縛ったのなら、凄いの言葉以外、評価出来る言葉が思い浮かばなかった。

もう終わった出来事なのに、サンダースはまだ腑に落ちない部分があった。不意に作用して、

「あ、あの・・・」

口から漏れ出してしまった。その小さな声を聞き取った恵は、

「なんだ、まだ文句があるのか?」

また食い下がるサンダースを面倒くさそうな思いを声ににじませた。

「い、いや。そうじゃなくて・・・」

そうじゃないのだ。不満でも、意見でもないのだ。ただ、自分のプライドが、人間に対しては言うことを猛烈に反発しているのだ。それは、自分の意識でもないのだ。でも、自分の中のどこかにいる第三者みたいな何かが、相手に失礼だと、鳴り止まないのだ。もちろん、プライドや自分の意識が主張しているそれは、道徳的に失礼だ。でも、そうすることも、人間に借りを作ることを認めた事実になり、その借りはサンダースとしての生き恥を晒す羽目になるのでもある。その葛藤が長く続き、無言になってしまった。

「・・・じゃあなんだ?」

話題を吹っかけて置いて口ごもっていることにしびれを切らし始めて、恵はため息を漏らした。言いたくないと、言わなければという二つの使命感に押し潰されそうになっていた。しかし、その状況を打開するのは、意外にも恵とみんなの目線だった。やはり、自分の意思をごり押しするのは、エーフィみたいに反感を買われることが多い。恵に取り合ってもらえなかったらと考えると、とても怖かった。そして、

「助けてくれて、あ、ありがとう」

自分の意思としては、言いたいつもりがなかったのに、自然と感謝を表す単語が口から出てきていた。

からげんき ( 2014/11/30(日) 10:21 )