ひねくれものとおかしな生きもの








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第三章〜崖の下のひねくれもの
ある意味全員集合?
言葉を全て理解することは出来なかった。だが、とにかくとんでもないことを言ったのは、ここで、

『恵を知ってる』

と、聞いていた誰しもが分かっていた。

遠くテポドン越しでも、恵に怒鳴り続けるリーフィアの気迫がここまで伝わってくることから、恵は相当ひどいことをやらかしたに違いない。しかし、まだ自分達の存在に気が付いていないようで、こちら側に振り向かず、リーフィアに押され気味のまま、恵は話し込んでいた。

しかし、後ろの川の水の中からも良く聞こえるものなのか、噂を聞きつけたシャワーズが盛大な水しぶきを上げて、

「恵くん!こっち!」

と自分が今この場所にいることを知らせる為に、かなりの声を出して恵を呼んだ。その声が案外大きかったので、サンダース達は腰を抜かしそうになった。

「シャワーズ、ちょっとは俺らの調子も考えてくれ。まだ心の準備が整っていねえんだ」

シャワーズが脚を水面から出した直後のタイミングで、サンダースが注意する。

「ごめん、つい気分が浮いちゃって、サンダース達のことを考えないでうっかりしていた。本当にごめん」

エーフィの心の声がシャワーズの心の深くに強く残っていて、あまり軽い口調で答えることができなかった。サンダースも突然、お調子者だった態度が反省の色になり戸惑いと安堵が同時に訪れたが、

「あ、ああ。なら良いんだ。感じが良いと思っているけど、それでも相手は人間なんだ。浮かれすぎないでくれよ」

とりあえず、安堵した反応の方を取った。分かった、と返事が返って来た頃、サンダース達に気付いたリーフィアが、こちら側に来るところであった。

一方、恵は散々頭ごなしに耳元で叫ばれては、頭が痛かったので、一度その場にしゃがみ込んで痛みが収まるのを待っていた。リュックサックの中であれだけ鳴いても、イーブイがまだ喚く気力があるようで、奇声(多分、仲間の名前を言っているのだが、聞き取りはもうやってられないので、鳴き声的なこととして捉えて置く)を挙げると、恵を置いてきぼりにして、とっとと再会の地へと向かって行ってしまった。ちょっとは礼ぐらいしたらどうなんだ、と言いたかった。だが、言ったところで何も変わらないような様子である上に、またガミガミ言われるはもうこりごりなので、いちゃもんは付けず、背負っていたリュックサックと腰を降ろすだけにした。

リーフィアとかもそうだった。イーブイ程の威力はなかったが、

「痛くはないけど、顔にぶつかっているのを何とかして!」

みたいな言葉をしきりに連呼していて、その言葉に取り合いながらも、崖下りをする為にも意識を割くと、頭がおかしくなりそうなぐらいに精神が粉々になっていた。痛くないなら我慢しろ、さもないと全員まっ逆さまになるぞ、と警告を出したが、無意味で終わってしまったと捉えざるをえない態度だった。

ほったらかしにされた恵は二匹の跡を追うように視線だけを動かしていくと、あの連中がちょうどそこにいた。全員が視界に収まったちょうどその時に、シャワーズからも恵を呼ぶ声が飛んできた。皮肉にも、どうやらまだ元気があるようだった。

しかし、あの小柄で坊主頭の人間に気が付くと、恵は少し驚くと共に気の毒に思った。何かまた面倒な事に巻き込まれていなければと思っていたが、多分絶望視してもいいだろう。そこからの反応をどうするか悩んだ結果、

「あれ?テポドンか。どうだったか?そいつら」

とりあえず、相手に聞こえるだけの声で挨拶だけはしておいた。

あっちの方の事もあるが、取り合える気力が起きなかった。シャワーズはまだまともでも、殆どの連中がリーフィアみたいな調子なら、余計に行くべきではないので、ここは放置しておくことにした。

その時、自分の状況と少し似ていると思われるテポドンから答えが返ってきた。

「ああ、少し過激な接待をしてくれたな。私的には調子が悪くなった釣りの後のちょうどいい暇潰しになったが」

皮肉混じりの答えにやっぱりか、と恵はため息をまた付いた。

恵の様子を見て、私達への心配は後回しか、とエーフィは心で毒づいた。テポドンと恵が知り合いなのは確からしく、かなり意外だった。更に言うと相手の仲間が一人増えたとも見ることが出来るので、緊張感がより強くなった。

シャワーズは、どんな感じの人間かは分からなくとも、恵に友達のような存在がいてくれて安心した。座っているので、また、あのまま居眠りをするんじゃないかと予想が付いたが、後で起こせばいいかと思い、リーフィアや、今さっき砂利に足を取られて転んでしまったイーブイを後で迎え入れることを決めた。

何と足場が悪いのか、と砂利に向かって不満に思っていた。それでも、後から追い付いたイーブイと共に、みんなと再会を果たせてとても感動していた。その感情からリーフィアは、一番近くにいたブースターが実物かどうか確認する為に、そのまま抱きついた。荒れていても、ふわふわの体毛が頬に当たって本物だと分かると、苦しくならないように離れてから言葉を掛けた。が、

「良かった・・・本当に良かった・・・」

感動のあまり、それしか言葉に出来なかった。それからは嬉し涙が溢れて、声は言葉にならなくなってしまい、そして、その思いを代わりに伝える為にもう一度ブースターを抱き寄せた。イーブイも後からリーフィアの上に飛び付く形でブースターに思いっきり体を寄せた。その微笑ましく光景をしばし見届けてから、後ろにいるサンダースも歩き寄った。それに(なら)うようにニンフィアも跡をつける。

一方、グレイシアは液体の状態から姿を現したシャワーズに話を付ける為にその場に行かずに、サンダース達とは少し違う方向へと向かって行った。エーフィはどちらに行くか、少し考えてからリーフィア達の元に向かうことを決めた。


















サンダース達が左斜め前に見える位置の川べりで、シャワーズ、とグレイシアは声を掛けた。

「ねえ、いきなりだけど、そういう素振りをしていてさ、どう思っているの?」

「ええと、そのまま言っちゃっていいかな?」

本来ならよどみなくすらすら言いたいのだが、あの心のつっかえがあるので、言って良いのかどうかを一度聞かないとどうしても気が済まなかった。サンダースに言われた時もそうだったが、仲間内なのに改まっているシャワーズが少し気に掛かった。

「なんか悪いことなの?別に遠慮しなくてもいいけど、そんな言いにくいの?」

その後のシャワーズはよく見ていた、いつもの控え目な様子だった。

「まあ、ね。エーフィに叱られちゃって。今後、下手なことをしたら本気で排除するって言ってきたから、ちょっと気分が沈んじゃってね」

心で何かエーフィに言われて、それが心に響いたのだろう。無論、恵側を支持する気は無いが、仲間としてグレイシアが気に掛けるのは当然だった。

「それは、結構気持ちに響くわ。調子に乗り過ぎたからってのもあるけど、いくらなんでもそれは酷い。エーフィのやり方って少し攻撃的っていうのが玉にキズって奴だし、それが性格になっているから更に面倒だしね・・・、ましてや、シャワーズは恵寄りになっちゃったから余計に風当たりが強くて、私達よりももっと振り回されて迷惑だよね。・・・あ、そうだ、今は愚痴っている場合じゃないんだ。ごめんごめん、じゃあ、遠慮なく、どうぞ」

うっかりグレイシアの本音が出てしまったが、エーフィは恵に取り合っていて気付かれてはないので、面倒にならなくてほっとした。

しかし、好きな話題が来ると、そうなるのは本能なのか、シャワーズはハイテンションな感じに戻ってしまった。

「まあ・・・、恵君の真似はね、めっちゃ楽しいよ!」

自分の気持ちを読める能力はなかったはずなのに、少し落ち込み過ぎじゃない?という期待に応たかのように自信満々な感じで言葉をつづった。

「一回やってみれば分かるって。相手の反応が面白いし、なんかあんまり考えないでも言えて疲れないから、結構気楽に話せるよ」

ハキハキとした喋り方から、元気を取り戻してくれたのはいいのだが、

「え?楽しい?気楽?」

逆に戸惑ってしまう。実際がどうなのかはさておき、どうにもシャワーズが言っている言葉の意味が飲み込めなかった。

グレイシアの疑問符を示すように小首を傾げる素振りを見て、やはり相手を困惑させてしまったのか、と思ったシャワーズ自身もまた心の不安が募って、

「多分、信じられないと思うけど、本当にそうなの。・・・やっぱり、変なこと言っちゃったかな・・・」

最後の方を独り言のように濁すと、グレイシアとの視線を外して川の水に薄く映る自分の姿を覗き込んだ。

自分は人間と仲間の間で揉まれて、板挟みになった悩みがこれ程までに大きな負荷が掛かるなんて知らなかった。確かに人間なんてたかが知れている。けど、恵のように善い人間の仲間になるのとは違う。そう、元から人間を悪い生き物と決め付けるのは間違っているのだ、と言いたい。でも、その考えを示したところで反発されてしまったら、さらなる孤立となってしまうこともあり得るのだ。それが一番危惧していて、それが心にある異物としての硬い物体としてへばり付いていて、それか作るたゆみが心配の重度となって現れていた。どちらとも何とか諭して一緒にさせたい。でも、結局は人間との和解なんて夢物語で、どっちか一方に背を向けなければならないのか。人知れず深い物思いにふけってた。

シャワーズは恵のようなため息をつくと、波紋で水面に浮かぶ自分の虚像が揺らめいた。グレイシアはその様子を見て、やっぱりシャワーズは変わることで悩んでいるんだ、と共感出来る部分が見つかって良かったと思っていた。

だが、それでも相手はかなりの苦労をしているのだ。シャワーズ自体、楽天的な考え方の持ち主なので、どんなことに対しても殆ど悩みも持つことはしなかった。だから、考え込むこと自体、稀な出来事であり、シャワーズもあまり慣れないことで戸惑っているのだ。

少しはねぎらってやりたいと思ったが、掛けられそうな言葉が無くて、同じく揺れる鏡に映る歪んだシャワーズを見つめるのみであった。慰めも出来ない自分が少し歯がゆかった。

その横では、サンダース達がリーフィアとイーブイの再会を祝っていてとても温かそうな雰囲気に包まれている。しかし、対照的にこちらは静かで、日が当たらない場所のような寒気がどんよりと立ち込めていた。

自分は物理的な寒さには慣れているが、気としての寒さには氷タイプをもってしても、あまりいい気分にはなれなかった。

これが孤立と言うものなのか、とても恐ろしいことに気が付くと、更なる寒気に襲われて、珍しく身震いを起こしてしまった。

さすがに、そのまま暗い気分で座っているのも変なので、気休めに技ではない、生理的なあくびを一つした。

その時、何か答えを出したのか、シャワーズが口を開き、グレイシアの名前を呼んだ。

「ねえ、グレイシア」

「え?あ、何?」

「恵ってさ、自分で思う分にはどう見ているの?」

突然、沈黙をシャワーズの方から破られて、少しだけびっくりしたが、よどんだものを払ってくれたので、

「どう思う、ねえ・・・」

表側では曇っている表情をさらしているが、内心では、変に居心地が悪い状態から少し楽になって、曇っている空に日差しがちらほらと散在しているような感じの気分だった。そんな時に考えて、出した答えは、

「色々あったけど、やっぱり、思いやりがあまり無い、変わった人間って私は見ている。でも、まだ会って半日しか経っていないから、もしかしたらシャワーズみたいに見え方が変わるかもしれない。多分可能性は低いと思うけど。まあ、結論を言うと、もう少し様子を見てから答えを出そうかな、って感じ。・・・何かいまいちよく分かんないね」

心の曇りが反映されたのか、実質、先送りで曖昧な感じになってしまった。でも、

「じゃあ、それでいいじゃん。ここでどんな人間だか、じっくり見てから答えを出してもいいよ。それなら、どう言われてもいい覚悟ぐらい私だってある。もし、恵君のだけじゃあ足りなくて、私の考えの方も聞いてみたいんだったら話してあげる。参考になったら良いかな、って思っているだけなんだけどね」

答えてくれたことが嬉しかったようで、落ち込むことはなく、ちょうど真ん中辺りの控えめな感じの調子に戻ってくれた。

「じゃ、その話、聞けるなら聞いてみる。エーフィみたいにそんなに反発したって切りがないし、何かしらの情報も集めておくのも悪くないからね」

ありがとう、とシャワーズは返した。どうせなら、シャワーズの方の期待にも応えてみようと思い、話しを聞くことにした。

せめてでも、少しでいいから変わった後のシャワーズのことを分かってやりたい。その材料ぐらいは集めて置きたかった。

からげんき ( 2014/11/24(月) 19:31 )