ひねくれものとおかしな生きもの - 第三章〜崖の下のひねくれもの
なまけは決して悪いものではない
本当に、突然の出来事だった。

何かかなり大きめの物体が落ちたような音がしたのでサンダース一行は、テポドンとニンフィアをその場に置いて、少しずつ近づいていた。

その中、この事態に対して暗い気持ちでエーフィは推量をしていた。

「まさかとは思っているけど、最悪な場合、イーブイが私達のあとを追って、ここに落ちてきたって・・・」

「その想像はよせ。とにかく無事でいることを願うんだ」

サンダースはすぐにその負の推量を消し去った。グレイシアはその言葉から続けて、

「私もここら辺に落ちたけど、何ともなかったんだし、大丈夫じゃないの?」

流れを嫌な感じから良い方向へと持っていこうとした。そうだよな、とサンダースとブースターは相槌を打った。

その後はまた警戒心を強め、慎重に水が流れている所まで忍び歩きで迫った。但し、ブースターだけは水が苦手なので、少し後ろに立っている。

しばらく間が空いた。その長さに比例して、陰険な空気は増えていく。

「唯の落石、又は動物が落ちてきたのでは?ここの環境であれば、珍しい現象ではないと・・・」

テポドンが一言伝えようとした次の瞬間、タイミングを計らったかのように、水の流れている音の中に、不自然に大きな、水面を平たいもので叩くような音が耳に入り、サンダース達は臨戦体勢に入った。ニンフィアも無意識にリボンの結び目をきつくした。

間もなくして、音を起こした正体は姿を水面の上に現した。しかし、それは驚きと安堵をもたらした。

「シャワーズ!」

ニンフィアも一緒に、サンダース達は声を挙げて驚きの表情を見せた。

「ここの水めっちゃキレイ!ってみんな!」

シャワーズも偶然目の前にいたあのメンバーの顔立ちを見て、驚いた反応のあまり、周りに水滴を撒き散らしてしまった。

「え?あの人間はどうしたの?体洗いでいたんだよね。脱走してきたの?あと他のイーブイとかリーフィアは?ブラッキーも」

グレイシアが興奮して高くなった声でシャワーズに迫った。

「とりあえず、みんな生きててよかった。恵君?後々合流するって言ってた。リーフィアとイーブイも一緒にいるよ。あとサンダース!その傷は大丈夫なの?」

え?とまた声を揃えて驚いた。サンダースは別に平気だ、と言いたかったが、その前の不穏な単語に反応してそれどころではなかった。すぐにエーフィが問い詰める。

「今、君って言わなかった?」

まんざらでもなさそうにうん、と言った。その声を聞いて、みんなは更に顔色が悪くなって、エーフィは訴える。

「ちょっと待って!相手は人間よ。それなのに君呼びって、慣れ親しんでいるから、じゃないわよね?」

物凄い焦燥感で、エーフィは少し声が裏返った感じになってしまった。しかし、答えは予想していた最悪なものであった。

「裏切るみたいに聞こえちゃうと思うけど、私はそう、もう仲良くすることに決めた。それと、私はこれから約束として、恵君に新しい名前を付けてもらうことになった」

その言葉が衝撃過ぎて、口はあんぐり空いたままになってしまった。なんでよ、と言われる事を前提に、シャワーズは話を続けた。

「やっぱり変な所は沢山あるけど、本当は優しさいっぱいの“善い人間”だと思うの。おかしな所は、素直に自分が思ったことそのまんまに行動したり、あまりよく考えないで口に出しちゃってトラブルを起こしたりしちゃうから、そう思うだけなんだけどね。ただ意地悪じゃなくて、“人間としてそうなんだ”らしい、恵君曰く」

一通り話し終わった頃、サンダース達の顔は魂が抜けたように生気は無く、光のない瞳はサンダースとブースター以外、湿っていて潤んでいた。その中、突然ニンフィアが仕事を放棄し、エーフィの横から飛び出してきて、今にも泣き出しそうか声質で、シャワーズの目の前で思いを伝えた。

「ねえ、シャワーズ!一体どうしちゃったの?洗脳されちゃったの?人間と一緒に生きて行くなんか嘘だよね?私のこと、分かる?ねえ、そんな事嫌だって言ってよ・・・」

この事態をニンフィアは本当だなんて考えたく無い、信じたくなかった。シャワーズも心情を察すると、

「なんか、ゴメンね。いきなり沢山、おかしな事言って。でも、全部本当なの。ゴメン」

二度目も謝りの言葉を言い、シャワーズはニンフィアに近づいた。自らの頭を相手の右肩に乗せて、左前足を相手の右前足に乗せて、四足歩行のポケモンがする抱擁をした。自分の首筋にニンフィアの涙が垂れる感覚がはっきりとあった。それからも、シャワーズは繰返しゴメン、勝手にゴメン、本当なの、と謝り続けた。

しばらくして、シャワーズが“本物”だと分かると、

「私もちょっと悪かったかな・・・。みんな、生きている上じゃあ考え方も変わっていくし、ワガママだった私も、もう少し柔らかく受け入れないとダメみたい。私もゴメン、だね」

そう耳元で囁くと、もう大丈夫、と言ってシャワーズの体から離れていった。

「でも、どうして人間に着いて行くことになったの?悪いけど、恵が優しい性格だなんて私は信じられない。いくら素直でも元々が曲がっていたら嫌なの一緒だよ」

落ち着きを取り戻しても、ニンフィアはまだ納得がいかなかった。あの何の前触れも無く、絶叫体験をさせられた恵である。他にもエーフィをエビ呼ばわりしたりと、みんな良くない印象が心に焼き付いていた。でも、シャワーズが言う答えは相変わらず想像を斜め上を行くものであった。

「そこはさすがに擁護出来ない。ここに来る前にこういうことを実際に恵君に話したけど、目の前で居眠りをかまされる始末だし、そうね、普通に考えたら無理は無いよ。でも、そこがいいのかな。異常なまでの完璧主義に飽きていたから、その反対に憧れてた私がいたのも否定出来ないし」

そう言えば、と思い出した。シャワーズはトレーナーに捨てられてきたのだ。上を目指すあまり、力不足として爪弾きにされた存在。それから綺麗事や無駄に表だけを着飾ったことを毛嫌いするようになったのだ。一つ瞬きをしてから、更に続けた。

「それと、私は恵君を守りたくなったのもあるのかな?少し、共感出来ることもあって」

共感出来ること?あの人間と似たところがあるのか、考えていたが、考えが見えるエーフィ以外は思いつかないでいた。勿論、このことには敏感なエーフィが咄嗟の質問をする。

「その事って本当に起きたことだと断定出来ないわ。何かの罠とかは考えないの?」

「そうだけど、ずっと独りぼっちだったのは本当だし、嘘を付いたところで、私らを利用出来ることは少ないと思う。確かに嘘は付いたけど、とても下手くそだった。私らを助けた理由を聞いてみたんだけど、“何となく”だって。馬鹿みたい」

シャワーズの言い分も分からなくもない。恵という人間は自分達以前に、ポケモンのポの字も知らないような情報弱者である。その前もまた、危険性に鈍感だったり、聞き間違いが多かったりと、とても他を利用する方面にはとても向いてないタイプだということも、その行動一つ一つが見せかけでもない為、当てはめるには相当無理があった。

「で、共感出来ることって何?」

ブースターが一つ聞いてきた。少し唸り、答えに悩んだ結果、

「出来ること、か・・・。一つ二つだけじゃないんだよね。凄い長い話になるけどいい?」

長く語ることにした。みんなも当然のようにうなずいた。

シャワーズは初めて聞いた時の衝撃を噛み締めながら、口を開いた。

















言っていた通り、途中からだるくなる程とても長くはなく、三、四分くらいの話だった。シャワーズは、出来る限り正確に伝えた。全員が無言の反応を返した。無言でも、言いたい感想はほぼ同じだった。エーフィを除いて。

「そう、なかなか悲惨な人生を歩んでいたのね。恵は。でも、私は作り話だと思うわ。気にしなくていい、のところで引っ掛かるの。自分の辛い過去をさらけ出して平気だと言うの?たとえシャワーズが言うに強い心を持っていたとしても」

決して否定出来ない見解だった。エーフィから見て人間という生き物は欲望と嘘の塊だと今までの経験が語っている。その中にも共感を得て騙す人間に会ったこともある為、まだ信用出来る要素ではないと思っていた。それでも、シャワーズも言い過ぎていると思い、

「確かにそう。でも、気にしないのは、私らに無駄に気に使われたくないからなのかも・・・」

「そうだとするならば、それまでの私達への仕打ちはどうだったっていうの?私には納得出来ないわ」

「変わったんじゃない?気持ちは結構変わ・・・」

「そこも、恵の勝手な都合って事もあり得るわよね。シャワーズが見てきた姿は全て張りぼてで・・・」

「だとしても、一度信じてみようよ。いくらなんでも片っ端から疑うなんて、信じなさ過ぎるんじゃないの?本当の張りぼては、ああいう素っ気ない適当さで、本当は世話焼きでとても優しく接してくれるんだけど、私らがあまり見かけないからどこか素直に慣れなくて、調子が空回りしているだけのことと思う。だからリーフィアがのどを詰まらせた時、適当な雰囲気から血相を変えてすっ飛んできたんじゃないの?例え裏切るような事があっても、私らにはもう、あの時の力のしがらみだって無いの」

「なるほどね。けど、一度手遅れになったらもう二度と安全を確保出来ないか分からない。それを正気で?信じられないわ。あと一つ」

一方的な発言に対してを異論を唱えたのだが、反論が反論を呼びますます熱を帯びてきて、二匹の間に決定的なズレが出てきていた。長い駄弁もこれで最後にしようと、エーフィは呼び方と声質を変えて決着の質問をした。

「あんたは人間側に付く気?」

その目は本来、敵に向けるべき鋭い視線だった。しかし、その先にいるのはシャワーズ。これがどういう事を示しているのか、知りたくなくても一目瞭然だった。

傍らで見ていたサンダース達は、その二匹の間で揺れていた。シャワーズが人間側に付くことも、身内で争いが起きる、または仲間割れが起きることも、両方とも起きて欲しくなかったが、仲裁しようにも言える言葉が見つからなかった。もし、仲裁の言葉が変に誤解されて、あんたはどうなの?と聞かれたら、答える事が出来なくなる。それが怖かった。

そのまましばらく沈黙が続くとサンダース達は思っていた。しかし、割りと早く沈黙を破ったのはシャワーズだった。

「あんたって・・・。そうかそうじゃないかの二つに絞る以外の方法は考えられなかったの?エーフィってそんなに単細胞だったっけ?」

知能を罵る言葉、単細胞。それをエーフィに向けて言うには禁句だったはず、とサンダースは生唾を飲んだ。

あるものを試したい為に、気持ちを切り替えたシャワーズ自身は、あの自重しない素っ気なさを使ってみたのだが、

「その言葉、言ったんだから覚悟は出来ているのよね?」

無駄に怒らせてしまい、戦闘体制を構えるほど敵意が剥き出しになってしまった。エーフィの感情はもう収まりがつかないようで、自分の考えを少し押し付け気味になってしまったことに後悔していた。

でも、呆れさせられれば引いてくれるのでは?と考えた。まだボケが足りていない?と思いわざと、

「覚悟って何?」

と答えてみた。エーフィその言動がわざとだと分かっていたが、なぜわざと答えた?と理由を考えてたが説明付けられることが出来なかったのであえて乗らずに、

「何よ、今更。先手はあんたにくれてやる。さあ、頭を冷やしたいならかかって来るがいいわ」

自分のペースに乗せて、自己流としては合うものではなかったが、相手に向け言葉で挑発をしてみた。エーフィはどう来てもいいように集中力を高めた。が、その反応はどうかしていたのだった。

「そう思ったけど、やめた」

「え?何よ。今度は敵前逃亡でもする気?私に勝てる気がしない・・・」

「面倒くさい。だってもう精神面で十分疲れたし、もうエネルギーを使いたくない」

そうふてくされたように言うと、ソッポを向いて寝っ転がってしまった。まるで“なまける”を使ったようにやる気の無さが直に伝わってきた。

「なら私が先手を取らせて頂くけど、いいかしら?」

「お好きにどうぞ。なんとでもやれば」

先制宣言を脅しで出したが、どうも動く気持ちは無いようだった。

「避ける気が全く見られないし、罠を仕掛けたように思えないけど、本当に、いいのね」

「いいよ。やりたいようにやれば」

本当に、の所にアクセントを付けたが変化無し。

「あんた、今から攻撃を受けるとわざわざ警告しているのに、寝そべるなんて随分肝が据わったものね・・・。いい加減動いたらどうなの?」

今度は返答すら返って来なかった。なんの為に戦意喪失しているのか、そしてなぜ危機感すら抱いていないのか。訳が分からなくなり少し混乱し始めた。さすがに冷静を装うことが難しくなり、実力行使をしようと脚を動かした、その時にやっとシャワーズは反応を示した。しかし、

「来ないなら、川で溶けて遊んでいる」

それは、戦線離脱と変わらないものだった。かったるそうに体をゴロゴロと転がすと、そのまま水の中に入っていった。エーフィは慌てて駆け寄るが、シャワーズは姿は透明な液体の中に姿を消していて、もうそれらしきものは見えなかった。

「・・・え?は?え?何だったの?今の?」

シャワーズは山程の困惑を残して姿をくらましてしまった。エーフィは逃げられたのか、そうではなく、ただ手の平が転がされていたのか、又は自分の行動に呆れて相手にしたくなかったのか、それとも、はなから戦う気は無かったのか、理由として考えられる事は幾らでも挙げられて、すっかり困り果てていた。どうして良いかも分からず、いなくなった場所を何度もきょろきょろしていると、

「なあ、もう良いんじゃねえのか?」

同じく状況を把握出来ていないサンダースが諦めるように声を掛けた。それを皮切りに、

「最後の方、完全にやる気ゼロっぽかった。関わる事自体嫌々みたいだった」

「言ったら悪い、じゃなくて悪そうだと思うけど、なんか性格だけ恵が乗り移ったように見えたのは、気のせいかな?なんか雰囲気が似ていたよ」

「絶対恵に何か吹き込まれているとしか思えない。恵が恵だし、精神面がグロッキーになるのは分かってやれないでもないけど、あのだらけ方は異常。鈍感な部分も移らないとあそこまで綺麗に演技すら出来ないと思う。ニンフィアの言った通り、恵の霊とか取り憑いたとかあってもおかしくない」

今の奇妙な出来事を見た感想を、ブースター、ニンフィア、グレイシアの順番に答えた。

「でも、本当にどうしたんだろう・・・シャワーズは。リーフィアとブラッキー、あとイーブイも心配」

ニンフィアの独り言のような発言に、そうだよね(な)、と自然に声が揃って出てきた。

そこで今更ながらも、ぽつりとグレイシアが言った。

「で、何していたんだっけ?」

あ、と声を聞くことろ、すっかり忘れてしまっていたようだ。そうだな、程度が大多数だったが、その中で一番慌てたのはあの人間を放置していたニンフィアだった。

無理な急発進をして軽くこけるほど急いで戻ったが、テポドンは静かに後ろに腕を組んだまま、何ともなくその場で立っていた。

拘束が解かれても介入する気はなかったようで、傍観しているだけのようだった。でも、サンダース達の視線に気付いたようで、話し掛けてきた。だが、

「私が察するにそのシャワーズとか呼んでいた動物は、獣諸君の知り合いのようだが、グループとしての親和性が見られなかったが、敵対するほど・・・」

「“面倒で気が利かない恵君のように相手を呆れさせつつ混乱させて黙らせる”作戦、成功!」

どうも狙ったとしか言えないタイミングでシャワーズは水遊びから戻ってきた。自分が話しを途中で切断されたのは何度目だろう、そしてしまいには一文でも言わせる権利をそこまで認めたくないのか、と言いたくなった。しかし案の定、

「あんた!何よその作戦、行ったことに対する尊厳とかは無いの?」

自分が言う前にエーフィとか言う動物が先に出てきて、出られる幕が無くなってしまった。

「ソンゲン?何それ?美味いの?」

「いい加減、ふざけるのも大概にしなさい!」

「え?ふざけていないよ〜。真面目にしているけど?」

エーフィは怒りの感情任せになっていて、自身のモットーとも言える冷静な対応が出来なくなっていた。その様子を傍らで見ていた三匹と、二匹を挟んで向こう側にいるニンフィアは、シャワーズのペースになっていることに薄々感じていた。シャワーズが行っている作戦は、常に(ひねく)れた答えが返し続け、相手を困惑させて圧倒するという、恵の人格を応用したものであった。

「そんなに言う事を聞かないなら今度こそ実力行使よ。例えあんたが水に溶けていようが、場所さえ分かれば私の攻撃は通じるのよ。身の程を知るがいいわ!」

「へー、そーなんだー。すごいねー」

関心は殆ど無く、言わされているような言い方をした。こう言われるのも相当心に刺さるようで、

「もうやめなさい!」

「何にもしていないけど、何かした?私」

「もう!今の状況だと、私が能力を殆ど使えないのを分かってからかっているの?」

「それがどうかしたの?」

「それが、って何よ!本当に言いたい事は何よ!」

「うーん、無いね」

とうとう堪忍袋の緒が切れてしまい、言葉も発さずつかつかとエーフィはシャワーズに歩み寄る。しかし、

「エーフィ、もうやめろ!シャワーズもそこまでだ。今はケンカしている場合じゃねえんだ」

飛び出してきたサンダースに阻まれた。ニンフィアもエーフィの片足をリボンで縛り、気持ちを抑えるように促す。エーフィも行動を制限している二匹を睨んだが、自分の立場を理解したようで、

「分かった。謝るわ。でも、今のシャワーズは変になっているのよ。イライラしないの?」

なんとか落ち着いてくれた。だが、まだ気持ちはくすぶっているようで、シャワーズに向ける眼差しは変わっていなかった。その部分も根絶やしにする為にニンフィアは敢えて諭した。

「ま、まあ。でも、それってわざとらしくしてからで、本当に変になってはいないと思うよ。・・・ね、シャワーズ」

「え?ああ、そうだけど?」

突然振られて戸惑ったが、なんとかいつもの調子に合わせられてほっとした。しかし、エーフィには筒抜けていた。

『なんかとても愉快そうね。状況からして、今ここではそんなにものは言えない。けど、今度は何があろうと、人間側に寝返るような真似をしたら、例え誰か仲間がいても手加減無しよ。これは警告よ』

心の声で捨て台詞を吐くと、

「なら良かったわ。でも、異常だったわよ。何でだか分からないけど、恵の不真面目な真似は今後しないように」

一つの区切りを付けるようにして、シャワーズに向かって静かに言うと、

「じゃあ、テポドンとか言ったかしら。まだ、人間としての接待が終わっていなかったから、ブースター、自己紹介の続きをよろしく」

残りをブースターに押し付けて、テポドンへと向きを変えた。

ブースターは、後ろの三匹に、

「そんじゃ、行ってくる」

と、言うとすたすたとその場を離れようとしたが、

「待って」

と、グレイシアに引き留められた。いきなりだったので少しきょとんとした表情を見せてから、

「何?いきなり」

もう一度後ろに振り返った。

「シャワーズってさ、恵のものまねをして良い気分だと思う?」

「それは当事者に聞かないと分かんない。なんなら聞いてくれば?」

言った事は妥当な事である。しかし、

「それが今は無理なの。水に溶けているし、ちゃんとしていない答え方を返されそうだし」

グレイシアはシャワーズがいたはずの場所を指差し代わりに目線で指した。状況がこうなので、

「ならさ、間を置いとけば良いんじゃね?」

こうなってしまう。でも、まだ後ろ髪を引かれるならぬ、尻尾を引かれる思いがグレイシアには残っていて、

「そうね。でも心配じゃん。シャワーズは本当に真面目に不真面目な人間の演技をしているのかって。エーフィが、それからあまり変えたくないような事をシャワーズが少しだけ思っていたから注意するように、って言われてきたから」

「そうなのか。でも、それに悩んでいることはみんな同じだって。じゃ、行ってくる」

グレイシアのいかにも悩んでいそうな顔には振り返らず、テポドンに向かって歩いて行った。そして、自らの名前を名乗った。

「何回か聞いていると思うけど、自分の名前はブースターって言うんだ」

しかし、相手の口から出たのはその名前に対するコメントではなく、

「そうか。あと、話が変わり余計と思うが、その度々話題に上がっていたと考えられる、恵とやらは、あの罵詈雑言(ばりぞうごん)を雨のように浴びせられている人間が該当しそうだが。獣諸君と何の関係かは知らずとも、私はその東 恵に関する知識は持っている。何なら話そうか?」

恵という人間が来たことを告げるものであった。が、しかし、サンダース達はもっと別の事で恐ろしかった。

少なくとも、このテポドンは恵と関係がある人間だったのだ。

■筆者メッセージ
こんばんは、もしくはこんにちは。からげんきです。
今年も今日から逆算して、あと七週間で終わるそうです。早いものですね。
あと何回こちらに投稿出来るのかも手の平の指で表せるぐらいにになってきました。
とにかく、今年いっぱいも、よろしくお願いします。
からげんき ( 2014/11/14(金) 18:42 )