ひねくれものとおかしな生きもの








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第三章〜崖の下のひねくれもの
懺悔と賭博
イーブイはずっと尻もちを付いていた、というより体を動かすことができなかった。

あっという間にみんなが崖の底へと消えて、いなくなった現実が夢であって欲しいと思い続けていたが、時間が経つにつれ、視界がぼんやりとかすみ始めた。様々なものの境界線が分からなくなり、せっかくのきれいな景色も乾ききっていない絵画に水をかけたようにドロドロに溶けていく。それでも、事実までもが景色のようにぼやけて、帳消しになることはなかった。

そんな中、心では、自分があの時一緒に行っておけば、という思いと、自分に託された命を無駄にするのか、という思いがせめぎ合いをしていた。そのせめぎ合っているものが少しずつ混ざり始めて、お互いを中和し合い、打ち消し合って何もなくなった。心は空っぽになり、そこからどこか、正でも負でもない、どうでもいいような感情が生まれて、

『生きてる意味あんの?』

と言う声さえ聞こえてくるようになっていた。そうだ、自分に生きていく価値なんてもともとなかったんだ。昔はそれすら許されなかった。でも、今なら出来る。この悪夢から醒めて苦しみから解放するためにも、みんなの元へ旅立とう。

イーブイは体を起こして、崖に向かって歩き始めた。さっきとは違って腰抜けが治り、体に力が入るようになっていた。もう迷わない、自分の胸に刃の先を突き付けられているような鈍い感触がしているが、そんなのは気にしない。そのまま茶色の土がむき出しのところ、みんなが奈落の底に引きずられた現場の前に立った。

目がくらむほどの高さに、足がすくみそうになる。でも、あと一歩踏み出せば、全て終わる。意を決して足を空に突き出そうとした時、突然、横から強い衝撃を受け、目の前の視界が不自然に、真横にずれてから上下が反転したと思うとぐるぐると回り始めた。

自分を止める為、リーフィアが体当たりをしてきたのだ。

「バカ!」

怒鳴られるのは当然だろう。自分がどんな事をしようとしたのか、見つけられたら止めさせられるのは当たり前。でも、自分のせっかくの勇気を否定されたのは、とても気に障る。イーブイは起き上がって言いたいこと、今の状況を訴えた。

「・・・どうして?どうしてなの?僕だけが生きてて何があるって言うの?止めたならさ、教えてよ、ねえ」

イーブイの心の悲痛な叫びを聞いて、リーフィアは気難しい気持ちになったが、何が起こったのか分からなかったので、

「そんなの、・・・私だって分からない。・・・でも、今なにがあったの、・・・それだけ教えて」

一気に飛ばしていて、更に崖から落ちようとした所を見て全速力で走ったので、息が切らして途切れ途切れにながらもこうなるまでの出来事を聞いた。そうしなければ、理解しようにも理解ができない。イーブイをここまで追い込んだのには、結構な出来事がないとなるはずがない。そんな口から出てきたのは、こんな小さな体で、受け止めきれないぐらいの悲惨な事件だった。

「みんな、ここから落ちちゃった。僕だけを残して」

ここから落ちた?リーフィアは高さの確認の為に崖から顔を出してのぞくと、木が生い茂り視界を遮っているのもあるが、底が遠すぎて見えなかった。そっと頬を撫でる谷間風が吹き、それが高さによる恐怖をより逆撫(さかな)でして、身震いを起こした。その様子を見てから、イーブイは今の気持ちをまた言葉にした。

「何も出来なかった僕のせいだ。そう、僕が見殺しにしたんだ。みんなを。そんな奴がのうのうと生きてるなんて、おかしいと思わない?」

あの思い出したくない瞬間がまだ根付く脳裏に焼き付いているのが、言っただけでその度にはっきりと再生できることで、強く思い知らされた。先程から涙が止まらないのもこのせいのように思えた。

「何も出来なかったのは、フォロー出来ないけど、絶対イーブイのせいじゃない。自分だけを責めてばっかりで、毎回落ち込むのは、強い当たり方だと思うけど、うんざりなの」

「そんなの、分かっているよ。じゃあ、誰のせいなの?そこがはっきりしないと、そうしないと、はけ口が無くなっちゃうじゃん。ぶつけられないと、理不尽だよ。誰かが絶対に起こしたきっかけを作ったんだよ。そうじゃなかったら・・・こんな事なんて起きなかったのに!」

小さな体からはそう考えられないほどの大きさの声が、そこから放たれた。耳をつんざく音が体にひしひしと刺さりながらも、その嘆くような思いを噛み締めてから、

「そう、きっかけさえ無ければ、出来事も起きない。でも・・・」

と、リーフィアが言葉を返す。

「じゃあ誰かが作ったきっかけだけで世の中が回っているっていうの?・・・残念だけど、そんなことはありえない」

違う、理不尽だ!と声を張り上げている元にもう一言、

「そう、世の中なんて、理不尽だらけ。そんなの、イーブイ自身が身をもって分かってたんじゃないの?」

その最後の言葉にびくっと体を反応させたイーブイは、熱を持ったものに冷水を掛けられたように勢いが落ち、口ごもってしまった。そこからは、諭すように語り始めた。

「許せなかったのは分かる。だけど、どうしても、不幸があった事実をねじ曲げることも出来ないし、逆らう事も出来ない。生きる上で、これだけはずっと背中合わせ。まだ実感が湧かない私も、仲間が突然いなくなって、泣き崩れそうだけど、止まってたら前に進めない・・・。だから・・・それで・・・」

だが、進むという単語を口に出したあたりから、説得する一言一言の勢いが徐々に衰えていき、

「ごめん。やっぱり、私の説得力じゃあダメだ。私がこんな事をほざいても無理か。かっこよく進む、とか言ったけど、行くあてだってないし、この私もこうやって口だと何でも言えるけど、実際のところはずっと尻込みしてたから、言ったところで効果ないのは目に見えている。横から見れば、臆病な奴が何おとぎ話をしているんだ?だなんてからかわれても、・・・文句が言えない。・・・どんなに侮辱されようとも・・・、死ぬなんていう一番簡単に楽になれることにも怯えて・・・、それぐらい、私は弱い。・・・所詮、勇気の欠片も出せない・・・進化前のイーブイですら・・・行動に出来たのに。・・・そんなの、雑魚同然の扱いよ・・・私は・・・」

段々涙声になって行き、最後は本当に泣き崩れてしまった。話に重なった過去の(さげす)みの事も思い出してしまい、心を縛っていたものが再び強く締め付け、あの屈辱が蘇ってきた。

あの時、役立たずのできそこないの烙印を押され、延々と弱い呼ばわりされて、そこに嫌気がさして、復讐と共に強さを見せつけてやろうと思っていた。しかし、それは過ち以外のなんでもなかった。ただ生真面目に地道に力を蓄えていき、発揮する為にも、自分を下位と決め付けた張本人に真っ向勝負を仕掛けたのだ。が、全てが正々堂々だと思っていた自分が甘かった。何人もの手練が相手ではさすがにかなうはずがない。その時、初めて知ったのだ。勝つためには手段を選ばないとはこのようなことだと。どんなに汚い手を使おうとも、どこまでもどす黒いインチキをしても、最後に勝った方が正義だと。その後、相手は自分に無条件で襲ってきた根も葉もない事を自身の権力まかせに撒き散らし、再起しないように自分が悪者になるように仕立てられてしまい、完全に孤立の状態になってしまった。

もう勝利には努力もクソもない事の味を知ったリーフィアは、どんな小者になってもいい、ただ、自分の正義を証明したい、その為に不意打ちを決意した。しかし、また失敗したのだ。理由はその相手が不運にも殺しの趣味を持っていたので、その現場を見て恐怖のあまり足がすくんでしまい、すぐに尻尾巻いて逃げたつもりだったが、また吹聴されてしまった。最終的に、殺しの事が明るみに出ると、挙句の果てには濡れ衣を着せられるはめになり、冤罪を晴らせず、殺しの汚名を着せられたまま、あの地獄へと堕とされてしまった。

本当は、もっと体を鍛えて、相手が何人だろうと屈しない力と意志をもって挑んでいれば、自分の強さを誇示できたと、そしてその事を実行する気が起きなかった自分に対して、とても悔しかった。でも、どうしても、リーフィアは悔しいで終わらせてしまう。

口で言えても今だってすぐに気が失せてしまう。踏み出したくても先に進めない。努力の結晶が壊されるのが怖いから、理不尽な結果を目の当たりにするのが嫌だから、ずっとこのままが一番楽で、例え一歩進むことをしても、ある先は頓挫。それしかないと、頭の辞書に書いてあり、いくら腐っていても、利益さえ出ればいい、世の中なんてそんなものだと、心に決め付けていた。

しかし、矛盾することに、そんな面を許せないものもあった。あの時の弱虫のレッテルへの反抗の志しはどこへ行ったのか。変えられないからと言ってふてくされる、あきらめる、変化がないならすぐに挑戦を棄権する。それこそ、改めなくてはいけない自分の弱さなのである、と考えることもあった。

そう、相反する二つの思考が、ちょうどいい話題が上がったのをきっかけに、無意識という幕からめくれ上がっていった。久しぶりに登場して、そこから芋づる式に過去のどす黒い思い出と、その時の悔やんでも悔やみきれないやるせない気持ちが、虚勢の感情の釣り合いを崩してしまったのだ。

「結局は・・・、あの最低な奴と・・・同格。・・・口だけで、何も・・・何も出来やしない」

泣きじゃくっている中からやっと聞き取れるぐらいの声が聞こえた。自分だけではないと、それはみんな同じで、わがままだと分かると、とても切ない気持ちになった。リーフィアも過去に苦しんでいる。慰めの言葉を掛けたいが、果たしてこの原因を作った張本人がそのような行為をしていいのか、疑問だった。でも、何も出来ないことに対しても、どこか悔しかった。

しばらく泣いて涙が枯れたようで、リーフィアは前足で目をぬぐって顔を上げた。リーフィアも、いつまでもうずうずしてたらダメだと、体にムチを張って切り替えると、次することをイーブイに伝えた。

「ごめん、迷惑をかけた。とにかく、みんなを探そう」

「えっ?みんなは崖から落ちて・・・」

「もうあきらめない。もしかすると、みんなは無事かもしれない。信じることが、私達に残された最後の希望なの」

そういえば、下には木があるのを思い出した。それがクッションの役割をしてみんなが無事でいる可能性もある。

「分かった。でも、どうやってここから下に降りるの?」

「それは・・・どうしよう」

崖から降りる方法で返答に迷っているその時、後ろから足音が聞こえてきた。

「フィー・・・。遅れたな。この下に降りたいんだろ。ちょっと待ってろ」

やっと恵が到着したのだ。時期的にそうなったのか、こんな人間にもどこか期待を寄せてしまうのであった。

自分でも良く分からなかった。少し、頬がほころびていた。
















そんな頃、サンダースは相変わらず長い棒を持って何かをしている人間に警戒しながら、観察していた。にしても、不思議と自分を風景の中にある一つの石として見てるように、殆ど気にする様子はなかった。

背は低く、年で例えるなら十歳程の身長だろう。頭には毛が一つも生えてなく、少してかっていた。足元にいるエーフィに気付いている様子だったが、無視をしているように見えた。さっきの行動であの壊れたテントにも何かありそうだ。

その男も気に留めなかったが、いつまでも居座り続ける黄色の動物がまだいることは知っていた。ただ気になることと言えば、さっきの騒動以来、全く魚が竿にヒットしていないのと、逃がした獲物がそこそこ大きくて、なかなか手応えが良かったせいで、損した気分が大きく、なんかその動物のせいのようにも思えた。

ほどなくして、男のそばにいた桃色の動物が何かに反応したのか、目を覚ましてその男に気が付くと、すぐに飛び上がって距離を取ろうとしたが、巻き付いているものに引っ掛かってしまい、こけてしまった。でも、警戒していることには変わらないようだ。

エーフィが起きたのを見たサンダースは、あの人間に気付かれないように、出来るだけ表情を変えずに心の声を飛ばした。

『大丈夫か?』

『・・・、大丈夫よ。どうしてだか分からないけど、痛みはそれほど酷くない。それよりサンダース、その傷は何?』

目の前にいる人間に対峙していたので、しばらく反応はなかったが、なんとか応答があった。どうやら無事のようだ。

『平気だ。かすっただけで、なんともねえよ。エーフィも無事か。残りのメンバーは?』

あといないのはニンフィアとブースターの二匹。それさえ分かれば安心出来る。

『多分、ニンフィアならあの壊れた建物の中にいると思う。私と同じように繋がっていたから、ブースターもその近くにいると思う。ニンフィアのリボンがそこに続いているからそのテントの中にいることは確定ね。あと、この男は私達に手出しする気は今のところはないわ。だからといってその警戒心は解かなくてもいいけど、緩めてもいいと思う。あとサンダースも、やせ我慢していても無駄よ。痛がっているのことぐらい私にはお見通しよ』

分かった、とサンダースは心の中で返した。が、怪我を我慢出来ていないという痛いところを突かれて、少し恥ずかしかった。エーフィも何か釣ろうとして、神経を集中させている男にも気を配りながら、ニンフィアがいるであろう場所へと少しずつ後ずさりした。しかし、その時に、砂利に足を取られて音を立ててしまった。

耳にはっきり届くほどの大きさの、何かをこすったような軽い音が聞こえて、さすがに気になったので、その男は釣り糸が垂れる点が視界から外れないように、少しだけ視線を逸らして、ピンク色の獣の様子を見てみた。すると、少しずつ移動して、後ろ向きでテント跡に向かっていた。しかし、自分の僅かな視線を感じ取ったのか、その動きを止めた。

未だに襲おうとかの思考はしていないようだが、今ので自分に注目が偏り始めてしまった。サンダースもその事を自分から察知したようで、

『なあ、平気か?なんか棒を動かしている人間は何を考えているんだ?』

心配して心で呼びかけてきた。エーフィも無事であることを伝える。

『何とも無いわ、今のところ。その男は釣りをしているらしい。そこに集中しているだけ』

釣り?とサンダースは疑問符を浮かべると、とにかく魚を引っ掛けて捕まえようとしているの、と補足説明をした。

『ならさ、俺もそっちに行ってもいいか?』

『別にいいけど、気をつけて。何があるか分からないから』

『分かってるぜ』

そう心で返すと、姿勢を崩さないように、サンダースは慎重に横から回るように移動を開始した。

何とも無い、と言ってもその男に近づけば近づくほど緊張感が増すことには変わりはな無い。上下共にシンプルに白一色の服装で、袖口がダブダブの上着の姿はどこか貧乏そうにも見える。更にある程度近づくと、髪の毛どころか眉毛(まゆげ)も、足の毛も全くなかったのだ。

どういうことかは分からない。でも、この人間もまた、ただ者ではないことは分かった。エーフィが心を読む限り、こんな状況になっても、本当に水を打ったように平穏を保っている。

その頃、男の関心も完全に釣りの方に戻ったようで、サンダースとの心の会話をしながら、再びゆっくりと移動を始めた。

その再び移動を開始した時、その平穏に少し揺らぎを感じとり、エーフィが注意を飛ばす。

『ちょっと変わった。気を付けて』

テレパシーが頭の中で響いて、サンダースは動きを止める。

『何があった?』

『何か、賭け?みたいなことを思っているらしいの。多分、次で本格的に行動を起こす気だわ』

動きを起こす、中でどういうことを考えていても、外壁では無表情そのもの。もしも事前に察知出来なかったらどうなってたか、想像して出てくるものに良い方向の可能性がなかった。その分エーフィの能力がどれだけ有用か、再認識させられた。

男の方では、ただ放置しているのももったいないと考え、ここで一発、大きな博打を打つと決めた。詰まり、

『テント跡に何があるか確認する。この行為をして、この獣どもがどうしようとしても、ものを見るまで目的は変えない。例え攻撃を受けたとしても』

そう、危険を顧みず、どうなろうとも。男はリールを必要以上に巻き上げ始めた。しゃくりではない、片付ける為に。

目に見えて分かる異常を緊張度が最大のサンダース達が無視するはずがない。今度は警戒ではなく、万が一、本当に戦闘になった時でも対応出来る、つまり争いが起きてもいい覚悟を決めた訳である。既に気が付かれているのは分かっている。だから捨身の覚悟で男の後ろのテントに向かった。

エーフィも交戦出来る構えを取りながらも少しずつ、さっきより速い速度で後ずさりしていく。さっきより眉間に力が入り強い目力で男の様子をにらみつけた。

その先では、竿の収納を始めていた。どんどん小さくなり、右手の中に隠れて見えなくなると、今度は脇にあった小さい椅子を畳んだ。あとあるもの、そう見回すが、忘れ物はないようだと分かると、テント跡に顔を向けた。すると、さっきまで背後にいたはずの黄色の動物と目が合った。

こっちに来る。それが分かっていても、心拍数は上がる一方であった。目の前の人間が小柄で、考えていることを知っていて、先手を打てる有利な体制でも、心のどこかに貼り付いた人間に対する恐怖を拭い払えなかった。その証拠に怪我をして力が入っていない足がかすかに震えていた。

その姿を見ても、何の物怖じもせず、つかつかとこっちに向かってきた。威嚇が効いていないのか、エーフィに心で尋ねてみると、やはり、そのようであった。自分側は重い首輪と共に本来の力の封印という鎖から開放されたとはいえ、まだ本来の自分の能力が思うように使えないので、持ち前の身体能力だけで闘うことになる。それでも闘う力は高いとはいえ、怪我のこともあり、心底不安も残っていた。

そして、そのまま突っ込んで来る。そう思っていた。その時までは。

その男は、向きをいきなり切り替えて、エーフィのすぐ真横を通り過ぎていってしまったのだ。これにはさすがに唖然とした。エーフィは気持ちを読んでいても、あまりにも突然の変化には対応しきれずに、そのままつったっていた。自慢の読心術が効かなかった恐怖で、近寄れる気力が出なかった。

サンダースは予想外の展開になってあたふたしてから、もう一度、男の前に立ち塞がるが、またすぐ横を通っていく。

「この野郎!」

強行策だが男に向かって突進を仕掛けようとしたが、足元を滑らせたのと、後ろ足が思うように動かなかった為に、ただこけただけになってしまった。気をとりなおして今度こそかまそうとしたが、やはり足は言うことを利かなかった。

そして、無情にも、男はテント跡の目の前に着いてしまった。二匹の見慣れない動物が一所懸命自分に対して何かをしていたが、別にどうとなる訳では無さそうなので、あとはテントの下がどうなっているか確認するのみであった。

男は、破れかぶれになったテントの布をめくり上げた。ただ見ることしか出来なかったサンダースはとても悔しかった。また守れなかったのかと、目の前の小柄な人間を睨むだけであった。エーフィは放心状態で、状況を飲み込む事が全く出来なかった。

しかし、まだニンフィアやブースターの姿は見えなかった。男は不満そうに首を傾げた。その時だった。

急に足元の帯状の物体が勝手に動き始めた。二、三本あったそれは、蛇のようにくねらせながら男の足首に巻き付くと、そこから引っ張られて、男は横倒しになった。慌てて起き上がろうとしても、予想以上に強い力が働いて、結局起き上がれなかった。

「死んだフリ作戦成功!」

男がダウンしたのを確認したニンフィアとブースターがテントの布を払って飛び出して来た。身動きが自由に利かない上に前後を囲まれてしまい、完全に不利な体制になっていた。

不利になって時にはどうするか、自分が一番分かっていた。

「ふっ、降参だ」

両手を挙げて降伏の意を示した。この賭けは負け越すのを目に見えていたので、降りることにした。

『なんだ。私達が騙されていたのね』

『敵を欺く時は味方も欺けっていうでしょ』

エーフィの安堵の気持ちにニンフィアが自慢げに返した。

■筆者メッセージ
最近テストがあって長らく更新出来ませんでした。
このように不定期ですが、これからもよろしくお願いします。
からげんき ( 2014/11/02(日) 11:09 )