ひねくれものとおかしな生きもの








小説トップ
第二章〜物理の法則を無視した奴ら
恵達が食事うんぬんのその頃のエーフィ一行は、新しい発見を求めて探検をしていたはずだったのだ、が、今の目的地は休憩場所に変わってしまった。

そんな今の全員の状態はというと、サンダースは、

「みんな、足元に気を付けろよ」

と、途中で疲れて寝てしまったイーブイを担ぎながら後ろの方に言葉を掛けて、先頭に立って歩いている。この中では体力が高いので、今のリーダーとして仲間を先導することになった。

そして、そのすぐ後にいるブースターは、

「はいよ。で、またニンフィアがまたバテそうだって」

サンダースと同じく体力があるので前の方に立って、状況申告をするのが今の主な役割である。その申告を聞いてサンダースは、全員に向かって呼び掛けた。

「ちょっと足場が悪いけど、休憩にするか?」

「足元なんてどうでもいいから休ませてよ。もう私は無理」

その声の主、ニンフィアはところどころかすれ気味な声で言って、すぐに体を横にした。体力の無さが浮き彫りになって、今もこの“起きては四歩で五分寝る”ようなことをさっきから続けている。

「情けないわ。こんなのだといつまで経っても進まない。さっきも休んだのにもうなの?」

進行の遅さにイライラしているエーフィがその提案に反対するように不満を最後方から叫ぶようにして言った。

「仕方ないだろ。まずこうなるようにしたのは誰か。そこも考えてくれ」

「そうでしょ。私も足を怪我しておいて人の事は言えないと思うけど、ニンフィアは彼女なりに頑張っているんだから、それでいいじゃない」

エーフィの一つ前にいるグレイシアが痛む足を引きずるようにして歩きながら、それに答えた。

エーフィはまた反論しようとしたが、二対一、分けも悪いので黙ることにした。

「じゃあ、休もうか」

そう言ってサンダースは座ると、それを皮切りに前から次々と座っていった。しかし、突然、

「ねえ、ちょっと今更なんだけど、何か水の音がしない?」

「そうか?ん?本当に聞こえるぞ。みんな、耳を澄ましてくれ」

「本当だ」

ニンフィアの一声でさっき座ったと思いきや、またすぐに立って、文字通り聞き耳を立てた。せっかくの休憩タイムを無駄にしたくなかったので、

「でも行くなら寝てからで良いでしょ」

とそこには釘を刺しておくように、一つ付け加えた。

「まあ、焦らないのは当然だ。ちゃんとゆっくりしていってから出るから心配するな。みんなも先走って怪我をしないようにな」

そのことを聞いたサンダースは、もちろんと言わんばかりに、そして、エーフィが暴走しないように、と返した。

そして、これから何があるのか期待に胸を膨らませて、体を重力に預けるのであった。

















「やっとだよ。本当に何をしていたのか、ね、恵くん」

「それはそっくりそのまま返す、光合成でなんとかなるとかあったけど、結局変わんないじゃねえか。その食いっぷりからして。ずっと見てたぞ。ってかお前ももう君をつけるのか」

「いや、その、これは違うの。栄養を蓄えて置きたいからであって、これによって光合成する時間短縮が出来るのであって・・・」

「見え()いた嘘を。まあ行くなら行くぞ」

「ちょっと待って、相手のペースを考えてって、もうこの最低野郎!」

「はいはい、どうせ自分は最低野郎だよ」

こいつ、とリーフィアが地団駄を踏んでいるうちにも恵はそそくさと歩き始めた。その背中に向け、今度は脅しを仕掛けた。

「ねえ、そうなら本心じゃないけど、その首筋を私の葉っぱで切っちゃおうかな?」

「でも、切れたとしても、上にはこいつがいるんだ。もし自分がよけた時、誤って当たったらどうする?」

「本当にそう。私なんか効果的だし、はっぱカッターなんてたまに外すし。冗談だとしても危ないよ」

報いを受けさせようとしたが、逆に仲間を増やされ、余計に自分を追い込むはめになった。

今、恵達は食事を終えて、ちょうど出発する所である。一応、残りの六匹分の鮭の切り身を弁当として、荷物に追加、そして、爪による怪我防止の為のヘルメットを被ることも装備に追加した。



















まだ出発する前の食事中の会話の時、シャワーズからこう言われた。

「恵君の過去を聞いておいて何も返さないのは難だからこっちの方の過去も教えようと思うの」

「まあ、別にいいけど、話したいなら話せばいい」

やや唐突気味だったが恵はあまり驚きを見せず、話しを聞く為、手に持っていたれんげを皿に置いた。

「私らって、逃げて来たの。監獄というか強制収容所ってやつ。まあ、逃げた後は一度捕まってから、そいつらを恵君が倒して、そして助けられたって言った方が正しいけど」

「ああ、あの三人か。正しくは自分が倒したんじゃなくて、別の人が物好きであいつらを倒した後、自分がお前らの存在に気付いて、勝手に助けた」

「勝手で私らを助けたの?」

自分の勝手なトラウマで、とは少し言い難い。また(かしこ)まったら面倒になると思って、恵は少し考え込んでからそれらしい言葉を紡いだ。

「そこは深夜のテンションってやつだな。で、どうしてそんな所に押し込められたんだ?」

その事にシャワーズが答えるまでは少し間が空いた。恵はその間から、専門的にあることが予測できた。

「悪い事を言うと私はトレーナーに捨てられた」

やっぱりか、とつい心で考えていた答えの事で口に出してしまった。何?とシャワーズは反応したが、そう思っただけだ、と返してまた言葉を続けた。

「で、保健所行きって名義で収容所か。あとそのトレーナーって芸を仕込むとかの人間ってやつか?」

「少し違う。簡単に言うと私の飼い主みたいな感じだね」

「じゃあ、どういう理由でお前を手放したんだ?」

無鉄砲め、という意味が入った、はあ、とため息を吐いてから、シャワーズは語り始めた。

「恵君も結構矢継ぎ早になんでも聞くんだね。まあ簡単に言うってのもおかしいけど、私が弱くて幾ら鍛えても成長が見られなかったから」

今までのペースが止まり、また硬直状態になってしまった。シャワーズはこの状態が解凍するまで鮭を食べて過ごした。しばらくして、考えに整理がついた恵は持論を話した。

「そんなふざけたパワーで弱いだと?お前の飼い主って世界を滅ぼす的な事を考えていただろ。そうじゃないと、その馬鹿力をどこで使うと言うんだ?」

その驚き方と考えを見聞きして、シャワーズは少し笑ってからそんな大げさな、と言ってから更に続けた。

「まあ、バトルで勝ちたかっただけで、それ以上でもそれ以下でもなかったって所なの。あと馬鹿力を使えるのはブースターだけだよ。あ、その意味じゃなかったらまあそうだけど」

「バトル?じゃあ、同じぐらいの力量を持ったやつが沢山いると。普通に町消えるぞ」

「同じって言うか、それ以上ばっかりだったけどね」

「町は間違えた。国が丸々一個消えるぞ」

「誇張し過ぎ。てかご飯が減っていないよ。真剣になり過ぎじゃない?」

ああ、そうだった、と恵はカフミの分の為に作っておいた麻婆豆腐の残りを口に一気に掻き込んだ。中に含み、それが喉を通過してからまた話し始めた。

「で、そいつのせいで、収容所行きになった。だから、それで人間を憎んでいると。薄々分かってたけど、それは酷だよな。心の底から信用していたような人間から裏切られたんだし」

「そんなの薄々勘づいていたから特に信用というか尊敬もしてないし。周りから見たらなついていないって感じで」

「それだからちょっと聞く。なんでお前はその人間と普通に接しているのか?」

つまりはこの異常な(?)馴れ馴れしさ、その核心に直接聞いた。

「世の中善い人間悪い人間様々だから、一概には恨めなかったの。唯、私はその運が無かっただけ。あと、普通に話をしているのは見た感じが良さそう悪そうの前にそもそも困惑している恵君は論外で大丈夫そうだから」

「つまり話題に出来る以前の問題があると。ひでえな」

「でも、それだけじゃないよ。だって優しかったじゃん。大体は手荒いけど、リーフィアが喉を詰まらせた時も、体を洗ってくれた時も、あまり怒らないでくれた事も、結構沢山あるし」

「沢山って言っても三つだけの所は流石にごまかせないぞ」

「そこはスルーしないとダメ。ちゃんと持ち上げた所はそのままでいいのに。そこをなんとかしないとまた言われるよ」

「まあ別にいいんだけどさ。でもエビだっけ?そいつはなんかしてきそうだったけどあれは一体?唯警戒の為に攻撃したとか」

良くない、とシャワーズが付け足す。

「まあ、あのエビ、じゃなくてエーフィは別の理由で私らがいた所に来たから、また違った見方をしているの。人間は全員悪いんだって考えてている感じ」

「じゃあ、もともとは適当に寄せ集めた結果がこのメンバーだった、と」

「そう。みんな違う所から来たの。まあブースターとニンフィアは姉妹だったけど」

なるほど、と恵は軽い反応をして、次にこの話を聞いて気になったことを質問した。

「でさ、一番聞きたいことがあるんだが、なんでそんなぼろぼろになるまで出られなかったんだ?別に水の力で人間三人ぐらい余裕で打ち上げるものを持っているのに」

「あれ、姉妹ってことには驚かないんだ。まあいいけど、あの首輪の事って覚えている?」

「あのくそでかくて重い首輪か。あれがどうしたと。そういえばどこ行ったんだ?あれ」

今更になって恵は首輪のことを思い出し、周りを見渡したが、見つからなかった。

「ちゃんと整理してよね。まあ、あれのせいで私らは力を発揮できなかったの。封じ込めて反抗できないようにするためにね」

「あれはそういう代物だったのか。でもお前らぐらいの頭の良さなら外せると思うぞ」

「そうじゃなくて、まず解除するためにはパスワードが必要なの。なのにどうやったらあれが外れたの?」

「さっき話したあの物好きが馬鹿力でも使ってこじ開けたんじゃね?自分は知らん」

「カイリキーぐらいの力を持ったブースターでも無理だったから、本当なら相当凄いことだと思う。戦車が落ちてぶつかっても壊れないのに」

つまり超合金ってやつ?いや落下した衝撃で以てしても壊れないとはどうゆう事だ?と頭で考えたが、もちろん無意味なので、

「向こうの戦車がどのくらいは知らないが、まあ人間がどう足掻(あが)いても無駄だとは分かった」

これぐらいで納得することにした。

「本当にどうやったんだろう?まあ外れてくれたからあまり気にしないけど。こうなれば私らは自由の身だし」

「まあ飯もこれぐらいにして、もう行くか?お前も食べ終えたなら残りの話は移動中にしてくれ」

そう言うと恵はシャワーズの皿の分も持って台所に向かった。

その後、準備が出来てから、リーフィアの勢いが良い食事が終わるまで一人と一匹は暖かい眼差しでそれを眺めていた。


















気が付くと、すっかりみんな爆睡していた。自分もそうだったのだろう、起き上がったサンダースは辺りを見回してから、ブースターのオレンジ色の髪の毛をつついて起こした。

「ん?あら、寝ちゃったんだ。おはよう」

「おはよう。やっぱりみんなそうだよな。色々あってからまともに休みを取っていないからな」

「そして強がっていたサンダースも寝ちゃったんだな」

「いや・・・、まあそこは、そうだけど」

別に責めていないよ、とブースターは言った。そして話を切り替えて、

「それでさ、水の音が聞こえているじゃん。水が苦手だから、正直あまり活躍できるかわからない。その時はどうする?」

「確かに、何もないとは考えにくいから、警戒しておくのがいいか。あとは、そろそろみんなを起こすか」

仕方ないけどね、とブースターはつぶやくと近くにいたエーフィから脅かして起こし始めた。サンダースも後ろにいたイーブイを、

「起きてくれ」

と言葉を掛けた。するとイーブイはむくりと起き上がりきょろきょろと周りを見渡した。

「あれ、随分寝ちゃった。今はどこら辺?」

「もう少しでいい感じの所に着くと思うんだ。少しだけ頑張ってくれないか?」

「もう少しで着くの?うん。出来るだけ頑張ってみる」

もうすぐという言葉に反応して元気そうに立ち上がった。その様子を見てサンダースは、

「まあ他のみんなを起こしてくるからな。待っててくれよ」

そう言って残りのメンバーを起こそうと行こうとすると、

「あの起こし方はあざといと思うんですけど」

「私なんて本当に心臓が止まるかと思っちゃった」

グレイシアとニンフィアが不満を言い合っている光景が目に入った。そしてその間にいるのはブースターだった。

「何があった?」

すかさずサンダースはそこに入ってきた。訳を当時者達、まずはニンフィアから話し始めた。

「耳元で突然、“おっはよー”って大きな声で言われたら、誰だってびっくりするよ。聞こえていなかったの?」

ごめん、イーブイと話していて聞いていなかった、と聞いていたサンダースは返した。

「私は寝ているから気付かないことをいいことに、体に落ち葉を大量に盛って、起きた時に顔に大量に掛かるっていう設計。そこら辺のうるさいだけの目覚まし時計よりたちが悪いって」

グレイシアの話を聞いたサンダースはブースターを見た。

「いや、ちょっと退屈しのぎにしたんだからいいじゃん。ここはユーモアな空気を」

「そこはブースターがやんちゃなだけだと思うぞ。退屈しのぎなんてしりとりで十分じゃねえのか?」

まだ言いたい事があるようで、サンダースの言葉に対してどう返そうかとブースターは考え込んでいた。しかし、

「それと、私とニンフィアに迷惑をかけたんだから何か言う事ないの?」

グレイシアが口を挟んだ。

「まあ、ちょっとごめんね。別に自分は悪気はなかったんだから、いいじゃん」

軽い謝罪をするとサンダースの後ろに来て、行こうか、と言った。

「ブースター、今度は真剣になってくれよ。おふざけはここまでにしてくれ」

「分かってる。ちゃんとめりはりをつけるから」

ほんとか?と疑問を含んだ口調でもう一度聞き返すが、似たような一言が返ってきたので、

「じゃあ、みんなは準備は出来たか?」

念の為、後ろの方まで聞こえるように大きな声で呼びかけた。すると五つのはーい、と言う声が聞こえたので、そのまま先頭のサンダースから歩き始めるとそこからブースター、イーブイと続いていった。

それからは幾重にも重なった落ち葉を掻き分けるように踏みしめ、たまに木の根っこに突っ掛かりそうになりながらも、水の流れる音がする元へ向かって行った。その音が大きくなった時、見えるか見えないかぐらいに、森の暗闇の部分が終わる地平線が現れた時、

「みんな、あの光が差している所までまで走ってみる?」

あんだけバテバテになっていたニンフィアが珍しく疲れることを自分から提案してきた。

「自分は大歓迎だけど、みんなはどう?」

「ちょっと待て。ブースターとかニンフィアはいいかもしれないけど、イーブイとグレイシアはどうするんだよ?てかそもそも危険があるかもしれないし」

さっきの危険の話をしていたサンダースが制止させようと言葉を発する。しかし、

「だとしても自分が気を抜かなければいいじゃん。グレイシアは戦えそうなサンダースかエーフィが一緒にいて、後から来ればいいし。もうすぐなんだから最後ぐらいはしゃいでもいいんじゃない?」

「ほんとに気をつけろよ。俺はグレイシアに付いているから」

それを了解と捉えたのか、じゃあ行ってくる、と言うとサンダースの横を追い越して行った。後からニンフィアも横を通り抜け、あまり体力に自信がないはずだったイーブイも釣られて勢い良く走り出した。しかし、イーブイは目と鼻の先ですぐにこけてしまい、少し微笑ましい光景であった。

「私達も行こう、本当は私も走る気満々なんだけど、こうしているって所だから」

まあな、とサンダースは相槌をうち、ブースター達の後を追う形で少しペースを上げて歩き始めた。その先行していた一行は既に着いたようで、

「なあ、すげー綺麗だけれど、まだ来ないのかな?」

まだ到着していないサンダース達のことを勿体ぶっていると主張しているように、遠くから声が飛んできた。

「もうすぐで着くから待っててくれ」

サンダース側もまた大きな声で返した。

「で、エーフィ、あんたは参加しないの?」

「別に分かっているならああやって焦らなくても結果は変わらないわ。イーブイみたいに途中で損をするようなことはしたくない」

「理屈っぽいね。まあ損をしているのは既にしていると思うけど」

まだ引きずってんの?と言わんばかりにエーフィはグレイシアをにらんだ。そこにサンダースが割って入った。

「二匹とも、言い合ってないで前を見てくれ。もうすぐだ」

そう言われて前を向くと、さっきは線であった境界線も僅かに景色が見えるようになってきていた。水の音も大きくなり、ごうごうとした大きな音色に変わっていた。するとさっき先行していたニンフィアが戻って来て、

「ねえ、凄い所に来たみたい!とにかく風景が凄いよ、絶景だもん」

子供みたいにはしゃいだ大きな声で後発組に伝えに来た。

「凄い所?どんなもんだろう」

「あんまり期待しな・・・、いや出来るかも」

「今、“しない方がいいかも”って言おうとしたでしょ。なんか酷いよ」

ニンフィアの指摘に、ごめん、つい心の声がうっかり、とグレイシアが答えた。

そして、少し坂を下り、新たに視界が開けると、三匹は息をのんだ。

そこは、しばらく灰色の世界に閉じ込められていたポケモン達にとっては鮮やか過ぎた世界だった。何色も、とは言い難いが、それでも赤と黄色の調和は素晴らしく、ところどころにある緑色がそれらをより鮮やかに引き立てていた。音の元は脇から水が大量に流れ落ちて、それは硬い岩盤を割ろうとする勢いがあり、見ている限り(とどこお)りなく続く。まさしく滝であった。遥か下の奈落の底は水しぶきが霧のように立ち込め、白く泡立っていて透明なはずの川も灰色に濁っており、勢いがあまって風も吹き、落下する水の激しさを余計に掻き立てる。

「これは凄いの一言に尽きる」

本当にその言葉しかいえるはずがなかった。絶景、ただそれだけか、それを言い回した言い方のみ。そもそもそれ以外の事を言うことを許さない威圧も美しさと同時にその風景は兼ね備えていた。

「ほらね、綺麗でしょ?」

サンダースが絶句している時にどこからか、ブースターが横から感想を代弁するように話し掛けた。話し掛けられた方は無言で頷く。

「こんな所ってあるんだね。なんだろう、一気に疲れが吹き飛んだみたいに感じなくなっちゃった。不思議な感じがする」

イーブイが言うと余計そんな感じがしてきた。風景を見ているだけなのに精神的にはもちろん、身体的にも、これといった施しを受けてもいなくても体力が回復したような気がした。

「何か、さっきまですっごい退屈だったけど、見たら今までの道のりがとても意味があるように思える」

「途中で私語を沢山した本人が今更何を?」

「それはさすがに仕方がないと思う。つまんないし。てか結果がこう良い所を見付けられたからいいけど、もし、まださまよっていたら、どうするつもりだったの?」

「気持ちは分かるけど、ここでその話はするな。グレイシアの方も突っ掛かるのはよせ」

また争いになりそうな所でサンダースが間に入った。二匹はやるせない気持ちでお互いを見ると、反対の方向へ散って行った。その後、三匹でしばらく絶景を眺めていたら、

「ねえ、あっちで何か盛り上がっているけど行かないの?僕達三匹だけ取り残されているよ」

何かに気が付いたイーブイが左側を見て、サンダースに言った。それを見て、サンダースはさっきまでの恍惚とした表情から急に顔色を変えて走り出した。何してんだ、とかすかに聞こえたぐらいでそれっきり風になって最後まで聞き取れなかった。慌ててグレイシアと一緒に後を追うが、共におぼつかない足取りで、なかなか追いつけないで、どんどんその後ろ姿は小さくなっていった。

その先では、

「この葉っぱなんかどうだ?ちょっと切れてるけど」

「良いね。あっちはお花が咲いているけど、どう?」

「そこは崖すれすれだけど、多分大丈夫だと思う。取ってきてあげよっか?」

「危険よ。あっちにも同じような花が咲いているから、そっちは大丈夫だと思う。私が取ってきてあげる」

こんな会話をして、植物でのアクセサリー作りをしていた。色とりどりの草や落ち葉や花を組み合わせて冠を作ろうとしているが、そもそも作り方がよく分かっていないのと、手に取りにくいのとで、思うように出来ないでいた。エーフィが花を摘み取ろうとした、その時、

「危ねえぞ!そんなとにいたら、谷底に落ちるかもしれねえし」

サンダースが焦りのままのどなった声が、そして、それが飛んでくるようなスピードで走ってきた。

「大丈夫よ。ちゃんと気を付けているし、あの子達が危険そうな方向へ行っても、私が注意しているし。ってこれ抜けないし切れない」

エーフィもちゃんと説明はしたが、肝心の花が抜けないでいた。ブースターが心配して、

「自分が手伝ってあげよっか?」

近づいた、その時だった。ありがちな流れだが、助けに行こうとしたのに、その行動を起こした直後に花の茎は鈍いブツッ、という音を立てて、根に付く側と花に付く側に別れた。かなり力を込めていたのか、その反動でエーフィの体はその向きの後ろへ弾かれたように、そしてそこに丁度いたブースターにぶつかった。突然の事なのと、既に勢いがかかっていたのとで、思うように反応出来ないまま避けられずにぶつかり、体は有らぬ方向へと突き動かされて傾いてしまった。

「ああ、ゴメ・・・ってブースター!」

そうエーフィは叫んだが時既に遅く、ブースターの後ろ脚二本は空を踏んでいた。その瞬間に思い付いた“ねんりき”はまだ使えない。その次の百分の一秒間に思い付いたのは、

『尻尾を出して掴まらせる。そして引っ張る』

これが成功するか考える暇もエーフィにとっては無く、すぐに行動を取った。

ブースターの方は一瞬にして多くの事が起きていて訳が分らなかったが、生存本能というものなのか、とにかく目の前の段差に掴まることだけは分かった。しかし、種族特有の馬鹿力があってもその小さい手の平で全体重を支えられる摩擦力は無く、虚しくもズルズルと滑っていき、そこから離れるのも時間の問題。そんな時、見覚えがある二股の物体が目の前に現れた。掴めそうだが手は動かせない。あとあるもの、それが思い付いたのと同時にその尻尾に噛み付いた。

しかし、それが間違いであることが一秒後の結果になって分かった。

「いっ、たあ!」

今まで感じたことがないようなすさまじい刺激が一点から始まり、次の瞬間には全身に響き渡った。もう引っ張る以前に踏ん張る力すらその痛みに阻害されて上手く出せない。出そうとするがもがくだけで、気付けばもう後ろ脚が爪先(つまさき)立ちになっていた。

その近くにいたニンフィアは、良くない物音が聞こえたので振り返ると、また心臓が止まりそうになった。さっきとは違ってドッキリで終わらないものだと分かると、そこにぎゅっと視界が絞られるような感じがした。ブースターがエーフィの尻尾に噛み付いてなんとか落ちないで済んでいるが、その支えているのも谷の底に引きずり込まれそうになっていた。その為、今度は私がエーフィを引っ張る番だと使命感で感じると深く考えないまま飛び出した。

「エーフィ!今行く!」

とにかくエーフィの前脚に自分のリボンをしっかり巻き付けて、支えられるようにしたおいた。しかし、後ろ脚が崖から外れると、首元にとんでもない引力が働いた。自分の二倍と同じぐらいの体重を支えられるはずもないニンフィアの貧弱な体は、大地の裂け目へと引きずり込まれて行く。その元が死神のものであると分かっても逆らえない。

「ちょ、ちょっと待って!」

そう声を発したところでなにも変わらない。自分の足の力では止まらない、ならどうするか?境界線に近づくまでの間、自分でも恐ろしいほど冷静になった。何倍にも引き延ばされた時間の中で思い付いたのは、空間に投げ出されたその瞬間だった。

目の前の土の壁から飛び出ている木の根っこ(かは分からない)に余っている残りのリボンを引っ掛け、縦並びに宙釣りになった。このリボンは神経が通っていて当然痛みはするものの、くくり付けてしまえば三匹分の重さも支えられるほど丈夫なので、落下は一旦免れた。しかし、元の場所に戻ることは更に手助けが無いと出来ない。そこまで力は持っていなかった。

「エーフィ、お願いだから暴れないで!めっちゃ痛いから」

尻尾を噛まれた痛みは分かるが、こっちも相当痛い。この一言が終わるか終わらないかぐらいに上から声が掛かった。

「みんな、大丈夫か?」

「まあ、なんとか・・・って痛い」

そしてサンダースは助けようとして前足を伸ばすが、

「一体、どうすればいいんだよ、くそっ、届かねえ」

丈の短い足ではどうすることも出来ず、だからといって体を乗り出しても二本の足で支えられずにまた落ちてしまう。どうしようかしどろもどろしている、そんな自分が情けなく思った。引っ張り上げる力は一応、強い。でも、今の失態が自信に傷を付け、うしろめたい気分もあるので、悔しさとはまた違う心残りがしてやまなかった。その時、

「何よそんなに慌てて・・・ってえ!」

グレイシアとイーブイが遅れてやってきた。到着するなりその光景を見て動揺していると、

「遅い!」

焦りが混じった感情的なきつい声が飛んできた。

「ご、ごめんなさい」

咄嗟に反射的にイーブイは謝ったが、

「それはこっちの方だ。俺が目を離したせいで・・・」

怒っていたように見えたサンダースが次にはとても暗い口調になった。しかし、

「そんなことはどうでもいい。とにかく私とイーブイはどうすればいいの?それだけ言って」

そんな心情を無視するように最後の方を遮り、聞きたいことだけを聞いた。サンダースの方もくよくよしてはいけない、と厳し目の声から汲み取って、しっかりと意志を持って切り替えた。

「・・・ならグレイシア、俺を持てるか?」

「持つってどういうこと?私の足じゃあまだ無理な所もある。で、サンダースの方は平気なの?」

「平気だ。ただ後ろ足を支えてくれればいい。足はあまり使わないから痛いとかはないと思う」

「ねえ、僕は?」

「すまないが、危険だ。ここは俺達だけでやらせてくれ」

イーブイの勇気は評価するが、それでも心もとない上に逆にピンチになる事も考えられたので、申し出た本人には申し訳ないが、諦めてもらった。

「そうなの。で、その支える方法は?」

「口で、押さえていてくれ」

「え?」

何を言っているの?おふざけでもなんでもなく、本当に真剣なことであるのに気付くのに次の言葉を聞いてから始めて分かった。

「別に噛んでもいい。足に一番負担を少なく出来ると思う」

「でも結局足を使うじゃ・・・、いや、やろう」

矛盾があってためらったが、そんなに時間は与えられてない。サンダースの後ろにグレイシアが付いて、サンダースは前足を崖の向こうに出して座った。

「結構本気で歯を立てるけどいい?」

「構わねえよ。噛み砕く勢いじゃないと離れるからな」

そう、と言葉通りお構いなしに自分では引っ掛けやすい所に噛み付いた。痛みを伴いながらも体重の重心を断崖の向こうへとずらしていく。全体の内、半分ぐらい外に出た頃にはグレイシアに対してもかなりの力が働くようになった。そしてより強い力が働き始めた時、

「大丈夫だ。今から引っ張るから・・・」

そう言ってリボンが巻き付いている根っこに手を伸ばし始めた。ふと目が合ったニンフィアの瞳は痛みと恐怖で潤んでいた。それを見てより助けるための責任感が増したその一瞬、リボンの位置が手から離れたような気がした、が、

「いや!落ちないで、お願いだから」

「こ、今度は何よ」

「やふぁいふぁも(ヤバいかも)」

気がした、ではなく、実際に起きたことを知らせる悲鳴混じりの声が聞こえて、始めて本当の事であることが分かった。心拍数は多くなり、サンダースの焦りが本格的に募り始めた。

その時だった。今までは不動であったはずの命綱、木の根っこは突然伸び始め、それと同時に今度はサンダースの腹から鈍い地鳴りのような振動が感じられた。

「ニンフィア!エーフィ!ブースター!」

そうサンダースは叫んだ時はもう遅かった。頼みの綱もある程度伸びると、壁と切り離され、その姿はみるみる小さくなっていく。その時伸ばした自分の足がとても虚しく、サンダースの目に映っていた。

しかし、これでは済まされなかった。気が付くとグレイシアの後ろに土の亀裂が出来ていて、もう段差もはっきりと現れていた。その段差もサンダースが反応しきれない間に大きくなり、振り返った時にはもう一つの崖になっていて、あるはずの重力があまり感じられなくなった。

地面ごと落ちている。

気が付くと、体になんの力を入れなくていても、自然と空を見上げていた。雲が一つない、晴れた青空だった。

結局、みんなで楽しく生きるなんて夢物語に過ぎない、自分達はそんな権利なんてなかったんだ。

絶望に満ちた生気のない目には、綺麗な青空が皮肉のように見えていた。

流れるようにして起きたことに対して、後ろから見ていたイーブイは、

「みんな・・・、どうして・・・、ねえ、ねえったら・・・どうして」

同じようなことを停止ボタンを押し忘れた録音テープのように繰り返していた。やっと理解した時、涙も出ない悲しみに打ちひしがれ、イーブイは力なくしりもちをついた。

そして、立派な滝の音に負けないぐらいの悲鳴が谷の間に虚しく響いた。

■筆者メッセージ
ええと、凄く長くなりましたね、今回。
予告して置いて、まさかのまだ新登場人物出ない、という・・・、申し訳ありません。次の間章が入って、その次は、遂に第三章が始まります。
今度こそです。
こんな調子ですが、これからも宜しくです。
からげんき ( 2014/10/13(月) 14:56 )