面倒な物がまた増えて、過去の辛い事も分かって
頭の上のシャワーズの重みを忘れてしまいそうになるほど、その光景は衝撃であった。さっきまでののどかな畑の状態から一変して、代わりにわけがわからない物がそこに居座っていた。緑色をしていて、植物のような繊維状のものが大きな繭を作るようになっているが、それ以上の事はまた面倒な事であることしか分からなかった。
とにかく近づいてみないことには何も出来ないので警戒しながら近くに寄ってみると、その繊維ひとつひとつがアスパラガスの茎によく似ていた。その時、そこから突然、声がした。
「あれ?準備とやらが終わったんだ」
そして、緑色の塊からひょこっと顔を出したのはリーフィアだった。なんでもないように見下ろしているその顔の口にはしっかりと見覚えのあるあの形が。
「面白いでしょ」
もう訳が分からなかったので恵は素直に聞くことにした。
「何、やってんだ、お前。で、これは、一体?」
変な恐怖でところどころ途切れ途切れになっているしゃべり方になってしまった。なんでもないようにリーフィアは答えた。
「ああ、これのこと?アスパラガスって言うんだっけ?それを私の力で成長させてみた。なんかいい感じになったから秘密基地みたいにしてみた。結構広いよ」
「結構広いよ、じゃねえよ。ってか成長させたってどういうことだ?とにかくこれを早く元に戻してくれ」
「成長させたって、普通に大きくしただけで、特に変化は無いよ。あと元に戻すのは枯れないと無理」
そんな普通だの普通だのの屁理屈は通じないって、心で嘆き困り果ててため息をついた。
「で、これってさ、完全に人ん家の庭を勝手に改造して遊んでいる上にアスパラも食っているよな。どうなんだ?」
自由奔放な所は良いが、正直そろそろとがめてもいいよなと思っていた。
「それは、その・・・、ごめんなさい」
何か思ったより白状するのが早かった。リーフィアがちゃんと反省しているかはさておき、
「それじゃ、とっとと行くぞ」
あ、はい、と改まった声がして、リーフィアがその“秘密基地”とやらの中に消えて見えなくなったと思うと上から声がした。
「ちゃんと怒る時は怒るんだね」
「怒るとかじゃなくて叱る、いや、注意したって感じだな」
「何か違うの?」
シャワーズはずっと似たようなものだと思っていたので無理も無い。基本、血も涙も無い殴打と暴言がほとんどそれだった。
「まあな、分かりにくいだろうけど、怒るってやつは感情的になっているだけで、叱るは相手の事を考えてくどく言うって感じ。自分もよくわかんないけど親父がそう言っていた」
「へえ、そうなんだ。で、その親父ってさ、今どこにいるの?」
「親父?簡単に言うと、もう生きてない」
「えっ、嘘・・・」
おとなしい所からやる気と思いやりを抜いたような性格からは想像もできない衝撃のカミングアウト。人によっては聞いていけないような事を軽い気持ちで聞いてしまった為、重い罪悪感がシャワーズにのしかかった。その頃、リーフィアがやってきたがその言葉のせいでしばらくはその事には気付かなかった。その事をよく知らないリーフィアは何?と聞いたが、黙っていて、と訳も分からず静かされてしまった。その様子を心配して、
「別にそんなに気遣わなくてもいい。もうとっくに過ぎた事だ」
恵は無駄な心配をかけないようにした。それでもシャワーズは抗議する。
「で、でもずっとお母さんと二人だけで・・・」
寂しかったんじゃないの?そう言おうとした。しかし、
「その母親も顔を見ないうちに死んでる。頭おかしくして自殺した、らしい」
母親の存在すら否定され、
「それと、親父は三年ちょい前に殺されている」
と、変わらぬ口調で更に悲しい事を告げられた。
自殺した?殺された?両親が?訳が分からない、こっちだって言いたい。でも、この世ではとても例え難いものであるほど悲しい事である事実の重圧さに邪魔されて二匹は閉口したままだった。
例えられるものでも、悲しみを通り超して怒りや憎しみさえ感じるものばかりだろう。とにかく、恵という人間は三年以上も前から一人で生活していた事になる。どれだけ寂しかったのだろう。想像すら出来ない。
今までいた強制収容労働所の生き地獄の方が幾分楽に見える。そこは辛くても励ましてくれたり、分かち合ったりしてくれた仲間、いや、家族同然の存在がいた。でも、恵だとどうだろう。例え辛い事があっても励ましたり、同情してくれた存在がいたのだろうか。友達ぐらいならいただろう。でも、本当に心を温められたり、傷を癒せたり出来るぐらいの事は出来たのだろうか。否定はしない。でも、身内でしか分からない所だってある。そういう時はどうしていたのだろう。考えれば考えるほど余計に悲しみが強くなり、どんどん気持ちが沈んで行く。
これがエーフィが言ってた深層心理に影響するものなのか。その前にこんな過去を持った青年に対して自分たちはどういう振る舞いをしていたのか、物凄く申し訳ない気持ちで一杯だった。
そんな人間の親切に対して不満を言いたいだけ言って踏みにじったやつは誰だ?その人間を通りすがりの芸人とか言って面白半分にからかったやつは誰だ?そして、行きたくもないと言っているのに半ば無理矢理で一緒に連れて行こうとしてるやつは誰だ?自責の念が次々と溜まっていく。所詮、自分たちは最低だったのだろう。
自分の過去をさらけ出しただけなのに、さっきまでの馴れ馴れしさとあのテンションはどこ行ったのだろう、打って変ってふさぎ込んでしまった姿が心配だった。でも聞いてみない事には進まないので恐る恐る声を掛けてみた。
「なあ、大丈夫か?」
「いや・・・、大丈夫です。心配なのはあなたで、やっぱり行きたくないのなら行かなくてもいいです。あと、頭の方、降りて欲しければ私が降りてもいいです」
いきなり敬語に戻ったので恵はとても驚き、
「本当に大丈夫か?自分は大丈夫だから、とにかく正直に答えろ」
再び聞いてみたが、なんか気まずい言葉を言った気がする、言い放って一秒後に気付いたが時既に遅し。シャワーズとリーフィアがとても暗い口調で話し始めた。まずはシャワーズから口を開いた。
「本当は、今までの恵さんに対する私たち振る舞いはどうだったのか、考えていたらとても酷すぎる物でした。エーフィの行為にしろ、名前を覚えないからと言って
罵った事も、初対面なのに軽々しく接した事をお詫びします」
失礼だが頭の上からこんなことを言われても、正直実感がない。それどころかどこかおかしさも感じられる。でも、そんな状況ではないので、ちゃんとリーフィアの方も聞くようにした。
「ちょっと弾け過ぎちゃったのかもしれません。収容所の方は何も無く暗い所だったので私が大好きな植物はありませんでした。その植物の実物を久しぶりに見たらそれは感動して、しかも食べれるとなると心のブレーキみたいなものが外れて、ああなっちゃったんです。その後あなたが間抜けだと分かると更に調子に乗ってしまい、取り返しのつかない事もやってしまって、本当にどうしたらいいのか・・・」
間抜けだと?反省の言葉としては引っかかったが、正直に言えと言ったのは自分なので、見過ごすことにした。リーフィアが少し黙り込んだ所で、恵は話し始めた。
「もういい。お前らが言いたい事は大体分かった。とにかく許しが欲しいだけなんだろ」
「いいえ、そんなやましい事ではなくて・・・」
「だからいいって言ってるだろ。それでもなんかしらしてくれないと胸騒ぎが収まらないなら、ちょっとデコを貸せ」
何?と思いながらもリーフィアは恵の元へと駆け寄った。来ると恵は腰を下ろし、リーフィアの顔の前で、中指と親指を曲げて合わせて、軽くそこに力を込め、解き放つと、
「ん?何?」
その中指に与えるはずだった衝撃がそのまま爪に帰ってきた。一方のリーフィアは、痛みを感じるどころか何をしたのかよくわかっていないようであった。この不意打ちに恵は痛そうにその手を振りながら、
「お前物凄く石頭だな」
こう言った。本当に文字通り石が入ってるようにとてつもなく固かった。毛の感じまでは何もなかった。でも爪の先が表皮に着いた瞬間、それは鉄鋼に変わった。この日何度目だろう、“なんだこれ?”。今日の寝る時間は布団に入って三十秒以内に夢を見れる自信があるぐらい、異常な事が立て続けに起こって、精神的にも恵は午前中で疲れ果ててしまった。
リーフィアは更に恵を怒らせてしまったと思ったが、リーフィア自身、何を願って恵があの行為をしたのか、それに対してどう反応してたらいいのか、分からなかったので、
「な、何かごめんなさい」
これしか言えそうな言葉がなかった。
一方、上から見ていたシャワーズはこのようなちょっと残念さがある事を見て吹き出しそうになった。無論、空気の流れでなんとか耐えたが、それまでの罪悪感の気持ちがかなり揺らいでしまった。
「分かった。デコピンは無しだ。てかそもそも出来ない。まあ、腑に落ちないと思うだろうけどこれで我慢しろ」
「あの、私は?」
「これにて終了だ。てかもうやりたくねえよ」
これ以上無駄に構っているよりとっとと行く方が賢明だと思い、無理矢理この話題を終わらせた。
「あと、その敬語はやめてくれ、そういうのは嫌いだし。別に初対面の相手の過去を無意識に聞いてしまうのは仕方ないから気にしない。平気だ」
この事を聞いても二匹はまだ自分たちは悪い事をした気が晴れなかった。でも、いつまでもこうして暗くして、逆に恵に気を使わせるのも悪いと思い、さっきまでの軽い口調に戻すことにした。
そして、先に口を開いたのはシャワーズだった。
「本当は優しいんだね。恵君がそもそも過去とか自分自身の事におおらかな
性なのかもしれないけど、私らはこういった事を聞かれると、まあ聞かれ方によるけど
激昂って分かるかな、よくそうなっちゃう。私とリーフィアはそうでもないけど、エーフィがそういうのに一番敏感でね、プライドが高いのもあるけど、相当怒る、無理をしてでも。恵君は何とも思わないかもしれないけど話すときはちょっと気をつけてね。相当吹き飛ばされるかも」
最後の一言が怖すぎる。300メートルで“ざっと”のであるこいつらの物差しで相当とは、どれだけなのだろう。分かった、とは言ったもののやはり気になったままだった。
「話いきなり変わるけどさ、ちょっと休憩していいか?さっきからの体制もそうなんだが、首が結構きつい。以外と体重も重かったし」
「最後の“重かった”はいただけないけど、無理しないでもいいよ」
その声を聞いた途端、リーフィアを置いてすぐにとんぼ返りのようにテラスに戻ると、
「ほら、早く降りてくれ」
しゃがんで頭の位置を低くして、すぐに降りるように促した。
「そんなにせかさないでよ。私のペースもあるの」
そう言いながらも、恵の頭から降りていったのだが、その降り方が前に降りた為、後ろ足が目の上に当たったり、尾びれが顔面に直撃したり、最後の最後まで痛めつけられる羽目になってしまった。シャワーズという荷物を降ろした恵は、
「やっぱり頭の上に乗っかるのは諦めてくれ。色々きつすぎる。これじゃあ探し事が無理だ」
十分ほど頭に乗せてみた感想を言った。シャワーズが名残惜しそうに、
「そこをなんとかならないの?根性で、とかあるじゃん。もうちょっと絶景を楽しみたいし」
少し強引な理屈だが、まだ頭の上に乗っかりたい願望があるので、主張してみたが、
「あのさ、本当に首が折れそうだったし、その伸びた爪も結構痛い。これじゃあ根性もクソもねえって。そんなに絶景を楽しみたいなら二階に上がればいいのに。どんな理由があろうと、もう勘弁だからな」
予想が薄々ついていたが、やはり拒絶した。こうなれば、テコでも動かないだろう。そのアピールのように、痛みを和らげる為に恵は首を回していた。その時、
「でも痛くなければいいんだよね」
肩から上の至るところに痛みを抱えた恵を遠目に見ていたリーフィアが、外側から声を投げてきた。
「まあ、そうだな。で、それが?」
「それが私に出来るかもしれないって話」
「どうせ肩を叩いて終わりって事だろ。じゃなくてマッサージとか?」
「違う。ちゃんとした“いやしのすず”ってのがあるから」
「なんだそれ?あれか?占い師が使っていそうなやつ」
「それがどういう物なのかよく分かんないけど多分それでもない。技の名前」
「なるほど。で、何すりゃいい?」
「基本的には何もしないで良い。まずそっちに行く」
そう言って、リーフィアは恵の方へと駆け寄ると、
「じゃあ、やるよ。あ、やっぱりこっち来て。ちょっと遠い」
そういえばリーフィアは土足だったと今思い出し、テラスの手前で立ち止まった。
「何もしないって言ってたけど、まあいっか。何するか知らないけど」
「そういう独り言をやめてくれる?気が狂うの」
「はいはい、じゃあ始めてくれ」
「座らないと始まらないから」
それを聞いて恵は結構動かされるんだな、と口には出さなかったがそう思いつつ、あぐらをかいて座ると、始めるよ、の一言でそれは始まった。
リーフィアが恵は肩に茶色の両前足を置くと、しばらくして、少しずつそこに熱を帯び始めた。鈴とか言っていたが、得にそういうような音も感じもしなかったが、少しの眠気もしてきた。その後は同じ状況が続いた後、肩の熱も冷め始めた頃に、
「こんなものかな?」
この声がしたという事は、終わったという事でもある。リーフィアの前足が離れてから恵は試しに肩を動かしてみた。すると、あの鈍い痛みが綺麗さっぱり、それこそそもそも痛みなんか元から無かったように。恵はその事実を受け入れるまで、しばらく無言であった。その無反応な所に、
「で、どうなの?痛みとかって無いの、あるの、はっきりして」
「無い」
リーフィアが恐る恐る聞いてみたが、無事成功であった知らせを受け、良かったー、と安心の声を出した。
「なんとか治ったみたい。何でもないならとっとと本当のことを言ってくれればいいのに」
「反応出来るわけがねえよ。だってさ、おかし・・・」
「その言葉はもう聞き飽きた。何でもかんでも感想とかをおかしいでまとめるのをやめてくれない?凄いね、とかは無いの?」
おかしいが言えないだと?これもおかしいのでは?と心の中でしゃれになったこの事を収めて置き、
「なっ、じゃあどう答えろと」
これだけは言わせてもらった。
「だから、凄いよね、とかでいいんじゃないの」
「自分は、凄くない思って・・・」
「最低!」
何気なく思った事を口にしようとただけなのに、最後の一言を言う前に突然鋭い声がして、恵は内心少し驚いた。
一方のリーフィアは本当にとことん相手の事を考えない素直な発言はどうにかならないの、と後に続けようとしたが、シャワーズに目線を流され、そこで口を封じられてしまった。ここからはリーフィアを諭す事も範囲に入れて、シャワーズが話し始めた。
「気持ちは分からなくもない。でもそこは嘘も方便って言うじゃない。まあ、そんなに直球に話しても良く分からないで終わることも多いし、今みたいに嫌われちゃうよ」
「まあ、分からないって事は・・・、あるか?」
「普通にある。恵君が分かっていたとしても、あんまりいい例が無いけど相手にとっては会話になっていない答えだって思うこともあるかもしれないし」
いや、あるな、と恵が言う。
「そのいい例ならお前らだろ。その色々ぶっ飛んだ世界とか」
「あ、そうだったね。私らからは普通なんだけど」
「普通・・・、か」
こちら側も聞き飽きた普通という言葉が、不意に心のどこかに引っ掛かり、
「誰かの座右の銘じゃないけど、“普通や常識ほど不思議な物は無い”ってあるぐらいだから、やっぱり何とも無くて、お前らが正しい、までは行かないけど、自分が懲り過ぎたのかな。自分の物差しが小さかっただけで、って所もたまにあったし」
なぜか独り言みたいな口調を紡ぎだしていた。シャワーズの不思議そうに見つめられて我に返って、いや、何でも無い、と誤魔化したが、
「なんか恵君らしくないような気がするけど、どうしてかな?」
調子に乗った感じの声質になったシャワーズからそこに目を付けられてしまった。もちろん、急に態度を変えたシャワーズに対して恵も反撃に出た。
「お前、絶対人のことを遊んでいるだろ。なんか泣いたカラスが笑ったようって言葉がお似合いだな。さっきは、どうお詫びをしたらいいのか、って言ってたのに」
「恵君が別にいいって言ったからそうしているだけじゃん。なんか問題でも?」
この態度だ。もともとあれは演技か何かの間違いだったのでは?と思うぐらい、あの姿は跡形も無くなっていた。
「じゃあ、もともとはそういうのが好きだと。それは生意気って言うんだ」
「そうかもしれないね。まあ、過去の事はむやみには触れはしないけど。面白いって所があるからいじり甲斐があるし」
いじり甲斐があるだと?そんなに面白いと感じれる価値観も持っているのか、と変な所がまた見つかり、更に悲観的に思っていた。そして、それがまだあと七匹もいるので、そう思うと、恵は頭がおかしくなりそうな気持ちだった。でも相手のペースにだけは飲まれまいと、まだ言葉を続けた。
「面白いって、そうか?でも、そのいじったやつがさ、もしも自分の過去に繋がることだったらどうする?」
「故意にやっていないなら大丈夫だって言ってたからね。私だってそこに繋がりそうな雰囲気がすると分かってそこに首を突っ込むことをするほどバカじゃないし。リアクションが薄情な所が玉に傷だけど」
「あのな、自分はリアクション芸人を目指している訳じゃないんだ。そんなに反応に期待するなら本物の芸人でも呼べって言いたくなる。あと、その適応力みたいなのってなんなんだ?一体」
恵もまた流れに乗って、位置付けが高いランクの疑問点を今、シャワーズにぶつけた。
「そう?あんまりそう意識した事がないし、自分なりにしゃべっているだけで、それがどうしたって言うの?別に話しやすいならそれでいいじゃない」
「それだと逆に自分は話しにくいからこう聞いているんだ」
と恵は言うと立て続けの会話に疲れ、ため息を一つした。そうしてから、なあ、とシャワーズに投げ掛けると、思いもよらない事を口にした。
「もう飯にしないか?」
あまりのいきなりさに付いていけず、シャワーズとリーフィアは大いに本気でずっこけた。どうした?と声を掛けたが、
「あの、どこがどうなって食事の話を出したの?一体」
なんの繋がりもない展開で頭の中がはてなマークが一杯だと思い、恵は上の時計の針を見て、説明をした。
「だってさ、何気に11時半回っているし、これから出たとしても腹が減って何も出来ないとかは本末転倒だ、って訳で今のうちに食っといた方がいいと思うからだ」
「そこはあんたの都合だけじゃない。私は光合成でなんとか出来るし、シャワーズは水がたくさんあるし、人間も空腹ぐらい耐えられると思う」
「そこも個人の都合とかだと思うぞ。もしも森のど真ん中で、自分が腹が減って“ダメだ、もう力が出ない”とかなったらお前らどうする?まあとにかく昼飯だ、お前らもなんか食っとけ」
せっかく言えた反論も矛盾を指摘され、黙り込んでしまったリーフィアを横目に、恵は台所へと向かっていった。
シャワーズが、その衣装で大丈夫なの?と聞いてみたが、別に平気だ、と当たり前のように答えた。
表側では退屈そうな素振りも見せたが、本当はこの“当たり前”ほど不思議なものは無いという言葉がどうしても心の中に引っ掛かったままであった。