社畜とルカリオ
これはまずい。ご主人の波導が濁り始めてきた。いったいご主人の身に何があったのか。具体的に分からなくても、何かご主人の調子が良くないことは分かる。しかしご主人の表情はいつもと同じく疲れた雰囲気なので、特別誰かに痛めつけられたとかそういうことではないようである。
ご主人はいつも日が昇るくらいに出かけていき、日が沈んでしばらくしてから帰ってくる。共にいるのはごくわずかな時間だけだ。外で何をしているのかは知らない。ただ、帰ってきてからはご飯とお風呂、それから少し自分を撫でるくらいしかしないですぐに寝てしまう。朝はさっさと家を出てしまうので、掃除やゴミ出しなんかも自分が担当している。もう少ししっかりして欲しいとはいつも思うのだが、疲れた表情を見るとつい責める気が無くなってしまう。波導が濁ればなおさらだ。共に旅をしていた頃は、いつでも元気そうにしていたのだが。
とにかく何とかしなければ。翌日ご主人の後をつけてみると、着いた先はビル群のうちの一つの建物。あたりは人通りも多い大通りで、怪しい気配や波導も無いから不思議だ。建物の中に入ろうとしたが、入り口の警備員に止められてしまった。仕方なく外から波動で探るのみにしたが、それでもご主人に危害を加えそうな邪悪な気配は全く感じられなかったのだった。
帰ってきたご主人はカバンを投げ捨て、すぐに着替えて弁当をレンジに入れた。そして自分を撫でてくる。波導は相変わらず濁ったままだ。さっさとご飯を食べ、お風呂に入ったら寝てしまった。
翌朝、自分を連れて行けとご主人に迫ってみた。家を出てからも強引について行ったら、ボールの中にいることは許してもらえた。建物の中にはご主人以外にもたくさんの人がいるようだ。カタカタという音がそこら中から聞こえてくる。何か危険な奴が来たらボールから飛び出してでも守ろう。実際何人もご主人に話しかけては去って行く。中にはちょっと気持ちの良くないことを言う人もいたものの、危害を加える人は一人として現れなかった。こうなると自分がここに来ても出番はなさそうである。
家に帰ってボールから出たときに見たご主人の表情も普段と変わらない。とうとうどうしたらいいか分からなくなってしまった。仕方が無いので、とりあえずご主人の側にいることにした。自分を撫でることだけは毎日欠かさなかったから、ご主人はまたご飯とお風呂だけ済ませて眠ろうとしている。ちょっと恥ずかしかったが、意を決してご主人と同じ布団で寝ることにした。それくらいしか思いつかない。進化前は結構な頻度でやってたのだからいいだろう。ご主人も許してくれた。トゲが刺さらぬよう波導で覆いご主人にくっつく。もふもふしてくるご主人の波導が、ほんのわずかだけ正常に戻ったような気がした。
幸いにも明日は休みらしい。自分をもふって元気になるなら、一日中それでもいいかなと思った。