バチュルの旅
あるところに、バチュルというポケモンがいました。黄色いからだに青い目を持つそのポケモンは、電気を吸い取るのが大好きでした。いつも町の人やポケモンにくっついては、静電気をもらっていくのです。体がとても小さいので、気づかれないでくっついていけるのです。そうして町を一通り回った頃には、いつも電気でお腹がいっぱいになっているのでした。バチュルの居る町は、大きなお城もある賑やかな町でした。だから、お腹を空かせた日はほとんどありませんでした。
ある日、いつものように町を回っていると、町が普段より賑やかなことに気づきました。昨日まで無かったお店が、広場にたくさん出ていました。広場を通る人も、いつもよりたくさんでした。バチュルは、いつもよりいっぱい電気がもらえることを想像してウキウキです。
バチュルが一番気になったのは、大人達が配っている風船でした。ふわふわと風に揺れる風船には、静電気もたくさん溜まっていそうです。バチュルはすばやく大人の肩に上って、風船に飛び移りました。風で気まぐれに揺れる風船に乗って、気分は遊園地のアトラクション。ゆらゆらと揺れる景色が、バチュルには面白くて仕方ありません。電気をもらった後も、しばらく風船の上で揺られていました。
のんびりしていると、突然強い風がふいてきました。風船も大きく揺れて、うっかり落っこちそうになりました。しがみついてほっとしていると、あれれ? 景色がどんどん遠くなっていきます。お店も、人も、どんどん小さくなっていきます。バチュルは慌てたけれど、どうすることもできません。あれよあれよという間に、風船はとうとう雲と同じ高さまで来てしまいました。
どうしよう、バチュルは焦って周りを見渡しましたが、あるのは雲ばかり。下を見ても、ポケモンや人は見えません。体中の毛が逆立ちそうな思いです。しばらく目をつぶってしがみついていると、すぐ横から声が聞こえてきました。
「なんでこんな所にいるんだい?」
おそるおそる目を開けてみると、そこには大きな鳥さんがいました。大きく翼を広げた姿は少し怖かったけど、思い切って事情を話してみました。
「そうだったのかい。私はピジョット。下まで連れて行ってあげよう」
そういうと、ピジョットさんは風船のひもをくわえて下に降りていきました。ちょっと速くて怖かったので、ちょっとゆっくりにしてとバチュルは言いました。だけど、風の音が大きすぎて、ピジョットには聞こえていませんでした。
風船はどんどん地面に近づいて行きます。風も強く吹いています。バチュルは風船にしがみつくだけで精一杯。
プツン。
変な音がしました。すると風が弱くなりました。景色の流れもゆっくりになりました。下を見てみてると、ピジョットさんは相変わらず下に向かって飛び続けていました。白いひもをなびかせて、バチュルのことは気づいていない様子。どうしよう、ひもが切れて、ピジョットさんもどこかに行ってしまいました。バチュルはまた、ふわふわと浮かぶ風船の上でひとりぼっちです。
ぼんやりと空を漂っていると、さっきとは違う鳥さんがやってきてきました。大きなとさかがあって、やっぱりちょっと怖そう。
「ただの風船かと思ったら、バチュルがくっついてるじゃねえか。坊主、いったいどうしたんだ?」
バチュルはまたいきさつを話しました。ちょっぴり声が震えたけれど、鳥さんはにこっとしてうなずいてくれました
「坊主も大変だなぁ。俺はケンホロウ。俺が出来るのは、風を起こすことぐらいだけどな。いくぞー!」
そういうと、早速ケンホロウさんは翼をはためかせて風を起こしました。ちょっと毛が逆立つけれど、風船はどんどん下がっていきます。風が目に入って、開けていられません。バチュルはぎゅっと目をつぶっています。
風が止みました。目を開けて下を見てみると、人やポケモンが分かるようにはなったけど、まだまだ降りるには高い場所。バチュルはもっともっととケンホロウさんにお願いします。だけど、ケンホロウさんは首を横に振るばかりです。
「すまねぇ、坊主。疲れちまった。後は他の奴になんとかしてもらってくれ!」
そういって、ケンホロウさんはゆっくりと地面へ降りていきました。地面が近くはなったけど、バチュルはまだまだひとりぼっちです。
しばらくすると、もといた町が見えてきました。お城の上には大きな旗がなびいています。バチュルは辺りを見回しました。すると、さっきとまた違う鳥さんがやってきました。真っ黒で、今までの鳥さんよりはちっさいです。バチュルはその鳥さんに声をかけてみました。
「ん? あっ、風船だ! 割っちゃえ!」
バチュルはあわてて止めて欲しいと言いました。だけど鳥さんはどんどん近づいてきます。
「おいらはヤミカラス! 風船を割るのが大好きなのさ!」
そう言うと、くちばしで風船を突っついてしまいました。
パン!
さあ大変。バチュルは割れた勢いで跳ね上がって、そのまま地面へ落っこちていきます。体をじたばたさせても、空を切るばかり。下のお城まではまだまだ遠いです。ぶつかったら痛そうだなぁ、と思うと体中が寒くなりました。
地面がだんだん近づいてきます。どうしよう。バチュルは小さな頭をフル回転させました。それでもいいアイデアは出て来ません。どうしよう。バチュルは諦めずに考え続けました。そこで、自分が旗の近くに落ちてきてることに気づきました。その時です。バチュルの頭の中で、ピカッとランプが光りました。体の向きを変えて、狙うは旗のついている棒。
エレキネット! 棒に引っかかってバチュルは宙ぶらりん。なんとか網を上って棒にしがみつきました。下まで降りてきて、やっと一安心。
もう、日が沈みかけていました。空を見上げて、手伝ってくれた鳥さん達にありがとうを言いました。ヤミカラスさんには、お礼を言う気になれなかったけど。今日は怖かったけれど、ちゃんと戻ってこれるなら、もう一度空に行ってみたいなぁ。バチュルはそんなことを考えながら、うとうとと眠り始めていました。