44話 槍使い
「なんか…ソウタが穏やかになった気がする」
こっそりとジャック達に告げる。
「そうなの?あたしは初めて見たからわかんないんだけど」
「俺は一回だけ会ったことがあるけどな」
ジャックはチラリとソウタを見たがすぐに視線をこっちに戻した。
「ジャックもソウタと戦ったことあんの?」
「いんや、ねえ」
「じゃあどこで会ったんだよ」
「船に乗ってたら目の前に落ちてきて、『宝玉をよこせ!』って言うから無いって言ったら舌打ちして消えてった」
「いいなあ。俺達なんか凄いボッコボコにされたんだぞ」
「で?宝玉全部盗られたのか」
「いや、ツタージャ達がアルセウスとか連れてきてくれた」
「ほー。良かったな」
口ではこう言っているが残念そうな声をしている。
「ちょっと!あたし聞いてるだけなんだけど!」
「ああ、うん。悪かった」
「だいたいねー━━━」
『ブニャット、ドレディア。リングに出てください』
「ちっ。話しは後だ」
ブニャットはのしのしと出ていった。
「…怒らせたの俺達のせいじゃないよな」
ジャックがポツリと呟く。それに同意するように俺は小さく頷いた。
『勝者ブニャット!』
やっぱりな、と苦笑いすると、ブニャットが目を瞑って帰ってきた。
「どうした?」
ソウタがこっちに歩いてくる。
「フラッシュで…目を殺られた…」
苦しそうに呻くブニャットを見て気の毒に思ったが俺にはどうすることもできない。
「おい、これを飲め」
ソウタが小さな丸薬を渡した。ごくんと飲み込むと苦痛に歪めていた顔が普通になり目を覆っていた手を放した。
「あ、れ?治った?」
パチパチと瞬きしながら呟いた。
「なんだよそれ」
ジャックが聞く。
「これは俺特製の薬だ。オレン、モモン、クラボ、カゴ、ナナシ、オボンを混ぜてそこに塩と砂糖入れてこねて乾燥させて完成」
無表情のまま淡々と説明した。
『イーブイ、シュバルゴ。リングに出てください』
「行ってくるわ」
一言告げてリングに上がった。
『ファイトっ!』
レフリーの掛け声と同時にシュバルゴが突進してくる。それを飛び越え着地して振り向き様にリミッターを解除して龍の波導を撃つ。
「ぐはあ!」
砂塵で見えないがドゴッ!と壁に激突する音がした。身構えて待っていると大量のミサイル針が飛んできた。
バク転で回避したが次の瞬間、シュバルゴが俺の目の前にいた。
「なッ…!?」
心臓めがけた一突きだったが無理矢理身体を捻って急所は避けた。しかし、その代わりに肩を貫かれた。
よろよろと肩を押さえて立ち上がる。
「勝機とみた!」
シュバルゴが自身の最速の速度で迫ってくる。こんな状態であの突きを喰らったら最低でも病院送りだろうと考える。
だが、俺には秘策があるのだ!
「うおおおお!!!」
雄叫びをあげて走ってくるシュバルゴの槍の間に潜り込みじたばたを発動させる。
今、俺は結構体力が減っているため威力は相当なものだろう。事実、技の第一撃目が当たったその瞬間にシュバルゴは気絶したからだ。
『勝者イーブイ!』
今回ばかりは観客に手を振る気にはなれず足早に控え室に戻った。
「おー、お帰り━━ってどうした肩!?」
ジャックが慌てて駆け寄る。
「シュバルゴの槍に刺された」
「これ飲め」
ソウタが薬を渡してくれ、飲み込むと体が楽になり肩の傷が癒えていくのが感じられた。
「サンキューソウタ」
「ライバルが自分と対等の状態じゃなきゃ嫌なんでな」
「だよなー…え?俺がお前のライバル?」
「そうだ」
ここでソウタが初めて笑顔を見せた。
「イーブイは強いが、まだ雑念が多い。余計な事は考えず目の前の相手にだけ集中しろ」
そして、アドバイスまでもらえた。
「じゃあ俺は?」
「あたしは?」
ブニャットとジャックが同時に聞く。
「お前らは知らんがイーブイと知り合いならば強いんだろうがライバルとは認めない。俺が戦って興味の湧いたやつだけだ」
中々厳しいな、と思い俺は苦笑いした。