43話 強運と凶運
―観客席―
「おー、イーブイ勝ったねえ」
アブソルが感心して言った。
「まあさすがに一回戦で負けるほど弱かあねえだろ」
残念そうな顔でブースター兄ちゃんが言った。
「何残念そうな顔してんのよ」
すかさずロコンのツッコミが入る。
「だって…ボコボコにする確率が低くなるじゃん」
「あのねえ、私達は宝玉を集めてるの。わかる?」
「わかる…」
「じゃあなんで負けてほしいみたいな事言うのよ!」
(年下に怒られる兄さん…面白いわ…)
シャワーズ姉ちゃんがクスッと笑った。
『ハッサム、ジャック。リングに出てください』
「な!?ジャックだって!?」
ルカリオが驚いた声を出す。
―控え室―
「え?ジャック?」
観客席で兄、姉が騒いでいたのと同時刻。俺はジャックという名を聞いてドキッとした。
「まじか…ジャックが出るのか…」
深いため息をつき、母親が作ってくれた八色リボンを耳に巻く。幸運のお守りになるように信じて…
『勝者、ジャック!』
リボンを巻いた数秒後レフリーが叫んだ。
「ジャック、か…勝てるといいな…」
自分でも驚くほど弱気になる。
『ブニャット、ローブシン。リングに出てください』
「ブニャットまで!?」
このアナウンスを聞いて俺の胃袋が数段落ち込んだ気がした。
『勝者、ブニャット!』
再びレフリーの声が轟、ジャックの時よりも深いため息をする。
『ソウタ、キリキザン。リングに出てください』
「ソウタだとぉ!?」
同じ部屋にいる選手達がビクッと体を震わせてこっちを見た。余程大きな声を出してしまったようだ。周りに頭を下げて謝り、思考に没頭する。
(ソウタ、ジャック、ブニャットだと!?勝てる分けねえよ、特にソウタ!俺って凶運の持ち主なのか!?)
『勝者、ソウタ!』
やっぱりソウタが勝つか…
この冒険が始まってから一番深く、大きいため息をついた。
『イーブイ、テッカニン。リングに出てください』
「ん、俺の番か」
ゆっくりと立ち上がりリングに出る。相手であるテッカニンはちょこちょこ動き回ってるため、うざい。
『ファイっ!』
レフリーの掛け声と共に試合が始まる。先手必勝のつもりでスピードスターを放つ。スカッ、と避けられる。
「ぬおっ!危ないでごさる!流石拙者!里一番運の良い雄でござるよ!」
舌打ちしながら二発目を撃つ。またもや避けられた。
「確かお主はツヨイネのリーダーでござったな」
「それが?」
「世界最強といえどもこんなものか」
テッカニンの馬鹿にした口調と声で俺の怒りに火がついた。
「なら…本気を見せてやるよ!」
リミッターを解除し、利き手である右手に竜の波導を溜める。
「喰らえ!《ギガトンパンチ》━━ってのは嘘だよ!」
殴ると見せかけ拳を地面に叩きつける。すると地面がひび割れ、その間から青色の波導が流れ込む。そしてテッカニンを直撃する。
「これが新技、《登竜門》!」
「が、ぐあ!」
「まだいくぜ!」
電光石火だがリミッターが解かれているため神速に近い速度で突っ込んでいく。
「《クイックインパクト》ォ!!」
スピードにのったままテッカニンの柔らか腹にアイアンテールを叩き込んだ。凄まじい衝撃音と共にテッカニンは吹き飛び壁に激突した。
『勝者、イーブイ!』
アナウンスが流れ、観客が大拍手を俺に贈る。俺はふっ、と笑い片手を上げながらその場を後にした。
控え室に戻るとジャック達が座っていた。
「よお、イーブイ。可愛いリボン着けてんじゃん」
ジャックがくっくっ、と笑いながら言った。
「うるせえな。これは親の形見だ」
「中々レア物じゃない」
ブニャットが手を伸ばしてきたのでそれを払い除けた。
「なんか仲良くなったんだなお前ら」
「んー、まあまあってとこかしらね」
「だよな」
二匹で顔を合わせて頷く。
「ソウタは?」
「あそこ」
ジャックの指差す方にはソウタが隅っこで座っていた。
「よお、ソウタ」
「やあ…」
「お前も宝玉狙ってんだろ?」
「誰だってそうだろ」
「まあな…でも、お互い頑張ろうな!」
「ああ」
「いや俺は!?」「あたしは!?」