41話 時と感謝
―巨木の森 最下層―
「んで?具体的にどんな勝負すんの?」
「聞いて驚かないことね。なんせ、私達は一度も宝玉を盗られたことがないんだから」
「やりがいあるじゃん」
俺は気合いが入った。盗られたことがない、と言っている物をゲットするなんて手に入れた時の爽快感は半端じゃないだろう。
「勝負は…時と感謝!」
「時と感謝?」
はあ?と首を傾げるブラッキーを見てセレビィは自身の背丈とほぼ同等の砂時計を地面に置いた。
「この中の砂が全部落ちきる前に自分が一番お世話になってる者に感謝の言葉を述べよ。あと、この時計は時間操作でいじくっていいからね。あ!そんなことできないか!」
最初は真面目に説明していたセレビィだが最後の方は嫌みっぽく聞こえた。
「俺が時計やるわ」
「そっかあ、イーブイは時間操作できるもんね」
「なんでしゅとお!?」
シェイミが驚いた顔で俺を見た。
「じゃあ感謝は僕が」
ツタージャが名乗り出た。
「できるの?」
クチートがからかうように聞いた。
「僕にだってお礼したいこと沢山あるよ!」
「言い忘れてたけど感謝の審判は私でしゅ」
「決まりね。早速始めましょ」
セレビィが手をと叩いた瞬間砂が落ち始めた。
「余裕、余裕」
俺は砂が落ちてくるのを防ぎながらくつろぐ姿勢をとった。
「おい、ツタージャ。時間はたっぷりあるから好きなだけ話せるぞ」
「あー、じゃあまずはツヨイネの皆に…去年は僕とクチートを匿ってくくれてありがとう」
俺らは…いや、少なくとも俺は去年のあの日を思い出した。二匹が匿ってくれと家に飛び込んできたこと。
「それと兄さんと母さんを見つけてくれてありがとう」
実は担任の先生がツタージャの母親だったこと。しかも一流の探検隊であったことも。
「最後にクチート。僕のパートナーでいてくれてありがとう。そして、これからもよろしく」
「私こそよろしく」
クチートは頭…というよりは後頭部の顎を照れくさそうに掻いた。
「うん…合格でしゅ!」
シェイミがパチパチと拍手する。
「やった!」
ガッツポーズで喜ぶツタージャを皆で囲み胴上げする。
さすがにやり過ぎだろ…と思いつつも参加する。急にセレビィの怒声が響いた。
「呆気なさ過ぎるよ!」
「だってぇ…あの子嘘ついてないもん」
「ああー!!あんたら!戦いなさい!勝ったら宝玉あげるわ!」
「えー?私達勝ったのに〜」
ぶーぶーと文句を言うリーフィアを見ていると不思議と笑みが零れた。こんな平和な宝玉の奪い合いは初めてだからなのかもしれない。
「戦うったら戦うの!戦わなきゃ宝玉あげない!」
ギャーギャー喚くセレビィに俺はイライラし始めていた。
「わかった。俺が勝負してやるよ」
「あ、あんた!女を殴ろうとするなんて!プライドないの!?」
突然慌てふためきしどろもどろになる。
「ない!」
にこやかに笑いかけて首をポキッと鳴らす。
「イーブイが行くのなら私も」
師匠が俺の横に並んだ。師匠と一緒に戦うのは久しぶりな気がする。
「あんたもよ」
セレビィがシェイミを隣に連れてきた。
「私も戦うでしゅか…?」
セレビィは無言でコクンと頷いた。シェイミの表情は暗くなった。
「ヘマしないように」
師匠が釘を刺すように告げた。
「師匠こそな!」
電光石火でセレビィの懐に潜り込みアイアンテールで攻撃するが、避けられ勢いに乗ったまま近くの木に顔から激突した。
「痛ったあああ!!」
ゴロゴロとのたうちまわる俺を見て皆が笑い始めた。
「くそう…癒しの波動!」
自分の顔に緑色の波動を送り込む。すると、みるみる痛みが引いていった。
「サイコキネシス!」
師匠の目が水色に光、見えない力がセレビィを締め付ける。
「あ…が…!」
セレビィは苦しそうにもがくがどうにもならない。師匠はそのまま地面に何度も何度も叩きつけた。
「一匹終わったわ。残りはよろしく」
気絶したセレビィを見て師匠は引き下がった。
「よ、よくもセレビィ!…みぃぃ〜ー…」
シェイミは力をため、何かしようとする。見届けたい気持ちの反面、これはヤバいという確信をもった。
「シードふれ━━」
「させない!ブレイズキック!」
技が放たれる直前にシェイミの前に移動し、ほぼ垂直に足を振り抜いた。
「みぃ!?」
シェイミはボールのように弾み地面に落ち、気絶した。
「よーし。勝った勝った」
「で、宝玉は?」
エルがセレビィに聞くが気絶していて答えることができない。仕方なく全員でキョロキョロ辺りを見ていると小さな箱を一つ発見した。
「あったぞー」
箱の発見者であるクチートが手を振って呼ぶ。
「さあ、帰ろうか…の前にこいつらどうする?」
気絶している二匹を指差し皆に問いかける。
「連れて帰って気がつくまでそっとしておこうよ」
ビクティニの提案には全員賛成だった。
後程、箱に入っていた宝玉の色は緑だった。