36話 アブソルの新能力
―氷雪の霊峰―
「ふわぁぁああ…」
俺は欠伸と共に目を覚ます。現在の時刻は…時計がない。そうだった、ここは氷雪の霊峰であって俺の部屋じゃない。
「お、もう起きてたのか」
キュウコンが欠伸混じりに言った。昨日同様、尻尾が垂れ下がっている。
「皆は?」
「まだぐっすり寝てる」
「そうか…じゃあ俺も二度寝しようかな」
そう言って再び布団を被るとキュウコンが潜り込んできた。
「狭いんだけど」
「私早起きすぎたのよー。自分の布団に戻るのも怠いしここで二度寝するのよー」
「ったく…」
キュウコンは俺を抱き枕のようにして寝始めた。最初は抵抗していたがキュウコンの温かさに目蓋が重くなり再び眠りについた。
「ん…」
次に目が覚めた時、キュウコンはまだいた。そろそろ皆も起きているだろうと思い、入り口に集まる。案の定俺とキュウコン、そしてアブソルを除く全員が起床していた。
「やあ、おはよ」
「おはよーエル」
「で?どうなの?」
「え?何が?」
グレイシア姉ちゃんがわかってるくせに、という顔をするが全くわからない。
「アブソルよアブソル」
「ああ…まだ起きてないってさ」
「いいや、起きてるわよ」
『アブソル!』
皆が驚きの表情の中アブソルはニッコリ笑っている。
「おはよう、皆」
「あら…やっと起きたの」
キュウコンが寝癖をつけたまま来たため全員大爆笑だった。
「わ、笑わないでよ!」
「わりいわりい」
込み上げてくる笑いを我慢しながら話す。
「それと、アブソルに話しがあるわ」
首を傾げながらキュウコンのところに行く。
(語り手:アブソル)
「何?」
「アブソルが戦ってた時のことを詳しく教えてほしいの」
「? わかった」
私は頭を捻って思い出した。
「んと…ソウタに首の裏を叩かれて、で気絶しそうだっけど気合いで持ちこたえたの」
「それで?」
「そしたらイーブイが殺されそうになった瞬間力が湧いてきたの」
「その時の状況はアブソルはぼろぼろ、イーブイもぼろぼろだったのね?」
私はコクリと頷いた。
「珍しい…非常に珍しい」
譫言のようにぶつぶつと呟くキュウコンに私は尋ねた。
「何が珍しいの?」
「その時に起こったのはアブソル、お前の新能力だ」
「え?もう一回言って?」
私は思わず聞き返した。イーブイやエルみたいに強いのならばならば新能力というのもわからなくもないが、私に新しい能力なんて…
「アブソルの新能力だ。能力名は《限界突破》。発動条件は自分がぼろぼろの状態、そして愛する者もぼろぼろの状態でのみ発動できる」
「愛する者って…恋人とかがいれば誰でもできるんじゃないの?」
「いいや、お互いが生命的危機に陥った時、そしてそれが予期してない事態だった時のみだ」
「そうなの」
自分に滅多に無い能力があることを嬉しく思うと同時に照れる。
「まあ、さしずめお前の愛する者はイーブイだろうな」
「ち、違うから!!」
「何が違う?顔が真っ赤だぞ?」
「う、うるさいうるさい!!」
「おーい、イ━━ムグッ」
「黙ってて!!」
キュウコンに飛びかかり口を抑えて押し倒す。
「なんだい?キュウコン」
「なんでもないよー」
私は微笑んで嘘をつく。バレませんようにと祈りながら。
「ふうん…そう。ならいいや」
イーブイはニッコリ笑って戻っていった。私は大きく息を吐きキュウコンを睨む。
「危うくバレるとこだったじゃない!」
私はキュウコンに馬乗りになり胸ぐらを掴み地面に打ち付ける。
「早くしないと、ロコンとかグレイシアに盗られるぞ!」
バシバシ背中を叩きつけられ所々言葉が途切れ途切れになっている。
「ロコンは、わかるけど…なんでその他が!?」
「少し見ればわかる。何百年も生きてればな」
「おい、アブソル」
「ひゃあう!!」
「うお、なんだなんだ。…まあいいや、出発するから早く船に乗れ」
急にイーブイに私はすっとんきょうな声を出す。それからイーブイとは顔を合わせないように船に乗った。
「泊めてくれてありがとな」
「いんやあ…私とて面白いものが見れたから十分だよ」
「じゃあな。また寄るよ」
「いつでもおいで。それと…アブソルに優しくしてやりな…」
すれ違い様に言われよく聞こえなかったようで聞き返した。
「え?なんて言ったの?」
「ううん。なんでもないよ♪」
キュウコンはニッコリ笑って帰っていった。
「んだよ…おーい、さっさと行くぞー」
走って船に飛び乗り再び私達の航海が始まった。