26話 全ては元通りに
―船の上―
結局、俺の力と体については後回しにされた。
「はあ…どうなっちゃうんだろ?俺…」
ため息をつき、時計を確認する。現在午前2時。皆はぐっすりである。夜風に当たろうと思い甲板に出る。
「…………」
ボーッと考え事をしていると厨房から音がした。
「ん?なんだろ…」
抜き足差し足忍び足で降りていく。
誰かがモシャモシャと何かを食べている。こっそり覗くとミュウがいた。
「おい、ミュウ!?何してんだ!」
「!! ゲホッ!ゴホッ!」
急に呼ばれたからか激しく咳き込む。
「お前何食って…」
ミュウが食べている物を確認した瞬間声が出なくなった。いや、正確には出せなかった、だ。
なぜかって?それは…
「それは俺の限定品ドーナッツ!家からせっかく持ってきたのにぃ…」
「わ、悪かったわね。グレイシアのだって知らなくて。ていうか貴女、一人称が俺だっけ?」
「いいか?俺はイーブイだ。頭の可笑しな科学者気取りのピカチュウに無理矢理進化させられたんだぞ!」「ふーん…その格好は趣味?」
俺の着ているメイド服を指差して聞く。
「ちゃうわ。これは罰ゲーム…みたいなもんだ」
「そう…お詫びと言ってはあれだけどその進化戻してあげましょうか?」
「マジで!?」
「マジよ」
ミュウがコクりと頷く。
「【名も無き島】って所に勝利の祠と願いの祠があってそこにはビクティニとジラーチがいるのよ」
「あいつらか…」
去年のダークマター戦後の隕石破壊を思い出す。
「名も無き島に行くには伝説か幻のポケモンに連れてってもらわなくちゃいけないの。だから今夜私が操縦すれば明日の朝にはついてるわよ」
「うわぁ…明日が楽しみだわ!おやすみ!」
俺は勢いよく飛び出し自室に戻った。そして、ワクワクドキドキしながら眠りについた。
―翌日―
「…!」
ガバアッ!と起き上がり外に出る。しかし外には誰もいない。起きるのが早すぎたようだ。操縦席ではミュウが舵を握りながらこっくりこっくりと居眠りをしている。
「おーい、ミュウ」
肩を揺すって起こす。
「んあ? ああ…おはようグレイシア…」
「だからイーブイだって」
まだ寝惚けているのか表情がぼんやりとしている。
「ん…ふぁああああ…」
体を伸ばして目を覚まそうとするミュウを見て俺も欠伸が出た。
「後、どれぐらい?」
「多分一時間あるかないかかな」
「そうかー!じゃ、俺は皆を起こしてくる!」
ドタドタと皆の寝てる部屋に入りビンタする。
「おはよー!!」
「なんか…テンション高けえな…何があった?壊れたか?」
サンダース兄ちゃんが枕に顔を押し付けたまま訊いてきた。
「ふふふのふ!俺は今日でこの忌々しい水色ボディから解放されるのだ!」
「え!?ずるいよ君だけ!」
エルが飛び起きて掴みかかってきた。
「エルも戻してもらえるよ!…多分」
「最後なんかボソッと言った?」
首を横に振り嘘をつく。
その後で師匠達も起こし朝食をとった。
「おーい!着いたよーイーブイ!」
「ヤッホイ!」
ルカリオの頭を飛び越えミュウのいる操縦席まで走る。
「島どこ!?」
「あれよ」
ミュウの指差した方向に目を向けると小さな島があった。早速上陸し、ジラーチとビクティニを探す。
「おーい!ビクティニー!ジラーチー!」
ミュウが大声で叫ぶと二つの祠からひょっこり顔を覗かせた。
「おー!ミュウ、久しぶり〜。今日はなんの用だい?」
「今日は、この子の進化を無かったことにしてほしいの」
「あとエルも」
俺達はビクティニとジラーチの前に行く。
「えー?でも進化したなら戻れないよ、自然の法則に反するから」
「無理矢理な進化も自然の法則に反してるだろ!」
「まあまあ、隕石壊してもらったんだしいいじゃん」
ジラーチがビクティニの肩を叩く。
「…そうだね」
「よっし!じゃあ君達はそこに並んでね…いくよ〜」
彼らは怪しげな呪文を唱えた。すると俺とエルの体は光に包まれた。
再び視界が正常に戻った時は視点が低くなっていることに気づいた。
「あ、エル…」
「イーブイ…僕達戻れたんだよね?」
互いに顔を見つめながら話した。
「ああ、そうだよ」
「っしゃああ!!」
エルがガッツポーズして歓喜する。
「これって能力値とかも元通り?」
「じゃないの?あ…丁度いい相手がいるからあいつで試したら?」
ビクティニの見ている先には一匹のボーマンダが降り立っていた。
「あれ?幻とかに招待してもらわなきゃダメなんじゃないの?」
「大抵はそうだけど見つかっちゃう時があるんだよね…」
「まあいいや!喰らえ!アイアンテール!」
俺に気づいていないボーマンダの首に尻尾を叩きつけた。そして、叫ぶ間もなく地平線の向こう、海の彼方へと消え去った。
「やったあ!!力が元に戻った!」
ぴょんぴょん跳ね回り全身で喜びを表す俺を仲間達はニッコリ微笑みながら見ていた。