24話 黄色い科学者
「やあ!ようこそ我が居城へ!私はピカチュウ」
俺達が中に入ると塔の主が快く挨拶してくれる。
「特に歓迎すべきは私の実験体!」
ビシッと俺とエルを指した。
「は?」
「実験体以外は帰っていいよ」
ピカチュウは手をヒラヒラと振って帰れという仕草をした。
「俺達を元に戻せ!」
「え?やだよ。君達は私の大切な実験体なんだからさ。死ぬまで可愛がってあげるよ」
「なにがなんでも戻させる!」
俺は勢いよく突っ込みピカチュウの首元を狙う。
「あ、そこら辺罠があるから」
カチッ
遅かった…一体なんの罠が作動するのか?
それは【転びスイッチ】だった。通常は転んで装備しているものが落ちるだけで特に何もない。だが俺はかなりの速度で走ったため派手にスッ転んだ。
「うわっ!」
「あはっ!よりによって一番良いの引いたね!賞品としてこれをあげるよ!」
ピカチュウはそう言うと俺の首に何かを注入した。
「が…あ!何…した?」
「ちょっと女の子になってもらうだけだよ」
「なんだと!?これを含めて治せ!」
足を掴もうとしたがジャンプでかわされる。
「ち…」
さっ、と起き上がり次の攻撃に備える。
「十万ボルト!」
「波動弾!」
二つの技がぶつかり爆発がおきる。爆風の間から黄色い手が伸びてきた。
「!?」
その手には新たな注射器が握られていた。今度は俺の肩に刺してきた。
「ッガ!?」
「ふぃー…いっち番面倒な君は封じ込めたし…さあ!残りのカス共もかかってきなよ♪」
「んだと!?まだ、終わってねえよ!」
俺は波動弾を撃つがピカチュウに片手で弾かれてしまった。
「な!?」
「説明してあげるよ。なんで技が弾かれたのかを」
ピカチュウは注射器をくるくる回しながら話し出した。
「今使った薬は【弱体化の薬】って言って本来の1/10の力しか出せなくなるんだ。だから君はもう戦えないのさ。それと女の子は弱い方が可愛いよ♪」
ピカチュウはぐりぐりと俺の頭を踏んでくる。
「さっさと治してもらうよ!」
エルが飛びかかり鎌鼬を放つ。しかし電気ショックによって相殺される。
ルカリオが後ろから《破岩掌》を撃つ。岩をも砕くその拳を容易に回避される。
「っと、危ない!」
隠し持っていたフラスコに入っている液体を両方にかけた。
「わ!?」「ふわ!?」
液体がかかった彼等はどさりと床に崩れ落ちる。
「今のは脱力剤、強制的に体を動かなくさせる薬だよ」
「さっきは二匹だけど、もっと多かったらどうだ!」
「《雷槍》!」
「《水弓》!」
「《火爪》!」
「《氷雪剣》!」
「《草笛》!」
武器技のオンパレードだ。そういう系統の技を持っていないアブソルやブラッキー達も攻撃体勢に入っていた。
「へぇ!面白い技を持ってるんだね!決めた!君達も私の実験材料にしてあげるよ!」
「は!冗談じゃないぜ!」ブースター兄ちゃんの体が近づく者全てを焼き尽くす程の業火に包まれた。
「《ヘル・フレイム》!」
地獄の業火の名に恥じぬ威力でピカチュウを襲う。
「ターンミラー!」
ピカチュウの使った可笑しな道具で技を受け止めた。
「何!?」
そして兄ちゃんの技が皆に跳ね返る。辛うじて耐えたのはシャワーズ姉ちゃんだけだった。
まあ、もちろんロコンも余裕の表情で耐えたが。
氷タイプのグレイシア姉ちゃんと草タイプのリーフィアにとって致命的ダメージとなるだろう。
「グレイシア!リーフィア!皆!」
兄ちゃんの叫びも虚しく兄ちゃんとシャワーズ姉ちゃん以外戦える者がいなくなってしまった。
「ブースター…あんたねえ…」
姉ちゃんは呼吸が荒く火傷だらけなっている。
「姉貴…悪い…全部俺のせいだ…」
「謝るなら倒した後にしなさい」
シャワーズ姉ちゃんは兄ちゃんの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「あ、姉貴…?」
「いくわよ!とっとと倒して皆の手当てよ!」
「お、おう!」
「あらぁ〜いいねえ…姉弟愛ってのは」
ピカチュウは拍手して馬鹿にする。
「い、一応私もいるんだけど…」
ロコンが忘れられた悲しさを物語ったような顔で言った。
「あー…うん。悪かった…」
「もう気はすんだかい?私はこういう茶番が一番嫌いでねえ…早く君達の体を引き裂きたくて仕方ないんだよ!とっとと死んでね!」
「嫌だね!」
ロコンが火炎放射を放つがターンミラーで跳ね返す。
「待ってたぜ!」
ばっ!と前に出て兄ちゃんが炎を技を吸収した。
「二匹共伏せてて!《水弓》!」
シャワーズ姉ちゃんは闇雲に矢を発射した。ターンミラーで防ぎきれなかった矢を見て彼女は勝てる、と確信した。
姉ちゃんは矢を片手に持ち突進していった。
「終わりよ!」
援護にブースター兄ちゃんとロコンが回る。俺はピカチュウがニヤリと笑うのを見逃さなかった。
「待て!何か危ねえぞ!」
しかし、俺の声は届かずに攻撃にはいった。
「引っ掛かったね!《電磁フィールド》!」
ピカチュウの周囲を電気が覆った。
「さあ!実験の開始だ!」