19話 ジャングルの怪物
「はあ…まだ着かないのかよ?」
「んー、後30分ぐらいだよー。カワイコちゃん♪」
ミミロップが俺を馬鹿にする。
「……」
殴ることはできない。何故ならばこの服はスイッチを押されると締め付けられるようになっている。さっきもグレイシア姉ちゃんに喰らったけど二度とやだね。
―科学島―
「着いたな…」
サンダース兄ちゃんが呟く。島はジャングルのようで中央には巨大な塔がそびえ立っている。
「あの塔のてっぺんに凄腕科学者がいるのか?」
「そうらしいよ」
エルの問いにロコンが頷く。
「じゃあ行こうか!」
俺達は塔を目指してジャングルに足を踏み入れた。
「うー…虫ポケモンがいっぱいだあ…」
ツタージャが嫌そうに言う。
「そら!」
ブースター兄ちゃんが火の粉でコフキムシの群れを追い払う。
「ねー。後どれくらいかなあ?」
「あのなあ…歩き始めてまだ3分だぞ?」
「だってえー、このジャングルの中ポケモンじゃないのが蠢いてるんだもん」
「は?今何気にさらっと言ったけどポケモンじゃないのって何?ってかなんでわかるの?」
「草木に聞いたの!ポケモンじゃないのは分かんないけどおっきい奴!」
「マズいな。皆!歩くスピードあげるよ!」
俺達は無言でひたすら歩いた。時折ガサッと草むらが揺れると吃驚して立ち止まる。
でも…リーフィアの言うこともわからなくもない…
なんか、異様な空気が漂ってる。多分俺以外にも皆気づいてるはずだ。
「グオオオオオオオ……」
「え?誰かなんか言った?」
ミミロップが耳をピクリと動かす。
「マズいよイーブイ!何かが、何かが近づいてきてる!」
ルカリオが後ろの方から叫んだ。波動の力で何かを感じ取ったようだ。
「ぜ、全員走ってあの塔を目指すんだ!」
恐怖に追われながら永遠に近いような時間を走った気がした。しかし、それも遂に終わりを迎えようとしていた。
「み、見えた!後、…30メートル!」
ようやく塔が見え、スパートをかける。
と、その時木々を薙ぎ倒して巨大な生き物が乱入してきた。
「!?」
俺達は急ブレーキをかけて止まった。
「なんだこいつ!?」
ブラッキーが見上げて言った。
「巨大オクタンの次は巨大パラセクト、か。僕に任せてよ」
エルが前に出た。
「やめとけよ、入り口は目の前だぜ?」
「大丈夫だよ。こんな女の子っぽくても空間操作はできるから」
「ならいいんだけど…」
「いってくる!」
地面を蹴り巨大パラセクトに向かっていく。
「よお、でかいの…一撃で終わらせてやる!《空間箱》!」
巨大パラセクトよりも巨大な立方体が相手を包み込んだ。エルが手をグッと握ると立方体が小さくなりパラセクトごと消えた。
「さあ、行こうか!」
一同唖然とするなか軽やかにエルは塔への入り口に辿り着いた。
「お、俺達も行こうか」
危険は去ったと思いテクテクと歩く。すると再び木々を薙ぎ倒して巨大パラセクトが来た。
「エルー!また頼━━」
エルに呼び掛けた瞬間後ろから巨大パラセクトが現れた。奴等はぞろぞろ集まってきて俺達を囲んだ。
「あ、足の間を通り抜けろー!!」
俺が走り出して叫ぶ。
「エル!扉開けといて!」
「了解!」
ギギギギギギ…と扉を開け俺らはそこに飛び込む。
「し、閉めろー!!」
全員で左右の扉を押す。パラセクト達が開けようと押し返してきたがロコンとブースター兄ちゃんの大文字で一瞬怯んだ。
その瞬間に一気に閉めた。
「はあ…はあ…皆いる?」
「いるよー」
「な、なあメイド服暑いんだけど…脱いでいい?」
「ダメ!」
皆に反対される。男子達にも。
「俺、今グレイシアなんだよね!氷タイプなんだよね!暑くて死んじゃう!」
「そんぐらいじゃ死なないわよ。最悪脱水症状になるくらいよ」
師匠が意地悪く返す。
「勝手に脱いでやる!」
スカートを脱ごうとした瞬間、ミミロップがスイッチを押した。
「うぎゃあああああああああああああああ!!!!」
「いやあ…可愛い子を虐めるのは楽しいねえ」
床に臥せってる俺を見て嘲笑うミミロップ。隠れドSだったことが俺の中で発覚する。
「ほら、寝っ転がってないで早く行くよ」
ニンフィアがリボンで俺を縛って引っ張った。
「第一の試練?」
「どうしたの?」
エーフィ姉ちゃんがエルに話しかける。
「この扉に書いてあるんだけど…」
「天候の変化に打ち勝て…どういう意味なのかな?」エーフィ姉ちゃんが首を傾げる。
「入ってみるしか選択肢はないみたいだな。ここしか扉が無いし、外にはパラセクトがうじゃうじゃいるし」
サンダース兄ちゃんが扉を開け、俺達は部屋の中に入っていった。