78話 ブースターが……
皆がお祝いムードの中、俺とソウタだけが暗い雰囲気をだしている。
「そろそろ……体が重くなってきた。もう、限界だ。お前らと居れて楽しかったぜ」
ソウタの体から金色の光が発した。
「こ、これは……?」
「消滅光だ。この光が強くなれば強くなる程俺の消滅が近づいてきてるってことだ」
「ソウタ……皆を、呼ぶか?」
「いや、イーブイだけで十分だ。後はお前が皆に広めてくれ」
俺は涙が溢れそうになるのを我慢して頷いた。
「あ、あとこれをアブソルに渡してくれ」
ソウタは俺の手に丸い珠のついたネックレスを渡した。
「これは?」
「メガストーンだ。俺にはもう必要ないしな。そうだ。ラストに俺のフルネーム教えてやるよ」
「ふるねえむ?」
「俺が人間だった時の名前だ」
「ああ。で?」
「鈴木颯太だ。はは、誰かに言うのは久々だな」
「スズキ……ソウタ」
「もう、お別れだ。じゃあなイーブイ。できれば俺もここで暮らしたかったけどな」
「できるよ。願い続ければ」
「だと、いいな」
颯太が笑った瞬間、彼は一筋の光となって天へと昇っていった。
「バイバイ、ソウタ」
俺は空を見上げながら呟いた。
「さて……皆。帰ろうぜ」
「あれ?ソウタは?」
予想通りの質問がエルからきた。
「ソウタは帰ったよ。彼の場所に」
「?」
エルが君は何を言っているんだ、という顔で俺を見たので説明することにした。
「だから、ソウタは人間界に帰りました」
「へえ……え?ええええええ!?それ大変じゃん!」
エルが喚きだすと皆が寄ってきた。
「どうしたどうした」
ジャックがエルを宥めながら尋ねた。
「ソウタが人間界に帰っちゃったんだ」
「ああ、俺達は見てたからわかったよ」
「え?じゃあなんで教えてくれなかったの?」
「いや、エルは悲しいの嫌かなあ、って思って」
ブニャットが申し訳なさそうに答えた。
「では、私はこれで……」
「いや、空気読めよ!」
エルはダークルギアを引っ張って帰ろうとするルギアに怒鳴った。
「はい?」
きょとんとした表情で聞き返すルギア。
「しんみりした状況で何自分だけ帰ろうとしてんの!?」
俺はエルがここまで怒るのを初めて見た
「あ、えと、その、部外者がいたら邪魔かなあ……と思いまして」
おどおど話すルギアに対し、エルの放った一言は相当きつかった。
「じゃあ帰って!」
「あ、はい……」
ルギアはしゅんとした表情で海底に潜っていった。
「エル……今のは酷いよ」俺はエルを横目に見た。
「さて、俺達も帰るか」
ジャノビーが自宅直行用の不思議玉を取り出した。俺達もそれにならって取り出す。
「お先」
ジャノビーが帰り、それに続いてブニャットも皆帰った。残ったのは俺、ジャック、ルカリオ、エルだけだ。
「ちょっと!皆かえ━━」
直後、エルは前のめりに倒れた。どうやらルカリオが気絶させたようだ。
「先、帰ってるから」
ルカリオが溜め息をつき、エルを抱えて不思議玉を甲板に叩きつけた。
「俺は残る」
ジャックが呟いた。
「どっかの港に停めてから行くよ」
「わかった」
俺は頷いて不思議玉を使用した。
―家―
「たっだいまー!」
勢いよくドアを開け放つ。拍手や声援が待っていると予想したがどうやらそんな状況ではないようだ。
「どうした?」
「お兄ちゃんが……お兄ちゃんがぁ……」
リーフィアが泣きながら来た。
「兄ちゃんが?」
「お兄ちゃんが……死んじゃったぁぁ……」
「兄ちゃんが……死んだ?」
「来な」
シャワーズ姉ちゃんに手招きされ、それについていく。そこにはソファーに静かに横たわるブースター兄ちゃんが居た。
「嘘だ……あり得ない!兄ちゃんが、兄ちゃんが死ぬなんて!」
「嘘じゃないのよ」
目を真っ赤に泣き腫らしたグレイシア姉ちゃんが言った。
「私と一緒に海に落ちるとき、私を庇って……」
そう言うと再び泣き出した。
「ジラーチ!ビクティニ!ここに来い!」
俺の叫びも虚しく、部屋に響いただけだった。次第に俺の目からも涙が流れた。
「はいはい〜。そんな叫ばなくても来るよー」
ぽん、軽い音をたててジラーチとビクティニが現れた。
「兄ちゃんを生き返らせろ」
「無理」
「は?」
ビクティニがすぱっと答えた。しかし、その意味をすぐに理解することはできなかった。
「もう一度言おうか?無理なんだよ」
「じゃあ!去年のはなんだったんだよ!」
「あれは、神々の山の噴火で全世界が危機に晒され、沢山のポケモン達が死んだからアルセウスの特別な許可で生き返らせたんだ。そして、君達のお仲間を生き返らせないのは可哀想だったからついでだっんだよ」
「ふざけんな!今回だってちゃんと世界を救ったぞ!」
「でもたいした被害は無かった。しかも死んだのはたかが1匹だろ?」
「ッ!てめえ!」
俺は怒りで我を忘れ本気で殴りかかった。だが、ビクティニに片手で止められた。
「な!?」
「幻を嘗めないでくれるかな?」
「く……そ」
がくりと膝をつき、その場で泣き崩れた。暫くするとアルセウスの声がどこかから聞こえてきた。
「良いではないか。彼を生き返らせても」
「で、でも!秩序が!」
「言うことが聞けないのか?」
「ぐ……解りましたよ」
「それでよい。ツヨイネよ、今回も感謝する」
「ふえ……?」
涙と鼻水を拭き、顔をあげる。すると、ジラーチとビクティニが呪文を唱えている。
「終わったよ」
「……ありが……とう」
俺はぎこちなくお礼をした。
「ブースターは暫くしたら起きるから」
そして、兄ちゃんが起きたのは、ジャックが来て、お祝いパーティが始まった直後だった。
「いやあ……親父達が居たらどんな表情したかなあ?」
ブースター兄ちゃんがにやりと笑った。
「あれ?まだシルクとルーファ帰ってきてないの」
ジラーチがジャックの持ってきた酒を飲みながら言った。
「あ?親父達は死んだんじゃねえのか?」
サンダース兄ちゃんが少し驚いたように言った。
「いや、ちゃーんと生きてるよ」
「どこで!?」
俺達全員が反応し、ジラーチにぐいっと近寄る。
「ポケトピアの遥か上空のスカイランドでね」
探険隊ツヨイネの航海録【完結】
3部に続く。