76話 嵐の中の決戦 5
俺達はダークルギアの迫り来る方向に横一列で並んでいる。
「来るぞ……用意はいいな?」
俺が皆に聞くと無言で頷いた。風が唸りをあげる音と、雨が激しく甲板を打つ音だけしか聞こえないこの場で、俺の緊張感は高まっていく。ふと、ばさっ、ばさっ、と翼のはためく音が聞こえ出した。ダークルギアが飛んできたのだ。
「やあ、諸君。元気にしてたかな?」
「ダークルギア……!」
瞬時に身構え、どんなことにでも対応できるようにする。
「下らない前置きは無しで、いきなり本気でいこうか!」
ダークルギアは叫ぶと同時に、開いた口から極太のハイドロポンプを発射した。
「く、《空間回廊》!」
エルの咄嗟の技により、ハイドロポンプは一度空間の彼方へと消え去った後、ダークルギアの後頭部に直撃した。
「あぐあッ!!」
「ムーンフォース!」
ジャックが、まだ立ち直れていないダークルギアに放った。弾は見事に敵の鼻っ柱に当たり、更なるダメージを与える。
「なるほど……流石、精鋭を集めただけのことはあるな……」
「まだ終わりじゃない!」
ルカリオが《波導棍》をダークルギアの額に垂直に振り下ろした。
「だが、我の力はこんなものではない!」
ルカリオの腕を掴み、こっちに物凄い速度で投げてきた。
「うわあああああ!!!」
「任せな!」
甲板に激突する寸前で、ブニャットが巨大な腹を活かして再びルカリオを空に打ち上げた。
「これなら受け身とれるだろ!?」
「うん!ありがとうブニャット!」
ルカリオがくるくると縦回転しながら着地した。
「厄介なチームワークだ」
「へ!てめえにゃ一生かかっても無理な陣形だぜ!」
ジャノビーが一番先頭に居たソウタの頭を踏み、跳躍した。両手のリーフブレードでダークルギアの左翼を切り刻む。
「翼で打つ!」
「させるか!」
黒い輝きを帯びたダークルギアの右翼にサイコカッターと鎌鼬をヒットさせ、ジャノビーへの反撃を中断させる。
「……サンキューな」
「これで……敵じゃないって信じるか?」
「ああ」
お互いに解り合えたな、と判断した俺は、1匹単独でダークルギアに飛びかかった。足に掴み、頭の方へと登っていく。
「ふはははは!蛮勇だなイーブイよ!」
「るせえ!!てめえは黙って俺に負けろ!」
アイアンテールをダークルギアめがけて振った。しかし、翼に弾かれ俺は体勢を大きく崩した。
「叩き落とす!」
「ぐあ!!」
真下に猛スピードで落下する俺を、ジャックが跳んでキャッチしてくれたが、威力が強すぎてジャックもろとも甲板に激突した。
「げほっ、げほっ!かはッ!」
激しく咳き込み、口から血を吐き出す。
「イーブイ!ジャック!」
全員が駆け寄ってくる。
「余所見していていいのか?」
「しまっ━━!」
「遅い!《エアロブラスト・絶》!」
振り返った時にはもう遅かった。純黒の旋風が俺達を吹き飛ばし、壁にめり込ませた。幸い、船は壊れなかったが俺らはとてつもないダメージを受けた。戦うことは愚か、立っているのもきついぐらいだ。
「なんだなんだ?もう終いか?我を楽しませてくれたまえ!」
「お望みなら!」
ダークルギアの背後から泡が沸きだし、白い物体が浮上してきた。それは、頭、首、胸と姿を露にしていった。
「ルギア……」
「久し振りね、兄さん」
ダークルギアより1回り程小さいルギアは敵となった兄を見上げながら言った。
「我と戦いに来たのか?」
「そんなところかしら」
俺は2匹の会話が進むに連れて嵐が酷くなるのを感じた。
こいつらが戦ったら俺達は……船はどうなるのだろうか?
(語り手:三人称ver)
「ブースター!ブースター!」
グレイシアがブースターを必死に呼ぶが彼は目を覚まさない。地上40m近くから海面に叩きつけらるているので死んでもおかしくない状況だ。
「こんな時、ビクティニとジラーチが居れば……」
グレイシアの目を大粒の涙が伝った。
ああ、これは紛れもない現実なのだ。漫画やアニメのように運よく救世主は現れないのだ。あとはブースターの生命力にかけるしかないだろう。