74話 嵐の中の決戦 3
(語り手:グレイシア)
「あ!皆大変だよ!1の壁がやられた!」
私は望遠鏡を覗きながら近況報告をする。
「ダークルギアが迫ってきてる!」
「ええっ!?」
一同慌て始める。
「落ち着いて!落ち着いて!」
私は必死に宥めようと頑張るが誰一人として落ち着く者はいない。だんだんストレスが溜まってくる。爆発しそうなくらいに。
「……いい加減にしろ!!」
我慢の限界、堪忍袋の緒がが切れた私は怒鳴り散らした。
「ごちゃごちゃ言ってないで戦う準備をしなさい!どうせ勝てないけど最後に繋ぐ意識くらい見せなさいよ!」
縛られの種を食べたかのように動かない仲間達を後にして私は迎撃態勢をとった。氷雪剣を構え、遠方より来る敵を睨み付ける。
「戦えるかしら?私だけで」
「お前だけじゃねえよ」
肩を叩かれ、振り向くとサンダース兄さんとシャワーズ姉さんが申し訳なさそうな顔で立っていた。
「その、まあ……悪かったな」
ブースターが恥ずかしそうに謝る。
「わかればいいのよ」
ふっ、と笑い皆を許す。
「誰かこの船について詳しく知ってる子はいない?」「はいはーい、私知ってるよー」
こんな状況で間の抜けた声を出したのはチョロネコだった。この子、昨日家で会議に参加したっけ?
「あ、今君私のこと、子供って思ったでしょ」
チョロネコは真っ直ぐ私を指差した。
「残念、私は27歳でした!」
「アンタの年齢なんかどうでもいいから!この船に大砲とか無いの!?」
ケタケタ笑うチョロネコを怒鳴り付ける。
「そんなに怒んないでよ。大砲ならここにあるからさ」
チョロネコは結構豪華な大砲を武器庫らしき場所から引っ張り出した。それも3門も。
「弾は沢山あるからバンバン使ってよ!」
「ありがとう」
ブースターがお礼をするとチョロネコはどうってことない、というように尻尾を振った。
いやいや、アイツは戦わないのか?
「ちょっと!戦うつもりは無いわけ!?」
「無いよー!私はただの航海士であって戦闘員じゃないからー!」
チョロネコはそう言って安全そうな部屋に逃げ込んだ。
「いくわよー」
私達兄妹はそれぞれ大砲に弾を込めて発射させまくる。
「ここにもイーブイはいない、か……」
ダークルギアは溜め息をついた。それからソウタがダークルギアの背中から甲板に降りてきた。
「さて……破壊活動を始めようか」
ソウタの角が輝き、薄紫色の刃を飛ばしてきた。刃は大砲を全て半分に切り裂き使い物にならなくした。
「皆!先頭開始よ!」
シャワーズ姉さんが呼んだ。だが誰も来ない。
「皆!皆!」
「くくく、いくら呼んでも来ないぞ。我が全員海に叩き落としてやったわ」
「あり得ねえ!あの距離から一体どうやって!?」
ブースターが尋ねる。
「ソウタを飛ばして倒させた」
「なら、なんらかの音が聞こえるはずだ!」
「イーブイですら敵わなかったソウタだぞ?イーブイ以下のゴミ供を音もなく倒すなど容易いことよ。それにこの嵐とくれば尚更━━ぐっ……!」
ダークルギアの右翼に水性の矢が突き刺さった。
「仲間や家族をゴミ呼ばわりされて黙ってる訳にはいかないわ……覚悟なさい」
シャワーズ姉さんが水弓の矢を一気に5本引き絞り放つ。矢はダークルギアの翼に穴を開ける。
「羽休め」
ダークルギアの体を緑色のオーラが包み込んだと思った次の瞬間、傷は塞がり、元通りになっていた。
「水の波導!」
ダークルギアが撃った水の波導は凄まじい速度で迫ってくる。
「危ねえ!」
技の前に出現した黄色の閃光は水を切り裂いて姉さんを守った。
「ここは俺とシャワーズに任せな。ソウタはお前ら双子でどうにかしろよ!」
サンダース兄さんが雷槍を振り回し勇敢にダークルギアに飛びかかる。
「楽しませてくれるんだろうな」
ソウタが私達を睨みながら聞いた。氷雪剣を強く握り締め、ソウタに斬りかかる。
「アンタ次第よ!」
「悪の波導」
放たれた無数の黒色の弾は真っ直ぐに私を捉えた。それを全て剣で弾き、ソウタの頭部に振りおろす。しかし、角で受け止められ押し返される。
「成る程……こいつは楽しめそうだ」
「そんな余裕こいてる暇は無いわよ!凍りつけ!」
氷雪剣が冷気を発し始めソウタの角をどんどん凍らせていく。
「なんだ、これは!?」
「氷雪剣の効果よ。剣に触れてる間、アンタは凍り続けるわよ」
「くそが!」
ソウタが悴んだ右前足で攻撃してきた。そんなのろまな攻撃に当たるはずもなく簡単に回避し、冷凍ビームを伸びた足にかける。
「ぐあああ!」
「ブースター!今よ!」
「了解!」
ブースターが私の頭を飛び越し、ソウタを後頭部にブレイズキックを当てる。
「ガッ……!?」
ソウタは目をカッ、と見開き、そして倒れた。
「やったか?」
「あんま強く蹴ってないでしょうね?」
「あったりめえだろ!7割近くで蹴ったから大丈夫!」
「ほぼ本気じゃないの!」
パシンとブースターの頭を叩いた。すると、ソウタがもぞもぞと起き上がった。