67話 エルのお仕事
僕はエル。ただ今誘拐されております。
約午前5時に目隠しをされ、口にハンカチを巻かれ、手足に手錠を巻かれ、何一つできない状態で連れていかれた。
「んー!んぐーー!!」
必死の抵抗も虚しく、ただ鎖がじゃらじゃらと音をたてただけだった。
―未来―
「そろそろいいんじゃない?」
「そうだな」
全ての拘束具を外され、視界が開けた。目の前には見慣れた僕の仕事机がある。
「もしかして……先輩?」
恐る恐る呼んでみると「正解!」と返ってきた。
「いやあ、久しぶりだねえエル」
ブラッキー族のクロ先輩が朗らかに言った。
「なんか過去は大変みたいだけどこっちも大変なのよ」
グレイシア族のアリシア先輩がため息混じりに言う。なんかツヨイネのグレイシアと似てる気がする。前はこんなこと思わなかったのに。しかし、クロ先輩はイーブイと双子のブラッキーには全然似てない。
「何があったんですか?」
「去年のダークマター事件……覚えてるだろ? あん時にバシャーモやらの敵は皆死んだだろ」
「はい」
「だけど、最上階でブースターがビクティニとジラーチに皆を生き返らせてほしい、って言ったじゃない。それでツヨイネは家族、友達が生き返ってハッピーエンド!だけど私達はバシャーモが生き返ってバッドエンド」
アリシア先輩がクロ先輩の言葉を引き継いだ。
「で僕はどうすれば?」
「率直に言うと、手伝え」
「何を?」
「バシャーモ逮捕を。僕らは奴に顔を見られてるからまず無理。奴の記憶にエルの事が投げれば……頼むぜ」
クロ先輩がグッと親指を立てた。
「ええ〜……」
「つべこべ言わないで行くわよ!」
「先輩!尻尾引っ張んないで下さい!」
僕はアリシア先輩に引きずられて未来の警察署から近くの裏路地に連れてかれた。
「先輩……こんなところになんの用が?」
僕は怪しげな看板とドアを見ながら聞いた。
「ここは、信頼できる情報屋よ」
アリシア先輩がドアを開けながら答えた。
「そういやエルは来たことなかったな。取って置きの情報が沢山あるぜ。縁談とかな」
クロ先輩が悪戯っぽくニヤリと笑った。
「僕には好きな子がいますよ」
「ヘえ〜!誰だよ?」
「エーフィです……」
消え入りそうな声で呟く。
「ああ、未来に帰る前にお前にキスしたあの子か!」
「はい……で、でも!アリシア先輩には秘密ですよ!」
「はいはい。さ、行くぞ」
クロ先輩はニヤついた顔つきのまま店内に入っていった。慌てて僕も追いかける。
―情報屋―
「いらっしゃい。どんな━━おお!クロにアリシアじゃないか!……む?そのちっこいのは誰だ?」
店主であろうザングースが怪しい者を見る目で僕を睨んだ。
「あ、エルです」
「アリシアの後輩か!」
急に顔が明るくなった。
「紹介するよ。この方は世界一の情報屋、ザングースさん。以前危ないところを私達が助けて以来無料で情報貰ってるのよ」
アリシア先輩がにっこり笑った。
「普段は金を取るがな」
と、ザングースが付け加えた。
「で?今日は何が知りたいのかな?」
「バシャーモの居場所について教えてくれ」
「バシャーモ……バシャーモ……ああ!今絶賛指名手配中のあいつか!」
ザングースがポン、と手を叩くと先輩達は頷いた。
「確かあいつは……いろいろと偽ってホストクラブの店員になってるらしいぞ。ほら、これが住所だ。それと店にはあいつが知らないポケモン、そしてあいつと対等以上に戦える奴を選ぶんだな」
ザングースはメモをクロ先輩に渡しながらアドバイスを加えた。
「ありがとう。また、来るから」
「おう、いつでも来い!」
ザングースは手を振って僕達を見送ってくれた。
「なあ……強くて可愛い女の子誰か知ってるか?」
「私は知らないわ。エルは?」
「男だけども女に慣れる奴なら知ってます」
「誰だよ」
クロ先輩は鼻で笑うように聞いてきた。
「イーブイです」
『イーブイ!?』
僕が答えた瞬間、先輩達から驚きの声が上がった。
「まあ、お前が言うならそうなんだろうな。よし、過去に行くぞ」
クロ先輩は時空部の部署に戻りながら言った。