61話 黒いルギア
「…蒸し暑い…」
草を掻き分けて進んでいると暑さに強いブースター兄ちゃんが愚痴る。
「グレイシア…アイスボールちょーだい」
ミュウが姉ちゃんの頭に乗りながら言った。
「自分でどうにかしなさいよ。アンタなんでも技だせるんでしょ?」
「だけど疲れるじゃん…」
「私だって同じよ!」
姉ちゃんとミュウの間に火花が散る。
「お前らは静かにするって言うことができないのか!?」
ソウタが大声で怒った。
「ああ、五月蝿い五月蝿い」
俺は後ろの方でルカリオ、エル、アブソル、ロコンと話ながら進んでいた。
「財宝ってどれぐらいあると思う?」
「金、銀、クリスタルが山のように?」
アブソルの質問に対しルカリオが答えた。
「えー、そんなにポケモンばっかり要らないよー」
エルが嫌そうな顔をする。
「ちげーよ。宝石のほうだ」
俺がビシッ、とツッコむ。
「あれ…皆止まったよ」
ロコンが前に居るミミロップの足にぶつかりそうになりながら言った。
「着いたぞ」
俺はルカリオに肩車してもらってソウタの位置を確認する。
「どお?どうなってるの?」
ルカリオが下から聞く。
「この先、スッゲー開けてる」
ルカリオの肩から離れ皆の頭を乗り継ぎソウタの横に降り立った。
「お?なんだこの6つのサークルは?」
「ここに幻のポケモンを6匹入ってもらえば財宝が出現する。丁度いるな、来い」
ソウタはセレビィ達を呼び、サークルの中に一匹ずつ入ってもらった。
「多少辛いが…我慢してくれ」
ソウタが申し訳なさそうに言う。6匹はコクリと頷いた。
「始めるぞ…」
ぶつぶつと呪文を呟くソウタを俺達はただただ見つめていた。
ゴロゴロと雷が鳴った。空を見上げると真っ黒な雲がこの島の上空を━━いや、見渡す限りの空を埋め尽くしていた。突然、島が揺れ、6匹の幻達から天へと向かう光が解き放たれた。揺れは強くなり続ける。さらに黒い雲からどしゃ降りの雨が降ってきた。
「成功してんのか!?」
サンダース兄ちゃんが不安そうに叫んだ。しかし、ソウタは答えず、呪文を唱え続ける。
すると、天に昇った光がサークルの中央に落ち、巨大な穴を造った。その中から見も凍るような重く、冷たい声が響いた。
「誰だ?我を呼ぶのは?」
シェイミ達は力尽き、地面に横たわっている。バサッ、バサッと翼をはためかせゆっくりと何かが飛び上がってきた。
「フハハハハハ!!」
「だ、誰だ!?」
がさがさと音がして背後の草むらからヨノワールが現れた。
「お久し振りかね?イーブイ。たった今…今ここで!世界を終わりへと導く神が復活した!」
「我が名はダークルギア…ルギアの対になる者だ!」
穴から姿を見せた最初の羽ばたきで俺達の周りの木が全て吹き飛んだ。
「ソウタ!お前…なんで裏切った!ニンゲンは、世界を救うために来たんじゃないのかよ!」
「俺はダークルギアに忠誠を誓った。復活させるには7つの宝玉と幻のポケモンが6匹必要だった。だから俺は金の宝玉を手にいれた時お前らに着いていったんだ」
俺の問いかけにソウタは無表情で答えた。
「ふむ…ヨノワールとか言ったな」
ダークルギアがヨノワールを呼んだ。
「はっ!その通りでございます!」
ヨノワールが敬礼する。
「我は弱い奴が嫌いだ…死ぬがいい」
「なッ!?」
ダークルギアの口からハイドロポンプが放たれた。それはヨノワールの心臓を貫き地面に巨大なクレーターを生み出した。
「な…ぜ…?」
ヨノワールはドサリと倒れ動かなくなった。
「フン…この一撃を避けられなようじゃ役に立たんな。貴様は我の支配下についているから殺さん。それに強いしの」
「やっぱしか…ソウタは裏切ってなんかいねえ。アイツはダークルギアに操られてるんだ」
ジャックが皆を押し退けて前に出てきた。
「どういうことだよ?」
「俺は武道大会の時にソウタを操ろうとした。だけど上手くいかなかった。俺の術にかからないのは並外れて精神力が強いか、又は誰かに操られているかだ。それに控え室でイーブイがソウタの雰囲気が変わったとも言った。確証無いが、頭に強い衝撃を加えれば正気に戻るはずだ」
「ほほう…よく見破ったな。その通り、こいつは裏切ってなんかいない。我が操っているだけだ」
「なら!ソウタを返してもらおうか!」
《クイックインパクト》でソウタの頭を狙ったが初めて戦った時よりも反応速度が格段に上がっていた。
「弱いな」
ソウタの頭突きで俺は吹き飛ばされシャワーズ姉ちゃんにキャッチされた。
「今のソイツの勇気を称え少し我の過去を話してやろうではないか」
ダークルギアはニヤリと笑うと静かに語り出した。その声には憎しみと怒りがこもっていた。