探検隊ツヨイネと野生の導き - 二章 調査隊の話
12話 雑多な中央地区
「さあさあ、僕らも行こうじゃないか」
 中央地区へ続く裂け目を開き、ささっと潜り抜ける。その後ろからブラッキーとニンフィアが通る。
「まずは聞き込みでもしようか。僕は1匹で大丈夫だけど、ニンフィアが心配だから君達は一緒に行動してね。じゃー、30分したら──あー、そこのカフェね」
 エルは現場に着くなり、何をするか決めてさっさと歩いていった。
「ニンフィア、どうしたらいいかな?」
「うーん、中央地区にあんまり来たことないからなぁ。ショッピングモールとかで聞き込みしてみようよ」
「それなら……あそこ、かな?」
 ブラッキーが指差したのは年中無休、何でも揃うが宣伝文句のポケットステーションだった。
「そうね! あそこなら何か知ってるポケモンがいるはずよ」
 2匹は嬉々としてポケットステーションまで歩き出した。途中、買い食いなどしたが時間にはまだまだ余裕がある。
 ポケ混みをうまいこと避けながら店の入り口を通る。
「まずはどこで訊く?」
 周りを見回しながらニンフィアが言う。
「そうだねぇ……ショッピングモールだし、ゲームセンター行こうよ」
「兄さん、遊ぶつもり?」
「まさか、ポケモンも多いだろうし、何か知ってるかもよ」
「それも……そうね」
 兄の表情に嘘が含まれていないかを確認すると、気まずそうにブラッキーが目を反らした。
「あ、反らした」
「やっぱり、面と向かって見詰め合うと照れるね……」
 えへへと頬を掻いて苦笑いする。
「確認しようとした私が馬鹿だったかも……。いいわ、行きましょ」
 エスカレーターで2階まで昇る。そこにはきらびやかな光景が広がっていた。
 この階は全てゲームセンターのようだ。
 ふと、ブラッキーが足下に光る何かを見つけた。
「あ、コインだ」
 銀色のコインを拾い上げたブラッキーはキョロキョロとコインゲームを探し始めた。
「兄さん、ゲームはやらないよ!」
「1枚だけだから! 大丈夫!」
「何も大丈夫じゃないのよ!」
 ニンフィアは彼の手からコインをもぎ取ってクレーンゲームの台の下に投げ込んだ。
「ああー!」
「ほら、行くよ!」
 黒く、太い尻尾にリボンを巻き付けてサービスカウンターに歩き出す。
 ──兄さんってこんなわがままだったかしら?
 野生化の影響かな、なんて馬鹿みたいな事を考えて首を横に振る。久しぶりのデートだから緊張してるのね。
 ふふっ、と笑って後ろを向く。すると、リボンから抜け出したブラッキーはどこかから拾ってきたコインで遊んでいた。
「兄さん!」
 胸ぐらを掴んで、至近距離でマジカルシャインを放つ。
 悪タイプのブラッキーには効果抜群だ。一撃で瀕死にまで削られて引きずられるだけのお荷物になる。
「あの、すいません」
 首輪のようにリボンをブラッキーの首に巻き付けて逃がさないようにしながらサービスカウンターのニドリーノに話しかける。
「はい、なんでしょうか?」
「最近、中央地区で野生化とか起きてないですか?」
「野生化……ああ、1週間前にそこで起きましたよ」
 彼が示す方向には数台のゲームが収まりそうなスペースがあった。
「あそこで遊んでいたお客様が突然野生化して、ゲームを破壊したんです。警察まで呼ぶ大騒動でした」
「その時に怪しいポケモン見ませんでしたか?」
 逃げようとするブラッキーの首を強く絞めながら尋ねる。殺さない加減で責める。
「怪しいポケモンか……おかしな銃を持ってる高身長の奴なら見かけました。騒動が起きるとニヤニヤ笑いながら帰っていきました」
「うーん……そいつが犯人かぁ。まだこの街にまだいるのかなぁ……」
 窒息しかけの首リボンを緩めて呼吸しやすいようにする。
「に、ニンフィア……そろそろ死にそうだよ……」
「そうね、ゲームしないって言うなら放すわ」
「わかったよ……」
 解放されたブラッキーが咳き込み、首を擦る。
「強く絞めすぎたかしら?」
「そうだね。だいぶ強く絞めてくれたね」
 もう一度咳払いをして落ち着ける。
「ねえ、兄さん。怪しいポケモンの特徴ってさ……」
「変な銃を持ってて背の高い奴なんでしょ?」
「もしかして……あれ?」
 こっそりと目配せで報せる。
「ハンドガンの類いの銃を隠し持ったゴーリキー、か。あいつで当たりかもね。こっそりとどんな行動をとるか見張ってよう」
「そうね、後ろから見てましょうか」
 ニンフィアは一瞬ゴーリキーと目があった気がしたが、彼はすぐにポケ混みに紛れてしまった。
 尾行開始から数分後、ゴーリキーが動いた。こっそりと握り締めていたハンドガンを素早く構えて打った。そしてすぐに銃をカバンにしまい、周りに合わせて驚いた顔をしている。
 ほぼ無音の銃撃で、火薬の臭いもなく、数メートル先のゴウカザルが突然倒れただけだ。周りは驚いてゴーリキーが犯人だとは微塵も感じてはいない。
 その場を離れようとするゴーリキーの前に立ちはだかり、逃走を阻止する。
「おい、待てよ。あんたが犯人だろ?」
 ブラッキーが凄みを効かせて詰め寄る。
「お、俺がなんだって?」
 とぼけたふりをして逃れようとするが、はっきり見ていたブラッキーとニンフィアには通用しない。
「あんたが、あのゴウカザルを撃ったんだろ?」
「そんなまさか! 俺はそんな事をしてない!」
「じゃあ、カバンの中見せてもらってもいいよね?」
「く……くそがああああっ!」
 いきなり拳銃をカバンからだして発砲した。それと同時にゴーリキーがエスカレーターを駆け降りて逃げた。
 咄嗟に横へ飛んで躱したブラッキー。だが、ニンフィアは避けれずに額へ命中した。
「ニンフィア!」
「兄さん……私は、大丈夫だよ……」
「よかった……血は出てないけど……なんだろう、この青いのは」
 ネトネトと粘っこい青い液体がニンフィアの顔中に拡がっている。それをブラッキーが自分の手で拭う。ブラッキーはニンフィアが小刻みに震えているのに気がついた。
「ニンフィア?」
 呼び掛けても、目をぎゅっと瞑ってあまり反応がない。
「あ、あれ……?」
 ブラッキーは突然体に力が入らなくなり、ニンフィアに折り重なるように倒れる。そしてむくりと起き上がったニンフィアの瞳は野生特有の瞳孔が開ききった状態だった。
「ニン……フィア……」


 ──一方エルは買い物帰りの主婦達に地道な聞き取り調査を行っていた。
「すみません。ここ最近野生化とか起きてないですか?」
「そうね……1週間くらい前にショッピングモールで野生化があったわよ」
 買い物袋を尻尾に提げたハブネークが振り向く。
「ありがとうございます」
 ペコッと頭を下げてその場を後にした。ハブネークも別れ際に尻尾を振っていった。
「ふーむ。僕もショッピングモールに行ってみようかな」
 《空間回廊》を開き、わずか数百メートルの距離を移動する。
「あれ……」
 エルはショッピングモールの様子がおかしいことに気がついた。
 普段ならば家族連れで賑わっているはずの出入り口が、恐怖に歪んだ表情のポケモン達が次々と出てきている。
「まさか、野生化?」
 逃げ惑うポケモン達の頭部を飛び越し、モールに入る。群衆は各出口から逃げ出そうと必死に移動していてエスカレーターはほぼ空いていた。
 二段飛ばしで駆け上がり、2階に登る。ゲームセンターのようだが、楽しそうな声は聞こえず、ただゲームが稼働している音しかしない。
「…………」
 生唾を飲み込み、用心しながら歩き出す。一歩一歩ドキドキしながら進む。
 この階に敵がいるならば既に彼の姿は見つかっているかもしれないのだ。
 つまり、今この瞬間にも襲われかねないということだ。
「……?」
 クレーンゲームの物陰に誰かがいた気がした。黒い容姿で素早く別の台に移動する。
「誰だい? ブラッキー?」
 恐る恐る台の裏を覗くと、小さく縮こまったブラッキーがいた。訳あって隠れているのだろうと思い、優しく肩を叩く。
「ブラッキー、大丈夫? ニンフィアは?」
 くるりと振り返ったブラッキーの瞳孔は開ききり、その中に大口開けて噛みつこうとするニンフィアが映り込んでいた。
「うわっ!?」
 ギリギリカウンターで迎撃に成功したが、ブラッキーの瞳に彼女が映らなければやられていただろう。
「ど、どうしたんだよ?」
 彼等に背を向けないようにゆっくりと後退する。エルが一歩下がるとブラッキー達も一歩詰め寄る。
「……2匹とも大丈夫かい? まさか、野生化?」
「その通りだ」
 新しい声が背後から聞こえる。振り返ると、拳銃を構えたゴーリキーがニタニタ笑っていた。
「お前が犯人なのか?」
「……そうでもあるが、そうでもない」
 喉の奥で笑い、引き金を引く。クレーンゲームの台に飛び乗り、回避する。
 玉はブラッキーの額に命中し、のたうち回る。
「今は、逃げるしかないな……」
 どこか安全な場所で《空間回廊》を開いて家に帰るんだ。そしてイーブイに伝えなきゃ。
 台を乗り継ぎ、相手からだいぶ離れた所に着地する。そこから小さい体を活かして迷路のようなゲームセンター駆け抜ける。
「ここまでくれば……」
 一息ついて、回廊を開こうと手を振る。しかし遠距離から発せられたハイパーボイスが、ゲームを吹き飛ばしながらエルに迫ってくる。
「な……!?」
 激しく吹き飛ばされ、通路のど真ん中にうつ伏せで叩きつけられる。胸を押さえながらゆっくり立ち上がった。
 前からはニンフィアとブラッキー。後ろからはゴーリキー。
 前門のグラエナ、後門のカエンジシだ。つまり、袋のコラッタ、絶体絶命。
「くくっ、死ねぇー!」
 全員が一斉に飛びかかった瞬間、エルは一か八かの賭けで適当な回廊を開いた。
 彼の体が地面に沈み、やがて穴も消えた。その場に取り残された3匹は数秒硬直し、ブラッキー達は新たな標的を狙って攻撃を開始した。

■筆者メッセージ
─ツヨイネ雑談たいむ─
作者「どうもどうも。夏休みが終わり、第二章も終わりました」
ブラッキー「おいっす」
ニンフィア「おはこんばちわ!」
作者「あれ、エルは?」
ニンフィア「自分で開けた穴に落ちたじゃない。見てなかったの?」
作者「来るかなぁ、って思ってたんだけど」
ブラッキー「さて次回第三章は懐かしの(みんながどう思うかはしらん)ギャラクシーが登場し始めるぞ!」
作者「ちゃっかりセリフとるなや」
ニンフィア「それじゃ、また次回会いましょー」
ブラッキー「ま、僕らはいないけどね」
だんご3 ( 2018/09/06(木) 00:28 )