二章 調査隊の話
10話 灼熱の西地区
「次は西地区だから……シャワーズとリーフィアだね」
 エルがさっと手を振ると、西地区へ続く裂け目が現れた。
 そこからは熱い風が砂漠の砂を乗せて押し寄せてくる。
「煙たいから早く……げほっ、行ってきて!」
 咳込みながら2匹を押して穴を閉じた。

「あっつ!」
 着地早々、リーフィアがピョンピョン跳ねて悶えている。異常なほど高い気温と太陽光で熱せられた砂が彼女達の小さな足を焦がしていく。
「ど、どうしよう!?」
「え、えっと……町で靴探すわよ!」
 シャワーズが水鉄砲で歩くための道を作り、その後ろからリーフィアがよたよたついていく。
「こうしてお姉ちゃんと二匹だけで出掛けるなんて初めてだね!」
「ん、あー確かにそうね。私はだいたい兄さんと一緒だし、リーフィアはブースターにくっついてるもんね」
「お兄ちゃんのどこを気に入ってるの?」
「そりゃあ、優秀そうでダメなところかな」
「どういう意味?」
「何でもできそうな感じがする兄さんだけど、実際はダメダメなのよね。この前だってホットケーキ焼いて顔を火傷したし、お風呂掃除で滑って気絶したり……あげるときりがないわ」
「ふーん。お兄ちゃんにぞっこんなんだね」
「まあね、でもリーフィアのブースター愛には負けるよ」
「えへへ、そうかなぁ?」
 ガールズトークで盛り上がりながら、町を目指して歩く。陽炎が揺らめき、視界がぼやける。
「あ、ピラミッドだ!」
 大量の石が積み重なった建造物であるピラミッドを見たリーフィアは興奮してmi水の道からはみ出してしまった。
「ぎゃっ!」
「バカねぇ……。ほら足貸してごらん」
 シャワーズに尻を向けて火傷した足の裏を見せる。
「ぴゃっ!?」
 足の裏に鋭い痛みが走った。しかし、次第に痛みが薄れて感覚すら無くなった。
「…………?」
「冷凍ビームで凍らせといたから。私の上に乗りな」
「よいしょ、っと。御姉様の体はひんやりしてるね」
「そうねぇ、でもこれのせいで冬は寒いのよ」
「あ、町が見えてきたよ」
 リーフィアが首からツルを伸ばして示す。そこから暫く歩いて町の入口にやって来た。シャワーズの体からは水分が殆ど抜け落ち、ふらふらしながら歩いていた。
「町に着いたのはいいけどさ、靴ってどこに売ってるの?」
「さ、さあ……?」
「お姉ちゃん!?」
 満身創痍のシャワーズの背から降りて支える。
「水、吐きすぎたわ……」
「え、えーっと、靴のお店ありませんかー!? あと、お水大量にくださーい!」
 リーフィアがキョロキョロしながら叫ぶ。すると近くにいたニドクインが親切に教えてくれた。
「靴屋はあそこよ。それと水なら近くにオアシスがあるからそこに行けばいいと思うわ」
「どうもありがとう!」
 熱い砂を耐えながら靴屋まで走る。ピョンピョン跳ねながら自分に合う靴を買ってはく。
 熱から解放されたリーフィアはほっと一息ついてシャワーズ用の靴を購入する。
「お姉ちゃん、靴だよ」
「ありがとう……」
 シャワーズが靴をはくのを見守っていると、突然黒い雲が町全体を覆った。
「雨でも、降るのかな?」
 リーフィアが空を見上げて呟くと、強い雨が降り始めた。
 町の人々が外に出て大雨を喜んでいる。砂漠だから雨が中々降らないのだろう。
「ん……?」
 大粒の雨の中、白い何かが町に向かっているのが見えた。雨雲も白い飛行体が移動するのと一緒に動いている。
「……あ! ルギアだ!」
 町の上空に来たタイミングでツルを限界まで伸ばす。かろうじてルギアの足に巻き付けて自身も空を飛ぶ。
「うわわわわー!!」
 手何も掴まるところがない彼女は気合と根性でツルを締め付ける。
「ん?」
 足に何かがくっついていると感じたルギアは、少し振り返って確認する。
「ちょ、ちょっと! 何してるのよ!」
「お、お姉ちゃんが、だっ、脱水症状だからあああああ!」
 強風に煽られながらも目的を必死に伝えようと頑張る。風に掻き消されてよく聞こえないルギアは2、3周旋回して、雨で湿った砂地に降り立った。
「なんで私の足にツルを巻き付けたの?」
「あれ、私の事わかるの?」
「当たり前よ。貴女、イーブイの妹でしょ」
「そうそう」
「で、ブースターが大好き」
「うんうん」
「おまけにちょっとおバカ」
「そうそ……って、バカじゃないよっ! ──ってそんなことよりさっきの町まで戻って!」
 神々の山を登ったときに一度しか顔を合わせた事が無いのに、よく覚えていたなぁ、と感心していたリーフィア。しかし、余計な情報まで付け加えられて頬を膨らませてつっけんどんに言う。
「どうして?」
「お姉ちゃんが、水を吐きすぎて脱水症状になっちゃったの。だからオアシス的な所に連れてってよ」
「いいでしょう。じゃあ、背中に乗って」
 ルギアの翼をよじ登って彼女の首にツルを巻く。
「あのー、何で首輪みたいに?」
「私が落ちないためよ。さあ、飛べぃ!」
 パンパンと首筋を叩いて催促する。
「やれやれ、兄が兄なら妹も妹、か」
 背中にイーブイを乗せてても同じ事をしそうだと思い、苦笑する。
「……ねーねー、ルギアはさぁ野生化とかについて何か知ってる?」
「野生化ねぇ。最近ニュースでよくやってるけど、だいたいは山の中で籠ってるからわからないわね」
「引きこもりか……役にたたないなぁ」
 ──この子、こんなに口が悪かったかしら?
 ポケモンは見かけによらないということを再認識させられたルギアだった。
「ほら、見えてきたわよ」
 雨で騒ぎ続ける住民達の中で、1匹だけぐったりと横たわっているポケモンがいた。
「すこーし高度を下げて」
「はいはい」
 ルギアが近づいてきたことであっけにとられる住民そっちのけで、シャワーズをツルで運び上げる。いつもはもっとハリがあってぷにぷにしている体が干からびていて老婆のようだ。
「リーフィア?」
「あ、お姉ちゃん。気分はどう? 大丈夫?」
「うん……雨が降って、少しはね」
「安心して、すぐにオアシスに着くから」
「オアシス? 近くにあるの?」
「たぶんね。ルギアが見つけてくれるはずだよ」
 そう言った直後、ルギアが高度をぐん、と下げた。リーフィアがシャワーズを抱えながら下を見る。
 そこには背の低い草むらに囲まれた水場があった。いくつかオボンの実や、チーゴの実がなっている木がある。
 ドスンとルギアが着地すると、ヤシの木から実がいくつか降ってきた。
 それを器用に避けたリーフィアは姉を池の中に放り込む。気泡がポコポコと浮き上がり、代わりにシャワーズが水底に消えていく。
「大丈夫なの?」
「えー? お姉ちゃん水タイプだし大丈夫だよ」
 リーフィアが言った通り、シャワーズが浮かび上がってきた。先程よりも生き生きとした表情で。
「それじゃあ、私はこれで」
 リーフィアを背中から降ろして、ルギアは飛び立とうとする。だがリーフィアがツルで羽を締め付ける。
「いたたたたっ! なにするんですか!?」
「この土地についてよく知らないいたいけな乙女を捨てていくの?」
「十数歳のくせにその戦闘力でいたいけな乙女ですか。これは傑作ね!」
「バカにするならイーブイに頼んでボコボコにしてもらうわよ」
 シャワーズが池の縁に寄りかかりながら言う。やれやれとルギアは煽るように言い返す。
「あの子がそんな事で動くわけないじゃない」
「そうかしら? 最近、運動不足って言ってたから適当な嘘つけば襲いかかるでしょうね」
「むむ……」
 ここ最近のイーブイの強さの跳ね上がりかたをちょくちょく耳にしていたルギアは少し背筋に寒気が走った。
 どうせホウオウは用事ができたと言って逃げるだろうし、他の階の奴に助けを求めても関係ないの一点張りだろうし……。
 後で全回復すると分かっていっても、骨折や内臓破裂等の痛みが最初から無いわけではない。
「……いいでしょう。特別に! どこへでも連れていってあげるわ!」
 伝説としての誇りをかなぐり捨てて、痛くない方を選択した。
「やったあ! じゃ、この街で1番ポケモンが住んでる場所に連れてって!」
「西地区だと……ピラミッド辺りかなぁ」
 顎に翼を当てて考え込む。するとルギアは木の上で物音がしたを聞いた。
「むむ……? そこに隠れてるのは誰?」
「ちっ! ばれちゃあしょうがねぇ!」
 ドサッと木の上から降りてきたのはグランブルだった。野太い声で唸り、シャワーズに持っていた銃を向けた。
「え?」
 呆気に取られたシャワーズの胸に弾が当たる。弾は実弾ではなく、青い塗料のペイントボールのようなものだった。
「な、に……これ? からだが、あつい……!?」
「次は貴様だッ!」
 神速級の速さでリーフィアを咥えて、ルギアが飛び立った。湿った地面は風圧で砂埃を起こせず、カモフラージュできなかった。
「ちょっ、ちょっと! お姉ちゃんを忘れてるよ!」
 腹部を甘噛むみされて運ばれているリーフィアは落ちたら一大事なので暴れないで叫ぶ。
「無理よ、シャワーズは野生化したわ」
「なんでそんなことがわかるのよ!」
「私は鼻がいいからわかるのよ。あれはダンジョン特有の臭いだわ。つまり、カタレグロが含まれてる。しかも、超特濃ね」
「カタレグロって、野生化の原因の?」
「そうよ。……なんで居場所が分かったのかしら?」
「ルギアが飛んでれば嫌でも目にはいるよ」
「でも移動手段が無いわ」
「うーん、相手方にテレポート要員がいるんじゃない?」
「でもそれだけじゃあ、私達の居場所はわからないわ」
「……それと未来予知でいきさきを事前に知るとか……」
「となると、敵は確実に複数いるわね……」
「これからどうするの?」
「リーフィアを家に送り届けたら私はアルセウスに報告に行くわ」
「……お姉ちゃん、元に戻るかなぁ……」
「事態が収まったらアルセウスが元に戻してくれるわよ」
「そう……だね」
 リーフィアはルギアの首に移動して、今は遥か彼方の姉を心配そうに見つめる。




■筆者メッセージ
─ツヨイネ雑談たいむ─
作者「みんなの物語、二回見に行って参りました」
イーブイ「それで、どんな感じだったのさ」
作者「とりま泣いた」
エル「ふーん、君でも感情を持ってたんだ」
作者「ええ、しっかりと持っておりますよ」
イーブイ「で、どこで泣いたんだよ」
作者「うーんと、カガチがウソッキーを相棒と認めたとこ。ヒスイの過去が明らかになったとこ。エンディングの後の後日談的なところでも泣いたね」
エル「作中にイーブイが出てきたそうだけど、評価は?」
イーブイ「ま、俺に勝てる奴はおらんだろうな」
作者「君よりよかった。可愛いし、頑張り屋だし、エルに近いかも」
イーブイ「負けた……だと……?」
エル「まー、君にもいいところはあるよ」
作者「たぶんね」
だんご3 ( 2018/08/15(水) 02:20 )