探検隊ツヨイネと野生の導き - 一章 事の始まり
7話 歴戦の探検隊
「来るぞ……」
 全員が臨戦態勢をとり、ジャローダ達を見据える。
 元から鋭かった瞳が、野生化の影響で異様な眼光を放っている。肌を突き刺す威圧感に全身の毛が逆立つ。
 彼我の距離が五十メートル程になったところでチラチーノとマニューラが見え始めた。チラチーノは相変わらず笑顔だが、首輪回りの毛に点々とついている血で恐い。マニューラの爪は以前によりも鋭さが増している。
「シャアッ!」
 ジャローダの一声でチラチーノとマニューラが動いた。
 左右に別れ、挟み撃ちを仕掛けてくる。
「単調だなぁ……」
 野生化すると戦略性が無くなり、単に力をぶつけてくるだけのようだ。
 交錯をする攻撃をバックステップで避ける。
「イーブイ!」
 師匠の緊迫した叫び声から察するに、俺は次の瞬間には吹き飛ばされているのだろう。
 刹那的に判断し、腕を交差して防御姿勢をとる。ほぼ同時に、緑色の太くてしなやかなジャローダの尻尾が打ち出された。意識を失うかと思うほどの激しい一撃を見舞われて地面に叩きつけられた。
「な……っ!?」
 驚く暇も無く、ジャローダが目の前にいた。彼女の口の中に緑色の光線が見えた。直後、ゼロ距離でのリーフストームが放たれた。モロに喰らった俺の体ははその場に押さえつけられる。
 さらにゴルフボールのように殴り飛ばされ、壁に埋まる。
 ──俺はジャローダ達を舐めてた。彼女達はルーファとシルクと並ぶトップの探検隊だったのだ。
「ぐ……ぁ……」
 普段の俺にする説教とかお仕置きは手加減されていたようだ。最強の称号を各方面からいただいてきたツヨイネだが、甘かったようだ。
 二十歳にも満たない子供が歴戦の探検隊に敵うはずもなかったのだ。
 残った力で時を戻し、肉体を蘇らせる。完全復活とはいかなくとも、幾分かは動けるはずだ。
「師匠もミミロップも大丈夫だよな?」
 開いた口が塞がらないとはこの事だろう。
 アクロバティックな動きで攻撃を捌きつつ反撃していたミミロップ。だが、マニューラの奇抜な動きに虚を突かれ、地面に押し倒された。
 そこから複雑に絡み付き、両足で右腕を挟む。親指以外の指を反対側にきめられたミミロップは床を激しく叩き、逃げようともがく。
「腕ひしぎ十字固め!?」
 テレビや兄ちゃん達のおふざけ程度でしか見たことは無かったが、本気でやると腕を折りかねない技のようだ。
 ミミロップの苦痛の表情を最も美しい美術品を見るような目で見いるマニューラ。そのがら空きの側頭部に《クイックインパクト》を打ち込む。
 全く気がついていなかったマニューラは一撃でダウン。
「大丈夫か?」
「え、ええ……いつつ……」
「ちょっと貸してみろ」
 患部に手を当て、時間を逆転させる。みるみるうちに腫れがひき、彼女の腕は完治した。
「サーナイトは?」
「マジか……」
 師匠はジャローダの蔓に四肢を固定されて吊り下げられている。師匠の腹には幾つもの痣ができていた。
 原因はチラチーノがサンドバッグ代わりに殴っていたからだ。目は虚ろで、辺り一面には吐瀉物が落ちていた。
「師匠ーッ!」
 ブラッキー作の《三日月刀》を大上段に振りかぶってジャローダに突進する。牽制に波導弾を投げた。鬱陶しそうに払った隙に、師匠を捕らえている蔓を断ち切る。その場に崩れ落ちた彼女を庇いながらチラチーノを睨む。
 背後が疎かになるのは仕方がないと思いたい。
「ミミロップ! 師匠を頼む!」
 ジャローダに即席《氷雪剣》を投げ、チラチーノに殴りかかる。ふかふか尻尾でいなされるが、入れ違い様にアイアンテールでクイックターンする。
 勢いの乗った堅い尻尾はチラチーノの小柄な体を強く打った。手応え的には腕を折った気がしたのだが、チラチーノはニヤリと笑うと牙を剥き出して飛びかかってきた。
 さらにジャローダの蔓が首に伸びてきた。先程切り裂いたはずなのだが、回復力が異常に上がっているようだ。
「なんて、悠長なこと言ってる場合じゃねえよな!」
 チラチーノの下腹部をブレイズキックで撃ち抜き、ジャローダの蔓を奥歯で噛み千切る。痛みに悲鳴を上げたジャローダは俊敏に後退する。
「やっぱ挟み撃ちの状況に変わりはないか……」
 リーフィアお得意の《草笛》を右手に出す。角笛型のそれを吹きならすと、俺の腕ほどはある太い深緑の蔓が現れた。
「そらッ!」
 チラチーノへ向けて素早く振る。パシィンッと空気を振動させる音がする。
 当たれば確実に倒せる一撃だが、あのチビ──俺もチビだが──に当てるのは至難の技だ。
「ま、それも計算通りですけどね!」
ぐッ、と《草笛》を引っ張ってチラチーノの足を絡めとる。そして、仲間の危険を感じ取って突っ込んできたジャローダに放り投げる。
 頭部どうしがぶつかり、鈍い音をたてる。ジャローダは目を回し、ふらふらしながらその場に倒れ込んだ。
 しかしチラチーノは尻餅をつき、頭頂部を押さえて呻いている。
 俺に焦点を絞ったようだ。野獣の如き鋭い眼力で俺の心臓がある位置を睨んだ。それだけでキュンと苦しくなった。
「これが噂のキュン死?」
 苦笑いを呑み込んでチラチーノの出方を伺う。
 互いに睨み合い、初手を探り合う。心なしか、チラチーノが焦っているように感じる。対して俺はこの戦闘の最初の頃よりは大分落ち着いていた。
 仲間が倒れているか否かの違いでここまで変わるものなのか。
「があッ!」
 スイープビンタで数メートルの距離を詰めてきた彼女の動きは速い。しかし単調だった。
「バレバレだぜ!」
 《ギガトンパンチ》をタイミング良く繰り出す。ジャローダを気絶させるほどの石頭がぶつかってきた。
 ビリビリと腕が痺れ、感覚が無くなる。脳震盪を起こしてくれればと思うが、彼女はよろめきすらしなかった。
 雌の腹に蹴りを入れるのは申し訳ない、と思いながらも足を振り上げた瞬間、ミミロップが飛び込んできた。
「はいやっ!」
 咄嗟の事に対応できなかったチラチーノはミミロップの飛び膝蹴りを顔面に受けた。鼻血を吹きながらぶっ飛び、地面で数回跳ねて動かなくなった。
「……はぁ、勝ったぁ」
 戦いが終わるや否や、急に疲れが襲いかかってきた。ぺたんとその場に倒れ、残った力で指を鳴らす。自身の肉体の時を戻して戦う前の状態にする。
 たちまち元気になって師匠の元に駆け寄る。
 両腕には包帯、足には湿布、頭部にも包帯、と痛ましい姿になって目を瞑っていた。師匠の時間も戻し、戦闘前の師匠にする。
 むくりと起き上がってせっせと包帯をはずし始めた。
「私のも治せる?」
「ああ、お安いご用さ」
 差し出されたミミロップの右足──特に膝──を治してあげる。
「お、ありがとう。早速だけどジャローダ達運ぶよ」
「ああ、保管場所はどうするんだ?」
「地下室を使えばいい。あそこで私はジャローダ達にいろいろ投与しようと思ってるんだ」
「そっか、俺はチラチーノ運ぶから」
「じゃ、私はマニューラね。サーナイトはジャローダをよろしく」
「な、何で私が一番大きい奴なのよ!」
 ガッチリと抱えて鞄から穴抜けの玉を取り出す。
「そりゃ、エスパー技が使えるからだよ。サイコキネシス辺りで運べばどうにかなるって」
「う……しょうがないわね!」
 穴抜けの玉を地面に叩きつけると、青紫の煙が立ち上ぼり、俺達を包み込んだ。
 視界が暗転し、すぐに直る。すると目の前にはダンジョンの入り口があった。
「さあ、とっとと帰って研究しましょ!」
 ミミロップはマニューラを背負いながらきびきびと歩き出した。

■筆者メッセージ
─ツヨイネ雑談タイム 短─
作者「きょ、今日は眠いから無理や……」
ブースター「情けない奴だ」
サンダース「それな」
シャワーズ「じゃあ、また次回お会いしましょう」
だんご3 ( 2018/06/13(水) 00:25 )