一章 事の始まり
6話 階段を求めて
「……ここどこだ?」
 地図の無い状態でそんな事を言っても意味はなかった。もしも誰かが道標を残してくれていたら話は別だが。
「サーナイトもメガ進化しなよ。そっちの方が探査範囲も広がるわよ」
「そうね……ちょっと離れて!」
 師匠が手首に嵌めている銀色のリングにはDNAの二重螺旋を彷彿とさせる模様が閉じ込められた石がついていた。それを胸の前に掲げて目を閉じる。
 俺は師匠の体の内側からエネルギーが溢れてくるのを感じた。彼女から漏れ出たエネルギーはピンク色の球形を作り上げる。そして、それが破裂した瞬間、辺り一面に砂埃が上がった。
「っ……」
 尻尾で煙を払いながら目を細めて師匠を探す。やがて足の方から現れた。
「どうかしら? ミミロップ以外に見せるのは初めてなんだけど……」
 ウェディングドレスさながらのふわりとした物を纏った師匠は大分大人びた気がする。声も落ち着き、目は垂れ目気味になった。
「うん、悪くはないよ。ねぇ、イーブイ」
「うん? ん、まあ、悪くはないな」
「なんか素っ気ないね。お気に召しませんでしたか? リーダー?」
 ミミロップが笑いながら俺の顔を覗き込んだ。
「師匠さ、太った?」
 すっ、と彼女の右足が後ろに下げられたことに気づいた。次の瞬間には高威力のインステップキックが飛んでくるはずだ。
 さっと身構え衝撃に備える。
 強い風圧と共に師匠の右足が振り抜かれた。みしっ、と腕から嫌な音が聞こえた。しかしそんな事に痛いなど思っている余裕はなく、二、三部屋吹き飛ばされた俺は何か、柔らかいものに当たって止まった。
「いつつ……特殊特化のはずだろ……」
 時間を巻き戻して怪我を無かったことにしてから周りを見る。
 と、そこに階段を見つけた。
「おお! これぞ不幸中の幸い!」
 ラッキー! と思いながら階段に向かっていくと、背後でバシャッと水が跳ねる音がした。
「あん? ──げっ!」
 ちらりと後ろを見ると、ぬらぬらと光る赤い洞穴が迫って来ていた。ミロカロスが性懲りもなく襲ってきたのだ。
 一瞬、不意を突かれた俺は対処できずに再び頭から喰われた。
「んふふ……今度は高速で溶かすから逃げる暇ないよー」
 奴は俺を味わおうとはせずに、一気に呑み込んだそして先程とは比べ物にならないほど早い速度で食道を下っていく。
「いでぇっ!」
 肉壁にぎゅっと潰され、肩に痛みが走る。それとドタドタと地震のような揺れが襲いかかってきた。
「──さい!」
 微かだが、師匠の声が聞こえた。ミミロップと一緒に必死になって俺を助け出そうとしているようだ。
 いい師匠を持ったなぁ……と感傷に浸りながら待っていると、食道の壁がぐにぐに動き始めた。
 俺はさっきとは通った道を戻り、ミミロップの口の隙間から光が見えた。
 無理矢理口をこじ開けて脱出。ミロカロスはハイドロポンプを一吐きしてから再び湖に帰っていった。
 べとべとの体をふるって胃液等を落とす。吐瀉物特有の酸っぱい臭いまでは消えなかったが、帰ってから風呂に入ればいいだけの話だ。
「あいつ、どうするの?」
 師匠がミロカロスのネタ逃げた湖を見た。
「こっから出た後にギルドに報告する。でも、世界中で野生化が始まってるからそんな暇ないかもな」
「それもそうね。いつまで経ってもギルドが動かなければサンダースを連れてくればいいし」
 ミミロップは俺と一定の距離を保ち、鼻を摘まみながら言った。
「なんで兄ちゃん?」
「サンダースを縛って釣りみたいに水の中に垂らすの。で、放電させるのよ」
「そんなの一発で仕留められるのかよ」
「おそらく、このダンジョンの水路は全部繋がっていると思うんだ。理由としてはあいつがいきなりイーブイの背後に現れたことだね」
「そりゃ、俺達が階段目指してる事を知ってて先回りしたんじゃないか?」
「うーん……だいぶ臭いし、確かめてきてよ!」
 ミミロップが俺の足を払い、尻を掬い上げて水路に向けて放り込まれた。
 水面に叩きつけられてから、ゆっくりと沈んでいく。息を確りと止め、周りを見る。
 ついでに体をごしごし洗って僅かでも臭いを消そうと奮闘する。
 ──ん? 洞窟?
 湖底の端には四つの穴が開いていた。呼吸の約許す限り、潜って中を覗く。

 あ、コイキングだ。
 すうっ、と俺の側を通り抜けたコイキングは別の洞窟に入って消えていった。
 ──ははーん、ミミロップの仮説通り繋がってるのか……。
 と、そろそろ息が切れそうだ。足に絡まった水草を引き千切りながら浮上し、水面に顔を出す。
「ぷはっ! おーい、ミミロップー!」
「お帰り、どうだった?」
「うん、ミミロップの言う通りだったよ。紫鳳に繋がってたよ」
「そう、それにイーブイの臭いも取れたし、上の階に行きましょう」
「そうだな」
 水から上がって身震いをする。毛皮に溜まった水分を全て震い落として幾分か軽くなった。
「うん、行くぞ!」
 二匹を追い越して階段を登り続ける。
「何よ、急に張り切って」
 師匠とミミロップも小走りになった。
「ん……」
 階段を登りきると、太陽の光が俺の目を射ぬいた。
「あそこに……ジャローダ達が見えるわ」
 目を細めた師匠が指差すと、太く、長いポケモンのシルエットが刻々と近づいてきていた。

■筆者メッセージ
─ツヨイネ雑談たいむ─
リーフィア「何だか……表舞台に出るのは久しぶりな気がするわ」
ニンフィア「そうね……」
リーフィア「まあ、これが終わったらまた出番少ない状態に戻るんだろうね」
ニンフィア「はぁ……何で生きてるんだろ?」
リーフィア「ホントにねー」
作者「どうしたんだい? そんな暗い顔して」
リーフィア「作者のせいだよ。私達の出番が少ないのは」
作者「ああ、次の章で君達のお話になるよ」
ニンフィア「ほんと!?」
リーフィア「やったぁっ!」
作者「少ないけども……」
ニンフィア「嬉しいなー!」
リーフィア「嬉しいねー!」
作者「聞いてない……」
だんご3 ( 2018/06/10(日) 01:25 )