02 10話 戦いの終わり
「どこまで行くんだよ」
ティーンはルギアの首にしっかり掴まりながら訊く。
「もう少しです! 我慢なさい!」
言うことを聞かない子供を叱るような強い口調で答える。ティーンはやれやれと首を振って地面を見下ろす。
「…………」
人の死体ばかりが目にはいる。空から落とされて肉塊になった者、噛み千切られてバラバラになった者。見る限り、生存者は見当たらない。
「そろそろつきますよ」
ルギアが一声上げると、バラバラの行動をとっていたポケモン達が一斉にこちらを向いた。
「さあ、あそこにいるガチゴラスと和解するのです。通訳はしますから」
「殺されたりは?」
「……なるべくそうならないようにします」
少し旋回してからルギアはガチゴラスの目の前に降り立った。ティーンが首から滑り降り、ガチゴラスと対峙する。
グルルルゥ、とガチゴラスざ喉を唸らせる。
「何をしに来た、と言っています」
「あー、この島をお前達に譲ろう。だから、町への襲撃は取り消してくれないか?」
「それは、本当なのか? ──ええ、本当ですとも。島の所有者が認めていますから」
ルギアは通訳しつつも、ガチゴラスと会話しだす。忙しい奴だ、とティーンは感じた。
「いいだろう。しかし、問題がある。すでに数匹が町の襲撃に向かっている……どうすればいいのでしょうか」
ルギアは長い首をゆらゆらさせながら唸る。
「ルギアが潜って止めればいいじゃん」
「……正気ですか? もしも私が離れたら殺されるかもしれないんですよ?」
「その辺は大丈夫。うーん、こいつでいいや」
近くで様子を伺っていたゴニョニョの耳を掴む。じたばたと暴れるがティーンよりもはるかに小さいため効果は無い。
「とりあえず人質……いやポケ質だ。変な動きをしたら殺す」
ビクッとゴニョニョの体が硬直した。人間の言葉をある程度は理解できるらしい。
ピタッと暴れるのをやめ、ティーンの顔をまじまじと見詰めた。そして目から涙を溢す。だが、ティーンは鼻を鳴らすと、同情の欠片もなく、いつでも耳を引き千切れるようにした。
「……わかりました。全員攻撃をしてはなりませんよ」
こくりとポケモン全員が頷いた。
〜☆★☆★〜
ポケモン達に約束させたルギアは、勢いよく海に飛び込んだ。ルギアが海に飛び込むのは初めてだったが、なぜか懐かしい感じがした。
おそらく、彼女の遺伝子に刻まれた本能が泳ぎ方、どう進めばいいのかを完全に理解している。
「待ちなさい!」
町を襲撃しようとしているポケモン達を追い越し、立ちはだかる。
ラプラスが尋ねるように鳴いた。
「私はルギア。海の神です。あの島は私達のものになりました。だから町を襲う必要はなくなったのです。さあ、帰りましょう!」
全員が納得し、引き返そうとしたが、海の底から青い巨体が浮かび上がってきた。
「本当に人間があの島を手放すと思いますか?」
カイオーガだ。ルギアとはまた違った威厳のある声で訊く。
「彼らは沢山の犠牲を払いました。必ず退いてくれるはずです」
「……私は深海なる場所でダイオウイカから人間界に存在する兵器について聞きました」
「へいき? 何ですか、それは?」
「科学とやらの結晶だそうです。自然を破壊し、自らの澄みやすい環境を作っているそうです。つまり、生存者達が島から離れたら、恐ろしい兵器が島に襲いかかってくるでしょう。だから止めるわけにはいかないのです」
──確かにそうだ。人間がすごすごと退くのか? もしも兵器が襲いかかってきたらどうするんだ?
ルギアは混乱し始めた。ポケモン達を守りたい。しかし人間を信じたい。
揺れる思いが交錯し、さらなる混乱を引き起こす。
「ルギア、貴女も一緒に制圧しに行きましょう」
「……兵器の話が本当ならば、私達が襲いかかった瞬間にでも攻撃される可能性もあるわ。認めたくないけど、私達は……人間の言うとおりにするしかないのよ……」
その場に沈黙が訪れる。誰も何も言わない。
「……帰りましょう。 人間にかけるしかありません」
悲しげな顔をして、全員が来た道を戻り始めた。小魚やタコ、サメ等が見たこともない生き物が去っていくのをじっと見詰めていた。
ルギアは海から上がると、ぶるぶると体を震わせて水を落とした。
「戻りました……」
「お帰り。……どうした? 何があった?」
「……貴方はちゃんと約束を守りますか? この島から帰ったあと、我々に危害を加えないと誓いますか?」
「俺だけが誓っても意味がないのさ」
「なぜです!?」
「説明が難しいな。……俺は一般市民であって、君達は伝説上の生き物だ。俺が帰って、お願いします。どうかポケモン達に関わらないでくださいなんて言っても意味がないのさ」
「どうすればいいのでしょうか……」
「まあ、なんとかできるとしたらセウスだな。あいつは金持ちだからなんとかなるんじゃないか?」
「本当ですか!?」
「確証は無いけどな」
「お願いします。なんとか説得してください!」