01 5話 ご対面
「水ポケモンショー……だってさ。行ってみるか?」
「うん! 行こう!」
イブとラキはお供にコンを引き連れて円形水槽の周りに集まった。
すでに沢山の人で賑わっていて、席を取るのがギリギリだった。
「みなさーん! こんちにはー! 今回はー、当パークの人気者になる予定のカイオーガを紹介しまーす!」
司会が手をパン! と叩くと、波間が割れてすべすべした青い体表が現れた。
黄色い瞳と視線が合ったラキは全身に鳥肌がたつのを感じた。
見るものに恐怖の念を抱かせる、そんな瞳。
そして体を一回転させながら跳ねた。水飛沫を撒き散らしながら優雅に回って着水。
高波が発生し、イブとラキとコンの体を濡らした。
しかし、今は夏。すぐに乾くと思ったラキはさほど気にしなかった。
「カイオーガはとても賢いんですよ! 私の指示は何でも理解します!」
では、と司会が手を上げるとカイオーガが空に水の極太ビームを発射した。
おお、と観客から驚きの声が上がる。
その後もカイオーガの技を見て楽しんだ三人は別のアトラクションを探しに行った。
しばらくうろつき回って見つけたのは、《モンスターボールアドベンチャー》だった。
その名の通り、モンスターボールという球に入り込んで敷地内を探検する、というものだ。
カプセルは超強化プラスチックでできていてインドゾウでも破壊できない代物だ。
「うへぇ……ファストパスって凄いや」
イブが感嘆の声を漏らす。
それもそのはず、ラキとイブが今乗り込むこのアトラクションは最後尾が六時間待ちだ。
生憎二人乗り用なのでコンはお休みだ。
彼女曰く、テストで何度も乗ったから少し飽きているらしい。
「よっしゃ、いくぞ!」
そんなコンに遠慮しつつもテンションマックスのラキがハンドルを握り、出発する。
「うわー、ケンタロスの群れが走り回ってるよ!」
イブが窓の外を眺めながら興奮気味に喋る。
砂煙を上げながら大地を踏み鳴らすケンタロスに圧倒されながらも奥へ進む。
「フシギバナとかジャローダだな。昔の伝記で御三家って呼ばれていたらしいぞ」
パンフレットを読み上げながらカエルのようなポケモンと蛇のようなポケモンを指す。
「昔はこんな面白い生き物達と暮らしてたんだね……」
「ああ、何で絶滅なんかしたんだろうな」
「さあね、氷河期の到来が一番有力なんだってさ」
かっこいいポケモン、可愛いポケモン、変なポケモンを見つめながら議論する。
「あーあ、ポケモンが生きてたら退屈な学校なんて行かなくていいんだろうなー……」
イブがボソッと呟いた。
「ポケモンが生きててもなんかしらの学校に行ってただろ。──お、ピカチュウの森だってよ」
「行ってみようよ!」
モンスターボールの進路を変えて森の中へ飛び込んだ。
「……いないな」
「……いないね」
二人が口を揃えて呟く。ピカチュウの森という名称なのに、ピカチュウどころかポケモンが一匹もいない。
「変だなぁ……」
ラキがハンドルを回してバックする。
「あ……ヤベ」
操作に失敗してドン、と木にぶつかってしまった。
その衝撃で木の上から何かが落ちてきた。
「……?」
周囲にポケモンがいないことを確認し、ボールの外に出る。
落下物の招待は、無惨にも引き裂かれたピカチュウの下半身だった。
臓物が乱暴に引っ張り出され、小さな足は片方無くなっている。
ふと、ぐるるる……と気味の悪い音がした。
イブがひぃっ、と情けない声を上げ、ラキの服を引っ張った。
「なんだよ」
「あ、あれ……」
ラキが見上げると、厳つい顔をした、二足歩行の化け物が佇んでいた。
水色の目をギョロギョロさせながら二人を見つめる。
「いいか、絶対に叫んだり走ったりするなよ」
ラキがこっそり忠告する。
だが──。
「ウワアアアアアッ!!」
「グギャアアアッ!!」
イブの絶叫と同時に、化け物も咆哮した。